守護悪魔のツバサ   作:こばタリアン

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そして運命は加速し始める

 花火が打ち上げ始めて三十分が経とうとしていた。この遊園地では一つ一つが大きい花火を連発で打ち上げられることで有名だ。夜空に広がるその華は美しく、それを見るために遠く離れた地方から来る人も少なくはない。

 直人と乃音もこれを見るために来たと言っても過言ではない。二人は現在人気のない高台で誰にも邪魔されず見ていた。

「わぁ……綺麗だね、お兄ちゃん!」

 乃音は夜空に咲き乱れる花火を見て胸を震わせていた。直人もまた同じ気持ちであった。多種多様の色と形で織成するそれは、まるで夜空に広がる花畑のように見えた。

「ああ、これはすごいな。もう五分も続いてるもんな」

 そう、今上がっている乱れ打ち花火は始まってからすでに五分以上経過していた。おそらくフィナーレが近づいているのだろう。この美しい夜景もあと少しで終わると思うと、直人は幾分か寂しい気持ちになった。

「でもな乃音」

「うん?」

 ここで直人は、せっかくだからとこの状況でよく使われるような台詞を言い放った。

 

「この花火よりも、乃音の方が綺麗だよ。」

 

 直人が発言したその台詞は、よく映画やドラマで使われる、俗に言う“クサい台詞”だった。現実にそのようなあからさまな台詞を発する男は少ないだろう。

「…………」

 乃音も直人のその発言は予想できなかったのか驚きできょとんとしていた。

(……あれ?)

 妹が何も言ってこないことに直人は首を傾げる。自分は何か余計なことでも言ったのかと不安になり戸惑いを感じた。

 

「…………ぷっ!」

「え?」

次の瞬間、乃音の口元が緩んだ。

「あはははははは!! お、お兄ちゃん……何その、台詞……! 今どきそんなこと言う人……いないよ……あはははははははは!! お、おかしいよ……!」

 大声で笑う乃音を見て直人は激しく恥ずかしくなった。

(そ、そうだったのか! この前見た映画でそんなこと言っていたから普通に使われているもんだと……!)

 あまりの恥ずかしさに直人の顔は赤面し、うつむいてしまった。

「はぁ……はぁ……。…………でも」

「……ん?」

 笑い声が止んだ乃音は直人の方に顔を向けた。

 そのときの彼女の表情は、とても優しそうな満面の笑だった。

 

「おりがとう、お兄ちゃん。 乃音すっごく嬉しいよ!」

 

 乃音のその返事を聞いた直人は、自分は誰よりも幸せ者だと実感することができた気がした。そう思うと彼はまた別の意味で顔を赤くしたが、とてつもなく嬉しくなり柔和な笑をうかべた。

「そ、それはよかった……! こっちもありがとな、乃音」

 直人は何を言ったらいいのか分からず、こちらもついお礼の言葉を述べた。それを聞いた乃音はまたもおかしく思い、くすっと笑った。

「ふふ、どういたしまして」

 

 二人がそのような幸せなひと時を過ごしている間に、花火は終幕を迎えようとしていた。

 

 

 

 直人と乃音が楽しそうに話している間に花火大会も大詰めを迎えていた。残り時間はわずか数分あまりだった。

「もう少しで花火終わっちゃうね……」

 乃音は少し残念そうにそう呟いた。今の楽しかったひと時が終わろうとしていたからだ。そう思うと彼女は小さくため息をついた。

 そんな乃音の悲しげな横顔を見た直人は、彼女の手を取った。

 

「また来年こよう。そのときも今日と変わらず、二人でさ」

「え?」

 そう言われた乃音は、少し反応が遅れたが嬉しく思い、そのあまり顔が赤くなってしまい、それを隠すようにうつ向いた。そんな彼女の口元は微笑んでいた。

「……うん、ありがと」

 それを見た直人は安心し、再び花火の方に顔を向けた。

「よし! 花火もあと少し終わっちゃうことだし、最後まで楽しもうぜ!」

「うん!」

 

 乱れ撃ち花火もラストを迎え、最後にこれまで以上の質量の花火が上げられた。いろんな玉が合わさった混合色玉やシュルシュルとユーモアに飛び回る群峰花火。キラキラ、ピカピカと点滅する星が一斉に降り注ぐ点滅物花火。どの華も幻想的で最高にファンタスティックな花火であった。

 そんな美しい花畑も見納めが近づいてきた。最後の一発が上がり終わったとき、周りに静寂が流れた。

(今日はたのしかったな……また乃音と見に行きたいな……)

 早くも思い出に浸る直人だが、次の瞬間とてつもなく大きな音が鳴り響き現実に戻ることになった。

 どうやら最後の一発に特大の花火があったみたいだ。これを見て今日は晴々した気分で帰ろう。そう思い直人は上空を見上げた。

 

 そしてその花火は夜空一面大きく広がった。それはこのトレマーズ遊園地を覆い被す勢いで包み込んでいった。

 直人はその華を見て驚くこととなった。

 

 だが、直人は予想よりも遙かに驚いていた。

 

 なぜなら、その花火は激しい光を発し、この遊園地どころかまるで世界全てを覆い尽くすかのように輝いているように見えたからだ。

 その光は激しさのあまり辺り一面を白で上塗りされ、目も開けていられなかった。

 

(なっなんだ! この光は!?)

 驚愕していた直人だが、気づくと音が止んでいた。

 おそるおそる目を開けると、先程と変わらぬ景色が広がっており、遠くに見える広場からは観客たちの拍手喝采が聞こえてきた。

(何だったんだ……今のは……)

 直人はふと乃音の方に顔を向けた。彼女は今の花火を見て感動したのか、子供のように両手を叩いていた。

「すごいすごい! 今のすごかったね、お兄ちゃん!」

 そう言って彼女は直人の方を向いてそう尋ねた。

「あっ、ああ、そうだな……」

 直人とっさにそう答えた。彼は乃音は先程の光が見えていなかったのかと疑問に思った。あんな激しい光が目に映れば誰もが驚いて困惑するに決まっているからだ。そう思い少しの間直人は考え込んだ。

「どうしたの? お兄ちゃん?」

 うつむいて何か考え事をしている直人を見て心配になったのか乃音が彼の顔を覗き込んできた。

「あっいや、何でもないよ、乃音」

 そう言って直人は彼女の頭を撫でて安心させようとする。

「ふにゅう……」

 とたんに気持ちよさそうな顔をする妹を見て、深く考えることを止めた。

(きっと気のせいだよな……)

 そう自分で納得し先程のあの不可思議な光景は胸の中にしまうことにした。

「それだったらいいんだけど……」

 そう言うと乃音は何気なく腕につけていた腕時計を見た。時計の針を見るすでに夜の九時を過ぎていた。

「ねぇ、もう花火も終わったことだしそろそろ帰ろうよ」

「おっともうそんな時間か」

 このトレマーズランドから自宅までは約一時間ほどかかる。まだ明日はゴールデンウィーク中のため学校は休みだが夜遅くまで出歩くのはあまりよくない。

「よし、じゃあ帰るか」

「うん!」

 そう言うと乃音は直人の腕にしがみついてきた。いきなりのことに驚く直人だが、最後まで妹のわがままは聞いてやろうと思いそのまま帰ることにした。しかし妹が自分に触れていることは少しばかり嬉しい気分になった。

「また来年も来ようね、お兄ちゃん」

 その乃音の言葉に直人は

「ああ。来年が楽しみだな」

 そう言って二人は仲良く帰路につくのであった。

 

 

 

 今日という日を直人は一生忘れることのない思い出になったであろう。

 

 

 しかしこのとき彼は知る由もなかった。

 

 

 この日あの遊園地を訪れたことにより彼の運命の歯車が大きく変わってしまったことに。

 

 

 これから待ち受ける数々の試練や悲しみが彼をどのように変えていくのか、このときは誰も知ることはなかった。

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