銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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四日前から風邪で寝込んでました
皆さんも体調管理には気を付けてください

今回からヘルメス・コード編がはじまります




ヘルメス・コード編
第三十八話:小さな巫女のお願い


 「そういえば飼育小屋の件、どうなったんだ?」

 

 『UI>梅郷中学校側でも委員会を立ち上げてくれる準備をしているみたいなので、近いうちに移動できるみたいなのです』

 

 「テキストが配布されてたっけ…二年生だけみたいらしいけど」

 

 あれからーー《ダスク・テイカー》の事件から二ヶ月程たち、今は六月。

 もうすぐ夏である。

 そんな夏前の中俺は何をしているかと言うと、目の前の少女とお話中である。

 

 「気がつけば俺が案内役とは…あの先生、いくら顧問の部活が大事なときだからって」

 

 『UI>部活動の先生は大変って良く聞くのです』

 

 「まあ俺が暇人って言うのもあるけどなぁ……っと、とりあえずここが話にでた飼育小屋…なんだけど」

 

 『UI>…長く使われていないと聞いてはいたのですがここまでとは』

 

 少女ーー《四埜宮謡》の若干ひきつった顔を見たあと、俺も改めて目の前の飼育小屋を見る。

 

 我が梅郷中学校の飼育小屋は長らく使われていなかったという言葉通り、落ち葉やらがつもりにつもって最早その機能を停止していた。

 

 「ま、まあそこは選ばれた二年生が何とか……ええと…《ホウ》が来るまでには綺麗になってる筈だよ、うん」

 

 『UI>私もその日は行くつもりではありましたけど、これは気合いを入れないといけないのです』

 

 両手で拳をつくりながらむん、と気合いをいれる姿は可愛らしいものである。

 しかしまあ、それでも接しているうちに小学生にしては大人びすぎていないかと思ってしまう。

 最近の若い人達はこうも精神的に成熟しているのが早いのだろうか?

 

 先程話題に出た《ホウ》と言うのはこの飼育小屋に入ることになるアメリカオオコノハズクの名前である。

 前に写真を見せてもらったことがあるが、かなり立派な動物であった。

 

 『UI>でもこれで私達の学校で飼育されていた動物は皆処分されることなく生きることができるのです。ーー本当に良かった』

 

 「ホウが来たら見に行くよ。写真だけじゃわからないこともあるだろうしさ」

 

 俺の言葉に嬉しそうに頷く謡。

 とは言うものの、この現状を見てから何もせずに掃除が終わったみたいなので、見に来ましたというのも個人的に気まずいものがある。

 

 「後で黒雪に詳しい日程聞いておくか」

 

 「?」

 

 「うちの副生徒会長に掃除の日程を聞いておこうと思って。どうせ暇だし、ここまで来たら手伝うよ」

 

 俺の呟きが聞こえたのだろう。首を傾げる彼女にそう返すと、考えながらといった動きでキーボードを叩く。

 

 『UI>サッちんとお知り合いなのですか?』

 

 「え、ええと…サッちん?」

 

 サッちんと呼ばれて、そんな知り合いいたかなと少し考え、そう言えばスカイ・レイカーも《さっちゃん》と呼んでた人がいたっけと検討をつける。

 

 「もしかして…黒雪姫のこと?」

 

 『UI>なのです』

 

 「マジかよ」

 

 どうやら目の前の小学生はうちの副生徒会長とお知り合いらしい。

 あの年齢不相応な精神を持つ少女の知り合いで、これまた同じように年齢にそぐわない精神の持ち主。

 いくらお嬢様学校育ちとはいえ、ここまできちんとした受け答えができるだろうか。

 

 仮定ではあるがやけにしっくり来るのでなんとも言えない表情になる俺。

 ここはジャブで攻めていこうか。

 

 「知り合いというか同じクラスというか…と言うか知り合いなんて驚いた。小学校が同じだったとか?」

 

 黒雪姫は現在中学三年生。対して謡は小学四年生。

 つまり黒雪姫が小学六年生の時に彼女は一年生である。

 それなりの根拠のある返しができたのではないだろうか。

 お嬢様学校に通う黒雪姫…うーん…案外通ってるかもしれない。

 どことなく気品があるし。

 

 『UI>サッちんとは前にやっていたゲームを通じて知り合ったのです』

 

 「へ、へぇー…ゲームねぇ…。謡もゲームやるんだな」

 

 『UI>私だって普通にゲームくらいやりますよ』

 

 上手く動揺を隠せているだろうか。

 多分、いや四埜宮謡はバースト・リンカーだ。

 黒雪姫が他のゲームをしていたとしたら話は別だが、レベル9で黒の王とまで言われている彼女がブレイン・バースト以外のゲームで知り合いを作ったとはあまり考えられない。

 

 

 しかし、彼女は医療用のBICを使用しているため、ニューロリンカーを所持していないように見える。

 

 

 『UI>ニューロリンカーは普段はつけていないのです』

 

 「そ、そうなんだ」

 

 謡の言葉にそう返してから、文を二度見する。

 まるで俺の心を読んだような文章。

 ランドセルからニューロリンカーを取り出した少女は口を笑みの形に変える。

 

 『UI>ふ、ふ、ふ』

 

 「う、謡……まさか」

 

 『UI>そのまさか、なのです』

 

 やはり、俺の正体がバレている。

 いや、謡はもっと前から知っていたのだろう。

 でなければこんな反応はしない。

 

 ツーッと冷や汗が流れる。

 

 俺が彼女のことを探っていた筈なのに、気がつけば俺が窮地に陥っている。

 

 謡は笑みの形を崩さないようにしながら、俺に向かって指を閃かせる。

 それと同時に届く一通のメッセージ。

 どうやら動画ファイルが添付されているようで、俺は謡から目を離さないようにしながら動画を再生しはじめた。

 

 動画の中には憔悴した表情で椅子に座る黒雪姫の姿。

 

 『すまない、桐ヶ谷君…。レギオンのことを、よろしく頼む』

 

 動画の中の黒雪姫がそう言うやいなや、音もなく近づいた謡が彼女のニューロリンカーに直結。

 そして間もなくガクッと体から力が抜けた黒雪姫からコードを回収した謡は、録画しているだろうカメラに向かって微笑む。

 

 そこで動画が終わった。

 ーーー間違いない。

 

 彼女は第二のダスク・テイカー…!!

 

 『UI>動画を見たようですね』

 

 「……お前の目的はなんだ」

 

 取り乱したら終わりだ。

 静かに問い掛ける俺を見ながら、謡はランドセルから再び何かを取り出した。

 形からして大きな紙のようである。

 謡は笑みを絶やさずに、俺に文字が見えるように紙をバッと開いた。

 

 

 「ーーーーなっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ド ッ キ リ 大 成 功 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ドッ………キリ……?」

 

 『UI>なのです』

 

 「そう言うことだ桐ヶ谷君!!!!」

 

 

 

 「そ、その声はーー!!!」

 

 

 

 背後から聞こえる声に振り向くと、そこには先程動画に映っていた、全身真っ黒な制服に身を包んだ我らが副生徒会長。

 黒雪姫がどや顔で立っていた。

 

 

 「桐ヶ谷君。私の演技はどうだったかな?中々に迫真的だろう?」

 

 彼女は呆然とする俺の横を通りすぎると、ドッキリ大成功の紙を持っている謡の横に立ち、彼女の肩をポンと叩く。

 良く良く見れば謡の肩は震えており、笑いを堪えるのが必死だったのが良くわかる。

 

 『UI>サッちんの提案なのです。カズさんに私の正体をバラすのは簡単だけど、折角なら遊びを入れようって』

 

 「謡も乗り気だっただろう!?しれっと逃げようとするんじゃない!」

 

 二人の説明を聞くと、謡は旧ネガ・ネビュラスの一員であり、二人の間には親交があったようなのだ。

 しかし旧ネガ・ネビュラスの崩壊をきっかけに二人は連絡を取らなくなったとか。

 しかし今年に入って謡の学校の動物の行方を巡り、謡が黒雪姫に助けを求め、再び連絡を取り合うようになったらしい。

 そこから何度か話をしていたようで、謡のが俺と出会ったことを話すと、再始動したネガビュの王様である黒雪姫が、俺がバースト・リンカーであることをバラし、そこで折角だし何やら一芝居を打とうと言うことで今回のドッキリ計画がスタートしたとか。

 

 

 「だ、大体状況は把握したよ」

 

 「謡には前々から戻ってきてくれとは言っていたんだ。時期的には楓子が戻ってからかな」

 

 『UI>サッちんはいつも勝手なのです』

 

 不満げな文章を打つ謡であるが、その表情は明るい。

 今回のドッキリ計画を通して二人の仲が前のように戻ったなら俺も騙された意味もーーー

 

 

 「嫌、それはない」

 

 

 俺はやられたことは結構根に持つタイプである。

 クラディールに馬鹿にされた時もデュエルでやり返したし、《ノーランガルス帝立修剣学院》にてライオスとウンベールにアインクラッド流が馬鹿にされた時も、ウォロ先輩の剣を《バーチカル・スクエア》で防ぎきり、あの場で見ていた人達の度肝を抜いた。

 

 つまりはまあ、何か仕返しをしないとすまないのである。

 

 とはいえ、今ここにやり返せるような手札はないので、いつかやり返してやるからなー!と心のなかで捨て台詞を投げつける。

 

 

 「と、言うわけで桐ヶ谷君。私の隣にいる彼女が旧ネガ・ネビュラスの《四元素》の《火》を司っていたバーストリンカー……」

 

 『UI>改めましてキリトさん、《アーダー・メイデン》なのです。その…よろしくお願いします、なのです』

 

 「お、おう…よろしく。そうなると謡もレイカー…楓子さんみたいに復帰するのか?」

 

 ドッキリに引っ掛かったとはいえ、バーストリンカーだったとはやはり驚きである。

 四元素と言われてるし、彼女も戻ってくれば大きな戦力アップだろうと質問したのだが、返ってきたのは全く違った反応。

 

 『UI>…いえ、まだ復帰は考えていないのです。サッちん達には申し訳ないのですけど、まだ私には……』

 

 「謡私は…!……いや、今は止めておこう。こうしてまた話せるようになっただけでも私は嬉しい」

 

 どうやら二人の間…いや、旧ネガ・ネビュラスのメンバーの間には何か確執のようなものがあるのだろう。

 恐らく、レギオンが壊滅してしまった時に何かがあって、こうして離ればなれになってしまったのが少しずつ戻ってきていると。

 

 「だがな謡、宣言しておくぞ。近いうちに私は君も、残りの二人も必ず連れ戻す。覚悟しておけよ?」

 

 謡の肩に両手を置き、決意を込めた声でそう言った黒雪姫は、生徒会の仕事があると言って去っていった。

 

 『UI>……ほんと、サッちんはいつも勝手なのです』

 

 そうチャットに現れた文字とは裏腹に、謡の頬には涙が伝っていた。

 涙に気づいたのか、ハンカチでそれを拭いとった彼女は黒雪姫が再び戻ってこないかを確認すると、バババッと新しい文字群を作り出す。

 

 『UI>カズさん、実は折り入って頼みたいことがあるのです』

 

 「頼み?俺にできることなら聞くけど、どうかしたのか?」

 

 謡は俺の言葉にコクリと頷くと、《頼み》の内容をチャットに書き記す。

 その内容に目を通した俺はスケジューラを開き、その日に何も予定が入っていないことを確認すると、直葉にメールを送る。

 不安げにこちらを見る謡に俺は力強く頷いたのだった。

 

 

 これは面白くなりそうだと、口元を笑みの形に変えながら。

 

 

 




はじまります(レースがはじまるとは言ってない)

我らがハルユキ君よりも早い段階での顔合わせです
彼と会ったときに生徒会室に用事があるとういうい言ってましたし、その前に学校訪れてたなら黒雪姫とも会話くらいしてるでしょって感じです

それではまた次回

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