マルメロ家の日常2024~   作:大野 紫咲

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ある冬の朝。顔に冷たい風を感じて目覚めた紫咲が目を開けると、押し入れの中には信じられない光景が…?


ゆきのかまくら

 その日。

 私はいつものように、自室の布団の中でうとうとしながら朝を迎えていた。

 普段はヨルくんやエリくん達の学校に合わせて頑張って起きるのだけど、今はみんなクリスマス休暇中。それに加えて、冬の寒さは凄まじい。だらけてはいけないと思いつつ、ついつい布団の住人になってしまう。心地良い。人型の間は狐の耳と尻尾を有している、龍神の青雨がその毛皮で甘やかしてくれるから尚更だ。

 

「あるじ。もう起きるか」

「うーん……もうちょっとだけ……」

「と言いながら、三十分近く寝ているが」

 

 そう言って呆れながらも、無理に叩き起こす事はせず、私の傍に座ったままで尻尾を貸してくれる。思う存分それに抱きついて匂いを堪能しながら、私はひんやり顔に降りかかってくる冷気から身を守るように、赤色の毛皮で頭を隠した。

 端の方から目だけを覗かせると、隣には同じように仲良く寝転がっておしゃべりしている、夜羽くんと恵李朱くん。その更に向こうに、直生くんと夜翰さんが、ごろんと仲睦まじく寝そべってこっちを見ながら、話しているのが見えた。長い金髪の麗しい女俳優と、おかっぱのアジアン系美女なモデルという二人は、パジャマで寝転んでいても絵になる組み合わせだ。

 

「ったく、仕事してねーからってダラダラしやがって、あいつは……」

「主婦だって立派な仕事でしょ」

「そーだけどよー、正月からこっち、ずっとこんな感じじゃん。たまにはオレとも遊んでくれたっていいと思わねえ?」

 

 そんな話をしているのが……聞こえ……

 

「ちょっっっと待って⁉︎ ヨルくんとエリくん、昨日直生くんちにお泊まりに行ってたよね!? なんで異世界にいる直生くん達のお部屋が私の部屋から見えてるのかな!? そいでもって、なんでヨルくん達はもうこっちに帰って来ているのかな!?」

 

 私のいる世界には、色んな世界の子が縦横無尽に出入りしているので、人が出たり入ったりする事自体は特段不思議ではないのだが、この部屋から向こうの世界が直接見えるなど、今までありそうになかった事態だ。

 あまりに自然だったものだから、ツッコミを忘れていた私が思わず声を上げてがばっと布団の下から起き上がると、傍にころりと転がってきた恵李朱くんが、抱っこを求めるように両腕を上げながら言った。

 

「冬休みの宿題で、時空転移学で今まで習った事を生かして作品を作りましょーって言われたから、蔵より近くて便利そうなワープホール作っちゃった」

「直生くんの部屋に!?」

「うん。直生くんのお部屋の押し入れと、紫咲のお部屋の押し入れが繋がるようにしといた( ˙꒳˙)そしたら、ここ潜ってすぐにこっちに来れるでしょ?」

「鈴木家、どんどんワープホール増えるな!? っていうかそれは色々と大丈夫なの!?」

 

 おととしの夏、夜羽くんと恵李朱くんが、オメガバース世界にある鈴木邸の蔵にワープホールを作って、別時空の名古屋と鈴木家を繋げた事がある。夜羽くん達は、もうわざわざそこを通って鈴木邸に移動しなくても、自分達の魔法や箒を使って移動できるので、今は半ば閉鎖状態になっているらしいのだが、普通の人が開ければただの蔵・魔力を持つものが開けるとワープホールに繋がるという代物だ。

 それと同じものが、この部屋に出来てしまったという事だろうか。にしても、ワープホールみたいに時空と時空の境目(亜空間みたいなもの)に繋がってるというよりは、どこでもドアみたいに見えるんだけど。

 

「蔵のワープホールと違うのは、行き先が直生くんの部屋とここだけに限定されてるってところだね。ワープホールの場合は着地点を任意で分岐させられる可能性がまだあるんだけど、魔法高等式を使う事によって、それらを点と点で結ぶ為の魔力連結経路が……」

「?????」

「まあ、お姉さんは、なんか便利な穴ができたんだなって思ってればいいよ( ˙꒳˙)」

 

 私が全く魔法を理解出来てないのを見て、急に子供っぽい顔で説明を簡略化する恵李朱くんだった。

 まだ魔法学校一年生だというのに、随分すごい事を勉強してるんだな。

 飛び級とか、授業を梯子するのが普通に許されている学校なので、何年生でも実力さえあれば受ける授業は自由なんだけど、うちの子は随分賢い頭をお持ちの気がするのは、私が親バカだからでしょうか。

 そんな恵李朱くんは、隣でキラキラと目を輝かせながら話を聞いていた双子の夜羽くんに、ぎゅっと抱きつきながら言った。

 

「そいで、穴を作る時の素材は夜羽に借りた。そういうファンタジーな方面の魔法は、夜羽の方が得意そうだから」

「えへへ、昔サキと一緒にクッキーを焼いた時、仕上げの粉砂糖を魔法で雪から作ったのを思い出して、今回も雪を使ってみたの。かまくらみたいでしょ」

 

 弟の魔法に協力できて、嬉しそうな夜羽くん。

 確かに、押し入れだったはずの襖の内側は白い雪に覆われて、丁度中間に火鉢と餅を持って来ればかまくらごっこにでもなりそうだ。少々狭そうではあるが。

 その向こう側で、やっほーと手を振っていた直生くんが、かまくらを潜り抜けながらこちらにやって来る。本当に一瞬で来られるようだ。

 

「ええ、すごいね。これ、直生くんの部屋に私の部屋が増設されたみたいな感じになってるの?」

「って事だな。オレもぶっちゃけ助かるんだよ。愛理の事を思うとあんまりこっちの世界を離れらんないし、かと言ってオレが夜翰を独占しっ放じゃ、あんたが可哀想だろ」

「それに、サキはこの世界を離れられないだろうけど、この通路を開けっ放しにしておけば、ボクと直生が生活してる部屋、いつでも覗いてもらえるしさ。仕事とか忙しくて余裕がない時でも会いに行きやすいし、別々の部屋で寝てても、こうして相手の顔を見る事ができるしね」

 

 向こうに残ったまま微笑んで寝転んでいる夜翰さんとは、押し入れを開ければ、布団に寝そべるだけで視線を合わせる事ができる。丁度、隣の部屋に寝ているような距離感の近さだ。

 蔵の時同様、勝手に謎のワープホールを作られてしまっていたのかと思いきや、直生くんや夜翰さん的には、かなり思うところがあって制作に協力してくれていたらしかった。

 

「そっか……」

「あんたは、愛する人間をいっぱい持つって事に腹括ったんだろ。だったら、こっちも色々協力しねえとなと思って」

「無理に会う頻度高めたり、忙しい時に都合付けたりする必要はないけど、そのせいでコミュニケーションが減っちゃうのは寂しいからね」

「二人とも……」

 

 直生くんとは比較的長い付き合いだが、急に仲良くなったのはここ数年の事だし、夜翰さんに至っては、私達が出逢ってから三年、ゲームがサービス終了してからは既に一年半が経つ。

 たかが三年、されど三年。あれから、私を好いてくれる彼と共に生きられる世界を、私は自分の手で、並行世界として分岐させた。目の前にいる“彼”は、あのままの時間軸をそのまま生きていった彼とはまた違う存在なのかもしれないけれど、それでも彼を愛している。

 結婚も恋愛も、一緒になってしまえば冷めていく一方だとか言うけど、理想を言えば本当は、幾つになっても好きになっていく一方なのがいい。だけどやっぱり、慣れとか惰性というものからは逃れ切れなくて、親しくなればなる程色んな事が雑になってしまうのを、どうすれば時々は向き合って丁寧に掬い取る事が出来るのだろう、と頭を悩ます私の気持ちを、二人はすごく汲んでくれているみたいだった。

 そんな私の感動に打たれた心を読むみたいに、夜翰さんが不適な笑みを浮かべる。

 

「何? 慣れってものに飽かせて、あんたとの関係を希薄にする気なんて、ボクには毛頭ないけど。当然それを覚悟で、ボクを娶ったんでしょ?」

 

 彼の内実は男であり女でもあるので、娶ったという言い方が正確かはわからないけど、その自信に満ちた態度と口調は、相変わらず滅茶苦茶に格好良かった。

 もちろん、と頷き返すと、私の頭を撫でた直生くんが、その長い金髪を顔の横で一纏めにしたまま、こんな事を言う。

 

「それにこうしときゃ、青雨だってこっちに来やすいだろ」

「……俺も使っていいのか」

「別に、毎回毎回ご丁寧にうちの玄関先から入って来る必要ねーよ。なんつーか……ここだって半分くらいは、お前の家みたいなもん、だろ」

 

 ぶっきらぼうだけども、照れたような表情を滲ませながら、直生くんがそっぽを向く。思いがけない言葉と提案に、ぴんと耳を立てていた青雨の尻尾が、ゆらゆら揺れ始めた。

 あんなにセイを毛嫌いしていた直生くんが、ここまで歩み寄る姿を見られるのは驚きだけど、この冬青雨と一緒に温泉に行って、随分打ち解けあってくれたみたい。

 よかったね、と背の高い青雨の頭を撫でると、よかった、と鸚鵡返しに言う端正かつ無表情な顔は、随分と嬉しそうに私には感じられた。

 通路の向こう側から、夜翰さんが言う。

 

「ところでこれ、雪の魔法が使われてるんだったら、春になったら溶けちゃうなんて事はないよね?」

「それは大丈夫だよ夜翰、魔法だもん」

「……逆に、夏でもひんやりって事?」

「そういうこと〜( ˙꒳˙)」

 

 能天気に夜羽くんと恵李朱くんに答えられて、夜翰さんは思わず噴き出していた。

 出たり入ったり、直生くんを巻き込んで早速遊び始める夜羽くん達の奥で、優しく淡い青の目を眇めていた夜翰さんが微かに口を動かすのが、ふと私の目に入る。

 

「……永久凍土か。まあ、消えない心みたいで、それも悪くないかもね?」

 

 誰にも聞こえないように言ったつもりみたいだったけれど、私の耳にはばっちり入ってしまい、こちらが愛しさでじっと見つめている事に気が付いた夜翰さんは、ぶわっと顔を赤くしながら視線を逸らしたのだった。

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