未知を駆ける福音   作:Blackiel

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 いつも読んでくださりありがとうございます。


 少し空きましたが、再び続きを投稿します!




最凶の降臨

 

 

 

_【ソーマ・ファミリア】団長【聖戦士(セイント・ゲリエ)】リリルカ・アーデ_

 

 

 アルフィアにより語られた平行世界のリリルカの話に聞いていた一同は言葉を失った。しかしそれも当然、【ヘスティア・ファミリア】が誇る知将リリは完全にサポーター型であり、小人族(パルゥム)由来の成長率の低さと境遇から長く荒んだ生活をしていたことは多くの者の知る所だからだ。

 

 

 故に…

 

 

_身に纏うは可憐かつ神聖_

 

_口を開けば苛烈_

 

_槍を振るえば一騎当千_

 

_1年前後でLevelを上げる鬼才_

 

 

 あまりにもかけ離れすぎているのだ。ただ、性格に関しては【ヘスティア・ファミリア】勢一部からは「強さと自信を足せば…」と少し納得の感想があったとか。

 

 

 しんっと静まり返った空間を破壊するのはやはり本人。

 

「っ誰ですか、それ?!」

 

 

 そこから始まるは、リリルカ・アーデご乱心…

 

 

「Level6?!【ソーマ・ファミリア】団長?!しかもアタッカー?!何をどうすればそうなりやがりましたか?!」

「リリっ落ち着いて!」

「サポーター君落ち着くんだ!僕はサポーターの君が大好きだぜ!」

 

 

 【ヘスティア・ファミリア】勢総出でフォローに入る。

 

 

 アルフィアもさすがに予想できたため、ため息を出すだけに留まり立ち上がる。

 

 

「はぁ、やはり騒がしくなったか…。おい【勇者】、これ以上対策が取れん以上私たちはベルの拠点へ行く。何かあれば遣いをよこせ」

「あぁ、そうだね。何かあれば遣いを出して呼ぶだろうね。ただ…」

 

 

 フィンも現状打つ手がないのであれば、早く帰ってもらって落ち着きたいのが本音である。特にリヴェリアに至ってはあまりの情報過多に胃を抑えている。しかし一つ懸念事項があるために言葉を濁す。

 

 

「何だ?つまらん事ならこのまま帰るぞ」

「いや、仮にもこちらの世界の君は【大抗争】に大きく関わっている。当時のことを、君のことを少しでも知っている人物はオラリオ内に少なからずいるだろう。なるべく騒ぎを起こして欲しくは無いんだよね…」

 

 

 フィンの懸念はもっともである。【静寂】のアルフィアは【大抗争】時【闇派閥】に切り札として加担した人物として一部の者からは知られている。あれから7年経っているとはいえアルフィアの姿を見れば騒ぎとなり、連鎖的に騒動に発展することは間違いないだろう。

 

 

 しかしこの懸念を予想していたのかアルフィアは鼻で笑い飛ばす。

 

 

「ふん、それなら問題はない。対策ならいくらでも立てられる。まぁ、ベルの拠点までは軽く変装でもするが…」

「?そうかい、それならこちらも問題はない。僕らもこれでもLevel7になったからね。何か力になれることがあれば言ってくれ」

「ほう、貴様も言うようになったな【勇者】」

「あはは…、これでも君よりは長く生きているんだよ?」

「ふんっ、あれから15年も経ってようやくLevel7か…些かぬるいと思うがな…」

「ヘラ…、そんなこと言うもんじゃないよ。普段はいい子なのに少し意地になることがあるんだから…」

 

 

 ヘラにとって15年も経ち、アルフィア達を退けておきながらその程度(Level7)しか未だ進まないフィン達に憤りを感じるもヘスティアに宥められ苦言程度に留まった。そのヘラの様子も静かではあるがかつてのヘラを知る者には驚きしか与えない。

 

 

(本当にこれはあの(・・)ヘラか?)

(神ヘラをああも容易く治められる者がおったとは…)

(そういや昔、ヘラとゼウスの夫婦喧嘩に巻き込まれとった神共もドチビがおればって言うてたな…。あれマジやったんか…)

 

 

 15年以上前、当時のヘラとゼウスの夫婦喧嘩は己の派閥だけでなく周囲も巻き込んだ凄惨な事件が多い。そのため、天界時代を知る神々は「早くヘスティア来てくれ…」と切に願っていたとか。仮に15年前に降りていればヘラに影響を与えたり、ヘラを抑えられるとして格別の待遇があるなど、また別の『バタフライエフェクト』が起きていただろうに…。

 

 

 本当に運のない女神である。

 

 

 そんなやりとりもありながら、【ヘスティア・ファミリア】勢はアルフィアと神ヘラという爆弾と共に拠点に戻った。

 

 

「さぁベル、先は軽くしか話せなかったお前の軌跡、私たちに聞かせてくれ」

「えっ?」

「そうだな、私も孫のことは知りたい。どうだベル、私にも話してくれないか?」

「ヘラお祖母ちゃんまで?!」

 

 

 アルフィアは先の【ロキ・ファミリア】拠点でも聞いていたが本当に軽く、それもだいぶ掻い摘んだ説明だったためもっと詳しく聞きたかった。それはヘラにも言えることでおそらく【英雄候補】たる孫の口から、その軌跡を聞きたかった。

 

 そして大好きなベルの波乱万丈な軌跡を自慢したいと思うのは、やはり【ヘスティア・ファミリア】主神ヘスティア。

 

 

「いいじゃないかベル君!君のこれまでの軌跡を存分にヘラ達に語ろうじゃないか!」

「か、神様…。分かりました。それじゃあ最初から…」

 

 

 こうして、【ヘスティア・ファミリア】団長ベル・クラネルの冒険者としての軌跡が語られることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 語り終えた後、【ヘスティア・ファミリア】主神ヘスティアは酷く後悔した。

 

 

__調子に乗って語り過ぎた__

 

と…。

 

 

 

 

 

 

_______

 

 

 

 【ヘスティア・ファミリア】拠点【竈火(かまど)の館】、「重なり合った炎と鐘」をエンブレムとし構える館は本来、居を構える主神の善性を表すかのように平和で和やかな雰囲気を出している。

 

 しかし、今それとはうって変わって遠くの一般人からでも感じられるほど恐ろしい邪気が迸っていた。より近くにいた冒険者や神はその邪気に神威が混じっていることを察し、あの善神ヘスティアがここまで憤るとは何事かと考える。しかし憤っているのはヘスティアではない。何ならヘスティアは拠点内で震えあがる【ヘスティア・ファミリア】眷属を避難させながら、元凶を宥めようと必死だ。

 

 そう、派閥拠点【竈火(かまど)の館】で憤り、邪気を迸らせているのは…

 

 

「へ、へへ、ヘラ?おち、落ち着こう!ね!」

「お、お義母さん?お祖母ちゃん?」

 

「「っ……」」ゴゴゴゴゴ

 

 もちろん、最凶の女神ヘラと最強の女王アルフィアであった。

 

 

 ベルを始めヘスティアたちから聞いた軌跡は驚きの連続であり、頭が痛くなるほどのものであることは間違いない。アイズとの出会いから成長が加速し、仲間を作り、多くの試練を乗り越え現在Level5という恐ろしいほどの飛躍。半年でLevel5に至ったこともそうだが、それに相応しい試練も相当数起きていることも驚愕に値する。実際二人共目を見開き、唸らせベルの偉業を讃えた。

 

 これだけなら問題はなかった。ベルが果たした偉業自体は正当なものであり、Level5に至るに相応しい数だ。飛躍自体も何かしらのスキルと精神による紐付けだろうと予想できる。では何故、ベルの頭をしきりに撫で、讃えていた二人がここまで恐ろしい気配を出しているのか…。

 

 

 それは…

 

 

__育ての親(ゼウス)の軽い育児放棄__

 

__ベルを『狙った』【アポロン・ファミリア】による『襲撃』__

 

__神ヘルメスがベルを巻き込んで起こした『不埒』な事故の数々__

 

__ベルが神ヘルメスによって歓楽街などの『大人のお店』に連れて行かれた__

 

__ベルが果たした偉業・事件のいくつかに神ヘルメスが関わっていた__

 

__神ヘルメスがベルを『神工の英雄』に仕立て上げようとした__

 

__【闇派閥(イヴィルス)】や【ロキ・ファミリア】他複数の派閥によりベルがいらぬ怪我を負った__

 

__神フレイヤはベルを『狙って』派閥大戦を起こした__

 

__神フレイヤは派閥大戦前オラリオを魅了し、ベルを一時ではあれど己の『監視下、つまり手中』にした__

 

 

 

 それ以外にも、やれ異端児(ゼノス)やら、神殺しやら、大昔の英雄やら、アポロンとの温泉事件やら、出るわ出るわ看過できない事件・事故・不祥事の数々……。

 

 

 アルフィアは平行世界の者だ、ヘラは長年ベルの傍へいなかった…。故にベルがこれまで巻き込まれた諸々に口を挟む資格がないことは百も承知。他派閥の件に関しても【闇派閥(イヴィルス)】などの背景があることは想像に容易い。そんなことは分かっている。しかし、現在()人が考えていることは一致している。

 

 

「「アポロン…、ヘルメス…、フレイヤ…、コロスっ」」

 

 心なしか空間も歪み始めているように見えるのは気のせいか…

 

 さしもの「対ヘラ」に特化しているヘスティアも冷や汗を垂らし後退る。ベルも今日初めて出会う肉親の異様な姿に少し怯えてしまう。

 

 

 どう宥めるべきかと二人が出方を悩んでいると、不意にアルフィアの雰囲気が変わり始める。

 

 

 ゴゥッ!!

 ゾゾッ!!!!

 

 

 その変わり様はあまりにも異様。凶器のようにむき出した殺気はなりを潜め、根源的な恐怖を感じさせる怖気が殺気混じりに放たれる。

 

 二人の異様に恐れていた眷属達や怒り狂っていたヘラもその変貌に怯みながらも目を向ける。震えていた者は歯をガチガチと鳴らしているが、ヘラは怯えながらも「この恐怖」を知っていた(・・・・・)故驚愕が勝った。

 

 

 二転三転と恐怖の色が変わり続ける空間でアルフィアが言葉を紡ぐ。

 

「「ああ、お前に任せよう」」

 

 

 それはあまりに短い言葉、詠唱(・・)だった。しかし変化はすぐに起きた。

 

 

__銀に見紛う灰色の髪は雪を思わせる『純白』へ__

 

__翠と灰のオッドアイは、より明るく自然を思わせる『翠一色』に__

 

__美しくも苛烈な様相は『慈母』を思わせるものへ__

 

 

 

 そこには先ほどまでの暴虐・苛烈・静けさが似合う女性ではなく、面影はあれど慈愛に溢れ触れれば砕けそうな儚げな美女がそこにいた。

 

 

 突然姿を変えたアルフィア?は再びベルの側へ向かい抱きしめる。

 

「へぁっ!/////」

「ふふっ、元気なベルは逞しいのね。でも14なのにそんな無茶はいけないわ。でもこれからは大丈夫よ、安心してね…」

 

 抱き着き慌てるベルを他所にアルフィア?は優しく声をかける。しかし不意に言葉を切らし明るく慈愛に満ちた瞳から光を消した…。

 

 

「悪い人たちにはすぐに…オトシマエヲツケサセルカラ」

「ピゥっ!!!!」

 

 

 これまで感じたことのない恐ろしさから、数々の試練を超えたベルも情けない声しか出ない。

 

 

 それを遠巻きに見る他の者達だったが、一人だけ全く違うことに言葉が出ない者がいた。

 

 ヘラである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「め、メ―、テリア…?」

 

 それはベルの実母の名だった。

 

 

 

 

 

 

_______

 

 

 

 

 その日オラリオは静寂に満ちた。より正確に言えばある地点を中心に静けさを出していた。

 

 

 無垢な子供は周囲が怯える様子を不思議に思いながら、直感的に口を閉じ大人の傍で小さくなる。

 

 大人の住民はあまりの怖気に耐えることもなく泡を吹く。

 

 第2級以下の冒険者達は身を震わせ、歯を鳴らし近づく災厄に気付かれぬよう縮こまる。

 

 第1級冒険者は辛うじて動かせても、歯を鳴らすか喉を震わせる。その様は、お世辞にも耐えているとは言い難い。

 

 

 そんな【大抗争】もかくやな現象を起こした者はゆっくりと歩を進め、目的地『豊饒の女主人』に向かう。息子との感動的な抱擁をそこそこで終わらせ【ヘスティア・ファミリア】拠点を出たその者の表情は常とは異なり暗く冷たい。

 

 

 すべては……

 

 

(フレイヤ…コロス、ヘルメス…シバク、アポロン…ホロブベシ)

 

 

 息子(ベル)の純心・純潔・居場所を奪い、心を壊そうとしやがった元凶(クソビッチ)を地獄に落とすために…

 

 そして、息子(ベル)を危険にさらし、不埒な道に進ませようとした元凶(クソビッチ)を叩き潰すために…

 

 こちらでも変わらず散々息子(ベル)を狙い弄ぼうと画策した変態(アホロン)はオラリオに居ないのが口惜しい。早期の帰還を求める身としては歯痒いが、専門家(ヘラ)に任せるつもりだ。

 

 

 今はとにかくを傷物にしようとした美神(ビッチ)の粛清が先決、と歩を進めていく。

 

 

 彼女の名はメ―テリア、15年前【慈愛】の二つ名を持った支援型冒険者。しかし彼女を知る者は少ない。病弱な身体であると共にヘラが溺愛していたことで基本的に外へ出ることが少なかったからだ。

 

 当時の【ヘラ・ファミリア】では主神ヘラやアルフィアを始め多くの女傑が在籍していた。その者達の中でメ―テリアは【慈愛】ではなく別の二つ名で囁かれていた。

 

 

__最凶__

 

 

 長き間、『最凶』を冠した【ヘラ・ファミリア】の主神ヘラ、在籍した多くの女傑たちが認めた。【ヘラ・ファミリア】における『最凶』は、メ―テリアだと…。

 

 

 

 

 

_______

 

 

 

 

 その日『豊饒の女主人』は時間帯的にそろそろ忙しくなりそうだというのに誰も客が来ない、それどころか異様に静かな外を訝しんだ。

 

 今や『豊饒の女主人』はシル(フレイヤ)を守るために定期的に【フレイヤ・ファミリア】の冒険者が従業員として働いている。まぁ、フレイヤに妄信的すぎるため男勢は幹部以外出禁をくらい、幹部勢も悉く無期限試用期間中だが…。

 

 そんなところで本日働いているオッタルは外を訝しみながらもいそいそと動く。

 

 

 ゾゾゾッッ!!??

 

 

 突然奔る恐ろしいほどの悪寒。『豊饒の女主人』で働く者も気付いたのか冷や汗を流しながら臨戦態勢に入る者、がくがくと震え青ざめる者と二つに分かれる。ちなみにシルは青ざめながらも辛うじて動け奥に避難している。

 

 オッタルも前者の者と同じように構えるが、徐々に後者の者のように顔を青ざめさせる。先の【派閥大戦】に敗れたとはいえ、それは多くの要因が重なった結果であり、未だオラリオにおいてオッタルは最強だ。そんなオッタルの変化に臨戦態勢をとれるものを中心に驚く。

 

 

(何故、この恐怖(・・)が……)

 

 

 オッタルはこの悪寒を、否この恐怖の感触(・・)を知っていた。徐々に青ざめたのは15年ぶり(・・・・・)に感じる類の恐怖だったから。

 

 

 

 

 そう15年以上前…

 オッタルを始め多くの冒険者が【ヘラ・ファミリア】や【ゼウス・ファミリア】に抗争を仕掛け返り討ちにあっていた頃…

 

 

 ボロボロに返り討ちにされていた者達は、とある女性冒険者によく癒してもらっていた。優しく語り掛ける彼女の姿は両派閥には珍しい人物で、まるで女神かと錯覚する者が後を絶たないほど。オッタルは、そんな普段は苛つく素振りすら見せない彼女の怒りを何度か見たことがあった。

 

 

 【静寂】や別の冒険者が、確かケーキだったか?を戦闘やら何やらで吹きとばしダメにしたことがあった。それを知った彼女の変化は凄まじいもの、あの【ヘラ】すら怯えさせ、犯人共を正座させ烈火のごとく怒り狂う様は完全に忘れること叶わない。

 

 

 

「オッタル君はあんな人達になっちゃダメよ?もしそれで私のケーキ(大切なもの)を壊そうとしたら……ユルサナイカラ、ネ?」

 

 

 

 何も映さない眼を、すべてを震わす怖気をオッタルは生涯忘れることはないだろう。この時、後に【オラリオ最強】と言われる冒険者【猛者】オッタル、トラウマが生まれた瞬間である。

 

 

 恐ろしい記憶をフラッシュバックさせながら、己の馬鹿な考えを否定する。

 

(そうだ、彼女のはずがない)

 

 

 何故なら彼女は不治の病を患っていた。同じ病を持ちLevel7のアルフィアでも7年前で限界寸前だった。彼女、メ―テリアが存命していることはないと考えなおし、構え直す。

 

 

(何者かは知らんが、フレイヤ様へ仇なすならば容赦はしない)

 

 

 考えと決意を新たに近づいてくる怖気に警戒する『豊饒の女主人』従業員一同。

 

 

 

「フレイヤサマ……イマスカ?」

 

 

「」

 

 

 

 オッタルはこの時己の未熟さを呪った。思考停止(フリーズ)である。

 

 

 

_オッタルのトラウマ(最凶)、再来_

 

 

 

 

 

「っ【静寂】、じゃないね……。どっかで見た気がするが…誰だいあんた?」

「てめぇ何者だ?!」

「ここに神フレイヤはいない。早々に帰っていただこう」

 

 オッタルが何故か行動不能に陥っているも、他にもいたアレンや【フレイヤ・ファミリア】女団員が啖呵をきる。

 

 

 そんな啖呵に怖気の元凶、メ―テリアは怯む筈もない。

 

 

「そんなわけないでしょう?その奥に隠れているのは分かっているの。怪我をしたくなければ出しなさい」

「てめぇ…、轢き殺すっ」

「っよせ!アレン!」

 

 

 不遜な物言い、しかも敬愛するフレイヤを害そうとする発言にアレンが早急に対処しようと駆けだす。そんな派閥幹部の愚か極まる(・・・・・)行動にオッタルが待ったをかける。しかし時すでに遅し…

 

 

「姉さんじゃないけど……うるさいわ」

「ガハァァアッ」

「兄さまっ!」

 

 

 たった一撫で、その一撃をもってLevel6冒険者【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】アレン・フローメルは店の壁に叩きつけられ気絶した。

 

 

 あまりのあっけなさに一部を除いた『豊饒の女主人』従業員一同は呆気に取られる。次に動き出したのはミア

 

「ウチのに何してんだい!」

 

ドゴォォオッ

 

小巨人(デミ・ユミル)】の強烈な一撃が放たれる。が……

 

 

「っぐぅぅぅっ」

「ダメですよ、ミアさん。私これでも怒ってるんですから」

「ぐっ……っ!あんた、まさか?!」

 

 メ―テリアが片手で防ぎ、その握力にミアが怯む。ミアは自分の拳を握る握力にも驚くが、至近距離で見た顔にようやく覚えていた既視感に心当たりを見出し、別の意味で驚愕する。

 

 

「さて、そこに隠れているフレイヤ様?早く出てこないともう少し暴れますよ?」

「……貴女、一体どこのどなたかしら?」

「っフ、シル様いけません!こんな得体の知れない者の前に出ては!」

 

 

 団員が諭そうとするも目の前にいるメ―テリアが許すはずもないため、シル、もといフレイヤは出るしかない。

 

 

「無駄よ、彼女は確信して来ている。それで?怒っている、と言っていたけど、私貴女に会ったことはないはずよ」

「あら?私のベルにあんなことをしておいてよくもまぁそんなセリフが出ますね」

「っ…へぇ、ベルさんのお知り合いでしたか。ですがその件については話が終わっているんです。部外者は口を挟まないで下さい。あと、私のベルさんです」

 

 メ―テリアがベルの関係者と理解したフレイヤはシルモードで迎撃しようとする。

 

 

「ふ、フレイヤ様、彼女は…」

「オッタル君、ちょっと黙っててね。それでフレイヤ様?部外者であることは百も承知です。ですが私はそれを無視するぐらいに怒ってるんです、それだけベルが大事なの」

「へ、へぇ…。でも私ベルさんとお話しする機会は多いですけど、貴女の話は聞きませんよ?無視と言いますが、他人が烏滸がましいのでは?」

 

 オッタルが忠告しようとしそれを遮るメ―テリア。そんな彼女を「他人」と断じ、マウントも同時に取ろうとするフレイヤ。

 

 

 

「母親がっ、息子の純心を奪おうとする邪神に怒るのは当然でしょうっ!」

 

 

 

「は?え、は?母親?え、ベルの?え貴女が?」

「やっぱあの小僧、【静寂】の血筋だったか…」

「め、メ―テリア、さん」

 

 メ―テリアの啖呵にフレイヤは混乱、ミアはベルが誰かに似ていたことを思い出し、オッタルはトラウマから「さん」付けをしてしまう。

 

 

(そうだっ、ベル・クラネルが誰かに似ていると感じていたが…、この人に似ていたのか…。……オワッタ)

 

 

 オッタルは過去のトラウマにある「メ―テリアの大切なもの」にベルも含まれていることを察し、己の運命を悟った…

 

 

「…本当なら説教と往復ビンタをかまそうかと思ったけど、専門家が来たようだし一旦譲るわ」

「え?」

「専門家?」

 

 

 そんなオッタルの悟りとは裏腹にメ―テリアは先までの気配を消し、一旦矛を収めると言い出す。一同訝しんでいると、フレイヤ、シルの肩に手が置かれる。

 

「ちょっと誰よ、今取り込みちゅ、う……っ」

「ほう、取込み中か。随分な言い様じゃないかフレイヤ、私も我が孫(ベル)を誑かそうとオラリオを混乱させたお前に言いたいことはあるのだが?」

「へ、へへ、ヘ、ラ……グフゥッ」

 

(そうだ、メ―テリアさんがいるなら、この神もいるか……オワッタ)

 

 

 いつの間にか店内に侵入していたヘラによりフレイヤはノックダウン、オッタルはあまりの情報量に女神の惨状への対応に遅れた……

 

 

 

 

 

 

 

_______

 

 

「」

 

 

 ヘラにメ―テリアと呼ばれた美女に抱擁され固まったベル達はメ―テリア、そして次にヘラが派閥拠点を出たが対応に遅れてしまった。

 急いで彼女たちが向かった先、『豊饒の女主人』へ向かうと、そこに広がる光景にベルは絶句する。

 

「」チーン

 

 両頬を腫らし尻を突き上げるような形で倒れ伏すフレイヤもといシル。

 

「「「「」」」」チーン

 

 おそらく害そうとしたメ―テリア、ヘラに抵抗しようと向かった【フレイヤ・ファミリア】団員の皆様、仲良く屍と化している。

 

「「「」」」ガクガクブルブル

 

 あまりの惨劇・二人から放たれる圧に恐怖し、店の隅で震える『豊饒の女主人』正規従業員一同。

 

「はぁぁ」

「」

 

 惨状を前にしても大きくため息を吐くだけの女主人ミア。それと主神と仲間の惨状を招いた元凶であろうメ―テリアに見事な土下座をかます現オラリオ最強冒険者オッタル。

 

 

「あ!ベル~!」

「ん?ようやく来たかベル、ヘスティア」

 

 地獄絵図化と見紛う惨状を引き起こした元凶2名はそんな惨状が目に入っていないのか、絶句しているベル達を笑顔で迎える。

 

 

「お、お母さん?お祖母ちゃん?こ、これ、いったい……」

「ヘラ、何をしてる、のかな?」

 

 口を引き攣りながらも何とか言葉を紡ぎだし、この惨状が己の気のせいだと思いたい二人。特にベルに至っては実母との感動的な再会がこれ(・・)となり、どこに涙すればいいかわからなくなっている。

 

 

「?ちょっとオハナシしただけよ?皆大げさに驚いちゃって……ウフフ」

「何気に食わぬ女が羽目を外し、付を払っているだけだ」

 

 

 この惨状のどこを見たらそんな可愛い話となるのか…。倒れている多くの者は第2級冒険者上位に位置する者達ばかりというのに…

 

 

「甘い落としどころで矛を収めたヘスティアと我が孫に感謝しろよ、フレイヤ。本来なら私のフルコース(神専用拷問術)を味合わせた後に天に叩き戻すところをこの程度で済ますのだからな」

「ひ、ひりが……ほ、ほなかがぁ……」

 

 

 ヘラの慈悲深い?言葉に反応したのかようやく意識を戻したフレイヤ。頬が腫れているせいで聞き取りづらいが、どうやら見た目以上にやられたらしい…。

 

 

「はぁぁぁ、これじゃあ店が開けないじゃないか…。どうしてくれんだい?…【慈愛】で良いんだね?」

「ふふ、そうねその二つ名で合ってるわ」

 

「あ、あの!」

 

 

 開店不能の惨状にミアが苦言を呈しているところにベルが割って入る。この空気を変えたいとも言える……

 

 

「あ、あの、その…。あな、あなたは、僕の…おk「そうよ、ベル」っ」

 

 とあることを確かめようと問いかけようとしたベルを抱きしめるメ―テリア。

 

「私が、あなたの本当の母親、メ―テリアよ。こちらの私に変わって言うわ。ごめんなさいベル、あなたには寂しい思いをさせてしまって…」

「ぅ、ぅうう”う”…。お母ざん、お母さん、ぅうう”」

 

 

 

 母親と息子の感動的な抱擁

 

 

 

 

 本来であれば涙なしでは見れないその光景を目の前に、女主人ミアは言葉には出さずとも思ってしまった。

 

 

(どうすんだい、この状況…)

 

 

 周りが惨状であることに変わりないためとんでもない混沌となった『豊饒の女主人』……。

 

 

 





 読んでくださりありがとうございます。今回はpixivで投稿している「最凶の怒り再び」と「【ヘラ・ファミリア】の『最凶』」の統合となります。


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