『首置いてけ!大将首……また女子か!!!!!』 作:三途リバー
かなり詰め込み&駆け足になってしまいましたが、2年泥沼にハマった展開を進める為には致し方なく…何卒お許しを…
追記
この度、ShiN先生(旧Twitter:@Ultramarine430)にイメージイラストを描いていただきました!
あらすじから見れますので、是非ご確認ください!!
京とは主上がおわし、また武士の頂点たる征夷大将軍が幕府を開く
「ひどか上洛じゃ」
「先の応仁の大乱以降、人も街も荒れ放題。都などとは名ばかりの、灯の消えたような街よの」
あまりの荒れ果てように豊久が呆れ声を上げるのも、無理からぬことであった。だがしかし、そこには驚きと共にある種の感心が含まれている。
(こいが
豊久の知る京とは、伏見城や大名屋敷が立ち並び、御土居に囲まれた大都市。鹿児島や佐土原とは到底比べ物にならぬ、まさに王城という印象を強く受けた。薄暗く、人通りは疎らで野犬の遠吠えすら響くこの廃墟と同じ場所とは俄に信じ難い。
(凄かったんじゃのう、あん禿げ鼠)
この惨憺たる有様が、ここから僅か30年足らずで美も実も備えた絢爛豪華な大都市へと変貌するというのだから凄まじい。それには足利義昭を奉じて入京した信長の功績もあろうが、豊久の脳裏に浮かぶのはやはりあの痩せぎすの老人であった。
と、豊久が妙な郷愁に気を取られている間に、久遠は相変わらずの果断さで指示を飛ばしていた。
「よし、エーリカ!悪いが先触れを頼めるか。見知らぬ集団がいきなり二条御所を訪ね、公方が人を集めているなど三好などに怪しまれては…いや、怪しむ口実を与えてはつまらん。室町通り近辺で待つ故、それとなく迎えを寄越させよ。我らは家人にでも紛れて二条館に入る」
「承りました。織田様、島津様ご着到の由取り次いで参ります」
今の足利幕府は将軍の権力などお飾りで、実質的には相伴衆の三好修理大夫長慶の一族が畿内の統治を執り行っている。
圧倒的な軍事力、経済力を擁する三好家は自他ともに認める畿内の支配者であり、事を交えれば幕府側に勝ち目など万に一つもありはしない。だが長慶は自らが足利氏に取って代わるのではなく、幕府という既存の政権を最大限有効活用する手段を取った。何かあれば錦の御旗をチラつかせて大義は我にありと叫ぶやり口である。当代将軍足利義輝と幾度かの武力衝突はあったものの、現時点では足利氏を滅ぼすような動きは見られない。そう、
兎も角、将軍を操り人形にすべく四六時中舌なめずりをしている連中に、どんな屁理屈であろうが動く名目を与えたくはないというのが久遠の考えである。
それを重々承知しているエーリカも、異議を唱えることもなく二条へと足を向けた。自然、後には久遠ら織田家の人間だけがその場に残る。
「久遠さま…少々露骨では?」
「流石に分かりやす過ぎたか?ま、金柑は話す限り物分りの良い奴よ。理解してくれよう」
エーリカへの言葉に嘘はない。だが実際の所は、身内のみで話を詰める為の体の良い人払いも兼ねている。
「幕府を蔑ろに専横を振るう三好から京と公方をお救いするため、軍勢を率い上洛する…とまでは考えていたが、思わぬ追風が吹いたな」
「えぇ。これでは名分自体は立ちましょうが、行き着く先は三好の二番煎じ。第二の長慶と目され、諸国大名から反発を受けたでしょうね」
久遠の目的とは言わずもがな天下布武。だが日本をひとつにと吹いたところで、織田家のみの裸一貫でそれが成せる筈もない。各地で争いを繰り返し、自力救済を旨とする大名達を従わせるにはそれ相応の大義が必要なのだ。
「だが鬼の魔手から天下万民を守るという旗を掲げれば、文句のつけようもあるまい」
その折に降って湧いた、ザビエルなる者の恐るべき野望。これを使わぬ手はないし、何より久遠自身の夢にとって断じて看過できるものでは無い。絶好、と言って良かった。
「でも良いことばかりじゃないですよね?田楽狭間の時みたいに、鬼の大群が日本中そこかしこで見られるようになったら…」
「うーん…それなんだけど、私達が豊久様と美濃に戦線広げた時は全然遭遇しなかったよね?夜に大きな獣を見たとかそんな噂もあんまり」
「守備していた側の我々の耳にも、そういった類の話は。と言うかそんなものが現われていたら、腰砕けの齋藤兵なら戦にすらなっていません。ただでさえ化け物じみた武将が化け物じみた速度で攻めてきているのに」
傍らの主を見やる詩乃だが、そこに棘はない。むしろどこか愛しさのような声音すら感じさせる。
「その間尾張領内で発見報告自体はあった。だがどれも散発的で、山中から下りて来たのを在地の者が討ち取った程度のものだ。徒党を組んでいるという話は聞かぬ」
「じゃあやっぱり、田楽狭間が特別だったんですかねぇ?」
「断定は出来んが…あれ以降、群れを成す鬼が濃尾で現われていないのは事実。田楽狭間が我らと今川だけでなく、鬼にとっても分け目の大戦であった可能性はあるな」
「
これまでに久遠達が相対した鬼に知性らしき物は感じられなかった。ただ目の前の人間を襲い、殺し、血肉を喰らって暴れるだけの獣の如き様相であった。
だがザビエルはこの日本を悪魔の楽園とせんと暗躍しているのだという。ただ暴れ回るだけの鬼を放し飼いにするだけでそれを達成出来るのか、というのは少々疑問が残る。
知性なき
しかし久遠らが戦場に割って入った頃には既に今川・鬼共に壊乱状態、こちらへ抜けてきた鬼の残党も豊久の吶喊でほぼ皆殺し。結局のところ、今となっては分からずじまいである。
「推察にも限界がありましょう。やはりまずは公方様との情報交換をせねば始まりません」
「で、あるな」
■
「にしても、浪人やら足軽やらやたら武装した人達が多いねぇ」
「恐らく三好一党かと。近頃当主の修理大夫長慶殿は病篤く、既に次代の権力闘争が起こっていると聞き及びます。後釜を狙う三人衆や家宰の松永弾正は、いつ何時事が起きても良いように手元に兵力を置いておきたいのでしょう」
「それと同時に公方様への監視も強めてるのかな?」
「然り」
元は有力守護の屋敷などが立ち並んでいた上京と呼ばれる街区では、そこかしこに柄の悪い兵達が屯し、酒を食らうわ数少ない通行人に絡むわやりたい放題の有様であった。中には見目麗しい久遠一行に下卑た視線を投げて寄越す輩もあったが、そういった連中は遮るように立つ豊久の眼光に慌てて目を逸らしていった。
「しかしこの様子だと、事態はより切迫しているやもしれません。修理大夫殿は既に亡く、三好松永間は暴発一歩手前の緊張状態、といった事も考えられます」
詩乃の見立ては当たっている。
三好三人衆と呼ばれる一族衆と、外様でありながら家宰に上り詰めた松永弾正少弼久秀。
彼女らは長慶の影響力が衰え始めるとそれぞれの居所へ兵を呼び寄せて牽制し合っていたが、遂に長慶が遠行し、ストッパーがいなくなったことでその緊張は極限にまで達していた。盃になみなみ注がれた水のように、ふとした弾みで決壊し、京は再び戦乱の渦に巻き込まれるだろう。
また、懸念は三好家中の権力闘争だけではない。足利幕府当代将軍の扱いについても、先行きが不透明だった。
「エーリカの話によれば、公方義輝は中々の出来物。これまでは長慶が上手く抑え込んでいたようだが、このゴタゴタを好機と見て三好への反転攻勢に討って出る事も考えられる」
「そんな武力も政治力も、今の幕府にありますかね?」
「分からん。だが少なくとも三人衆や松永は警戒し、こう思う筈だ。意志を持つ傀儡など邪魔なだけ、とな」
三好が足利を生かしておいているのは、あくまでお飾りとしての利用価値があるから。自らの頭で考え、動くお飾りなど求めていない。
「有能だからこそ狙われちゃうのか…出る杭はなんとやらってやつですね…」
「フン、我に言わせればここまでの状況に追い込まれている時点で有能とは言い難いがな。天下の征夷大将軍ともあろうものが、二条のボロ家に押し込まれて家臣筋の心根1つに怯え暮らすなど」
「それは少々酷な話では…ご先代の頃から細川ら有力家人に権力を吸い取られ、そも戦う土台に立てておりませぬ。それに、そんな状況を打開せんと我ら織田を頼ってきた、ということも考えられます。個人的には、聡明なお方であると思いたいものです」
冷徹とも言える評価を下す久遠と、先代公方足利義晴の御世に遡って事を論ずる詩乃。相反する意見だが、空気は険悪ではない。むしろ久遠は楽しそうに反論に耳を傾けている。
「会えば分かっ。会わんこつには器量もなんも分かりゃせん」
そしてこちらもこちらでいつも通りの調子である。浮足立つような周囲の空気も全く意に介さず、欠伸すらしている。だがこのような擾乱に際し、人並外れたその胆力は大いに頼もしかった。
そうして歩くこと暫く。上京を抜けた久遠らは、元は立派だったであろう商屋跡地が
迎えを待つ為、一行は朽ちかけた屋敷の門前に腰を落ち着けた。
近辺には人通りなく、態々こんな所まで徘徊するほど三好の足軽達も酔狂ではない。そういった具合の荒れ屋である。
「もし、そこなお武家様」
そんな所に、一人の女が顔を出した。
薄藍色の着流しに紫がかった流麗な白髪を伸ばした、身奇麗な女である。その所作、見目の美しさ、いずれもこのような廃墟に似つかわしくない。ただ一点、その腰に差さった細身の刀だけが世上の物騒さを想起させていた。
「我が主がお招きの客人方とお見受けいたします」
穏やかな微笑をたたえ、女はゆっくりと近付き、そして優雅に一礼した。埃っぽい風にたなびく髪が、まるで月光を纏ったかのようだった。
美しい。だがそれは、どこか名刀の斬れ味を思わせる冷たさを孕んでいる。久遠がわずかに目を細め、詩乃が無言で身構える。
豊久だけが、何をするでもなくただじっと女を見据えていた。
「遠路はるばるお越しいただき恐縮の至り。ささ、主がお待ちゆえ早速お連れを…と、申したいところですが」
僅かに上体を起こした女の視線が、豊久と真っ向からかち合う。
「少々味見をば」
瞬間、閃光が走った。
「「「──!?!?」」」
声を上げる暇もない。
ひよ子も、転子も、詩乃も、そして久遠も、それが抜刀だとは認識できなかった。ただ女が消えたと感じ、気付いた時には既にその影は豊久の目前。
鞘走りの音も、大地を蹴り抜く足捌きも、どころか腰間へ手を伸ばす予備動作すらも分からない。
まさに閃光が、豊久の首筋目掛けて奔る────が。
「ぬっ!?」
血飛沫舞う事もなく、刃噛の火花が散る事もなく。女の斬撃は空を切る。
「剣は鋭か、殺気は鈍か。ぬしゃなんぞ」
身体を低く沈め、不可視の太刀を容易くやり過ごした豊久の手は既に大太刀の鯉口へかけられている。だが返しの一刀を繰り出す事はなく、ただ鈍く光る眼光だけが女の顔を射抜いていた。
「お、お頭っ!!!!」
ひよ子がようやく声を上げる中、女は笑いながら刀を納めた。
「なに、言うたであろう。味見を少々とな。いやしかし、受けるまでもなく躱されるとは!我が剣がこうも完璧に見切られたのは師、卜伝以来よ」
その態度に先程までの慇懃無礼さなど欠片も見えない。面白くてたまらぬといった風に身体を揺するその様子は、むしろ豪放と言って良かった。
「我が主に無礼でありましょう!」
響いた怒声は詩乃のものである。
あまりの出来事に足を竦めていたのも束の間、肩を怒らせて豊久と女の間に割って入る。転子も既に抜刀し、久遠の傍を固めながら警戒を解かず女を睨み付けていた。
「おーおー怖い怖い。じゃがその主も殺気が鈍いと言うていたではないか。戯れよ、戯れ」
「戯れであろうが…!」
悪びれることなく言ってのける女に尚も詩乃が言い募ろうとしたその時、2つの人影が飛び出してきた。
「あ、な、た、と、い、う、か、た、はぁ!!!」
「やれやれ、面倒なのが来たか…」
「えぇ、来ますとも、来ましたとも!!何せ我がご主君は何をしでかすかも分からぬじゃじゃ馬ですからなぁ!嫌な予感がしたのですよ、御自ら出迎えに参られるなど!」
「良いではないか。堺などで大分寄り道を食ったようであるし?首を長うして待っておった
「なァにが可愛いものですか!下手を打てば流血どころか人死に!濃尾の兵にこの街蹂躙させるおつもりで!?」
掴みかからん勢いで女に食ってかかるのは、どうやらその配下らしき武士だった。言葉の端々にその日頃の苦労が見て取れる。
「これは一体…?」
もう1つの人影は誰あろうエーリカである。
どうやら今飛び出してきた武士と、説教を食らって尚飄々とした態度を崩さない女こそエーリカが連れてきた幕府の迎えのようだった。
と、言うよりも。
「そ、その口ぶり、まさか……く、くくぼ……」
「おっと!斯様な場で平伏なぞしてくれるなよ?目立って叶わん」
「何を抜かすこのうつけが。貴様の戯れとやらで既に大目立ちよ」
久遠の言う通り、疎らではあるが騒ぎを聞きつけた町人達が顔を出し始めていた。
「これは一本取られたわ。では場所を移すとするかの。幽、案内せい」
「全く……改めまして御一同。拙者、細川与一郎藤孝、通称を幽。
■
一行が通されたのは足利将軍の居所たる二条御所…ではなく、目立たぬ街角にひっそりと立つあばら家だった。
「腹立たしいことに二条にも三好と気脈を通ずる者がおる故な。粗末な屋敷だが信の置ける者共が周囲を警戒している。盗み聞きの心配はない…と、自己紹介がまだであったの」
手ずから座布団など取り出していた女が、改めて久遠達に向き直り、威儀を正す。
「我が名は義輝。足利幕府第十三代将軍、一葉義輝である」
朗々とした名乗りは、一同が予想した通りのものだった。
慌ててひよ子、転子、詩乃が平伏するが、肝心の久遠と豊久は呑気に出された茶を啜っている。特段驚いた様子もない。
「弄り甲斐がないのぅ、尾張の。それに鬼島津も」
「悪趣味に付き合うてやる義理もないわ。人を呼びつけておいて…」
「はは、これは手厳しい!まぁ余も堅苦しいのは好かん。むしろその位が心地よい。その方らも楽にせよ」
帝を除く日本の頂点に位置する幕府という権威の主にしては、なんとも気儘な風を感じさせる女である。
「織田三郎久遠信長である。全く人が忙しい時に手紙一枚で呼び付けるとは。流石は公方様と言ったところか?」
「お主も
だがその着飾らぬ物言いは心地良く、久遠とはどこか通じるものがあったようだ。当意即妙のやり取りで軽やかに会話は進んでいく。
「まずは美濃併呑、祝着至極」
「良いのか?一色姓をくれてやった齋藤を…室町幕府御相伴衆を滅ぼしたは我らぞ」
「あー…義龍ならまだしも龍興ではのぅ…お主ら織田の方が人心を休んぜられるという点では喜ばしい。特に、鬼を討滅するため組む相手としてはな」
「随分とぶっちゃける」
「取り繕っても仕方あるまい。エーリカから既に聞いたであろう?」
「鬼とザビエルとやらの暗躍については聞いた。が、肝心要の
顎をしゃくった先には、無論豊久。
久遠、そしてひよ子や転子、詩乃が最も知りたいのはかの漂流者についてである。
「なぜ貴様ら幕府がその存在を知っている。そしてなぜ探している。──漂流者とは、なんだ」
はぐらかすことは許さない。そんな意思が込められた力強い視線が一葉を射抜くが、視線を受けた当の本人はどこ吹く風、面白そうに言葉を紡ぐ。
「ここではないどこか、今ではないいつかからやって来た者達。代々の室町幕府将軍にはそう伝わっておるな」
「禅問答をしに来た訳ではない。簡潔に、明瞭に答えてもらおうか」
「これ以上なく明瞭なんだがのう…まぁ、アレよ。
曰く、漂流者とは文字通り別の世界から流れ着いた者達。時代、場所を超えて飛ばされた彼らのその思考の差異が、在り方が、大きなうねりとなって時代を押し進めて来たのだと言う。
「一体いつから」
「それは分からん。ただ古くは壬申の乱や平将門の乱、保元・平治や源平合戦にもそれらの姿があったと、時の権力者の中でまことしやかに語られてきた。そんな中余の御先祖が実際に出会し、定義付け、代々話が伝わっておる」
そして、と一葉の指先が豊久の胸元をさした。
「お主が
「ほーーーん…呼ばれ方なんぞどうでん良かがのう…」
心底、心底つまらなそうな声音に一葉が一瞬、たじろいだ。控えていた幽も僅かに目を見開いている。振り回され慣れている織田の面々がいつもの事だと溜息を吐いたのとはまるで対照的である。
「いや…聞きたいとかないのか。なぜこちらに来たとか、なにを為せば良いとか」
「来たもんは
「これはまた真っ直ぐな猪武者……失敬、一本気な豪傑であらせられる…」
「あァ!?」
「あ、聞こえておりましたか」
思わず漏れた幽の声も、最大限配慮されたものだったろう。
「…漂流者という存在については、まぁわかった。そういう事象、連中だと理解した。貴様が探しているのは、その時代を進めるという部分を求めてか?」
「いや、もうちと現実的よ。言ったであろう?漂流者とは差異者、我らの常識では測れぬ思考と論理を有している。その差異こそ、今の幕府…延いては日本の状況を打開するために不可欠と考えた」
「単刀直入に言おう。手を貸せ、織田三郎久遠信長。そして島津中務少輔豊久。この国の未来を守るために」
■
翌々日、久遠一行は京を発った。
寄り道を食った、のんびりとした往路とは異なるかなりの足の速さである。
「見込んだ通りの話になりましたね」
「あぁ」
手を貸せ、との一葉の要望は、まさに久遠が求めた言葉だった。
公方義輝を錦旗として諸勢力を糾合した後、鬼を駆逐するため久遠が掲げる天下布武を為す。その前段階として、三好党から公方を救出するため軍勢を率いて上洛するというのが今後の久遠達の方針である。
「渡りに船と言ったところではありますが…」
「皆様、急ぎましょう!いつザビエルの魔手が周辺諸国に及ぶか分かりません!時は一刻を争います!」
一行の中には、鬼、延いてはザビエル打倒に燃えるエーリカの姿もあった。京の政情や鬼に関する事情を知り、織田家中に説明出来る者として久遠が同行させたのだ。同時に、彼女は今後共闘する織田・足利の橋渡し的存在でもある。
「焦るな金柑!岐阜に戻ったとてすぐに動ける訳ではないのだぞ!……贅沢を言うなら、準備する時がもうちと欲しかったな。種子島や火薬調達の目処は付いたが岐阜への搬入は済んでおらんし、鬼などという本拠も生態も分からぬ敵と戦う為には同盟国との連携強化も必須よ。一葉め、話を持ってくるのがちと早すぎた。いや、この場合はザビエルを責めるべきか」
「同盟?ぬしゃ味方なんぞおったんか」
「我をなんだと思っている!?貴様が暴れ散らかしている間に諸々進めていたのだ!元々近江浅井には妹を嫁がせているし、旧今川家臣の松平は独立の後ろ立てになっている!」
「あぁ、そや駄目じゃの。アテんならん」
「はぁ?また訳の分からん…」
だってその義弟裏切るし。間接的にその狸に岐阜攻め落とされるし。
「そいを言うならぬしゃがあん南蛮人を信じたが不思議ぞ」
「エーリカか?あぁいう手合いはたまにいるのだ。自らの使命、正義を疑わず、妄信的に突き進む。一向一揆などその典型よ。彼奴らは己の信念や信仰には絶対に嘘を吐かん。その点においては信用できる。それに…」
言葉を区切り、久遠がちらりと横目で豊久を見やった。
「異なる御世からの漂流者などに比べれば、よっぽど現実味があるわ」
全くもってその通りである。
返答に窮し、豊久は鼻を鳴らして歩幅を速めた。
■
「………」
京、二条館。
庭に立てた調練用の木柱に相対し、一葉はゆっくりと息を吐き出し、そして愛刀に手をかける。
「……はッ!!」
静かな、だがそれでいて力強い気合と共に音もなく柱が両断された。
「お見事。今朝はまた随分と鍛錬に身が入りまするなぁ」
「ちと考えることがあった故な」
差し出された手拭いを受け取りながら、一葉が思い浮かべたのは先日の一幕。豊久に斬りかかったあの瞬間のことである。
(読まれていた……)
あの時、確かに一葉に害意は無かった。だが同時に、手を抜いてもいなかったのだ。首筋で寸止めするつもりではあったと言え、あの一刀は一葉の持てる力を存分に注いだ完璧な一撃だった。
それをなんなく、事も無げに、まるで慣れたものであるかのように
大笑する傍ら、一葉の背筋を這ったのは久方振りの感覚。剣豪としての血が、どうしようもなく一葉の身体を熱くさせていた。
「ふふ…お姉様、なんだか楽しそう」
そんな様子を縁側から見つめるのは、深窓の令嬢といった様子の嫋やかな少女。一葉の最愛の妹、足利双葉義秋である。
「楽しい…楽しいか。そうか。そうだな。そう感じているのやもしれん」
確かめるように、一葉は再び刀を抜き放って天へと翳す。
「余もまだ、終わっておらん。終わってなどやらん。今は何故か無性にそう思うのだ。ふ、当てられ過ぎたか?」
「良いことではありませぬか。覇気のない将軍など置物にもなりませんし、私も仕え甲斐がのうございまする。元気があって結構結構」
幽もまた、眩しげに空を見やった。その表情は嬉しそうで、どこか誇らしげな様子も見て取れる。
「はは、確かにそうだ!…さて、これからは忙しくなるぞ。織田と共闘し、三好への反撃に出る。そして鬼の魔手からこの日本を救うのだ。武門の棟梁、足利の戦を始めるぞ!」
三好三人衆と松永久秀…本編では都合上のっけから対立してる風に書きましたが、史実だとこの時点では特に対立は見られません。潜在的な政敵とは認識していたかもしれませんが、急速に関係悪化が進むのは将軍暗殺後です。因みに将軍暗殺に久秀は直接関与していないというのが最近の定説。
義輝の政治動向…これまたかなり押し込まれた風に書いてしまいましたが、史実だと複数回長慶を暗殺しようとしたり、自分に相談しないで改元を行った朝廷にブチギレて旧元号使い続けたり割と元気に活動しています。その行動力は殆ど全部裏目に出てるんですが…。
恋姫島津編、HP開設ありがとう!!!!
それはそれとして島津四姉妹全員は出さないつもりか?正気か????????