ヴィンセントは本当に忌々しい男だと、宝条は思う。
いきなりセフィロスの護衛をするなどと言い出したかと思えば、こちらの研究や実験に口出しをする。それを無視すると今度は上層部に掛け合い、こちらに圧力をかけてくる。
古代種への実験をいくつか準備していたが、ヴィンセントのせいでその準備がすべて無駄に終わった。彼は上層部を『古代種は貴重だ。彼女らの身体を傷つけるようなことをするのは得策ではない』と説得し、満足な実験を行えないようにしてしまった。
ヴィンセントが居ない隙を狙っても、他のタークスが目を光らせている。
今日もセフィロスと楽しそうに何かの話をしているヴィンセントの背をにらみつけ、舌打ち一つ。
去っていく宝条の背中を眺めながら、ガストは『ふむ』と考えた。
宝条がヴィンセントを嫌っているというのは周知の事実。そんな彼の視線には、覚えがあった。
ここに連れ戻されたばかりのころ、ヴィンセントが自分に向けていた視線とよく似ている。
嫉妬だ。
――彼にも、父親としての心があったのか
そのことに宝条自身が気づいている様子はない。ガストがそのことを指摘しても、きっと宝条は鼻で笑うだろう。『たかがサンプルにそんな感情を抱くはずがない』と。
――もし、彼が自分の中の感情の正体に気づき、受け入れたら何かが変わるだろうか?
あの時――宝条がガストに銃口を向けた時――、彼は確かに、憎悪の目でガストを見ていた。あの時は、目の上のたん瘤である自分を消したいと思っていただけなのだと思っていたが、ヴィンセントを見る宝条の目を見て、確信した。
彼は、セフィロスのことで、ガストを恨んでいたのだ。
実験に息子を差し出したのは確かに宝条だが、その実験の《失敗》は、ガストが原因だ。ガストが最悪なヒューマンエラーを起こした結果、息子がただの化け物であると知った彼は、何を思ったのだろう。
父親として考えた結果、ガストはセフィロスへの非人道的な実験や、常人では耐えることのできない戦闘訓練の意味が分かった気がした。
――不器用な男だ
彼はたった一言。セフィロスに伝えればいいだけなのに、そのことに気づかない。
これはガストが口出しをしていい領域ではない。宝条が、気づかなければいけないことだ。
――いつか、彼が《答え》を見つけることができるだろうか
その答えを見つけることができなければ、きっと宝条はセフィロスを永遠に失うことになるのだろうと、ガストは思った。
父親という存在について、ヴィンセントの中ではあまり印象がなかった。
親不孝者と詰られても文句は言えない反応ではあるが、事実は事実である。
研究だ、探索だと家を空けて、ヴィンセントの世話は妻に殆ど任せっぱなし。たまに帰ってきたかと思えば難しい話をしているような印象しかない。
妻が亡くなると、ヴィンセントを神羅の養成学校の寮へと入れて、今まで以上に研究に没頭していた。
研究中の事故で死んだという話を聞かされても、ヴィンセントは『あの男らしいな』としか思わなかった。
そんなヴィンセントのドライな感情とは裏腹に、彼が自分のせいで死んだと思っているルクレツィアはとても気にしていたようだが。
過去の切ない記憶に戻りそうだった意識を、ヴィンセントはどうにか現在に引き戻す。
セフィロスを相手にするようになって、親とは何なのかを考えることが多くなったように思う。
血を分けた遺伝子上の親子であるのに、とても親とは思えないことを子にしでかす親もいれば、血のつながりなどなくとも、子を慈しむ親もいる。
血のつながりそのものが絆となる場合もあれば、それがあっても、親子とは思えない感情を抱くこともあるし、血のつながりなど関係ないとばかりに、互いを想い合う親子もいる。
胸を張って言えるかと言われれば、少々自信がないものの、ヴィンセントはセフィロスを息子のように思っている。セフィロスも、ヴィンセントのことを年の離れた兄か父親のようなものだと思っている様子だ。
そして、同時にセフィロスはガスト博士やイファルナに対しても、親のようなものと思っている節がある。前の時間軸でも、セフィロスはガスト博士を慕っていた。
そんな彼は、ガスト博士の娘であるエアリスの命を奪った。最初は、ホーリーを唱えるエアリスが邪魔だとジェノバが判断した結果だと思っていた。しかし、本当にそれだけだろうかと思うことがある。
ヴィンセントの脳裏に、生まれて間もないエアリスを溺愛するガスト博士の姿が浮かぶ。
セフィロスはガスト博士に捨てられた。
――ジェノバが、セフィロスの中にある嫉妬の感情を読み取って、あの行動をとったのだとしたら
もし、この想像が当たっていたとすれば、なんという悲劇だろう。
目を閉じ、首を横に振り、ヴィンセントはつらい記憶を振り払う。
――今回は、決してあのようなことはさせない