昔々、あるところにかわいらしい女の子がいました。誰でもひとめ見ると、この子がかわいらしいと思いました。
でも、一番かわいがったのはおばあさんです。おばあさんは、ある時、この子に緑色のベレー帽をやりました。
途端に女の子の体は闘争を求め、同じ村の猟師に師事し、5年の訓練の末、いっぱしの兵士になりました。
そこでこの子は、みんなからグリーンベレーちゃんと呼ばれるようになりました。
ある日、お母さんがグリーンベレーちゃんに言いました。
「グリーンベレーちゃん、ちょっとおいで。ここにプロテインとラム酒があるから、これをおばあさんに届けておくれ。おばあさんは病気で体が弱っているから、これを食べたら元気になるでしょう。
日が高くなる前に出かけなさい。外へ出たら、しとやかに歩いて、道から外れないようにするのよ。おばあさんの家に入ったら、挨拶を忘れないようにするのよ。ご挨拶もしないうちから、そこらじゅうをきょろきょろ見まわしたりしないようにね」
「ROG!ヒトフタマルマルには帰ってくるであります」とグリーンベレーちゃんはお母さんに言いました。
ところで、おばあさんは村を外れた森に住んでいて、村からは徒歩で三十分ほどかかりました。
グリーンベレーちゃんは森に入ると、誰かに跡をつけられているのに気づきました。
ショルダーホルスターには、.454カスールのリボルバーを入れてありますが、それでも少し気味が悪くなりました。
グリーンベレーちゃんは、右腰に下げたナイフを確かめました。ナイフはきちんと収めてありました。
振り向くと、十メートルもないほど近くに狼がいました。グリーンベレーちゃんは、狼がこんなに近寄ってくるのは初めてでした。
「おはよう、狼さん」グリーンベレーちゃんは言いました。
「おはよう、グリーンベレーちゃん。どこに行くのかな?」
「おばあさんのところよ」
「そのリュックには何が入っているんだい」
「プロテインとラム酒よ。おばあちゃんは病気だから、これで元気を取り戻してもらうの」
「俺はサラダチキンの方がよっぽどいいと思うがね。ところで、そのおばあさんはどこに住んでいるんだい?」
「あとたっぷり十五分はかかる森の中よ。あなたには関係ない話だと思うんだけど」
「そうだったな、グリーンベレーちゃん。俺には何の関係もない話だ」
狼はすきっ腹でした。ですが、ここでグリーンベレーちゃんを襲うよりかは、抜け目なく立ち回って、おばあさんとグリーンベレーちゃんの両方ともいただくようにしなくてはならん、と考えました。
そこで狼は、しばらくグリーンベレーちゃんのあとをついていくことにしました。
「グリーンベレーちゃん、あたりを見回してごらん。おみやげに花を持っていくのはどうかと考えたんだが」
「むやみに木や花を切ってはいけないと学んだわ。切り口や折れた方向、花のしおれ具合で、誰かがいつそこにいたのかを知ることができるんだから」
「そうそう、そうだったな」狼は、グリーンベレーちゃんに道草を食わせるのは難しいと思いました。
「狼さん、もうついてこないでね。私が誰だか知ってるでしょ」少し距離を詰めた狼に向けて、グリーンベレーちゃんはクイックドロウでリボルバーを向けました。
「わかったわかった。どうも勘違いされてるようだ、もうあとはつけないよ」狼は両手を上げながらも、うそをつきました。
グリーンベレーちゃんは、どうもこの狼は怪しいと思ったので、狼の足元に一発だけ撃ちました。
度肝を抜かれた狼は、「かんべんかんべん」と叫んで、茂みに飛び込みました。
こういう時、安易に足跡をたどると、獣はバックトラックをしかけ、足跡が途切れたと思わせた後ろから襲ってくるものだ、と猟師に教えられていました。
狼の抜け目ないところは、いったん射程限界まで逃れ、そこから後をつけていくところでした。
そうして十五分、グリーンベレーちゃんはおばあさんの家にたどり着きました。
そういうことがあったのよ、とグリーンベレーちゃんはおばあさんに言いました。
「しばらくここにいなさい」とおばあさんは言いました。グリーンベレーちゃんは、一応銃弾を再装填しました。
「師匠がいてくれたら、追っ払ってくれるのに」とは思いましたが、連絡するのも忘れて家を出たので、それを悔いました。
「これをつかいなさい」と、おばあさんは双眼鏡をグリーンベレーちゃんに渡しました。
しばらく見ていると、大人の男が一人、家に近づいてくるのが見えました。
その男は、グリーンベレーちゃんも、おばあさんも見たことがない人間でした。
「とまれ!」と叫んで、家の中からリボルバーを向けました。
「あんたの耳はずいぶん大きいが、何故か?」
「おまえの叫びをたっぷり聞くためさ」
「あんたの目はずいぶん大きいが、何故か?」
「おまえの最期をちゃんと看取るためさ」
「あんたの手はずいぶん大きいが、何故か?」
「おまえをバラバラにひきちぎるためさ」
「あんたの口はずいぶん大きいが、何故か?」
「おまえを骨ごとむしゃりとやるためさ!」
人間の姿がゆらりと崩れ、狼の姿になりました。グリーンベレーちゃんのリボルバーが火を噴き、銃弾が3発、狼の胴体をとらえました。
ですが、狼はひるむ様子もありません。それどころか、大きく疾走し、窓を突き破って、グリーンベレーちゃんにのしかかりました。
「このっ!」さらに2発リボルバーが吠え、狼の頭を襲いました。
「銃なんて効かんよ」狼はニヤリとしていました。「俺は人狼なんだ」
「そうかい」グリーンベレーちゃんはリボルバーから手を放し、太ももに固定していた二本目のナイフを抜き、狼の腹を何度も突き刺しました。
「ぐわっ!!」狼は大きな悲鳴を上げ、大きく距離を取りました。
「こんなこともあろうかと、ナイフを銀製にしといたんだよ」ナイフを逆手に持ち替え、ゆっくりと立ち上がりました。
左手にはおばあさんのかけ毛布を持ち、右手には銀のナイフを持つグリーンベレーちゃんに隙はありません。
これはよくない、と決めた狼は、ドアを突き破って退散しました。
そこに、猟師がちょうど通りかかりました。
狼を見て、猟師はひるむ様子もなく、水平二連の散弾銃をぶっぱなしました。
散弾ではな!と思った狼ですが、銀製の九粒弾は狼の頭を横殴りに襲いました。
さすがに狼はかなわず、その場にへたり込んでしまいました。
猟師は瞬時にスラッグ弾をリロードし、二発を狼の腹に食らわせました。
ギャン、と悲鳴を上げ、狼は動かなくなりました。
「お師様!」とグリーンベレーちゃんは声を上げ、駆け寄ろうとしました。
「待て、死んだふりかもしれない」と猟師は制止しました。猟師も初めて対峙する相手でしたので、慎重にならざるを得ませんでした。
十分待って、その狼が本当に死んでいることを確認すると、猟師は森の湖畔まで狼を運びました。
狼の足に10kgもする重しを括り付け、どぼんと湖に放り込みました。
「ご協力感謝します!」と言ってグリーンベレーちゃんは敬礼しました。猟師も敬礼で返しました。
「大した胆の座りっぷりだ。よく戦った」と猟師は言いました。
それから後、その森では狼の類は姿を消してしまいました。また、グリーンベレーちゃんも、無駄な殺生はしませんでした。