※最終編以前にコユキとの絆ストーリーを終わらせているifの話になります
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「……コユキ?」
「いいえ、何も言ってないですよユウカ先輩」
キヴォトスを襲った未曾有の大災害からひと月。『アトラハシース』の攻略戦から先生を除くみんなが帰ってきた。様々な波乱も騒動もあったが、私たちの生活はは一つまた一つと前までの日常へと歩みを戻しつつある。
なにやら巨大怪獣と巨大ロボが争ったとかいうシラトリ区の被害が特に酷く、復興作業が難航しているみたいだけれど、ミレニアム周辺は大きな被害もなくほぼ復旧作業は完了。一番大切なものを欠いていること以外はもう普段通りの日常だった。
「……そう。それならいいけど」
あれからというもの、シャーレに手伝いへ行くこともなくなってセミナーで仕事を手伝う機会が増えた。
……まぁ面倒くさい作業なのは変わりないけど、言われた通りにお仕事を手伝っていれば、ユウカ先輩やノア先輩に怒られることもない。あの狭いお仕置き部屋に戻されることもなくなって、いい事ずくめ
――それに、単純作業でも手を動かしていた方が気も紛れる。
「コユキ? その、ね。最近作業手伝ってくれるのは助かるけど、働きすぎてない……? データ自室に持ち込んでそこでも作業やってるとかって聞いてるし……」
作業中の手を止めて正面のデスクを覗く。わかりやすく複雑な表情を浮かべたユウカ先輩がいた。
そんな表情で見ないで欲しい。考えないようにしているのに全部思い出しちゃうから。
「にはは。えー? これぐらい私には朝飯前なんで問題ないんですけどーえーユウカ先輩がそ~~こまで言うんだったら辞めて部屋戻っちゃおうかな~?」
「……そうね。やっぱりコユキはちょっと休んでいたほうがいいわ。ありがとね、部屋戻ってて大丈夫だから」
……明らかに気を使われているのがわかって嫌になる。さっき飲んだエナジードリンクがストレスで胃から逆流してきそうだった。
「えぇ、逆に怖い……一体どういう風の吹き回しなんですかねぇ。あの鬼のユウカ先輩がそんな優しさを見せるなんて明日はあられか槍でも降るんですかね!」
「……そう、それじゃああと10時間ぐらいはデータ処理手伝ってもらおうかしら?」
「にははー! それじゃあお言葉に甘えてお休みもらいまーす!」
ニッコリと微笑むユウカ先輩の笑顔を尻目にぴゅうと教室から逃げ出すと、教室の扉を開けるすんでのところで、ユウカ先輩から『ねぇ』と声をかけられた。
「私が言えた義理じゃないのはわかってる……けど辛いならちゃんと休んだほうがいいわ。先生だって生きてたら――」
なんて顔をしながら言っているのだろう。自分だって相当辛かったはずなのに私の心配だなんて、そんなの先輩のキャラでも私のキャラでもないのに。
私はそんなにひどい顔をしてるんだろうか。
「にはは! 心配なんてそんな似合わない真似はやめたほうがいいですよ、ユウカ先輩」
せっかく笑い飛ばしてあげたのに、ユウカ先輩の顔は暗いままだった。せっかく見て見ぬふりして頑張っているのに、こっちまでつられて気持ちがぐちゃぐちゃになりそうで嫌になる。
「……ごめんなさいコユキ」
「ユウカ先輩こそ気にしないでくださいよ。辛気臭い顔してるの、いつもの鬼みたいな怒り顔より酷く見えますよ。にははは!!」
「なっ……もうっ……!!」
そこまで言うと、ようやくユウカ先輩の顔がよく見るような怒った表情に変わる。そんな表情にすら、今は少し安心してしまう自分に乾いた笑いが出た。
「それにほら? 先生のことですし? なんかよくわかんない超パワーとかで生きてたっておかしくないじゃないですかぁ。あんまり気にし過ぎると、いざ戻ってきた時どんな顔すればいいかわかんなくなりますよぅ~にはは!」
笑い飛ばしながら教室の扉を閉める。吐きそうな気持ちを抑えながら自室と兼用にしているお仕置き部屋へと歩き出す。
「気持ち悪い」
頭で考えていることも、吐き出す言葉も、気持ちの奥底で眠っている感情も。全部がぐちゃぐちゃだった。
誰か私の心の中を覗いて中にあるものを全て説明してくれたらいいのに。先生なら中見て説明してくれたかな。なんて嫌でも考えちゃう。
「には……それは流石にちょっと恥ずかしいな」
独りごちているとお仕置き部屋の前に着いた。あれから忙しいこともあって、この部屋にはあまり来ていなかったから久しぶりだ。
意を決し、無駄に重たくて無駄にデカい金庫みたいなドアを開く。恐る恐る中を除いてみたが、なんてことはない。少しだけ埃っぽくはなっているけど、見慣れたお仕置き部屋の光景だった。
「ふぅ……しばらく来てないからどんだけ散らかってるかとビビってたけど、なんてことはないですね! こんなもんでしたか」
嘘。強がりなのは自分ですら理解しているが、でもこうやってでも自分を奮い立たせないとやっていけない。だってこの部屋には今は見たくない大切な思い出がいっぱいだから。
「にはは……やっぱりあちこち埃っぽいなぁ。まぁまた入らなきゃいけなくなった時のためにも今軽く掃除しておきますかー」
隅に置いてあるロボット掃除機のスイッチを入れて、ゴミ箱にお菓子の空き箱や飲み終わった缶ジュースなどをぽいぽい入れていく。
「そういえば先生にちゃんと分別しなさいって怒られたっけなぁ」
先生がいてくれたら今の私を見てなんて言ってくれただろう。何をしてくれただろう。抱きしめてくれたかな。頭を撫でてくれるかな。
もしかしたらそれ以上のこと……なんて。
「……何してるんだろう。私」
先生は帰ってこなかった。いくらそれについて考えても仕方ないし、考えないようにしてもどうしようもないんだ。
脱力して近くのタンス寄りかかると、上に乗っかっていた本がばさばさと落ちてきた。
「――――先生に買ってもらった本」
ああ……この本も、あの栞も、あっちのゲームも、そこのゴミも、先生との大切な思い出ばっかり。時間にしてみたら長い付き合いでもないはずなのに、あなたは私の心の何%を占めていたのか計算もできない。
ちょっと前まで一人で大抵のことはこなせていたはずなのに、一人でも楽しく過ごせていたはずなのに。どうしてあなたがいないだけでこんなにも動けなくなってしまうんだろう。
どうしていないあなたのことを考えるとこんなに涙が溢れてきちゃうんだろう。
どうして幸せな思い出ばかり頭に流れてくるのにこんな辛くなるんだろう。
教えて。帰ってきてこの感情を全部教えて、先生。
「――――もういないひとに言ってもしょうがないんですけどね」
ぽたと滴り落ちる涙はまだ私の心を癒やしきってくれない。
タイトルは元ネタの楽曲からそのまま取っています。いい曲なので是非。