身内卓内で行いました、メンバーのらぷさん作『RAINMAKER ver1.1』の自PC視点後日談です。これから見る内容でお分かりいただけるでしょうが、ねじれにねじれた上で何とかハッピーエンドの結果が得られたものの、PCの心には大きな傷を残したようです。
最後まで鬱屈な内容になりますのでご注意ください。また、一応らぷさん作『RAINMAKER ver1.1』のネタバレである事にもご注意ください。

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稲葉理沙:この物語の主人公。『RAINMAKER ver1.1』のPC1。
北村凛:理沙の幼馴染。自分の命を掛けても惜しくない親友。
山本祐介:刑事。事件の解決のために協力した。


雨乞いの果て、濁流の跡

ある夜、私の大切な幼馴染の凛が、黄色い触手の化け物になって現れた。

それから私は頑張って、協力者も見つかって、途中で邪魔も入ったけど凛を元に戻す方法も見つけて。

最後には黒幕のアジトに乗り込んで、召喚された化け物も追い返した。

凛も元に戻って全ては元通り。めでたしめでたし。

 

なんて。それ以外は全部悪い夢だって、誰か言ってよ......

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

11月26日

深夜に起きて、警察が現場を把握しきる前に、玉虫色の肉塊をできる限り回収した。いつか大物を狩るだろうと準備していたケースと荷台が思わぬ活躍をした。大勢の警官が居なくなって、警察署も崩壊してたから、事を終えるまでに邪魔をされることも無かった。回収出来なかった残りは森の木と用意した薪を使って灰になるまで焼き尽くした。いくらか山火事に延焼したけど、そんなことはどうでもいい。友人の遺体を研究材料だのオカルトの見世物にさせるつもりはない。

 

...いや、違う。友達なんかじゃなかっただろう。私は、ずっとあの子に頼ってばかりいた。何かを問い続け、求め続けるだけで、あの子の何が分かっているんだ。その挙句に、最後は...私達の盾にして殺したんだ。

 

...だから『友達になりたかった恩人』が正しいんだろう。

 

夜には凛の誕生日を祝いに行った。署長が凛がぼかして伝えたのだろうか、凛のお母さんにはすごく感謝された。午前中に死体を運んだりして血の臭いが染み付いていないか戦々恐々としてたけど、どうやらバレなかったみたい。よかった。

 

 

11月28日

ウイルスが流行っているわけでも無いのに学校全体で何人も休みが出た。私のクラスにも数人。何があったのか、朝の会が始まるまでにはとっくに皆察していた。先生は言葉を濁していたけど、そりゃそうだろう、言えるわけがない。みんな警察官を親に持つ子たちだったからだ。まあ幸運なことに、うちの親は無事だったんだけど。

学校では不審者が出て物騒だからと不要な外出を控えるように言われたけど、聞いてやる義理は無いから今日も狩りに行った。綺麗な花を見つけたので神社に供えることにした。

 

あそこに散らばっていた死体はみんな見知った顔だったけど、五体満足に残っているものは一つだって無かった事を覚えている。

 

 

12月3日

最近の町は少し辛気臭い。毎日のように葬式が行われているからだろう。はたしてどんな様子なのか気にならないでもない。...手足のない躯を、頭のない躯を、原形をとどめていない躯を、どんな風に葬送するのだろうか。

そう言う私は、学校が終わったら狩りに出かけて、そのついでに山で拾ったもの、花でも木の実でも茸でもなんでも、それを神社の前に供えて帰る生活を繰り返している。狩りをしている間は何も考えずに済むし、供え物をしているとあの子のために何かをしていると思い込める。私らしい毎日なのかもしれない。

 

12月7日

最近凛は父親の話をよくする。仲直りがうまくいったようで、もう仲のいい親子に戻ったみたいだった。

私は何て返したらいいか分からない。憎い。あいつが無駄な好奇心なんて持って無ければみんな死ななかったんだ。憎い憎い憎い憎い(文字が崩れて見えない)

 

わかってる   わたしもわるいのに なにさまのつもりなんだって

でもわたしだって必死だったのに、あれ以上どうすればよかったの?ただ凛をほっておくなんてできなかった

 

 

。。。

吐き出すのはここだけで十分、凛に気づかれないようにしないと。

 

12月10日

最近、狩りに今までとは違う喜びを感じてしまっている。血の臭いが心地よい、鼻がバカになったわけじゃなくて、ふとそう思ってしまう。逆に学校や家では落ち着かない、私は場違いなのだと感じる。なにも知らない人達、誰かを傷つけたことも無い人達、その中に私は馴染まない。だって、たくさん自分と同じ身の丈の生き物を殺した。私のせいでみんな死んで、死んで死んで。...最後には人まで撃った。凛が言うには署長が息を吹き返したのは単に運が、運が良かったかららしい。結局

 

わたしはひとをころしたんだよね

 

 

興奮が忘れられない。酒や薬に酔うっていうのはこんな気持ちなんだろうか。

 

12月13日

神社にいつも通り忍び込んでいたら、山本さんに呼び止められた。最近狩りをしては深夜に帰っているのが、不審者に見られてしまっていたらしい。もう少し早く帰ることを約束してその場は見逃してもらえた。山本さんは優しい。私よりよっぽど大変なはずなのに、私の心配をして、悩みがあるなら言ってほしいなんて言ってくれた。

でもそれは嫌だ。この悲しさも、罪悪感も、全部私のものだ、私のものじゃなきゃだめだ。分け合ってしまえば軽くなってしまう、楽になってしまう...。...少なくともこの気持ちだけは、私は、一人で苦しまなきゃいけないんだ...。

 

12月18日

長く休んでいた子達もほとんどが学校に来るようになった。やつれてはいたけど、から元気かどうかはともかく元気そうだった。

 

私のせいで日常をめちゃくちゃにされた人達が元気になろうとしてるのに、なんでそれを失ってもいないはずの私は、何も立ち直れないでいるの?

 

12月22日

もうすぐクリスマスだから、大物を仕留めて凛にもプレゼント出来ればいいな。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

.........?

 

.........!?

 

 

 

やめてよ

 

 

みたくないよ

 

 

いやだ

 

 

わらわないで

 

 

そんなかおで

 

 

そこで

 

 

なんでいるの

 

 

いやだ、いやだいやだ

 

 

しりたくない

 

 

みたくない

 

 

みとめたくない

 

 

 

 

 

 

 

わたしじゃなければよかったなんて...!

 

 

 

 

「やめて!!!!」

 

 

 

 

 

「...ハァ...ハァ――」

 

まだ、外は暗い

 

悪夢を見た。私専用に(あつら)えられた悪夢を。ハッピーエンドを、私じゃない、私を私じゃない人がやって掴む光景を。警察署の中庭に笑顔でいるあの子を。

 

こんなの幻覚だ、ただの夢だ。私だって精一杯頑張ったんだ。

 

 

...言い訳だ、ああなったのは私のせいだ。私が何も考えずに、焦りに任せて周りを巻き込んだせいだ...

私じゃなければもっと沢山の人に助けを求めたかもしれない。私じゃなければもっと慎重に行動したのかもしれない。私じゃなければもっとあの子を蔑ろにしなかったかもしれない。私じゃなければ、私じゃなければ、私じゃなければ、私じゃなければ、私じゃなければ

 

 

(...今日はクリスマスイブだよね。ちょうど休みだし、山に獲物を探しに行こう。私と凛で分け合ってそれでも余るくらい大きなのを。それなら...それなら夜まで山に籠ることになるだろうから...)

 

 

 

 

 

 

「...うーん、今日に限って...」

 

夕暮れの終わり頃、電灯に照らされながらトボトボと歩く。結局大物は見つからなかった。それでも小さな獲物はいたので、それを凛におすそ分けしようと家を目指している最中だ。

 

町はイルミネーションが輝いていて、ただただ眩しい。浮かれた表情でかけていく子供の姿に、やけに心がざわつく。

 

家に帰ったら私の家族もクリスマスを祝う事になるだろう。でも私は明日があの日からちょうど1ヶ月であることが気になって、そんな気持ちにはなれないでいる。

 

私の周りは何もかも、ほとんど元通りになったはずだ。いくら落ち込んでいたって、もうそろそろ気を持ち直したっていいはずだ。日記に書いた事だって自暴自棄に吐き出したのであって、本当にそう思うような激しい感情はもうないはずだ。

 

なのに、何かが引っ掛かる。私は皆と一緒になれない、戻れていない。

 

そんな事をクヨクヨ考えていると

 

かすかに悲鳴が聞こえて来た

 

急いでその方向に向かってみると、女の人がこちらに逃げて来ているのが見える。その先には明らかに興奮した様子の猪がそれを追っているのも見えた。

 

(だめだ、このままではあの人が殺されちゃう)

 

そう思うと、体が勝手に動く。

 

走りながら銃を準備。銃の腕だけはこの一ヶ月で遥かに上達した。これくらいは造作もない。

女性が転ぶ。そこに猪が突っ込んで来る。チャンスだ。

 

女性を飛び越える様にしながら、猪に正面向いて発砲する。よほど頭に血がのぼっていたのだろう。猪は避けられない距離になるまでこちらに気がついていなかった。つまりどうなったかと言うと

 

猪の頭が砕け散り、あたり一面に血と肉を撒き散らした。

 

と、ここまでは見事なものだったけど、こちらも頭に血がのぼって後を考えていなかった。

頭が砕けても、その体は止まらない。

 

「へぶっ!」

 

ぐしゃり。嫌な音を立てて猪の首が私に突き刺さる。地面に叩きつけられ、押しつぶされながら地面を引き摺られる...

 

...体中が痛い。いくつも切り傷と擦れた傷が出来ているようで、ジクジクと痛い。ただ幸運なことに、骨を折ったりはしていないみたい。...本当に運がいい。しかし全身が血まみれだ。口や目には入らなかったけど、不潔極まりない。正直早く帰って体を洗わないと。

 

猪の下から這い出て、女の人の方を確認すると。きちんと無事だ、私が前にいたからか返り血もほとんど無い。ただ、座ったまま動かない。腰を抜かしたのだろうか、まだ立ち上がってない。

 

こちらが近づいても反応がない

 

「...あのー」その場から声をかけても反応が無い。

 

(仕方ないや。汚いけど体をゆすってみよう。意識があるかは確認しておかなきゃだし)

 

そう思って近づいてみると、わずかに体が揺れた。

(良かった。気は失ってない)

それにしても、こんな化け物みたいな猪に襲われるなんて何があったかは知らないにしろこの人も災難だ。

安心してそんな事を考えつつ、声を掛けに近づく。

 

(「もう猪は死んだから安心してくださいね。」そんな感じかな――)

 

 

 

 

「...ヒッッ!!」

 

 

 

 

(え)

(...なんで?もう猪は死んでるはず)

(もう怖がるようなものなんて何もないはずなのに)

 

 

女の人の目はまっすぐこっち(わたし)を見ていた

その前でもない。後ろでもない。ただまっすぐこっち(わたし)

 

(怖がられてるのは、私?)

 

次に浮かんだ「どうして」は、すぐわかった。女の人の目にそのまま映っていた。

 

 

まずそれは全身が血と肉で真っ赤になっていた。私には分からなかったけど、近づけばきっと生臭いことだろう。次にそれはボトボトと血のしずくを垂らしていた。その傷口から流れたのか、それとも獲物の返り血だったのかはもはや分からなかった。

 

そして、それは笑みを浮かべていた。まるで自分の状態が純粋に嬉しいみたいに。歯を剥きだした笑顔で。

 

(違う。私はただあの人を安心させたかっただけ。そんな、まるで殺すのに純粋に興奮してるみたいな)

 

クラクラと思考が回る。嫌でも自分を追い詰める言葉が浮かんでくる。それを拒みたくて、そうできる何かを探して、逆に決定的なものに縫い留められる。

 

 

 

最後にそれは赤黒い目をして、こちらをまっすぐ見つめていた。血のようで、おぞましい色の目で。

 

(気持ち悪い、やめろ、そんな目で見るな! 見るな!!!!)

 

私は目の前の不愉快なそれを、そいつを撃ち殺そうと――

 

「――あの!すみません...助けてもらったのに失礼な態度を...」

 

と、声を聞いて何とか動き出さずに済んだ。女の人の目に映っていた赤い影は、今や真っ青な私の顔にすり替わっていた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

いつの間にか、次の日の自分の部屋の鏡の前にいた。鏡に映るものを見ながらあの後の事をぼんやりと思い出していく。

あの後、警察のお世話になって女の人を引き取って貰った。それと結局研究に使う、と言われて猪は持って行かれてしまった。それは私の獲物だって言いかけたけど、町の今後のために参考にするから、と言われてはどうしようもない。後は凛の家を汚さないように凛に出てきて貰って、狩った獲物を渡してから帰宅したはずだ。

 

正直凛の家に入らなくて済んだのだけは不幸中の幸いだった。あの状態で凛の父親に遭遇したら、どんなボロを出すか自信が無かった。凛には心配されたけど、怪我もほとんどしなかったから大丈夫だって説明したら納得してもらえた。そう、大丈夫、ちゃんと誤魔化せたはず。

 

 

状況を理解したところで目の前に映る女の顔を真剣に見つめる。酷い顔。常に人を睨み付けるみたいに鋭く尖った目。目じりに集まった深い深い皺。頑なに食いしばった口。それに...目の底に血が溜まってる。赤黒い、赤い血が見える。有り得ないのに、そう見える。醜い、『私』とは似ても似つかない顔。顔を洗って、目をほぐして、温めて、散々苦労した後に鏡を見返せば、そこにはちゃんと『私』がいる。ただ、これだけやっても目の底にこびりついた血が落ちない。落ちない、落ちない。濁ったままだ。

 

 

 

分かっていた。

殺した獲物の目に映る自分の姿にそれを感じる事が何度もあった。気を抜けば水たまりにその片鱗が映った。それでも、あの時の事を狩りと強く結び付けているだけだ、むしろ割り切れていいことなんじゃないか、なんて、昨日まではそう思えていた。

 

野獣も人も怪物であろうと、感情が、衝動が、理屈が、理由があれば殺そうと思えてしまう。後で後悔するとかそういうのはどうでもいい。体がその行為を出来てしまう。心がそれを認めてしまう。人間ならそうしている間にも何か躊躇いや憐憫を感じるかもしれない。人間なら、人間を撃つのを良心が咎めるだろう。私は、何も感じなかった。そうして殺す事で起こる結果と、その後の事にしか興味がなかった。

それに、私のせいでみんな死んで、死んで、死んだ。あの死山血河を人間に作れるものか。

 

もう人間じゃない。

 

それで、獣みたいな純粋さも、怪物みたいな屈強さも持ち合わせていない。

だから、私は人間の形をしたナニカだ。だから人間に戻って全て元通りになった凛とは違って、『私』の日常は戻ってこない。私が戻れない。

 

 

それが、結論だった。

 

 

鏡には、『私』が映っている。ただ、目だけは濁っている。これから日々濁りを増していくだろう。それが私だ。

 

思えばあの子の中身は玉虫色の肉塊だった。それと同じように、私の中身にもこれまでとは違う私が詰まっている。

いつか目の濁りは濃くなっていって、溢れるだろう。それがいつになるのか、なるべく遅いことを祈っている。

 

ぼんやりと思う。

 

私はいつまで

 

こんな『私』の皮を被っていられるんだろうか。




あの子:事件解決の協力者の一人。正体はショゴスで少女に擬態していた。友好的で完全な味方ポジだった。途中、理沙の100ファンが原因で大量の敵対勢力との戦闘が起こり、そこで死んだ。

ここまで長文を読んで頂き本当にありがとうございます。
軽く種明かしをしますと、一番致命的な局面でPC・GM合わせて100ファン×2を決めて、本来死ぬはずの無かった『あの子』が死んで危うくシナリオブレイク手前だったのを何とかまき返したんです。その過程で本来よりも莫大な数の死人が出て、またPCも直接手を下す回数が増えたわけです。さすがに心が...と思ったのでこうして思い詰めさせる事にしました。
ちなみに夢の部分は別のメンバーが以前にやった『RAINMAKER ver1.0』が割とトンチキさえ感じさせる明るいハッピーエンドだったのを元にしてます。
実は私これが初クトゥルフでありまして。その結果が衝撃的なこれだったせいで過去一にキャラへの感情移入度(というかショック度)が上がったわけです。それがこれを書いた理由の大部分です。

最後に『RAINMAKER ver1.1』を作って、また小説の投稿を許可してくれたらぷさん、一緒にプレイしてくれたゐをんさん。『RAINMAKER ver1.0』の参加者の皆さん。ありがとうございました。

気まぐれにこれを完読したクトゥルフ神話TRPG未経験の皆さん。クトゥルフ神話TRPGは本当に楽しいですよ。本当です。こんなものが出力されるほど楽しいんです。どうかいつかやってみてくださいね。

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