ヴィンセント逆行   作:キザキすい

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いつもよりも長くなりました。ここで二章はいったん終わりです。
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今回はFS組が出張ります。




Ⅶ 広告塔

 

 

 銃声と叫び声とモンスターの雄たけびが響きあがる戦場。その中で、激しい土煙があがる。顔の傷に砂が当たり、痛い。

 視界を遮られた中、とっさに聴覚を頼りに敵の居場所を探った。

 ぐっと、血の付いた柄を握りしめた。

 

「そこだ!!」

 

 土煙を振り払いながら、敵の気配がした方向へ大斧を振り回す。しかし、ぎりぎりで敵モンスターの急所を外した。

 激高したモンスターがこちらに牙をむく。

 防御の体制をとった瞬間、モンスターが倒れた。見ると頭に風穴があいている。

 

「グレン、無事?」

 

 モンスターに風穴を開けた張本人がやってくる。彼女の言葉に対し、グレンは『ああ』と頷いた。

 けがはしているが、致命傷と言うほどではない。

 

「が、このままじゃ、満足に戦えそうもねえから、回復魔法の一つや二つかけてほしいな」

「魔力が足りなくて、そんな余裕ないかも」

 

 言いながら彼女――ルティアは小型モンスターの頭部を打ち抜いた。相変わらずほれぼれする射撃の腕だ。

 しかし、いつもよりも反応が鈍い気がする。見ると彼女の足元が赤く染まっていた。足にけがをしているためか、銃を撃った際の反動に耐えきれないのだろう。

 

「ちっ」

 

 舌打ち一つ。グレンが武器を構えた瞬間、身体が軽くなった。一瞬遅れてこちらに向かってきたモンスターを切り裂く。血の汚れは消えないが、傷は消えていた。

 

「おせーぞ、ハカセ!」

「その呼び方はするな」

 

 ハカセと呼ばれた男――マットに回復してもらったグレンとルティアは、軽くなった身体で、敵を一気に倒していく。そんな二人を、マットがサポートした。

 そうして、十数体のモンスターを倒したころ、本部から信号弾が上がった。あの色は――。

 

「撤退セヨ。だ」

 

 マットの言葉にうなずき、グレンらはその場から撤退した。

 

 

 

 モンスター退治の任務と聞いて今回もテント生活かと思われたが、珍しく、小さいけれど人里が近い場所に派遣されたおかげで、宿屋で夜を明かすことができた。

 共有スペースで今回の任務について話し合っていると、ふいに一人の兵士が口を開いた。

 

「《英雄》って知ってるか?」

 

 その言葉にグレンは首をかしげる。

 

「今回の任務で最もモンスターを倒した奴のことか?」

「ちがうちがう。そんなんじゃない。神羅が売り出す予定の《英雄》だよ」

 

 なんのことやら? 顔を見合わせるグレンとルティアに、新しいコーヒーと共に共有スペースに来たマットが説明した。

 

「なんでも、神羅が広告塔として使っている強化兵士のことらしい」

「へえ……」

「一人の人間を英雄として祭り上げることで、彼にあこがれた兵士志望の若者があつまってくる。そういう計画だろう」

 

 マットの言葉にグレンは首をかしげる。

 

「そんなもの、金を用意するれば集まってくるだろう」

 

 親指と人差し指で丸の形を作る金の亡者(グレン)の言葉に、マットは呆れた視線を向ける。

 

「神羅に金はあるが、無限と言うわけではない。それに、金だけで雇った人間は金で裏切る」

 

 マット含め、周りの視線がグレンへと向かう。その視線が物語っているものに気づき、グレンは『さすがにそんなことはしねえよ』と返すが、何人かはどうにも信用できないという視線を彼に向けていた。

 

「俺はこう見えて正義の味方だ。神羅を裏切るなんてしねえよ」

「それだけで忠誠心があるとは判断されないということだ」

「なんでだよ」

「神羅が正義だとしても、敵には敵の正義があるということだ。もし、敵側の正義がお前の正義に近いものだとしたら?」

 

 マットの言葉に、グレンはばつがわるそうに視線をそらした。ルティアはため息をついている。

 

「つまり、《英雄》に盲目的にあこがれて、《英雄》に従うような兵士が欲しいってことか」

 

 その言葉に、マットはうなずいた。

 

「盲目的に従う人間が出てくるような《英雄》を作り上げる――広報部の腕の見せ所だろうな」

「気持ちのいい言葉を操って、《英雄》を作り上げるってか? 気に入らねえな」

 

 マットの言葉にグレンは吐き捨てるようにそう言った。そんな彼の背を叩きながら、マットは『安心しろ』と続ける。

 

「お前のようなスラムのクズと、売り出し中のスター様をかかわらせるとは思えない」

 

 その言葉に、ドッと笑い声が上がる。

 グレンが文句を言うが、誰もかれもマットの言葉にうなずくばかり。その後、誰かがミッドガルにできた新しいハンバーガー屋の話をし始め、話題がそちらへとそれていく。

 それきり《英雄》について話すものはいなかった。

 

 

 

 ところ変わってここは神羅ビルの科学部門フロア。

 深夜、だれもいない時間帯、小さな影が物陰に隠れつつ歩いていた。《それ》はケット・シー。リーブが操るぬいぐるみだ。

 なんとか潜り込むことができたと、内心ほっと胸をなでおろす。

 彼はとある人物に会わなければいけなかった。そのためには――

 

「ぬいぐるみ? エアリスのもの……ではないな?」

 

 突然身体が浮き上がる。誰かがケット・シーを抱き上げたのだ。全く気配を感じなかったため、突然のことにケット・シーは悲鳴をあげそうになるが、寸でのところでこらえる。ここはただのぬいぐるみのふりをしていた方が得策だろう。

 

「動いているように見えたけど……」

 

 独り言を言いながら、腕を引っ張ったり腹の部分を押す人物をケット・シーは見る。そして、また声をあげそうに――いや、こらえきれずにあげてしまった。

 

「セフィロス!?」

「……? ぬいぐるみがしゃべった?」

 

 セフィロスは再びケット・シーの身体をまさぐりだす。乱暴に扱われているわけではないが、こうも遠慮なしにさわられるとくすぐったい。

 

「科学班が作ったおもちゃか?」

 

 セフィロスの問いかけにケット・シーはどうしたものかと考える。目の前のセフィロスは――あの動きはともかく――一見普通の子供だ。うまくいけばどうにか言いくるめることができるのではないかと考える。

 そこでふと思い出した。ケット・シーの目的の人物は、目の前の彼とかかわりがある。

 

「えーと、そのー……人探しをしておりまして」

「人探し?」

「ええ、タークスのヴィンセントさんと言う方、知りませんか?」

 

 どうせここにはまた忍び込む予定だ。目的を果たすよりも、情報を得ることを優先しようと判断した。ヴィンセントの名前を聞いたセフィロスは、ケット・シーをじっと見つめて、問う。

 

「ヴィンスの知り合いですか」

「まあ、そんなとこです。どうにかして、会えたりしないかなーなんて」

 

 ハハハと笑って見せるケット・シーは、もちろん簡単に目当ての人物に会えるとは思っていない。

 しかし――

 

「かまいませんよ。一緒に行きましょうか」

「え????」

 

 抱き上げられたまま、あれよあれよという間にケット・シーはヴィンセントの元へと連れていかれる。

 案内された部屋で、目当ての人物は目を見開いていた。

 

「ケット・シー……?」

 

 ヴィンセントの反応を見たセフィロスは『本当に知り合いだったんですね』と言いながら、ケット・シーをヴィンセントに渡す。彼を受け取りながらヴィンセントは『少し二人だけで話したいから』とセフィロスを退室させた。

 

「その様子だと、記憶があるようですね」

 

 ケット・シーの言葉に、ヴィンセントはうなずいた。

 

「ああ。リーブ、お前もか」

「思い出したのは最近ですがね。居場所が割れているヴィンセントはんのとこに行こうと思ったら、まさかのもぬけの殻! 調べてみるとまだタークスとして神羅に在籍していると知って、驚きましたよ」

 

 言ってひとしきり笑った後、ケット・シーは低い声で言う。

 

「ヴィンセントはんの目的を聞いてもええですか?」

「セフィロスが狂うのを止めたい」

 

 その言葉にケット・シーはうなずいた。

 

「わかりました。協力しましょう。こちらはディープ・グラウンドをどうにかします」

「ああ、まかせた」

 

 ずっと、一人で戦っていくと思っていたが、ここで心強い仲間を手に入れた。ヴィンセントは口元をほころばせながら、握手を求めるケット・シーの手を握った。

 

 




三章投稿は間があくかもしれません。
三章の年号は[μ]-εγλ 1991(ラディオル島任務の前の年)です。FS組の出番が増える予定です
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