ヴィンセント逆行   作:キザキすい

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タイトルの通りようやくあの人が……


Ⅱ ルクレツィア

 

 

 一晩、ゲインズブール家で過ごした翌朝、ヴィンセントはセフィロスをつれてスラムを去ると伝えた。

 そのことにイファルナは顔を青ざめさせて声をあげる。

 

「それはいけません!」

「しかし、ここで五人もかくまってもらうわけにはいかない」

 

 タークスの制服ではない、黒い服に身を包んだヴィンセントは、セフィロスにフード付きのコートを渡しながら言う。

 

「それに、彼には連れて行かなければならない場所がある」

「?」

「彼の母親――ルクレツィアのところだ」

 

 イファルナは目を見開く。

 

「セフィロスの親は死んだと研究員が話していたけれど」

「生きている。まともに話せるかはわからないが、せめて顔だけでも見せてやりたい」

「……」

 

 イファルナは、ジッとヴィンセントの眼を見ながら『話があります』と切り出した。セフィロスに聞かせる話ではない話だ。ちょうど都合がいいことに、彼はガスト博士に呼ばれて部屋を出ている。

 

「セフィロスを、狙っている何かがいます」

「!? ……まさか、それは……ジェノバか?」

「わかりません。ただ、ソレを寄せ付けないようにする力が、エアリスにあります」

「……」

「エアリスは、アレはセフィロスを連れて行ってしまうのだと言っていました。だから、お願いです。定期的にエアリスに会わせてください」

 

 頭を下げるイファルナに、ヴィンセントは『ああ』と頷いた。

 

 

 

 神羅の研究室の一室が爆発したことについて、ニュースにはなっていない。新聞を読みながら、ヴィンセントはそのことを確認する。もちろん、そこから人が逃げ出したことも表には知られていない。

 追手は確実に現れるだろう。向こうが行動をする前に、こちらの目的を果たさなければならない。

 包囲網ができる前にミッドガルを脱出し、チョコボに乗って目的の場所へと向かう。神羅が何年も見落としていた場所に、彼女は眠っていた。

 薄暗い洞窟の奥――そこで眠っている女性に、セフィロスは目を見開いた。

 

「かあ、さん?」

 

 写真の人物を目にして、彼はなんと言葉をかけていいかわからない様子だ。きっと、言いたいことはたくさんあるのだろう。けれど、いざ相手を目の前にして、言葉が出てこない様子だった。

 セフィロスの声に、ルクレツィアは震える声を返した。

 

『セフィロス……?』

「そうだ、この子がセフィロスだ」

 

 ルクレツィアはヴィンセントを見て、目を見開き、微笑んだ。

 

『ヴィンセント、無事だったんだね』

「ああ」

『セフィロス、大きくなったわね』

 

 ルクレツィアの言葉に、セフィロスは照れくさそうにはにかんだ。

 

「母さん、会えて良かった」

『私も、あなたに会えて良かった。絶対に、会えないと思っていたから』

「どうして?」

『私は、あなたを苦しめた……』

 

 うつむき『ごめんなさい』と呟くルクレツィアにセフィロスは首を横に振る。

 

「ううん、俺は、母さんを恨んでいないよ」

『セフィロス……』

 

 ルクレツィアは涙を流した。

 

『優しい言葉をかけないで。許されていいのだと、勘違いしてしまう』

「《実験》のこと?」

 

 ルクレツィアはうなずいた。セフィロスは自分にされた実験のことをよく知らない。

 

「それは、よくわからないけど、だからって俺は母さんを恨みたくないし、これ以上苦しんでほしくない」

 

 セフィロスは、ルクレツィアが封印されたクリスタルに触れた。

 

「母さんの夢を見たんだ。ずっと、誰かに謝っていた」

『私も、小さなあなたに出会う夢を見た』

「俺、あの時に言いたかった言葉があるんだ」

 

 セフィロスはまっすぐにルクレツィアを見る。

 

「俺は、大丈夫だから、そんなに苦しまなくてもいいよ」

 

 セフィロスの言葉に、ルクレツィアは嗚咽を漏らした。

 

 

 

 

「もう、いいのか」

「言いたいことは言えました」

 

 それに、去り際セフィロスが『また、来てもいい?』と聞いたところ、ルクレツィアは初めて笑顔を見せて頷いた。

 

「けれど、また来た時は彼女の意識があるかはわからない」

「それでもいいんです。会えたことだけで、うれしいから」

 

 セフィロスは首から下げられたペンダントをぎゅっと握りしめた。そこにはルクレツィアの写真が入っている。

 

「セフィロス」

「はい」

「君は、自分がどうやって産まれたのか、知りたくはないか? なぜ、研究と実験の毎日なのか、気にならないのか」

 

 セフィロスはきょとんとした表情でヴィンセントを見上げて、少し考えてから口を開いた。

 

「言ったところで、教えてはくれないでしょう」

 

 ひどく冷淡な声だ。ぞくりと、ヴィンセントの背筋に冷や汗が流れた。

 しかしすぐに、セフィロスはいつもの調子で『でもいいんです』と言う。

 

「いつかは、ちゃんと話してくれますよね」

 

 まっすぐに見つめるセフィロスに、ヴィンセントはうなずいた。

 

「セフィロスが、もう少し大きくなったら、すべてを話そう」

「約束ですよ」

「ああ」

 

 

 

 

一方そのころ――

 

「あ」

 

 絵本を読んでいたエアリスは突然小さくつぶやくように声をあげた。

 気になったイファルナが『どうしたの?』と問えばエアリスは顔をほころばせながら言う。

 

「お兄ちゃんについていたもの、少し遠くなった」

「どういうこと?」

「えっとね……」

 

 エアリスは考えながらゆっくりと話す。

 

「今まで、お兄ちゃんは、あれについていこうとすることがあって……それだけど、お兄ちゃん、ついていく気が無くなったみたい」

 

 エアリスは『だから、大丈夫』と笑顔を見せた。

 

 

 




ラスボスルートへのフラグの一つが折られました。
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