学生にとって、冬というのは微妙な位置づけではなかろうか。
寒い、休みは短い。
しかし雪が降ったもんならそれで遊べるし、交通機関のマヒ、それによる休講。
いいことも悪いこともそこそこにある季節であると、俺は思ってた。
まぁ、そんなのは義務教育までのこと。
高校なら考慮はされるだろうが大体は遅刻判定、大学になれば心配すらされない。
「寒い、最悪」
『雪降ってるから気を付けて来てね☆』みたいなメールぐらい寄越してくれてもいいじゃねえか。
そしてそれがないってことは休講連絡もなし。
雪降ってるからいつもより1時間早く出て歩いて通学してる、本当に馬鹿馬鹿しい。
…まぁ、そこに俺が学びたいもんがあったからって行くこと選んだのは俺の意思なんだけど。
「…せめてZOOM授業にならねえかなぁ」
それならその辺のネカフェ入って講義受けられる。
そんな事を思いながらスマホの画面を付ける。
「今じゃ遅ぇよカス!!!」
『雪がすごいからリアクションペーパー出したら出席にするね☆(意訳)』ってメールが2分前に来た、しかも3件。
つまり講義を受けに教室に行かなくてもいいということで。
そして今日とってる講義が全部それになった。
「…帰るか」
朝8時起きした俺の労力を返せ。
「ただいま…?」
俺の親は玄関の内側に向かってつま先を向けて靴を置くんだが、そのルールにのっとってない靴が1組。
一体誰だと思っていると、リビングから足音。
「…あれ、おかえりお兄ちゃん」
「…なんでいる?」
隣の家のご令嬢、倉田ましろが俺の家にいた。
「冬休みだから?」
「嘘…でもないのか、高校なら休み入ってる頃だな」
時期的にはそろそろ聖キリストの命日、世間一般的に言うクリスマス。
月ノ森とかいうお嬢様校の休みは知らないが、俺みたいな一般の高校はこの時期ぐらいからもう冬休みだった記憶がある。
「で、なんだ?宿題でも終わらせに来たのか?」
「…うん、今年も、いい?」
「俺の頭で教えられるかどうかは知らないぞ。課題終わらせてからになるけどいい?」
「うん。待ってるね」
進学校の2年のカリキュラムって、一般高のどんくらいなんだろう。
まぁ、分からんことは無いだろうと信じたい。
仮にも年上、かっこ悪いところは見せたくはない。
「…とりあえず家あがっていい?寒い」
「あっ、ごめんね。ずっと玄関で話しちゃってた」
ましろにどいてもらい、手洗いとうがいを済ませて俺の自室へ。
パソコンを開いて電源を付け、課題ページの動画リンクをクリック。
「…もしかして、私邪魔?」
「いや?リアルタイムじゃないしここ居ていいよ。…まぁなんもないけど」
俺の自室にテレビなんてもんは置いてない。
置いてたとしてもアンテナないし、番組は映らないからただのモニターである。
「テレビ見たいならリビングだけど…」
「ううん、見たいのないから。ここ居るね」
「了解」
暖房を20度に設定し、動画から要点を読み解いてリアクションペーパーに記入していく。
指定文字数を2倍強でクリアして提出、後はそれをもう一回。
と、背中に柔い衝撃。
「ましろ?」
「お兄ちゃん、何の授業受けてるの?」
「プログラミング…って言って伝わるかな」
「機械作る授業?」
「意味合いはそんな感じだけど、どっちかって言えば機械の中身かな」
講義の内容をできるだけ噛み砕いてましろに伝えると、首を傾げながらなんとなく理解したようだった。
「…お兄ちゃん、難しいこと習ってるんだね」
「ましろも大概だろ?一般高よりは確実に進んでるはずだぞ」
「私はまだ、その…日本語、だし」
「お前の付いていける範囲って日本語かどうかなの?」
それじゃあ英語できないじゃねえかっていうツッコミはさておいて。
「あ、これリアクションペーパーじゃねえのか…めんどくせぇ…後でにしよ」
まぁ普通に考えればプログラムを組む課題が来るのは分かってたが、雪で休講になってラッキーと考えた俺の頭はそんな事を考えられないようだった。
「お兄ちゃん?」
「大体終わったからヨシ。ましろ、今度はお前の時間だ」
「じゃあ、よろしくお願いします」
「丸投げすな」
あくまでやるのはお前だ、と念押ししたうえで、広げられた課題量を見てゾッとする。
国語のワーク、範囲は20ページほど。
数学のワーク、範囲は微分積分。
英語のワーク、範囲は受動体。
パッと見はそこまで多くないが、1日1ページずつだと足りない計算だ、めんどくさい。
「うわぁ…これ2週間でやれって?」
「去年は、こんなに多くなかったんだ」
「ふーん…色々あんだな。まぁそれはいいや、とりあえずわかるとこばっと埋めてからだな」
「うん…がんばる…」
「うー…」
「…ようやったな、2時間ぐらいで」
範囲の3/4を2時間で終わらせて燃え尽き症候群みたいな状態になってるましろを横目に、亀みたいなスピードでプログラムを組んでいく。
俺が出る幕はあまりなく、助言もあまりしてなかったが、なんだか順調に進んでるようだった。
「これ、俺いる意味あった?」
「えっ…と、お兄ちゃんがいたから頑張った…みたいな」
「…役には立ったみたいだな」
なんとなく恥ずかしくなって、ましろの方に向けてた目線をパソコンに戻し、スピードを上げてプログラムを組んでいく。
「あの、お兄ちゃん」
「ん?」
「…それ、どれぐらいで終わる?」
「終わらそうと思えばいつでも」
「そっか…じゃあ待ってるね」
「ん、じゃあ2分待って」
ショートカットキーで保存、その後ファイルタブからもう一回保存、二重保存大事。
タブを閉じてから、保存されたものが問題なく動作することを確認して、パソコンの電源を落とす。
「ほい、終わった。なにする?」
「えっとね、その…まったりしたいなぁって」
「ここよりリビングの方がいいぞ。こたつとテレビと…ましろ?」
立ち上がろうとして、ましろに袖を引っ張られる。
「…暖かい飲み物入れてくる、ココアでいい?」
「…うん」
部屋を出る口実を作れば、ましろは簡単に指を離してくれた。
部屋を出て、ドアを閉める。
「…かわいすぎるだろ」
これが実際の兄であればそうも思わなかっただろう、俺の名字が倉田でないことに今だけ感謝した。