守護悪魔のツバサ   作:こばタリアン

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プロローグ
幸せな時間


 彼は、現代の世界は平和だと思っている。戦争もない。テロも起きない。不況だのなんだのといわれているが普通の高校生にはあまり関係ない。 

 そう、平凡に暮らせばどうってことない。普通に生活すれば何の問題も起きない。そう信じている。

 だが、そんな平和な世界だからこそ、ときとして刺激が必要なのだ。普段と変わらない日々は、ときに苦痛を感じる元となる。だから人は外に出かける。外にでて日光にあたり、何をしようかと考える。これだけでも普段とはまた違った刺激が見つかるだろう。

 彼も今、その刺激を楽しんでいた。いつもとは違う、ちょっとした刺激を。それに一人ではない。彼以外にもこの場にいる者がいる。彼女は楽しそうな顔をしており、彼に何か頼んでいるようだ。

 

「見て見てお兄ちゃん! ここのジェットコースターすっごく大きいよ。あれ乗ってみたい!」

 

「……………………まじで?」

 

 

 だが彼、 本城 直人(ほんじょう なおと)は、彼女とは対照的に不安そうに顔色を青くした。

 彼の外見はごく普通で黒髪、顔立ちも良いか悪いかでいうとかっこいい部類に入るだろうがとくに目立ったところがない。

 この日はゴールデンウィークということもあり、妹の乃音(ののん)と先月オープンした「トレマーズランド」という遊園地にきていた。しかし、他の家族とは違い両親や友達と一緒にきたのではなく、妹と二人きりできている。

 トレマーズランドには様々なアトラクションがあり、それなりに広いためすべて回るには結構な時間を要するだろう。歩いて見て回るだけでも楽しめるだろうが、乃音はそれだけでは満足しないようだ。

 

「お兄ちゃんあのジェットコースターに乗ろ? 乃音、お兄ちゃんと乗りたい!」

 そう言って、直人と一緒にジェットコースターを乗りたがる乃音。しかし直人はそれを断ろうとする。

「いや……でもさ乃音……知ってるだろ? 俺があんまジェットコースターが好きじゃないの……」

 だが乃音は、

「たまにはいいじゃない。お兄ちゃんと遊園地にいける機会なんてあまりないし。何事にもチャレンジだよ!」

 と言って直人の話を聞こうとしない。直人は困っていた。 

 

 実のところ、直人はジェットコースターに乗るのが嫌いなわけではない。ただジェットコースターに乗るのはあまり気分が良いものではないと思っている。高速で動きまわる乗り物にはなるべく乗りたくないのだ。

 そして、このジェットコースターに乗りたくない理由は他にもある。 

この遊園地の名は「トレマーズランド」。「トレマーズ」というのは「震動」という意味である。なぜここの遊園地の関係者はそのような名前に命名したのかがわからない。

 その名前になんとなく不安がよぎったため、あまりこのアトラクションには乗りたくないと感じていた。そう思いながらもなぜこの遊園地にきたのか。それは乃音がここに行きたいと言ったからだ。

 

 乗りたくないアトラクションに無理して乗る必要はない。だから直人は乗るのを断ろうとする。

「ここで待ってるからさ、一人で乗ってこいよ」

 そう言って直人は乃音の反応をうかがう。しかし乃音はまったくゆずらない。

「ダメ! 今日はお兄ちゃんと思い出つくるって決めたの。 乃音一人じゃなにも楽しくないよ!」

 乃音は直人の手をとり、無理やりにでも直人とジェットコースターに乗ろうとする。これには直人も焦った。

「いやちょっと待て! だから俺はジェットコースターなんて乗りたくないんだって! 少しは俺の話も聞け!」

 いきなり妹が手を繋いできたものだから、そのことに照れた直人は彼女の手を離そうとする。

 

 それを見た乃音は、慌てて彼のうでにしがみついた。そして彼女は直人の顔を見て言った。

「お願い! 今日だけだから! 今日だけでも一緒に乗ろう! 一生のお願い!」

 そう頼み込む乃音。直人はどうしようか悩んだ。

(一生のお願いって……これで何度目なんだか……)

 そう考えて呆れる直人だった。

 

 すると、乃音は少しうつむきしょんぼりとする。直人は妹の顔をのぞき込もうとすると、彼女は泣き顔になっていたみたいだった。

「そっか……お兄ちゃん……私と一緒に乗りたくないんだ……」

 寂しそうにそう呟く乃音の目尻には涙が溜まっていた。

「いや! それは違うぞ! 俺もできれば乃音と乗りたいけどよ……!」

 乃音が泣いていると思い、直人は慌ててそう答えた。これ以上妹の泣く姿を見たくなかったので、ついには、

 

「……わかったよ。一緒に乗ってやるから、もう泣くな」

 と言ってしまった。

 

「……ほんとに?」

 乃音は顔を少し上げ、上目遣いで直人に聞いた。うるうるとした瞳、赤く染まった頬、その普段ではまず見れない表情にどこか惹かれるものがあった。

「あっ、ああ。ほんとだ。約束だってするぞ。」

 そんな風に頼まれたら直人には断る術などなかった。彼はつい乃音とジェットコースターに一緒に乗ることを承諾してしまう。

 

「…………ふふっ」

「?」

 

 そのときだ。乃音の様子が少しおかしかったので直人は彼女の顔を見ようとした。すると、乃音はバッと顔を上げた。その表情は満面の笑みであった。

 

「やったーー! 今の約束、絶対だからね!」

 

 乃音はそう言うと、直人の手をとって共にジェットコースターへ向かっていった。

「え? ちょ、ちょっと待て乃音!」

 半ば強引に直人はジェットコースターへ連れて行かれる。どうやら彼女に一杯食わされたのだと直人は気づいた。いつの間にこんなテクニックを覚えたのかと乃音に問いただしたい気分だった。

 だが、兄の手をとりはしゃいでいる妹を見ていると、どこか癒やされるような気がしてしまい、許してもよいだろうという気持ちになった。

 

(やっぱ俺……乃音に甘いのかな……)

 

 そう思うと直人は 口元をほころばせ、そんな可愛い妹と共にジェットコースターへと向かっていった。

 

 

 ジェットコースターに乗った直人は、やはり気分が悪くなったようで、現在ベンチに座って休憩している。

「ああ……これだからジェットコースターは嫌いだ……」

 直人は気分を落ち着かせるために先ほど買ったお茶を飲む。

 そんな直人を見ていた乃音は、申し訳なさそうにしていた。

「ごめんねお兄ちゃん……乃音がわがままいっちゃったから……」

 乃音は直人にそう言って謝る。 

 

 しかし、直人は乃音のそんな表情は見たくなかった。乃音は笑っているときの顔が一番可愛いと直人は思っている。乃音に笑ってほしい。だから今日二人でこの遊園地にきたのだ。

 だから直人はこう言う。

 

「乃音はなにも悪くない。俺も乃音と乗れてうれしかったし。だからそんな顔するな。もっと楽しもう、乃音」

 

 直人はそう言って乃音の頭をなでる。直人に頭をなでてもらって安心したのか、乃音の悲しげな顔は消えていた。それどころか彼女の頬は赤く染まっていた。

 そして乃音は笑ってこう言う。

 

「……うん! ありがとうお兄ちゃん!」

 

 乃音の笑顔を見た直人は一安心した。するといつの間にか気分はよくなっていたので、直人は乃音と一緒に遊園地をまわった。その間乃音は笑顔を絶やすことはなく、直人も楽しいひとときを過ごしていた。

 

 

 時間が過ぎるのも早く、いつの間にか夜になっていた。今日はこの遊園地にて、少し早い花火大会があるらしい。実はこの遊園地にきた最大の目的は、乃音と一緒にこの花火大会を見ることだった。 

 直人と乃音は花火がよく見れそうな、かつせっかくだから周りに人がいない場所を探していた。そこはすぐ見つかった。この遊園地にはちょっとした高台があるのだか、ここは電灯が少なく夜になると薄暗いためあまり人がこないようだ。

「なんだか暗くて少し怖いね……」

 暗いところが嫌いな乃音はそういって不安がる。高校生にもなって暗闇が怖いだなんて、やはり乃音は子どもっぽいと思う直人。

「大丈夫だよ。花火が上がれば少しは明るくなるだろうし、それに俺がいるだろ?」

 彼がそう言った次の瞬間、タイミングよく花火が上がり辺り一帯が明るくなった。それは何発も上がり、なんのへんてつもなかった夜空を賑やかにしていった。

「おっ、ちょうど上がったな。ほら乃音、これなら怖くないだろ?」

 そう言って直人は乃音に話しかける。彼女は直人の言葉を聞いて安心したのか、不安な様子は微塵もなく、むしろ頼もしい兄が隣にいることがうれしく思い、乃音の表情はやわらいでいた。

 

「うん! お兄ちゃんが一緒にいてくれたら、乃音何も恐くないよ」

 

 そう言ってくれる乃音。さすがに直人は少し照れくさく思い、打ち上げ続ける花火に目を移した。花火を見ていると、いつしかさきほどの乃音の表情を思い出し、つい今の気持ちを言ってしまう。

「…………本当に、きれいだな」

 そう呟いたあとは、花火が終わるまで乃音と一緒に過ごした。

 

 

 直人と乃音は、こうして幸せなひとときを過ごしていた。直人たちだけではない、この遊園地にきた人々はみな楽しい時間を過ごしている。

 

 

 しかし、そんな楽しい空間で、まったく楽しんでいない者達がいた。

 

 

 彼らは何かを企んでいる表情をしており、どことなく怪しい雰囲気を醸し出していた。 

 

 

 これからよからぬことを起こしそうな、そんな雰囲気を。

 

 

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