Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン 作:sepa0
あと、アカネさんって思ったより2人称がフランクなんですね。
今回も楽しんでいただけると幸いです。
ミレニアムタワー
屋上
「まさか、ゲーム開発部がヴェリタスと組んで生徒会を襲撃すると?」
「……そのまさかよ。」
「なるほど、にわかには信じがたいお話ですね。」
私はC&C所属のエージェント、コールサイン『03』室笠アカネで御座います。
ただいま、緊急の依頼があるとユウカに呼びだされお話を伺っているところです。
「ゲーム開発部については、私も知らないわけではありません。」
あまり良い噂は聞かないものの、自分達のやりたい事には本気で動く活発な子達です。
「あんなに可愛らしいのに……ミレニアムの生徒会を襲撃しようだなんて、人は見かけによりませんね?」
私の意見を聞き、ユウカは同意しつつ溜息をつきました。
「純粋な子たちよ。 でもだからこそ、時にはとんでもない悪戯をしたりもする。」
ゲーム開発部の様々な問題行動を『悪戯』で片付けて良いものかとも思いますが、秘めておきます。
「それに、今回は……」
話の途中でこちらへ振り返り、一層真剣な表情で続けます。
「独立傭兵、ナイトフォールが絡んでくるそうよ。」
「ナイトフォール……最近よく聞く、個人の傭兵ですね?」
「ええ、そうよ。 代表的な戦績としてはブラックマーケットのガード部隊を単騎で壊滅に追い込んでいるほか、ゲヘナの風紀委員会の作戦によく参加しているわね。」
「そうですか。 まあ相手がなんであれ依頼である以上……」
「それになにより!!」
ガァン!!
と、ユウカが屋上の柵を強く叩きつけます。
元々取り乱すことの多いユウカですが、ここまで感情を露わにするのは珍しいことです。
その独立傭兵は一体何をして
「そのナイトフォールとかいう独立傭兵は!! 先生から800万円もぼったくっているのよ!!」
「……なるほど。」
ユウカは先生がシャーレで行っている事務作業をよく手伝いに行っています。
元々セミナーのお仕事だけでも大変でしょうに、なぜ率先してシャーレの先生のお手伝いに行くのかは……言うだけ野暮ですね。
そしてユウカはセミナーの会計係なだけあり、金銭のやり取りに関しては人一倍敏感です。
憤慨するのも訳はありません。
「その傭兵を雇った作戦については、聞き出せたのですか?」
「いいえ、答えてくれなかったわ。 けれど、報酬が支払われた日時とあの事件が起きた日が同じなのは確認できてる。」
「治外法権なブラックマーケットで起きた事とはいえ、先生が銀行強盗事件なんてものと関わりがあるのは認めたくないけれど……残念ながら、黒でしょうね。」
「どんな事情でそんな事をしたかはわからないけれど、きっとその口止め料としてふっかけられたに違いないわ。」
ユウカの憤りには同意できます。
しかし、私はもう1つの可能性について考えていました。
それは、ナイトフォールを雇って得られる戦力がその金額に見合っているということです。
「ユウカは、ナイトフォールについてどう考えていますか? ただの幸運に恵まれただけの思い上がりか、それとも……。」
「……アカネはどう思う?」
「私ですか?そうですね……。 少なくとも、私よりはやり手と考えています。」
「へぇ、あなたは『C&C』なのに?」
「ええ、大変遺憾ですが。」
私にも当然、C&Cのメンバーとしての誇りと自信があります。
ですがヘルメット団のような不良グループではなく、ブラックマーケットを牛耳っている企業からの支援を受けているマーケットガードの部隊を小細工無しに正面から相手にする事が出来るかと言われれば、出来ないと言わざるをえません。
それに、カイザーPMCの大部隊がアビドス砂漠で消息を絶った事件も表向きは軍事演習中に大規模な砂嵐が発生したことによる事故とされていますが、これもナイトフォールの仕業だとする情報もあります。
得意分野の違いではありますが、正面からの力比べという点ではやはり私の方が劣っているでしょう。
「なるほど、正直な意見をありがとう。……ますます、野放しには出来ないわね。」
ユウカは腕を組んだ姿勢に変えて、わずかに思案してから少し笑みを浮かべました。
「むしろナイトフォールがミレニアムの自治区内に現れるのは、好機かもしれないわ。」
「と、言いますと?」
「金次第でどこにでも付き、どんな事にも加担する存在としては、彼女は大きすぎるのよ。」
ユウカの目つきが鋭くなり、指を2本立たせて発言する。
「依頼は2つ。 ゲーム開発部を生徒会の差押品保管所に近づけないこと。」
「もう1つは、ナイトフォールの確保よ。」
「……おや、排除ではないのですね?」
「ええ。 彼女には聞きたい事がたくさんあるし、使えるようなら特別にミレニアムサイエンススクールの学籍をあげてもいいと思ってるの。」
このキヴォトスには、傭兵を生業とする者たちが大勢います。
しかし、その大半は何かしらの問題を起こして学籍を失った者や、金銭的な問題を解決するために仕方なくやっている者たちです。
安定した生活を提示されれば、懐柔されるものも少なくありません。
「なるほど。 もしかすると、私達の新しい後輩になるかもしれないという事ですね。」
「そうなるわね。 受けてくれるかしら?」
「もちろんです。 ただ1つだけ、ちょっとした問題があります。」
「……問題?」
形式的でしか無い受け答えをしつつ、伏せておくことはできない問題を提示する。
「はい。 現在リーダーが……コールサイン『00』が不在なのです。」
「……ね、ネル先輩がいない!?」
「はい、ミレニアムの外郭に個人的な依頼があるそうでして。」
わかりやすく取り乱すユウカを宥めるために言葉を続ける。
「ですが、ご心配なく。 私達のリーダーは守ることより『壊すこと』に特化した人ですから。」
「『守る』ことや『壊さないように』扱うのなら、もしかしたら私達だけの方が良いかもしれません。」
リーダーがいる時のC&Cが1番強いというのは紛れもない事実ですが、いつもの破壊や殲滅とは違う戦い方を求められるのであれば丁度良いです。
ナイトフォールの実力はまだ未知数ですが、仮にリーダーの相手を務められる程の能力の持ち主であってしまえば……きっと壊されてしまうでしょう。
リーダーがいない時に来るとは、少なくとも幸運に恵まれていることは間違いありませんね。
「……そうかもね。 ただし、アカネ。」
「はい?」
「貴方の爆弾も大概よ。 間違ってもあなたの『掃除』で侵入路を作ってしまったりしないでよね。」
「……気を付けますね。 あ、そういえば。」
しっかりと釘を刺されつつ、立ち去ろうとした時に疑問が1つ浮かびました。
「1つだけ質問をしたいのですが、ゲーム開発部とヴェリタスが生徒会を襲撃する……そのことを、セミナーはどこから知ったのですか?」
「情報戦に関して、ミレニアムでヴェリタスを超える集団はいないと思っていましたが。」
最近名が知れ渡り始めたナイトフォールを参加させるとなれば、情報が漏れるほど前から計画し続けていたものでは無いはずですし、ゲーム開発部とヴェリタスが律儀に予告状を出すとは思えません。
「……その通りよ。 だから、ヴェリタスが教えてくれた。それだけの話。」
「……はい?」
私の予想とは違い、本当に予告状でも届いたのでしょうか?
困惑している私を見てユウカは言葉を続けます。
「私たちにヴェリタスとゲーム開発部、そしてナイトフォールがやってくる事を教えてくれたのは……ヴェリタスの部長、ヒマリだもの。」
ヴェリタスの情報を、ヴェリタスの部長が漏洩させている。
この事実に不穏さを感じましたが、彼女たちは最近もミレニアム生徒の身体測定の結果を不正に改竄しようとして問題を起こしたばかりですし、ヴェリタスの信用がこれ以上落ちないようにとの采配でしょう。
「教えてくださり、ありがとうございます。 おかげですっきりとした気持ちでお仕事を始められます。」
「それは良かったわ。 ん?」
会話が終わると同時に通知音が響きました。
「……また些事で煩わせる……。じゃあ、頼んだわよ。」
「ええ。 失礼致します。」
また新たな仕事が増えたのか、眉間に皺を寄せながら端末を操作し始めたユウカを置いて、私は仕事の準備を始めました。
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ミレニアムタワー
エントランス
「おはようございます。 本日は、どのようなご用件でしょうか?」
「おつかれさまです。 みれにあむたわーのじょうそうかいに、ようじがあるのです。 はいってよいでしょうか?」
よく見かけるミレニアムの生徒とは少し違う制服を着た受付係の生徒に、ヴェリタスの皆さんが用意してくれた偽造の許可証を見せながら話しかける。
「……申し訳ございません。 現在、セミナーの方からの指示で警戒体制が敷かれており、上層区画へのご案内はできません。」
偽造は完璧のようで応対はしてくれたが、既に手を回されているようだ。
まぁ、これで侵入できてしまえばこちらも色々と仕込んできたものが無駄になるので構わない。
「おや、そうですか。 こまりましたね……。」
私の演技くさい困り方に、受付係の子は疑いもせずマニュアル通りの対応をする。
「担当者への伝言はできます。 ご用件をどうぞ。」
「ありがとうございます。 では、ふせてください。」
「はい。……え?」
ブラックマーケットの闇銀行でもそうだったが、重要な施設に武装している状態でもあっさり入れてしまうこの世界の常識には驚かされる。
丁寧に対応してくれた受付員にせめてもの感謝として怪我しないための助言をした後、閉じられている入り口へ向かって囀り砲を放つ。
コンコンッ!
と聞き慣れた発射音の後、爆発が起こる。
だがミレニアムタワーの重要区画への扉は軽く焦げた程度で、びくともしていない。
「おもったより、がんじょうですね。」
「き、緊急事態発生!緊急事態発生!!」
受付台の通報ボタンが押されて警報が鳴り響き、警備員と武装されたロボットとドローンが現れる。
整備が行き届いているようで他の地域で見るような物たちよりは小綺麗だが、性能に明確な違いは感じられない。
技術が進んでいるミレニアムの重要施設なので、ウォッチポイントαに設置されていたような、まともに喰らったらまずい防衛設備でも出てくるのかと警戒していたが心配しすぎだったようだ。
撃ち落とすだけではなく蹴り飛ばしたりして、アリスさん達の準備が終わるまで派手に目立つように行動する。
『くそっ、効いているのか!?』
「あのパーカーだ! まずはあのパーカーを引き剥がすんだ!!」
数は多いがあまり実戦を積めていないのが察せられる甘い照準の射撃を躱し、警備員達の会話を聞き流しながら戦闘を続けていると少し雰囲気が変わった。
「通常兵器では太刀打ちできん……やむおえん、あれを起動しろ!」
「あれですか? しかし、まだ調整が……。」
その後も少し問答が続き、意見がまとまったのか警備部隊の攻勢が一瞬弱まる。
そして目的とは別のエリアへ繋がっているゲートが轟音と共に吹き飛ばされ、見覚えはあるがもはや原型をとどめていないレベルの改修が施されたパワーローダーが、2本の脚で床を抉りながら勢いよく現れた。
「あれは、みれにあむにはじめてきたときにそうぐうした……。」
『セミナーへ報告。 例の独立傭兵と接敵しました。』
強化ガラスで剥き出しだったコックピットは装甲板とセンサーで塞がれ、3本指からしっかりとした手に換装された両手にそれぞれバズーカとショットガンを持っている。
さらに大量のミサイルポッドと6機のグレネードランチャーが装備された大型のユニットを背負うように装着している。
『……承知しました。 排除します。』
その姿にザイレムのコントロールタワーを防衛した時や、バスキュラー・プラントへ向かっている途中で企業勢力を迎撃している時に遭遇した、アーキバスに鹵獲され元の持ち味である機動力を損なうほどの重武装化を施されてしまっていたLC機体を思い出す。
あのハンドメイド感の強かったクレバースタッフをここまで変えられるとはセミナーもリサイクルが得意のようだが、二足歩行を活かさない改修にはあの生徒もエンジニア部の皆さんも悲しむだろう。
名前も知らない彼女に同情しつつ、私は少しは歯応えのありそうな相手が出てきたことに自然と笑みを浮かべる。
『ビジター。 現在の目的は天童アリスのレールガンのチャージ完了までの時間稼ぎだ。』
『あの「花火会場」では観客が少なくても問題は無かったが、今回は監視カメラに映る映像に釘付けにする必要がある。 なるべく長く遊んでやってくれ。』
「……そうだね、せっかくきてくれたおきゃくさんだもの。 すぐにかえしちゃ、もったいない。」
私が興奮しているのを察知したのか、チャティから無線が入りすぐに撃破しないように注意される。
上がり始めていた口角を指で押し戻し、まずは出方を伺うためライフルで牽制しながら距離を取る。
キン!キン!コン!
と、弾丸が装甲に弾かれた時の独特な音が響く。
普通のオートマタやドローンなら1撃で破壊できるナイトフォールのライフルでも、改修される前から迫撃砲の直撃に耐えていたクレバースタッフには有効打にならないようだ。
私の武器では対処できないと思ったのか、それとも距離を取りつづける私を怖気ついたと思ったのかは分からないが、私との距離を詰めようと人の手では余る多数の火器を発射しながら勢いよく近づいてくる。
この手の相手には慣れているので躱せはするが、小回りの効く両手の射撃武器で牽制し本命のミサイルやグレネードを当ててこようとする戦法から、パイロットが機体に振り回されているような素人ではないことを感じる。
『それなりにやるようだな……根無草のフリーランスの動きとは思えん!』
「あなたのそうじゅうも、そこそこですよ。」
『そうか? やはり私には才能が……いや、今は仕事中だ! 話しかけるな!』
「……そちらから、はなしてきたのでしょう?」
ACのコックピットの中だったなら、攻撃予兆のアラートがけたたましくなり続けている様な激しい攻勢が続く。
『だが、所詮は生身の人間! ミレニアムの最新技術の敵ではない!!』
「……。」
自分達の兵器に使われている技術を誇る様子に、惑星封鎖機構の特務機体やHCを任されていたパイロット達を思い出す。
彼らもきっと同じ考えで、既存パーツの寄せ集めに過ぎないACと廃棄処分寸前だった旧世代型の強化人間に撃破されるとは夢にも思っていなかっただろう。
可哀想だが、この生徒にも死ぬ事以外は同じ目に遭ってもらう。
ミサイルを命中する直前で切り返して躱し、グレネードによる爆撃を上昇で回避しながら牽制を続けていると、ようやくゲーム開発部から無線が入る。
『ナイトフォール、準備できたよ!……なんか、すごい奴の相手させちゃってごめんね!』
「ええ、ぶりーふぃんぐには、なかったてんかいです。 とくべつてあてを、きたいしておきますよ。」
『えぇ!?……分かった! 「TSC2」のスタッフロールに貴方を足してあげる!』
『魔力充電、100%! 行きます!』
ドゴォォォォン!!!
アリスさんの元気の良いセリフと同時に、凄まじい轟音と共に発せられた青白い光の柱が閉じられている重要区画へのゲートをセキリュティシステムごと吹き飛ばす。
「良くやってくれました! ご友人!!」
「ありがとうナイトフォール!! 後は私たちの仕事だね!」
「突入します!」
廃墟地帯で見た様な、弾痕とはもはや呼べない様な破壊の跡をゲーム開発部の皆さんが私へお礼を言いながら走り出す。
……あれを擦めただけとはいえ、当てられたのか?
改めて吹き飛ばされたのがフードだけで良かったと安心する。
そして、標的を私からゲーム開発部へ切り替えようとしたつれないお客さんに、私は後ろから殴りかかった。
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ミレニアムタワー
オペレーションルーム
「信じられない……。どんな方法で来るのかと思ったら、雇った傭兵をそのまま突っ込ませるなんて。」
「この子がナイトフォールですね。 噂からして恐ろしい容貌をしていると思いましたが……とっても可愛いですね〜。」
「そうかしら?……確かに、思ってたよりは小さいけれど。」
私はミレニアムサイエンススクール2年生、セミナー所属の早瀬ユウカ。
今は、ミレニアムプレイスの参加申請締め切り前までには起こることしか分かっていないゲーム開発部とヴェリタスの襲撃に、いつでも対応できるように備えていたところ。
あの子達の目的からして準備でき次第行動に移すと想定して早めに動いていたのは正解だったけど、目の前のモニターでは2つ信じられない事が起きていた。
1つは、警備が厳重な上層階へ向かう為のエレベーター区画への入り口に対して無謀にも正面から強行突破を計っていること。
もう1つは、たった1人の独立傭兵に出動した警備部隊のおよそ半数が撃破されていることだ。
あの部隊の中には、施設警備用に多少デチューンしたとはいえブラック企業から押収した戦闘用のロボットも多く含まれている。
やはりただの傭兵として放っておく事はできないと改めて思い知らされていると、オペレーターの子の1人が振り返ってきた。
「ユウカさん、現場担当から『クレバースタッフ改』の使用許可を求められています。」
「アレを?……本来は暴走した重機や兵器の対処を想定しているマシンだけれど、いいわ。 申請を受理します。」
このミレニアムサイエンススクールが抱える問題児の1人、松戸ラミィ。
あの子が自分から作ったものを他者に提供することは無いけれど、問題を起こして鎮圧される度に押収という形で触れることはある。
どこで学んだのか分からない膨大な知識と、自由な発想によって私達では思いつかないような奇抜な製品の数々を生み出している事実が、あの子を退学させられない理由になっている。
……まぁその話は置いておいて、ある日突然駅前でバラバラにされた状態で発見、回収されたクレバースタッフは名目上は作業用重機ということだったが、既存の戦闘用パワーローダーを大きく上回る耐久性と積載能力を持っていた。
そこに目をつけて戦闘用に改修を施したのが、クレバースタッフ改だ。
申請が受理される前から既に起動していたのか、それとも移動用に後付けされたブースターの性能が良いのかすぐに現場へ到着したクレバースタッフ改のパイロットから通信が入る。
『セミナーへ報告。 例の独立傭兵と接敵しました。』
「了解、遠慮はいらないわ。 その独立傭兵を排除して!!」
『……承知しました。 排除します。』
丁寧な言葉遣いに、新しい兵器を試せる好奇心が混じった返答を合図にナイトフォールとクレバースタッフ改が戦闘に入る。
モニター内の戦闘が再び激しくなる中、アカネがほがらかな笑みを浮かべた顔で聞いてきた。
「排除でよろしいのですか? 私どもへの依頼では確保の筈でしたが。」
「そうね。 けれどC&Cを出すまでもなく片が付くなら、それが1番良いわ。」
C&Cが鎮圧に手間取ったといっても、クレバースタッフを相手に遅れをとることはない。
ナイトフォールがこの程度の相手にあっさりやられるなら、私の見込み違いだったということ。
そうなれば引き入れる必要も無いし、怪我をさせないように気を使う必要も無い。
「あの子を当て馬の様に扱うのは少し気が引けるけど、ナイトフォールのお手並み拝見といきましょう……?」
突然、部屋がぐらりと揺れた。
こんな時に地震だろうか?
「ユウカさん! 正面ゲートが破壊されました!!」
『な、なんだ! 今の攻撃は!?』
「「え!?」」
オペレーターが初めて聞くような焦った声で状況を報告する。
アカネの方を向く為に一瞬目を離したモニターには、端が焼け焦げている大きな穴が開けられたゲートと、見たことのない抉れ方をしている地面。
そしてあまりにも大きな、大砲の様な銃(?)を構えているアリスちゃんが居た。
『良くやってくれました! ご友人!!』
『ありがとうナイトフォール!! 後は私たちの仕事だね!』
『突入します!』
どこに潜んでいたのか、ゲーム開発部の3人が破壊されたゲートを抜けて侵入を果たす。
『行かせるか!……ぐわっ!?』
『みなさんは、さくせんをつづけてください。 こいつは、わたしがやります。』
ゲーム開発部を追撃しようとしたクレバースタッフ改も、突然攻勢を強めたナイトフォールによって追撃を阻止されてしまう。
クレバースタッフの投入によって消極的になっていたナイトフォールの動きが、明らかに変わっている。
どうやら手こずっていた訳ではなく、手を抜いていた様だ。
「なるほど……アリスちゃんの、あの訳のわからない武器を撃つための時間稼ぎだったと言うわけね。」
まさか正面突破を果たされるとは思っていなかったけれど、このミレニアムタワーの警備システム全てを突破された訳じゃない。
「ガードメカ制御をA10に切り替え、増援の警備部隊を中央エレベーターへ向かわせて!」
「はい!」
アリスちゃんのあの武器は脅威だが、あの威力と大きさでは取り回しが良い訳がない。
だからナイトフォールを雇ってまで時間を稼いだのだ。
それと戦闘に関しては素人のモモイとミドリなら、ガードメカと警備部隊の物量で押し切れる。
問題は……
「アカネ!侵入したゲーム開発部はこっちでなんとかする。 貴方はナイトフォールの対処をお願い!」
「承知しました。 急ぎますね!」
アカネがスーツケースを手に取り、ロングスカートとは思えない速さの走りでオペレーションルームを出ると同時にパイロットから通信が入る。
正面から弾幕を掻い潜ってきたナイトフォールに近接戦を仕掛けられ、かなり追い詰められているようだ。
本来ならあんなものまで持ち出して負けかけていることに苛立つところだが、今回は相手が異例すぎる。
兵器に対して、もっとも火力が集中する正面から向かってこれる人なんて、他にはネル先輩くらいしか思いつかない。
『このままでは……ユウカさん、C&Cの投入は……!』
「今『03』を向かわせているわ! 到着するまでなんとか保たせて!」
『……了解しました!』
……少し焦ったけれど、たった1人、助っ人が増えたくらいで何もかも上手く行くわけがない。
あの子達にも、あの傭兵にも、それから……間違いなく手を貸しているであろうシャーレの先生にも、現実を見てもらいましょう。
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ミレニアムサイエンススクール
エントランス
ガァン!
と、コックピット部分を覆う装甲板を左手のパイルバンカーで殴りつける。
他の部位に比べてセンサー類が集中しているせいか、ここは比較的装甲が脆いようだ。
「ちょくせつなぐられることは、そうていされていないのですか?」
『あ、当たり前だ!! 稼働している兵器の真正面に立つ馬鹿がどこにいる!?』
「ここにいますが。」
『……それはそうだが!!』
さらに追撃しようとするが、前面に設置された小型のブースターが火を吹き後ろへ下がられ距離を取られる。
分厚い装甲に豊富な火力。
さらに追加されたブースターのおかげで図体の割には機敏な動きもできている。
確かに良い仕上がりだが……私よりも装備が恵まれている相手なんて、ルビコンで山ほど相手にしてきた。
それにエンジニア部の皆さんに作ってもらったパイルバンカーは、こういう獲物を仕留めるために用意してもらったのだ。
楽しい時間だったが、そろそろ退場してもらおう。
「だっしゅつればーがあるのなら、いつでもひけるじょうたいにしておいたほうが、いいですよ。」
『もう勝ったつもりか?……舐めるなよ! 傭兵!!』
センサーがイカれたのか、正面の装甲板を毟り取り視界を確保し直すと後方のブースターを点火して突っ込んできた。
『来るぞ、轢かれるなよ。』
耳鳴りと一緒に聞こえた戦友の声に合わせて真上へ逃れると同時に足元へ囀り砲を放ち、体勢を崩させる。
足元への衝撃で横向きに倒れ込んだクレバースタッフの上に着地し、コックピットを避けてパイルバンカーを打ち込む。
ガコンッ!
打ち込まれる瞬間まで再び立ち上がろうとしていたクレバースタッフの手足が重力に従って地面に落ち、エンジンが停止する。
スピーカーも壊れたのか声は聞こえないが、強化ガラス越しに必死に機体の再起動を行っているパイロットが見える。
流石にもう動かないとは思うが、万が一の事がある。
パイロットを引き摺り出して、操縦席を潰しておくことにしよう。
強化ガラスを叩き割るためにパイルバンカーを構えたところで、後ろから声をかけられる。
「ようこそいらっしゃいました、お客様。 お出迎えが遅れ、申し訳ありません。」
この場にはそぐわない柔和な話し方だが、その声色からは隠しきれない戦意が感じられる。
振り向くと、どこかで見たような気がするメガネが特徴のメイドさんがきちんとした姿勢で立っていた。
……ああ、思い出した。
私が散らかしたクレバースタッフを片付けてくれていた4人組の1人で、1番大人びていた人だ。
明らかに掃除に不真面目だったネルさんだけが戦闘員と思っていたが……この感じだと、アスナさんと褐色の子も戦闘員だろう。
こちらがメイドさんの方へしっかりと向き直ると、スカートの端を摘んで持ち上げ、頭を下げてきた。
「初めまして。 私はC&Cのコールサイン『03』……本名は秘密ですので、謎の美女メイドとでもお呼びください。」
コールサインという単語を聞いて少し懐かしい気分になり、ベイラム専属AC部隊『レッドガン』の総長であるG1ミシガンとの出会いを思い出す。
『おまけである貴様には、一昨日空きが出たラッキーナンバー、コールサイン「G13(ガンズサーティーン)」を貸与する!!』
『「G13」復唱!!……復唱したか!? では準備を始めろ! 愉快な遠足の始まりだ!!』
『G13か……名前が増えたな、621。』
録音であるにも関わらずこちらへ急に指示を出してきて、まだ感情の起伏が乏しかったあの頃の私でも驚かされた覚えがある。
……C&Cのリーダーのコールサインは、やはり01なのだろうか?
「ごていねいにどうも、なぞのびじょめいどさん。 わたしにも、いくつかなまえがありますが、ほんみょうはひみつです。」
「『ないとふぉーる』、『よるをもたらすもの』、『ゆうぐれどき』……すきによんでください。」
言われた通りにそう呼んだのに、何故か謎の美女メイドさんは驚いた反応をする。
それから口元に手を当て、笑みをこぼしながら話し始める。
「……ふふっ、少し嬉しいです。 正体を明かさない系ヒロインは、もう時代遅れなのかと心配していましたが……。」
「どうやら、貴方とは気が合うようですね。 ナイトちゃんとお呼びしてよろしいですか?」
「かまいませんよ。 そのよびかたをするのは、あなたでふたりめです。」
「あら。 天涯孤独の身かと思っていましたが、案外交流が多いのですね。」
「ええ、ありがたいことに。」
こちらとしては、労力をかけずに仕事の主だった障害であるC&Cのメンバーを釘付けに出来るのであればこのまま雑談を続けても良いのだが、そうはいかないようだ。
謎の美女メイドさんの背後に、通常の物より飛行音を抑える工夫がされているのか不気味なほど静かに飛行しているドローン群が現れる。
「話が通じるナイトちゃんの為に、1度だけチャンスをあげましょう。……すぐに武器を捨てて、投降しなさい。」
前半と後半で驚くほど声音が変わる。
なるほど、正体不明な謎の美女メイドと言っておきながらあまり変装(もしかしてメイド服がそうなのだろうか?)しているようには見えず不思議だったが、柔和な人当たりと喋り方自体がこの人にとっての変装なのか。
様子のおかしい人では無い様で良かった。
「ようやく、めいんでぃっしゅがでてきたんです。 あじあわずにかえるのは、もったいないですね。」
「……ふふっ。 それでは、存分に味わってくださいな。」
メイドさんが指を鳴らすと、ドローンが一斉にこちらへ向かってくる。
……今更こんな物で止められると思っているのか?
甘く見積もられている事に少し憤りながらドローンを撃ち抜くと同時に、私の本能が急に下がれと騒ぎ出す。
何かは分からないが、アリスさんのスーパーノヴァをギリギリ避けられたのも本能に従ったおかげだ。
後ろへ跳ねる為に地面を蹴ったと同時に、目の前に巨大な火の玉が現れ吹き飛ばされる。
視界全てが爆炎に包まれ、一瞬遅れて飛んできた熱を帯びた風と破片を辛うじてパーカーの袖で防ぐ。
「……なるほど、じばくどろーんですか。」
ドローンが爆発した場所には、あのサイズの爆弾で出来るとは思えない様なクレーターができていた。
……屋内で、しかも自分達の学園の重要な施設の中で、こんな物を防衛側が使うのか?
やはりミレニアムの生徒は狂人の集まりであることを思い出していると、謎の美女メイドさんの声とカーラの声が重なって聞こえた。
「あら、ご挨拶の花火に気付いたのですか? ナイトちゃんは、勘が良いのですね。」
『おや、歓迎の花火に気付いたのかい? あんた、勘が良いね。』
そういえばカーラも、自分達の縄張りであるグリッド086に『花火』を山程仕掛けていた。
私は巻き込まれることはなかったどころか4脚MTを撃破するのに有効利用させて貰っていたが、総じて頭のネジが緩いドーザーや機動力に乏しいMT相手に対して、それと破壊することが不可能に近い強固な素材で作られているグリッド内においては有効な防衛手段だったのだろう。
……最後の扉を防衛しているMT部隊が丸々吹き飛ぶ事になる配置はどうかと思うが。
『セミナーからは、貴方を確保する様に依頼されています。 ですが、投降はしていただけない様ですし……。』
体勢を立て直すと、メイドさんの声が四方から聞こえる。
どうやら爆発に乗じて姿を隠し、各所に仕込まれたスピーカーから話しかけているようだ。
ドローンを無視して本命を潰そうと考えていたが、すでに対策済みらしい。
『可哀想ですが、動かなくなってから連れて行く事にします。 では、「掃除」を始めましょうか。』
メイドさんの発言が終わると同時に、自爆ドローン達が再びこちらへ向かって飛び始める。
施設の損壊を気にせず、大量の無人兵器による特攻とは、技術と資金に恵まれているミレニアムサイエンススクールらしい。
「……このばあい、よけいちらかるのでは?」
『おや、ご存知ないのですか? 「何も残っていない」状態が1番綺麗なのですよ。』
「なるほど。……ようすのおかしいひとです。」
独立傭兵ナイトフォール、普通では無いご奉仕を受ける。
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ミレニアムタワー
オペレーションルーム
「状況は?」
「はい! エレベーター区画に侵入したゲーム開発部ですが、最優先目標の天童アリスを鎮圧。 それと同時に残りの2人は撤退を開始しました。」
「想定通りね。 警備部隊に03の援護をする様に伝えて。……ああ、それから……」
「はい?」
「03が使い捨ててるあのドローン、1機あたりいくらするの?」
「……知らない方が、よろしいかと。」
「……そうも、いかないのよ……。」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました、
スパイアをスレイするために登ったり、Switch2から遠い昔に無くした祝福に呼ばれたりしていたら脳内コーラルの量が減少してしまったので再び付け直している今日この頃。
これからもゆっくりですが趣味の範囲で書いていくつもりなので、お待ちしていただけると幸いです。
ご感想、誤字報告、ここすき。どれも楽しく見せて頂いてます。
それでは、また。