マルメロ家の日常2024~   作:大野 紫咲

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主の唇が最近乾燥しているせいで、キスが出来ない事に悩んでいた和泉守兼定。
それを、同じように紫咲を愛する仲間であるマルメロ家の面々に相談しますが……。

途中からリップもクリームも関係なくなったような気がします。
何から何までコメディです。あまりにもくだらなすぎるので、頭空っぽにして読んでください←

※兼さんは出るけれど本丸の話とは関係ないです
※自キャラが沢山出ます
※ちょこっとモンハン二次創作も含みます


リップクリーム大論争

「今日、お前らに集まってもらったのは他でもない」

「何、この始まり方( ˙꒳˙)」

「どっかのスパイ映画みたいな?」

 

 魔法のかまくらの開通で、集合が容易になったマルメロ家の寝室兼居間には、普段紫咲を囲むメンバーが勢揃いしている。

 本丸から出張してきた和泉守兼定の胡座に乗らせてもらっている、天使と悪魔こと夜羽と恵李朱という双子の子供達。

 そしてその隣が、話半分で聞きながらも、机の上のババ抜きに夢中になっている夜翰、直生、望寧である。三人でやるババ抜きが果たして面白いのか謎なところではあるが、真剣そのものだ。

 そんな中、和泉守は何やら神妙な表情で、一つ縛りをした長い黒髪を恵李朱に弄ばれたまま頷いていた。

 

「主とキスがしたいんだが」

「兼さんってイケメンなのに、たまに言ってる事ちょっと残念な気がするんだけど」

「すりゃあいいだろ、誰のもんって取り合いしてる訳でもあるまいに」

「機会は公平だからね。したくても出来ないって事は、それは兼さんの雰囲気作りとかが甘いんじゃない?」

「そーいう問題じゃなくてだな!」

 

 恵李朱に続いて、トランプのカードを机に出しながら次々と言及する直生と夜翰に、和泉守が思わず吠える。

 

「したくてもさせてもらえねえんだろうが! あいつは! 唇が痛いとか何とか言いやがって!」

「ああ……でも、それ本当のコトでしょ?」

 

 悔しがる直生の前で先に上がった夜翰が、二人を残して和泉守との会話に加わってくる。夜翰の遠い祖先であるが故に夜翰とそっくりな望寧だが、その表情は案外読みやすいようで、直生は彼女の前でニヤリとしながらも、その挙動を翻弄しながら答える。

 

「まあ、冬場ってどうしても唇乾燥しがちだよな」

「下唇とか切れてるって言ってたよ。かわいそうに(´・ω・`)」

 

 和泉守の膝に抱かれたままの夜羽は、心配そうな様子だ。立ち上がって駆け寄ってきた夜羽を交代で膝に乗せながら、夜翰が言う。

 

「つまり、兼さんは紫咲とキスがしたいんだけど、サキの唇が乾燥してるせいでおいそれと触れられないと」

「まあ、そういうこったな……つーか、お前らだってそうだろうがよ。キスさえ出来ないってなりゃ、当然その先も……」

「あれ。ふーん……兼さんは、サキと“その先”がしたいんだ?」

「ちがっ、そ、それはお前らだったらそーするだろうって話で! 今のは物のたとえだ、たとえ!」

 

 揚げ足を取られた事に気付いた和泉守が、多少赤くなって振り払おうとする手を、恵李朱は楽しげな様子で綺麗に避けている。刀としての年齢は人間では比にならない程長い和泉守だが、こと色恋に関しては、三年来紫咲のパートナーを務めてきた夜翰にまだまだ軍配が上がるようだ。

 にやり、と褐色肌に妖艶な笑みを浮かべてからかいモードに入っていた夜翰は、それでもやはり同じ人間を愛する仲間には手を貸さねばと思ったのか、ふと真面目になってアドバイスをする。

 

「じゃあ、唇にいいものとか、よく効くリップクリームとか、兼さんが贈ってあげればいいんじゃないの?」

「それでお前らに相談してんだよ……何かいいもん知らねえか?」

「あるいは、とびきり優しく唇を奪ってあげるか、だね」

 

 そう言いながら会話に混じって来たのは、背後で声を上げながら倒れている直生を残し、ババ抜きに勝利してきたらしい望寧だった。背中から炬燵の外に寝転んだままで、直生の敗北の雄叫びが追い掛けてくる。

 

「なーんでオレの負けなんだよぉ! 絶対読み間違えてねえはずなのに!」

「ふっふ。長い間モンスター相手に交渉してきたボクを、見くびって貰っては困るな」

 

 意外な事に、狩人としての経験も幸いしたのか、表情から見てわかりやすい望寧が直生の一歩先を行っていたようだ。或いは、望寧の観察力の方が一段長けていたというべきか。

 悔しげな文句を背後に聞きながら、望寧は座っている和泉守の顎を、逞しくも美しい褐色の掌に捉えてついっと持ち上げる。

 

「触れるのも躊躇われるほどの怪我を介抱してあげるのと同じように、だよ。例え小さな傷でも、本人にとっては痛いし不愉快なものに違いないのだから。それを優しく、自分の唇に湛えた潤いで包み込む様に……」

「わ、わかったわかった! 実践しなくていいから!」

「……それって、やり方でどうこうなる問題なワケ?」

 

 思わず後ずさる和泉守の横で、夜翰は若干呆れ顔だ。

 

「そうだなぁ。ボクも自分が今住んでいる世界で、唇の乾燥に有用な植物というのは覚えが無いが……湿度の高い泥玉コロガシの素材を使うのはどうだろう。うん、今から捕獲して来るよ」

「いや、それ対モンスター用でしょ……? モンスターの巨体を一撃でずぶ濡れにするような玉を使ったら人間なんかえらい事になりそうだし、そもそもあの玉ってフンコロガシの……ちょっ、望寧!? あんた本気で人間にアレ使う気なの!?」

 

 夜翰が止める間もなく、望寧はどこかご機嫌で部屋を出て行ってしまう。入れ違いに入って来た、頭の耳と狐の尾が色鮮やかな龍神こと青雨は、不思議そうに首を傾げて言った。

 

「……随分と楽しそうだったな」

「セイ、あんたちょっとあれ止めて来てよ……って言いたい所だけど、採取するまでは望寧も止まりそうにないし、あんたにタマミツネに化けて相手しろって言う訳にもいかないしね」

 

 溜め息を吐く夜翰の元に、袴姿でのしのしやってきた青雨の脚を、遊び相手が見つかったと言わんばかりに恵李朱がよじ登る。その小柄な金髪少年を肩車しながら、青雨は未だ呆けたまま炬燵に寝転がっている直生を覗き込んだ。

 

「……あんたはどうしたんだ」

「望寧ちゃんにババでトドメを刺されてしんだの( ˙꒳˙)」

「恵兄、人に向かって安易に『しんだ』と言ってはいけない。冗談でも、言霊というものはあるからな。親しい間柄なら尚更だ」

「はあーい( ˙꒳˙)」

 

 師兄弟という間柄でもある青雨に諭され、割と素直に頷いた恵李朱に見下ろされながら、直生は気にした風でもなく起き上がる。

 

「あんなに分かりやすい奴だと思ったのに、まさかこのオレがババ抜きで不覚を取るとは……やっぱ夜翰んちの血筋って事か」

「愛理を抜くと何か大変な事が起こるのか」

「おばば抜きじゃねえ、ババ抜きだよ」

 

 天然すぎる青雨にそうツッコミながらも、直生はようやく会話に参加する気になったらしい。

 

「んで? さっきから聞いてたけど、いいリップクリームねえかって話?」

「ざっくり言えば」

「んじゃ、オレ使ってんの貸してやるよ!」

 

 そう言われ、直生が自分のポーチから投げてきたものを、夜翰がキャッチする。しげしげと眺めたそれを、和泉守も横で覗き込みながら言った。随分と洒落ていて、見かけは口紅のようだ。

 

「よくわかんねえけど、効きそうだな」

「……これは、やめておいた方がいい」

「なんでだよ?」

 

 不思議そうに尋ねる和泉守の前で、スマホを弄って検索していた夜翰は、その画面を黙って彼に見せた。並んだ数字を見た和泉守が閉口する。

 

「こりゃあ……。博多に株だの投資だの頼む程じゃあねえが、リップクリームってのは一本に結構な値段すんだな」

「いや、普通にドラッグストアや薬局で売ってるリップクリームがこんな値段してるはずないでしょ……。500円とか600円でも高い方だなって思うのに、更に0一個多いとかどういう神経してんの」

「えー、なんでだよ。シャネルだぜ? CM撮影の時にライラが先方の企業から貰ったっつってくれたんだけど、結構使い勝手いいぞ」

「常日頃唇が割れて痛いって困ってる相手に、シャネルのリップクリーム贈るバカがどこにいるんだよ。パッケージ開けるだけで辟易するわ」

 

 辛辣に言いながら夜翰がひゅっと投げ返すリップクリームを、特に慌てる事なく受け取るあたりに、この二人の息の合い方が窺える。

 それはともかくとして、もっと紫咲が気軽に受け取れるものはないだろうか、と夜翰がコスメサイトを漁っていると、横からちょんちょんとセーターの袖を引っ張りながら夜羽が言った。

 

「ね、ねえねえっ、ボクが使ってる色付きリップ、どうかな……? これは魔界製だけど、似たのならドラッグストアでも普通に売ってるよね」

「ああ、それでもいいかもね。値段も、有名なメーカーのなら手頃だし」

 

 名案だとばかりに頷いた夜翰の傍で、夜羽は自分のリップクリームを試しに弟の恵李朱に塗ってあげている。その構図自体は大変微笑ましいものだったが、果たして塗り終わると、夜羽はぶわっと涙目になりながらこちらを振り返った。

 

「ど……どうしよう。口裂けお化けになっちゃった(´;ω;`)」

「ばあ( ˙꒳˙)」

「塗るの下手かッ!? 夜羽、あんたどんだけ塗っ……いや、塗り過ぎにしてもこれ結構発色いいリップだな……? ほぼ口紅じゃん。あんた、派手な色選びすぎなんだよ。夜羽とか恵李朱の肌の色なら、もうちょっと馴染みがいい奴あるでしょ。ほら、このオレンジ系統の奴とか」

 

 泣き出す夜羽に、今度は夜翰が自分のスマホで、可愛い色の色付きリップを探してあげる羽目になった。直生は、あまりの惨状にげらげら大笑いしながらも恵李朱の顔のリップを拭いてやり、和泉守は指先に例のリップを少量取って、その濃さを確かめるように手の甲へ塗りつけていた。

 

「こりゃあ、確かに随分と目立つな。保湿成分があるなら、これでもいいが……」

「血の色を隠すならこれでもいいかもしれないけど、根本的に治らないと意味ないしね」

 

 首を傾げながら吟味している夜翰の隣に、若干話題から置いて行かれていた青雨が、すとんと腰を下ろし胡座をかく。

 

「唇がどうかしたのか」

「紫咲の奴が、唇荒れて切れやすいんだとよ。それでキスできねーって話で、みんな悩んでて」

「ふむ……それならば、蜂蜜はどうだろうか」

 

 直生に説明を受けた青雨が、顎に手をやりながら首を傾げる。夜翰達も、思わず顔を見合わせた。

 

「蜂蜜って喉にはいいって効くけど、唇にも効くの?」

「けど、確かに蜂蜜配合されたリップクリームとか、薬局で見るよな」

「俺はよく、自分の戦用や仲間に請われた時に石鹸を作っていたが、その時にも蜜蜂の巣から取れた材料を使っていた。ミツロウ、というものだ」

「蜂蜜を唇に塗ってパックするといいって、ここにも書いてあるよ!」

 

 ス魔ホを調べてはしゃいだ声を上げた夜羽が、早速テーブルに常備されていた蜂蜜を取ってくると、見ようみまねでぺたぺたと自分の唇に塗りつける。上手く塗れずに唇の端や頬にまではみ出していたものの、本人は満足そうだ。それを見て、青雨が赤色の尾をふぁさふぁさと振り始める。

 

「……美味そうだ」

「ねー。ふふっ。ちょっと甘い。熊さんも蜂蜜好きだもんねぇ……ってセイ!? 何すんのっ、くすぐったい……っ、きゃはは」

 

 唇どころか、頬や顔中を青雨にぺろぺろと舐められている夜羽は、楽しげに声を上げているが、流石に唇まで容赦なくべろべろされたあたりでアッーーー!!!という悲鳴に変わっていた。ちなみに彼は、子供の姿をしてはいるが中身的には大人なので、読者諸君には安心して欲しい。セクハラではない。多分だけど。

 その図を見ていた和泉守が、ぼそりと言う。

 

「……これは却下だな」

「食欲に負けた人間によって、機会の均等が奪われる危険性があるね……人間っていうか神だけど」

「他意はないんだろうけどな。おいセイ、その辺にしとけって」

 

 今なお顔を舐めて信頼の情を示していた青雨は、直生に首根っこを掴まれて夜羽から引き離されていた。面白そうだったからと止めずにいた恵李朱が、ついでに直生に説教されている。和泉守は、指先を顎に当てて思案顔だ。

 

「ん〜……保湿が出来て、唇にいい食べもんねえ。それでいて、食べても美味い奴か」

「必ずしもその条件を満たす必要はないと思うけどね」

「いっそ、石鹸の泡で覆うのはどうだろうか」

「石鹸だと余計に唇荒れそうじゃない……? っていうか、それじゃサンタクロースだよ」

「獲物の返り血で全身の衣服が赤に濡れているという、冬の妖怪か」

「サンタを血塗られた殺戮鬼だと思ってんの、セイだけだかんな???」

 

 夜翰と直生が代わりばんこに青雨にツッコミを入れていると、ふと紫咲の部屋の押し入れから声がする。

 

「ねえ。さっきから大体聞こえてたんだけど、だったら全部混ぜてみればいいんじゃない?」

 

 そう言われて、不思議なかまくらの向こうから顔を出したのは、直生の兄の葉だ。どうやら弟の部屋におやつを運びに来て、不在に気がついたらしい。異世界を自由に出入り出来るかまくらから、盆で何かを差し入れながら、淡々と葉が言う。

 

「たまたま、今日のおやつとちょっと被ったから改良してみたんだけどさ。ほら、これ。蜂蜜入りのカステラに、藍が作ってたメレンゲの残りを乗せて、苺ジャム乗っけてみたやつ。いい感じにいいとこ取りしてない?」

「おお、泡だ( ˙꒳˙)」

「しっとり、しているな……」

「ジャムが赤いから色もかわいー!」

 

 恵李朱と青雨と夜羽が、興味津々で近付いていく。静かに報告したものの、どこか得意げなエプロン姿の葉を見送りながら、皆で数人分のガラスに盛られた手作りおやつを味わって、彼らは次々に誉めそやした。

 

「うーん、葉兄ってば天才だな!」

「メレンゲが甘さ控えめだし、ふわふわしてて口当たりも柔らかいね」

「カステラも、冷えてっけど生地はパサパサしてなくて美味いぜ」

 

 そうやって、完全に目的を忘れながら舌鼓を打つこと数刻。

 一番最初に違和感に気付いた和泉守が、押し黙った末に口を開いた。

 

「けど、これ……なんつぅか……」

「もはやリップクリームでは……」

「ない、よな……?」

 

 夜羽や恵李朱に無邪気に請われて遊ぶ青雨の隣で、我に返る人間の大人三人。

 確かに美味しく、保湿や感触のいい所取りをした食材ではあるが、料理は料理であって、根本的な問題が何も解決していない事に気付く。

 そしてそこへ件の話題の中心たる人物が、マフラーを緩めつつ痛そうに唇を動かしながら現れた。

 

「ただいまー。おお、みんなで遊んでたの? いいねいいね」

「おう。おかえり、主……何だ、その手に持ってる奴?」

 

 見慣れないものに注目して声を掛けた和泉守に、帰宅直後の紫咲は、手に持っていた黄色のパッケージを振りながら嬉しそうに言った。

 

「ああ、これ? ワセリンリップだよ。仲良くしてるお友達さんが、SNSで教えてくれたの。唇の乾燥にはワセリンが効きますよーって」

「……」

「お肌に塗るのは知ってたけど、最近は唇向けのも売ってるんだって。ドラッグストアに寄る用事があったから見て来たら、そんなにお値段も高くなかったから、買って来ちゃった。えへへ、これで唇切れちゃっても大丈夫だね」

 

 そう無邪気に告げる主に、何とも言えない面持ちになる面々。

 その沈黙の中、すっと音もなく立ち上がった和泉守は、盛大に叫びながら紫咲と反対方向に走って行ったのだった。

 

「あっ……主のバカヤロォォォオオオ!!!」

「えっ!? 何兼さんどうしたの!? っていうか何があったの!? 私、また気付かぬうちに何かしちゃった!?!?」

「あー……今のは……」

「サキは全然悪くないんだけど、タイミングが悪かったっていうか……」

 

 おろおろする紫咲を前に、苦笑しながら顔を見合わせる直生と夜翰。

 その横で、きょとんとしながら首を傾げる恵李朱と青雨に、夜羽は己も苦笑しつつも、和泉守の不器用な優しさと愛情表現を思い、小さくふふっと笑い声を上げたのだった。

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