【書籍化決定】馬乗りされて体力がなくなるまでやられる悪役〜今度は主人公の好感度を上げまくっていたら全員に惚れられた件〜 作:陽波ゆうい
「んん……?」
眩しさで、目を細めながらも意識が冴える。
いや……もう、朝ってことか! 起きないと!!
「うおっ、遅刻するっ!!」
「しませんよ。まだ少し余裕はあります」
反射的に飛び起きた俺に、隣からそんな落ち着いた声が返ってきたため、緊張が一気に解けた。
「そっか。なら、安心だ……って」
「おはようございます、雄二様」
「お、おはよう……」
自然に会話を交わしていたが……。
いつもの朝とは違い、ベッドの上には。
俺の隣には……雲雀が寝そべっていたのだ。
昨夜は、雲雀と一緒に寝たんだよな。
まだここにいるということは、雲雀も今、起きたばかりなのか?
雲雀にしては珍しく寝坊かなと思ったが……。
「……」
「……」
俺と雲雀は、無言で見つめ合う。
雲雀の目は、ぱっちり冴えており、表情も真顔ながらも寝ぼけた様子はなく……。
髪にも寝癖などはなく、さらさらと整っていた。
つまり……寝坊ではない。
なんなら、1回起きて身だしなみを整えたってぐらいだ。
それなのに、雲雀は今も俺の隣にいる。
色々と疑問はあったものの……俺としては嫌ではないし、理由をわざわざ聞く必要もない気がしたので、それまでにする。
それよりも、別のことを質問してみる。
「雲雀、よく眠れたか?」
「……はい。眠れましたよ」
一瞬、何かを考えるような間があったのは、昨夜の雷のことを思い出したからだろうか?
雲雀は雷が怖いと言っていたしな。
だからこそ、俺が頼られたわけだし。
「眠れたのなら良かった。ということは、俺は少しは役に立ってたってことかな」
「役に立ったどころの話ではなかったですよ」
「そ、そうか?」
「はい」
ちょっと意味が分からないところもあるが……。
まあ、雲雀がこうして睡眠を取れたようで良かった良かった。
「ただ、謝らないといけないこともあります」
「そうなのか?」
昨日のことを申し訳なく思っているのだろうか? とか思いながら、続きを聞くことにする。
「私は今もこうしてここにいます。ですので、まだお弁当作りと朝食の準備に取りかかれていなくて……」
「そっか。なら、今日はお弁当はお休みにして、ゆっくりした朝食の時間を取ろうぜ」
雲雀が申し訳なく続ける前に、俺はすぐさまそう提案する。
「いいのですか? 私はメイドとしての仕事を果たせていないのですが……」
「いいんだ。それに俺は、メイドさんとしてじゃなくて、雲雀だからこそ提案しているわけだしな」
「そうですか」
俺の言葉を受けてか、雲雀がどこか安堵した様子になる。
表情は変わらないが、なんとなくそう感じる。
「おう。だから起きて朝食にしよう。もちろん、俺も一緒に作るからさっ」
にかっ、と笑ってみせる。
「……。貴方のそういう無自覚に優しいところが……」
「雲雀?」
「いえ……。起きましょうか」
「おう」
雲雀が何か呟いたような気もしたが、俺は頷くだけにした。
◆◆
学校に行き、あっという間の昼休み時間。
「さて、と……」
今日も結斗は休みなので、1人でお昼ご飯。
屋上に行く前に……今日の俺にはやることがあり、廊下を早足気味に歩いていた。
「売店に行かないとな」
いつもお弁当を作ってくれる雲雀は、今日はお休み。
しかしながら、腹は減るので食べ物を食わねばということで売店に向かっていた。
思えば、この学校に来てから売店に行くのは初めてである。
そして、売店にたどり着いた。
「おや、笠島くんも売店に行くのかい? 珍しいね」
「うん?」
急に声を掛けられて振り向くと……爽やかな笑みを浮かべたまひろがいた。
忘れがちになりそうだが……俺こと悪役、笠島雄二のバッドエンドルートに登場する、美人姉妹のもう1人の存在だ。
今は、主人公の結斗相手に悪さをしていないことから、学園の王子様ポジションを維持するただの美少女だけど。
いや、普通じゃないか。
変わらず、結斗への愛は凄いのだから。
と、振り返りもここまでとして……。
「まひろさん、か……。そっちこそ、売店に行くなんて珍しい気がするな」
「まあね。今日は売店の中にどうしても食べたいものがあってね。りいなにもお弁当はいらないと伝えてあるんだ」
「食べたいもの……。でも、この賑わいじゃ、ゲットするのは難しそうだな」
俺は視線をずらす。
この光景を見た瞬間、ドン引きしてしまった。
「おばちゃん、カツサンド1つ!」
「ちょっと、男子押さないでよ! 私はフルーツサンド!!」
「こっちは先輩の分まで頼まれてるんだから、どけよ!」
売店前は賑わっており……いや、賑わいというか、もはや戦いである。
そんな大人数の中で、目当てのものを買う以前にそもそも売り子のおばちゃんのところに辿り着けなそうだ。
「笠島くんがいるなら、後について行こうと思ったんだけどね」
「それだったら、俺が一緒に買いに行くぞ」
「おお、優しいんだね。だけど、欲しいものは自分で取ってこそ、価値あるものだと思う主義でね。気持ちだけ受け取っておくとするよ」
「そうか」
サラッと、結斗は渡さないという独占欲みたいなものが見えるような?
そんな会話をしていた時だった。
人混みに押されてか、後ろから下がってきた男子生徒が俺の胸に勢いよくぶつかってきた。
「いってえなぁ! って……ひぃぃ!?」
眉間にシワを寄せて俺の顔を見たと思えば、情けない悲鳴を上げた。
そんな反応をするものだから、周囲の視線が一斉に集まる。
「えっと……気をつけて?」
「す、すいませんでした! ささ、先にどうぞ!!」
優しく言葉を掛けたはずなのに、逆効果だったのか。
慌てて、前を譲られた。
「お、俺もどうぞ!」
「お、おい道を譲れ!」
「アイツ1年で噂の……」
「早く道を開けろっ。この後、どうなっても知らねぇぞ!」
他の男子生徒も感化されたのか、次々と自分の場所を譲ってくる。
とはいえ、なんでそんな現状が起きたのか理解している。
クラスメイトには受け入れつつあるが……他の生徒、先輩達には、まだまだ外見で勘違いされるよなぁ。
「ま、まひろ様だ!」
「えっ、まひろ様いるの!?」
「こんなところで拝めるなんて、ラッキー〜」
「きゃー! まひろ様!」
「どうぞ、お先に〜」
今度は、まひろの存在に気づいた女子たちからざわめきの声と黄色い声。
続々と道を開けて……目の前には、売店のおばちゃんへの道が開かれた。
俺とまひろは、お互いに視線を合わせる。
「お互いに大変だねぇ」
「はは……。まあ、早めにご厚意に甘えようぜ」
「それもそうだ。この場をは早く去るためにもね」
「そういうことだ」
俺たちは目当ての品を購入して、足早に売店を離れて……。
自然と足を運んだのは、屋上で。
「これ、食べてみたかったんだよね」
まひろが微笑む。
手に持っているのは、見た目は普通のメロンパンだ。
「夏休み明けからの新作らしくて、中にはホイップクリームがたっぷり入っている特別なメロンパン。しかも、直前まで冷やしてあるんだ。女の子たちが美味しそうに食べていたから、私もぜひとも食べてみたくてね」
「ほーう、それは美味そうだ」
「笠島くんも随分と買ったね」
「ああ。これぐらいないと逆に腹が減るからな」
俺の手には、メンチカツサンドに焼きそばパン。チョココルネ、あんぱんにコーヒー牛乳があった。
でも、パンを見ているとあれもこれもと、ついつい手に取ってしまうよな。
「お互いに無事、昼飯をゲットできたことだし、有意義な昼休みなりそうだな。まあ、ぼっち飯な俺と違って、まひろさんの場合は、女の子たちに囲まれて食べるんだろうけど」
そんなことを言いつつ、俺は床に腰を落とす。
まひろはさっさとその場を去ると思っていたが……一向に動かない。
チラッと見上げれば、まひろは俺を見つめており……。
「ねえ、笠島くん。せっかくだし……私
「……え?」
まひろからの思いがけない提案に俺は、間の抜けた声が漏れたのだった。