銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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今回の話は個人的にお気に入りです

とても楽しく書けました

それでは、どうぞ!


第四十一話:青薔薇の導き

 「な……なんだあれ…」

 

 大きな渦はフィールド全体を飲み込むように現れると、触れた箇所をどんどん腐敗させていく。

 どういうことだ?このレースではHPゲージはロックされて必殺技なんて使えるはずがない。

 

 「し、心意技なのです…しかも空間侵食の…あ、あんな巨大な負の心意を…」

 

 喘ぐように言葉を紡いだメイデンの言葉に、俺とリーファは驚く。

 今までいくつか心意技を目にしたことがあるが、どれもここまでの規模の攻撃ではなかった。

 まるでそう、あの攻撃範囲はまるで……

 

 

 「青薔薇の……」

 

 

 一瞬口にした自分をふざけるなと叱責する。

 あんな全てを破壊するような攻撃と、親友の想いがこもった技を比べるなんて有り得ない。

 渦はどんどん広がり、他のシャトルを飲み込んでいく。

 渦に飲み込まれたシャトルや運転手は悲鳴を上げながらその体を錆びらせ、砕けちっていくのが見える。

 

 「酷い……」

 

 リーファがその光景を見て拳を握りしめる。

 可能なら助けたいのだが、今の自分の力で及ばないのがわかっているのだ。

 幸い俺たちのシャトルはやや範囲から遠かったため、被害は受けていない。

 

 「フー姉!!」

 

 メイデンの悲鳴に視線を向けると、銀のシャトルが渦に飲み込まれ、全てを錆び付かせる心意をスカイ・レイカーが自身の心意技で必死に防いでいるのが見えた。

 良く見ればクロウ達のシャトルも殆ど走行が困難な状態だ。

 

 「こんなの、レースどころじゃないぞ……」

 

 混乱の原因である九号車を睨み付けた俺は、更にシャトルの速度を上げて二台のシャトルの直線上に位置を取る。

 

 「お、お兄ちゃん!?」

 

 「スグ、運転を変わって、クロウ達の救援に行ってくれ」

 

 「駄目なのです!幾らなんでも無茶過ぎるのです!!」

 

 俺のやることがわかったのか、メイデンが首を振る。

 わかっている。

 だが、こんなことは許せないのだ。

 バーストリンカーとして、奴は止めなければならない。

 

 「レースゲームで後退なんてNGだけど、今回は仕方ない。向こうのシャトルも動いてるし、あの渦に触れるのは一瞬の筈だからそこまでシャトルもやられないと思う」

 

 有無を言わさずリーファと運転を変わった俺は、一度深呼吸した後、例の錆びたシャトルに向かって飛び降りる。

 このまま突っ込めば俺の体は他のバーストリンカーと同じような目に遭ってしまうだろう。

 何も無策で飛び降りようとは思っていない。

 《ヒューマンアバター》は関節部分が存在しないから装甲の隙間からあの渦が入り込む訳じゃない。

 だから少しはあの攻撃にも耐えることができる筈だ。それにーーーー

 

 「頼む……力を貸してくれ」

 

 渦に突入すると同時にストレージからとあるアイテムを取り出す。

 

 「《着装(エンハンスト・アーマメント)》!!」

 

 カード型のアイテムは俺の言葉に応えるように輝き、その光が俺を包み込む。

 光が収まると、俺の体は龍の頭部を模した漆黒の兜と鎧に包まれていた。

 

 「頼むぞ、《ミッドナイト・フェンサー》…!」

 

 そう、ストレージに入っていたミッドナイト・フェンサーの鎧を身に纏い、渦から身を守る。

 

 しかし渦の能力は思ったよりも強く、鎧も秒読みで錆び付いていく。

 これが心意技…!強力な負の感情が俺の体を蝕み始める。

 視界は砂嵐で何も見えない。

 本当にこのままシャトルにたどり着くかもわからない。

 

 だが諦める訳にはいかないのだ。

 ここで諦めたら、突如加速世界に現れた謎の力によって加速世界が滅茶苦茶にされてしまったと言う結果だけが残る。

 そんなの、この世界を愛しているバーストリンカーにとってあってはならないことだ。

 

 「この世界の人物でない俺が傷つくくらいで済むのなら…!!」

 

 そう言い歯を食い縛るが、心意の侵食は止まらない。

 俺も必死に心意での防御を試みているのだが、圧倒的に足りない練度では焼け石に水である。

 

 駄目なのか、と弱気になる心が心意の防御を弱め始めたその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ステイ・クール、らしくないぞキリト』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……!」

 

 声が、聞こえた。

 

 『全く、君ってやつはいつもそうだ。自分が犠牲になればそれで良いと思ってる。こっちの気も知らずにさ』

 

 困ったような、呆れたような、でも信頼を込めた声が聞こえた。

 

 『学院にいたときも決まって君が突拍子もないことして一緒に怒られたり、カセドラルの時だってそうさ。君がアリスと外壁を登ってる間、僕が何してたと思う?整合騎士のベルクーリと戦ってたんだぞ?』

 

 目の前を覆っていた砂嵐は何時の間にか消えてなくなり、真っ暗で静かな世界に俺はいた。

 いや、もう一人いる。

 シルエットはボヤけて見えないが、はっきりわかる。

 

 『ここは世界を見渡すことができる場所らしいよ。僕も詳しくは知らないんだけどね』

 

 確か…はいえすと……と呟く少年だったが、僕が説明することじゃないねと肩を竦める。

 

 「お前、何時の間にそんな博識になったんだよ」

 

 『座学の成績では僕が君より上だったのを忘れたのかい?』

 

 俺の茶化すような言葉に笑った彼は、それで。と言葉を続ける。

 

 『どうするのさ?』

 

 「……多分俺だけじゃあの渦は突破できそうにない」

 

 『だろうね。今の君だけの力じゃ無理だ』

 

 「手厳しいなお前は」

 

 『こうはっきり言わないとわからないだろう?』

 

 「言えてる」

 

 変わらないやりとりに二人でくっくっと笑いながら、何時の間にか現れた星空を眺める。

 こうして並んでよく空を見上げたものだ。

 

 『でも諦めないんだろ?』

 

 「当たり前だ。……でも」

 

 『でも?』

 

 真っ直ぐに此方を見つめる彼に一度目を逸らし、もう一度見つめ返す。

 

 「俺だけじゃ少し大変みたいだ。だから貸してほしい。力を………一緒に、戦ってほしい」

 

 俺の言葉に亜麻色の髪の少年はにこりと笑い、此方に手を差し出す。

 それは俺がはじめてルーリッドの村で彼に出会ったときと同じようで。

 俺が手を握ると、彼は強く頷いた。

 

 『頑張れよ、相棒』

 

 

 

 

 

 

 

 全てを錆び付かせる嵐が体を叩く。

 ミッドナイト・フェンサーの鎧ももう限界に近いだろう。

 

 「《チェンジ・コール》」

 

 自身を変化させるシステムコマンドを紡ぐ。

 同時に現れるウィンドウ。

 四つある項目のうち点灯していなかった部分、《夜空の剣士》が明るく光っていた。

 

 「《夜空の剣士》!!」

 

 それと同時に役目を終えるように消え去るミッドナイト・フェンサーの鎧。

 そこから現れた俺の姿は《黒の銃剣士》ではなく、また別の姿。

 服装的には修剣学院で着ていたのと似ているが、これはセントラル・カセドラルの中で着ていたタイプの服だ。

 

 腰に吊り下げられた二本の剣のうち、一本の剣を抜き放った俺は、ありったけのイマジネーションを振り絞って剣を突き出すように構える。

 

 それと同時に体を包み込んだ心意光が防御殻となって渦によるダメージを無効化する。

 

 「《リリース・リコレクション》」

 

 整合騎士が持つ神器の真の力を解放するワードを発すると、腕の中の剣がその時を今か今かと待つように震えだした。

 それを優しく抑えるように、俺の手の上から柄を握るもう一つの手。

 

 

 ーーー行くぞ、ユージオ

 

 

 心の中で呟くと、頷く気配。

 そうだ、何時だってアイツは俺の近くにいる。

 ユージオだけじゃない。

 俺の胸のなかに、皆いるんだ。

 

 

 思い出は永遠に残る。

 例えこの世界に俺は一人きりなのだとしても、俺が皆を覚えている限り、皆ここにいる。

 ユージオが言った言葉を噛み締めながら、彼と共に叫ぶ。

 

 

 

 「『咲け!!青薔薇!!!』」

 

 

 

 俺が放った心意技は赤い渦を飲み込み、大きな氷の塊へと変貌させた。

 ヘルメス・コードはその辺りだけ氷ステージができたように変化し、錆び付いたシャトルの動きさえも止めたのだった。

 

 

 「ありがとう…ユージオ」

 

 

 俺はそのままの勢いでシャトルの表面に着地、ありったけの心意を放ったからか頭がチカチカするが、これでようやく辿り着いた訳だ。

 

 「答えろ、何をした」

 

 シャトルの操縦者ーー確かあれは《ラスト・ジグソー》だったか?

 話だけには聞いていたが、なるほどチェンソー男とは良く言ったモノだ。

 

 「お前を……止めに来ただけだ」

 

 荒く息を吐きながらそれだけは伝える。

 思ったより消耗が激しいようだ。

 それはあれだけの技を使ったのだから当たり前か。

 

 「……気に入らない」

 

 そう吐き捨てたジグソーは、右手で空中に大きく円を描き、俺に向かって右手を振ると、糸ノコの輪っかが飛んできた。

 糸ノコは心意光に包まれていないため、あれは普通の攻撃技だ。

 力の入らない体では押し負けると考えた俺は、なけなしの精神力を振り絞り、青薔薇の剣を右上に構える。

 同時に刀身を包む鮮やかな水色の輝き。

 必殺技ゲージは先程の心意技を潜り抜けた際に溜まっている。

 

 「《スラント》!!」

 

 音声発声と共にシステムアシストが俺の体を動かし、俺の体を切り裂かんとする糸ノコの輪を弾き飛ばした。

 チッと舌打ちしたジグソーは、両手を握り開く動作を繰り返し、俺との間に糸ノコを数本固定させた。

 

 この糸ノコを利用することで、俺が接近する時間を稼ぎ、その隙に先程の丸い糸ノコを再び投げつけるのだろう。

 

 「ジグソー!!」

 

 と、ここで新たな乱入者の声。

 そこに視線を向けると、シルバー・クロウがその翼をはためかせてこちらに向かってきていた。

 

 ジグソーを挟み込むようにシャトルの後部座席に到着したクロウは、ジグソーを睨み付ける。

 その拳は強く握りしめられ、彼の怒りがこちらまで伝わってくる。

 

 「クロウ、頼めるか…!」

 

 「わかってます。アイツは僕が…オレが叩き潰します!!!」

 

 手助けしたいが俺は動けそうにない。

 俺の言葉に頷いたシルバー・クロウは、その手に心意光を宿らせてジグソーと対峙する。

 

 その光は彼の怒りを表すように、血のような赤色に染まっていた。

 

 

 




思い出は永遠に残る、キリトの中で生き続ける。

と言うわけで四つ目の姿解禁です。
特撮で言う強化フォームお披露目回を意識して今回は作りました。

SAOの話の中で稀に起きる奇跡のような、現実ではありえないことが起きるのが好きなんです。
死んだ筈のユージオの意思が青薔薇の剣に宿って、最後の決戦で助けてくれるところとか本当好きです。

ユージオに励まされた後にLight your swordとかGanlandを流すと多分それっぽくなります。

次回はシルバー・クロウが活躍すると思います。
レーザーソードも真っ赤に染まって凄く強そうですよね。

それではまた次回!!

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