子供視点なので、いつもよりコメディ寄りになるような地の文を書きました
エアリスは知っている。
セフィロスのそばには、常に《誰か》がいる。
そのことにエアリスが気づいたのはいつからだろうか? 物心ついたころにはすでに気づいていたような気がする。もしかしたら、赤ん坊のころから、知っていたのかもしれない。
その《誰か》はセフィロスを心配して、よく彼のそばにいる護衛役のヴィンセントのことではない。
セフィロスのそばに、いつもべったりとくっついている《ソレ》は、おそらく――いや、確実に人間ではない。銀の髪の美しい女のような姿をしているが、なぜだかエアリスはそれが酷く恐ろしく醜悪なもののように思えた。
そして、いつも思うのだ。《彼女》は、セフィロスをどこかへ連れ去ってしまうのだと。これはただの想像ではなく、もっと確信めいた予感だ。
「ねえ、おかあさん」
「どうしたの?」
「うん、あのね」
エアリスは、自分が見たものを母のイファルナに説明した。最初は落ち着いて聞いていた母だったが、彼女は次第に青い顔をして片手で口を覆い、うつむきながら、もう片方の手で、エアリスの手を握った。
エアリスが心配そうに母を見上げると、彼女は無理矢理笑顔を作った。あのセフィロスに憑りついている存在のことを知っているのだろうか? エアリスがそのことを聞こうとしたとき、母はエアリスの手を両手で包み込むように握った。
震える身体をどうにか落ち着かせて、母は言う。
「エアリス」
「なあに?」
母は、エアリスの瞳をじっと見ながら、震える声で言った。
「《ソレ》から、セフィロスを守ってあげて」
「うん」
エアリスは元気にうなずいた。不器用ながらも自分のことを可愛がってくれている優しいお兄ちゃんを、なんだかよくわからない化け物に盗られてなるものかと、そう思った。
どうにかこうにか、《ソレ》を引きはがせないものかと考えて、行動に移した結果、あっさりと解決した。
とはいっても《ソレ》を完全に追い払うことができたわけではない。しかし、エアリスがセフィロスに触れると、《ソレ》はどこかに消えてしまうのだ。
そのことを喜び勇んで母に伝えれば、彼女は『きっと、エアリスには特別な力があるのね』と言って彼女の頭をなでた。
「でもね、このことは誰にも言ってはダメ」
「なんで?」
エアリスはセフィロスを守っているという自負があった。そして、そのことをとても誇らしく思っていた。まるでおとぎ話の勇者のような自分を思い浮かべながら、『わたしが、おにいちゃんをまもっているの』と、誰かに自慢したい気持ちもあった。悪い魔王にとらわれているセフィロスを助ける勇者役がエアリスだ。配役がいろいろ間違っている気がするが、気にしてはいけない。
ぷくりと頬を膨らませるエアリスの唇を人差し指で、ちょんとつつきながら、母は言う。
「ほかにも悪い奴らが、まだセフィロスを狙っているかもしれないから」
「そうなの!?」
「ええ、エアリスが特別な力で《悪いモノ》を追い払っていると、悪い奴らに知られてはいけないの」
エアリスの中のイメージが派手な勇者から、黒服のスパイへと変わった。キラキラした輝かしい存在ではないが、これもなかなかかっこいい! 悪い組織から狙われているセフィロスを、陰ながら守るスパイがエアリスだ。やっぱり配役がおかしいかもしれないが、気にしてはいけない。
「相手に気づかれないように、秘密で、こっそり……できるわね?」
声をひそめた母の言葉に、エアリスは元気いっぱいうなずいた。
その後、さっそくエアリスはセフィロスを見つけると、走って彼のもとに近寄り、思いきり抱き着いた。
「おにいちゃーん!」
「エアリス、走り回るな。危ないだろう?」
呆れた表情だが、エアリスに抱き着かれて照れくさいような嬉しいような、優しい表情を見せるセフィロス。じゃれつくエアリスをなでる彼は、イファルナに気づくと、微笑みながら軽く頭を下げた。
「転んで怪我をしたらどうするんだ」
「へいき。私、すごいもの」
えへんと胸を張るエアリス。
「なにがすごいんだ?」
呆れた声を出すセフィロスに、母との約束をすぐに忘れてしまったのかとイファルナは少しだけ慌てた。しかし、しっかりと約束を覚えていたエアリスは『内緒』と言いながら、口元に人差し指を立てた。
「そうか」
セフィロス自身、エアリスのなにがすごいのか気にしていなかったようで、あっさりと会話をやめてしまう。
そのままエアリスをイファルナに預けてどこかへ行こうとするセフィロスを、駄々をこねて引き留め、ため息を吐いたセフィロスは、『一緒に本でも読むか』と言って、エアリスを落ち着かせた。
その夜
「話があります」
イファルナはエアリスが寝静まった後、ガストを呼んだ。
外にいるタークスに聞かれないよう小さな声で、イファルナはエアリスから聞いたことを話した。
「エアリスが言っている《ソレ》はおそらくジェノバの思念のようなものだと思います」
その言葉に、ガストは頭を抱えて深く息を吐いた。本当なら、絶望の声をあげたいのだろう。しかし、その声をタークスに聞かれてはならない。異常を察知してこちらに飛び込んできた彼らに、なぜそんな声をあげたのかと説明をするとなると、面倒なことになる。
「セフィロス、そんな……あの子が、どうして……」
涙を流しながらつぶやくガスト。イファルナの瞳にも涙が浮かぶ。この四年、セフィロスと過ごした彼女は、すっかりセフィロスを自分の息子のように思っていた。
礼儀正しく、素直な性格のあの少年を、ジェノバの申し子になどしたくはなかった。
「エアリスは、《アレ》を追い払う力を持っているわ。あの子一人に任せるのは心苦しいけど、エアリスに任せてほしいの」
「ええ、そうですね。私の方も、ジェノバの力を抑える方法を探ります」
互いの濡れた頬に、暖かな手が触れる。
そして二人は互いを抱きしめ合い、声を殺して、泣いた。
一方、ヴィンセントはセフィロスを寝かしつけた後、自室でこれからの計画を考えていた。いつかは、ここを
いくつかの資料をまとめ、不要なものはファイアで燃やす。残した資料の一枚に、一人の兵士の情報が書かれていた。
《ゲインズブール》
その姓を持つ男は体格こそいいが、前線で武器を持って戦うには向かないような、そんな顔立ちをしている。
その資料には、彼が前線部隊から外れ、補給部隊へとまわされたことが書かれていた。
エアリスの物語はエアリスの頭の中でのみ展開されているため、ツッコミを入れる人がいません