【書籍化決定】馬乗りされて体力がなくなるまでやられる悪役〜今度は主人公の好感度を上げまくっていたら全員に惚れられた件〜   作:陽波ゆうい

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第87話 小悪魔は焚き付ける

 昼休みの屋上で、俺とりいなは2人で弁当を食べている。

 

 とはいえ、「一緒に」という仲良さげな感じではなく、たまたまタイミングが合っただけって感じの空間だ。

 

 まあ、俺とりいなの関係なんてそんなもんだろ。

 

 特に盛り上がる話題もなく、お互い黙々と箸を動かしているだけのだが……。

 

 俺はメンチカツを口に運びながら、りいなの様子をちらりと見た。

 

「……っ」

 

 ちょっと離れたところに座るりいなは、眉間にシワを寄せたり、小さく息を吐いたり……。

 

 りいなが時折、苦い顔をしているのが気になっていた。

 

 なんだ? 虫歯か?

 それとも何か考え事しているのか?

 

「うぅ……失敗した……」

 

 かと思えば、りいなは小声で何やらブツブツと呟いているし。

 

 コソコソしている感じだし、自分である程度は解決できることなのかもしれない。

 

 とは言え……。

 

「っ、うぅ………」

 

 やはり気になる。

 

 今度のりいなは、ぎゅっと握った拳がぷるぷると震えてるし、ちょっと涙目だし……。

 

 いや、このレベルになると気にならない方がおかしいだろ!

 

 だが、いきなり「どうしたんだ?」と声を掛けたところで、りいなからは「なんでもない」と、はぐらかされて終わりそうだ。

 

 先に何か話題を挟んでからの方がいいな。 

 そっちの方が流れで話してくれるかもしれないし。

 

 話題……先に言うこと……。

 

「あっ」

 

 あったわ。りいなに言うこと。

 それこそ、今は2人だし、言えるチャンスだな。

 

 タイミングを見計らい、俺は口を開いた。

 

「なあ、りいな」

「んぐ……ん、なに……?」

 

 苦い顔をしたまま、りいなが俺を見る。

 

「朝のアレ、ありがとうな」

「……アレ?」

「ああ、アレ。俺が結斗のお見舞いに今日は行かないって言った後の言葉だ」

 

 俺の言葉に、りいなは一瞬ぽかんとした顔をした後……思い出したように「あー」と頷いた。

 

『——先約があるなら仕方ないね』

 

 あの一言だけでも結構、肩の荷が降りた。

 

 別に悪いことをしているわけじゃないけど、妙に気まずくなる場面だったからな。

 

「正直、まじで助かった」

「……そ。でも、べ、別にアンタのためじゃないけどね」

「おう、分かってる」

「……なんか、そう言われるとそれはそれでムカつく」

 

 りいなは頬を膨らませる。

 

 何だその反応。

 りいなのやつ、ちょっと面倒臭くなってないか? 

 いや、思い返せば元からか?

 

 でも、その可愛さでどこか憎めないのがさすが、りいなという感じだな。

 

「俺のためでもなく、偶然たまたまでも……それでも、俺はあの時、助かった。だから、ありがとうな。俺がどうしても言いたかっただけだ」

 

 これ以上はくどいと思うので、ここまでで切り上げる。

 

 再び箸を動かし始めた俺を、りいなはジッと見つめていた。

 

「ふーん……アンタって意外と律儀なとこあるよね」

「律儀ってほどじゃないと思うが?」

「少なくとも、普通な人はそんなことでお礼言ったりしないと思うけど」

「そうか?」

 

 りいなが首を傾げているが、俺はそれより大きく首を傾げた。

 

 いや、普通、自分がありがたいなとか思ったことにはお礼は言うだろ。

 ご飯作ってくれたり、遊んだりしてくれた時だってそうだし。

 

「……まあ、そんなところがアンタの魅力なんだろうね」

「ん? なんか言ったか?」

「べつにー」

 

 ふいっとりいなに顔を逸らされた。

 なんでだ? まあいいや。

 

 キリ良く話も終わったし、次の話題に繋げよう。

 

「んで、さっきから気になっていたんだが、弁当食っている時になんか苦しげじゃないか? 何かあったのか?」

「っ……いや、別に……」

 

 りいながさらに顔を逸らした。

 

 何かはあったみたいだな。

 その理由は話せないみたいだが。

 

 俺も無理して聞き出そうってわけじゃない。

 ただ気になっただけだしな。

 でも……。

 

「まあ、話してくれるなら力になれるかもだな」

「……」

  

 さてと、言いたいことは言えたし、最後に取っておいたおかずたちを食べるとするか———

 

「この卵焼き……信じられないぐらいしょっぱいの」

 

 ぽつり、とそんな呟きが聞こえた。

 

 見れば、りいなが自分の弁当に視線を向けていた。

 

「味付け失敗したってことか?」

 

 俺の言葉にりいなが小さく頷く。

 

「珍しいな……」

 

 りいなは料理上手なはずだ。

 それに俺は前に1度、りいなの手料理を食べたことがある。しかも家で。

 

 調理も慣れた感じだったし、味も美味かった。

 

 そんなりいなが、卵焼きの味付けという初歩的な失敗だなんて……。

 

「もしや、結斗が熱出したことで動揺して、味付け失敗したとか?」

 

 軽い冗談めいた口調で言いながら俺はりいなを横目で見た。

 なーんて、まさかなー。

 

「……」

 

 けれど、りいなから返ってきたのは――沈黙だった。

 それと、ジト目。

 

「まじか。図星なのか」

「……べ、べつにー」

 

 りいなが口を尖らせて言う。

 

 その様子があまりにわかりやすくて……俺は思わず、吹き出した。

 

「はは、そっか。りいなもそんな失敗するんだな。いや、これはさすが結斗と言ったところか?」

 

 美人姉妹の愛があそこまで重くなるのも、結斗の優しい人柄が影響してそうだよな。

 

「ふ、ふんっ。私が失敗しても別にいいじゃん」

 

 俺の反応に、りいなはふてくされたように頬を膨らませる。

 

「悪い悪い。まさか予想が当たるとは思ってなくてな。良かったら俺にも分けてくれよ。逆に味が気になったし」

 

 ほんとは、勿体無いからって頑張って食べ切ろうとしているりいなの負担が減らせたらっていうやつだ。

 

 りいなにも少しは勘づかれているだろう。

 

「ふーん……じゃあ、あげる。でもそのメンチカツ半分と交換」

「ええー……俺このメンチカツ好きなんだが……」

 

 まあ、朝の件もお礼も含めて交換してやるか。

 

 俺はメンチカツ半分を。

 りいなは結斗が熱を出したことにより味付けが失敗した、残り卵焼き2切れと交換。

 

 早速、俺は卵焼きを……思い切って1口で食べる。

 

「っ、からぁっ!!」

 

 思わず、そう口に出してしまったほどの味の濃さ。

 反射的に辛いと言ったが……しょっぱいなこれ……。

 海水をがぶ飲みしたのかってぐらいしょっぺぇ……。

 

「……つか、まひろさんの弁当もりいなが作っているんだろ? 大丈夫なのかよ。まひろさん、今頃むせてないか?」

 

 それこそ、一緒に食べているであろうファンの女の子たちの前で大丈夫なのか?

 

「ああ、お姉ちゃんは卵焼きよりゆで卵が好きで、今日も半熟茹で卵入れているから問題ないと思う」

 

 確かにそれは問題なさそうだ。

 

 りいなには申し訳ないが、俺はお茶をぐいっと飲む。

 

「ふー、からかったぁ。でも次作る時は大丈夫だろ。りいなの料理は美味いからさ」

「……」

 

 さてさて、りいなのおかしい様子の理由もなくなったし、これで何も気にすることなく———

 

「ねえ、雄二。アンタ……好きな人とかいるの?」

 

 突然のりいなの問いかけに、思わず飲んでいたお茶を噴きそうになった。

 

「ごほっ……何だよ、その唐突な質問……」

「いや、別に深い意味はないけどさ……ちょっと気になっただけ」

「にしても、急すぎるだろ。好きな人ねぇ……」

 

 一応、話題振ってもらったし、考えるか。

 

 というか、似たような話題を夏休み中に会った、まひろとしたことを思い出した。

 

『笠島くんにもいつか好きな人ができると思うけど、その時に私の気持ちも分かるさ』

『好きな人ねぇ………』

 

 姉妹揃ってやっぱり話題も似るのか?

 それとも、女の子というのが恋バナが好きなのか……。

 

 つか、強面でどう見ても恋愛とは程遠い俺相手に恋バナしてするとか、やっぱりこの姉妹が変わっているのでは?

 

 でもまあ、この世界に来て長いようで……だが、実際に経ったのはまだ半年。

 

 結構色々あったし……そもそもここは、ゲームの世界。

 しかも俺が転生したのは、馬乗りされて体力がなくなるまでやられる悪役、笠島雄二で、バッドエンドは絶対回避したいから恋愛どころじゃないんだけど……。

 

「好きな人とか恋愛とかは俺はよく分からない。でも……俺のことをどう思ってくれているのか、()()()()()はいるな」

 

 不意にぽつりと、そう口にしていた。

 

 りいなを見れば……驚いたように目をぱちくりさせている。

 

「なんだよ、意外か?」

「まあね。そんな返しをアンタがするとは思ってなかった。まあ、別にいいじゃない」

「お、おう……」

 

 俺も俺で、りいなの返しに驚く。

 

 てっきり、「アンタの気になる人ってまさか……ゆいくんじゃないでしょうね?」と、突っかかってくるのかと思ったのだが。

 

 俺も俺で、りいなのことまだまだ知れていないかもな。

 

 その後も時々喋りつつ、黙りつつのほどほどな空間が続く。

 

 たまに会った時はこうして話すりいなとの関係は、意外と悪くないと思った。

 

◆◆

 

 放課後になると、まひろとりいなが俺の席にやってきた。

 

 美人姉妹が2人揃って俺のところにいるので、教室も少しざわついている。

 

 でも、割と手短に済みそうだ。

 なにせ……話は結斗のことだから。

 

「じゃあ朝言った通り、私が代表して結斗のお見舞いに行かせてもらうよ。代わりと言ってはなんだが、結斗に何か伝えたい言葉とか、渡したい物はあるかい?」

「私は明日絶対にゆいくんのお見舞いに行くからいいもんっ」

 

 まひろが言い終わった途端、りいなが食い付くように言う。

 

 まあ、俺も明日は結斗のお見舞いに行こうと思うけど。

 

「ふふっ、りいなはそうでないとね。笠島くんはどうだい? 何かあるかい?」

「おう、あるある。俺は王道だがスポドリだな。熱がある時は水分なくなるし、喉も乾くだろうからな」

 

 さっき自販機で買ってきたスポドリ。

 多すぎてもあれだし、まひろが途中で買い出しにいくのを見越して1本だけだ。

 

 それと簡単にだが、スポドリの側面には、「早く熱治せよ!」とメッセージを書き込んだ。

 

 それをまひろに渡せば、にっこり微笑む。

 

「うん。ちゃんと結斗に渡すね。それに笠島くんからだから結斗も喜ぶだろうしね。それじゃ私は行くよ。またね、笠島くん。りいなは家でね」

 

 まひろがひらひらと手を振り、颯爽と教室を後にした。

 

 やはり結斗のことになると行動が早いな。

 

「さて、俺も早く帰りますかねぇー」

 

 雲雀との先約(やくそく)があるからな。

 

 それから校門を出て……右へ行こうとした時だった。

 

「あれ、今日は雲雀さんの迎えないんだ」

 

 声を掛けてきたのは、りいなだった。

 今日はりいなとよく話す日だな。

 

「いや、雲雀の迎えはあるぞ。ただ、正門近くに雲雀がいると目立つから、夏休み明けの今日からは場所を変えてみることにした。ほら、雲雀がいると男どもが騒ぎそうだし、ナンパもされるだろうからな」

「ああ、ねぇ……」

 

 りいなが眉を顰める。

 

 りいな本人もその立場だろうから、余計、想像がつくのだろう。

 

「じゃあ私も久しぶりに雲雀さん見たいし、挨拶して行こうかな」

「おお、いいんじゃないか」

 

 りいなと雲雀が会うのって、()()()()()だと思うしな。

 

 通路をまっすぐ進み、しばらく歩いた先の左角で俺は足を止めた。

 

 そこが、雲雀との新たな待ち合わせ場所だからだ。

 

「――お疲れ様です、雄二様」

 

 綺麗な声が耳に届く。

 

 そこには雲雀がいるのは知っていたが……その姿を見た瞬間、俺は思わず目を見開いた。

 

「あれ、雲雀……今日は私服なんだな」

 

 送迎の時……それこそ今朝も雲雀は完璧に整ったメイド服だった。

 

 たまには私服でもと言ったこともあるが、これも「メイドですから」の一点張りだった。

 

 でも今日は私服。

 清楚で上品なのは変わらないが……私服により、雲雀は普段よりも柔らかな雰囲気を纏っているように見える。

 

 そして、黒髪ショートカットの隙間から見える耳には、花柄のイヤリング――それは、俺がプレゼントしたものだ。

 

 こうして普段使いしてくれるなんて嬉しいな!

 

「お久しぶりですね、雲雀さん」

「……はい。お久しぶりです、りいな様」

 

 りいなが俺の時とは違い、柔らかな声色でにこっと微笑む。

 雲雀も礼儀正しくお辞儀した。

 

「ふーん……」

 

 と……りいなは俺と雲雀を交互に見つめる。

 その視線には、何か含むものがあるような気がした。

 

「な、なんだよ?」

「べつにー」

 

 ぷいっと顔を逸らすりいな。

 今日のりいなは「別にー」の回数が多いなっ。

 

「それじゃあ私も用事は終わったし……また明日ね、()()

「おう、また明日なりいなー」

「!」

 

 俺にそう言い、雲雀には軽く会釈したりいなは、来た道を引き返していった。

 

 りいなのやつ、本当に雲雀に挨拶だけしたかったみたいだな。

 もしかして、雲雀と仲良くなりたいとか?

 

「さて、雲雀。俺たちも帰ろうぜ」

「……。はい」

 

 そう答えた雲雀が一瞬、口元をきゅっと結んだのを俺は見逃さなかった。

 

「どうした、雲雀?」

「……いえ、なんでもありません。ただ、本日は送迎ではなく徒歩での帰宅となりますので、お知らせをと思いまして」

「おお、そうなのか。それは珍しいな」

 

 そういえば、車が見当たらなかった。

 

 入学してから今までずっと雲雀が送迎してくれていた。

 毎日は大変だと思い、俺も何度か「徒歩で行く」と言ったが……雲雀はメイドの仕事ですのでの一点張りだった。

 

「たまには歩いて帰りたいと思ってたから、俺は全然いいぞ。そうだ、いいタイミングだし俺も……」

「?」

 

 雲雀が小首を傾げたのを尻目に、俺から鞄に入っていた木箱からそれを取り出した。

 

「じゃじゃーん! 金木犀のネックレス! 雲雀がプレゼントしてくれたな。学校じゃ校則でつけられないけど、放課後なら付けても大丈夫だろうと思って持ってきていたんだ」

 

 そう言って、俺は首元に金木犀のネックレスを付ける。

 

「これでお互いのプレゼントでお揃いだなっ」

「……っ」

 

 俺ははにかみの混じった笑みを雲雀に向けた。

 

 うん、やっぱり雲雀のプレゼントしてくれたこのネックレス良いよな。

 

「んじゃ、行くか――」

 

 立ち話もほどほどにして、俺は大きく1歩を踏み出した。

 

 と、同時に……俺の袖口が軽く引っ張られた。

 そんなことができるのは、雲雀しかしいない。

 

「雲雀?」

 

 驚いて雲雀の顔を覗き込むと、雲雀はゆっくりと瞳を合わせた。

 

「貴方は本当に……ずるい方ですね……」

「え、ずるい?」

 

 すると、雲雀は袖口から手を動かして……俺の小指をつまむように控えめに握った。

 

 再度、視線をあげて雲雀を見る。

 

 驚いている俺が面白いのか、それともそれ以外なのか――

 

「放課後は私だけの時間ですから」

 

 雲雀は、柔らかに微笑んでいた。




大変お待たせいたしましたm(_ _)m
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