ヴィンセント逆行   作:キザキすい

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これで三章[μ]-εγλ 1991は終わりです。


Ⅶ 英雄

 

 

 

 

 グレンたちが神羅軍の人間と合流し、しばらくたったころ――《ターゲット》が見つかったと報告が上がった。

 

「ちっ、もうみつかったか」

 

 舌打ちして小声で吐き捨てるグレンをマットが小突く。

 

「そういう感情は表に出すな。裏切り者として処分されるぞ」

「わかってるよ……ったく、ガキを傷つけるのは寝覚めが悪い」

「今回ばかりは、私もグレンに同感」

 

 ルティアまでもそんなことを言い出す始末。

 どうにかして逃がす方法はないのだろうかと小声で話し合うグレンとルティアに、マットはため息を吐いた。

 そんなことを話している間にも、自分たちは《ターゲット》に近づいていく。

 曰く、彼は人気のない森の中で、一人でいるらしい。

 

 ――ヴィンセントとセフィロスは別行動をとっているのか?

 

 そう考えながら、グレンは歩みを進める。途中、ルティアは別方向から、《ターゲット》を狙うために、グレンたちとは別行動をすることになった。

 木の陰からセフィロスを見る。まるで狙ってくれとばかりに、無防備な様子で、少し大きな岩の上でくつろいでいた。

 

 ――こりゃ、罠を仕掛けていると判断した方がよさそうだ。

 

 そう思ったが、口には出さなかった。

 その時、セフィロスがちらりとこちらを見た。

 おそらく、気づいている。セフィロスに気づかれているとグレンとマットは気づいたが、近くにいる兵士たちは、相手は子供と油断しているようで、一瞬こちらに視線を向けていたことに気づいていない。

 セフィロスは、おもむろに刀の鞘に触れた。瞬間、兵士達の間に緊張が走る。

 

 ――!? なにやってんだあいつ!!

 

 声を出さなかった自分をほめてやりたい。あろうことか、セフィロスは、武器である刀を投げ捨てた。

 すると腰を掛けていた岩からひょいと跳び下り、こちらへ歩みを進める。その途中で、彼は防具の類を次々に外すと、その場に落としていく。

 すべての防具を取り終わったセフィロスは、両手をあげた。

 

「投降します」

 

 よく通る声で、セフィロスは姿を見せない神羅兵にそう言い放った。

 一瞬の沈黙。

 

「はああああああああ!?」

 

 今度ばかりは声を抑えることができなかった。周りの兵士たちの目が痛い。マットには殴られた。

 対象にこちらの存在が気づかれたなら仕方ないと、兵士たちはぞろぞろとセフィロスの前に姿を現し、各々の武器を構え、セフィロスを取り囲む。

 

「ただし、条件があります」

 

 セフィロスは大量の兵士に動じることなく、言った。

 

「ヴィンスやガスト博士、イファルナやエアリスたち、ゲインズブール夫妻に危害を加えることはしないでください。約束してくださるなら、神羅の要求を飲みます」

 

 セフィロスは、まっすぐに兵士たちを見る。その視線だけで、未熟な兵士はひるんでいる。グレンも、相手が丸腰の子供と分かっていても、心のどこかで恐れを抱いた。

 

「もう一つ、条件があります。俺を神羅まで連行するのは、グレンさん、マットさん、ルティアさんの三人におねがいします」

 

 その言葉に、一斉にグレンたちへ視線が集まった。

 

 

 

 セフィロスが投降した経緯を聞いたヴィンセントは頭を抱えた。

 

「あの子は、いったい何を考えているんだ」

「お前を危ない目に合わせたくなかったんだろうよ」

「だが……!」

「あいつは、お前たちが思っているより、ずっと強いぞ」

「……」

 

 そのことは分かっている。しかし、ヴィンセントが本当に守りたいのは、セフィロスの心だ。

 

「あいつ、言ったんだ。『何かあった時は頼みます』って」

「……」

 

 おそらく、グレンたちが『神羅からの追手が増やされた』と伝えた時のことだろう。

 

「強くて、優しい奴だから、大切なものを守りたかったんだろうぜ」

「……私は、そんなものを望んでいない」

 

 うつむくヴィンセントを残し、ヴェルドとグレンは医務室を後にした。廊下を歩くさなか、グレンはあの後のことを思い出していた。

 セフィロスの要求通り、彼はグレン、マット、ルティアの三人により、全身拘束されたうえで銃を突き付けられ、ヘリに乗せられた。

 さすがにこの状況は心が痛む――と思ったのもつかの間、彼はヘリに乗り込むなりすやすやと寝息を立てて寝てしまったのである。

 この状況には神経が図太いと言われるグレンも、そんな彼に付き合わされていたマットとルティアも驚いた。

 

「こいつ、大物になるわ」

 

 思わず漏れたグレンのつぶやきに、二人はうなずいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘリの中で眠っていたセフィロスは、夢を見ていた。

 花畑の中で眠る、心地いい夢だ。

 穏やかな風に揺れる花がセフィロスの頬を撫でる中、誰かの心地いい手がセフィロスに触れ、彼の髪をやさしくなでた。

 それがとても心地いい。ぼんやりと目を開けてみるが、自分を撫でている人物の顔は、逆光でよく見えない。背格好と雰囲気から、十代後半から二十歳前後の女性だということは分かった。

 

「よく、がんばったね」

 

 優しい声で、その人は言った。

 

「でも、がんばりすぎないでね」

 

 なでながら続けられた言葉に、セフィロスはゆるゆると首を横に振る。

 

「頑張りすぎてなんかいません。俺はただ、自分のわがままを通しただけです。守りたかったからやっただけです」

 

 なでる手がぴたりと止まった。すると、彼女は覆いかぶさるように、セフィロスを抱きしめた。

 

「そうか……」

「はい……後悔は、ありません、けれど」

「?」

「少し、寂しいのかもしれません」

 

 セフィロスの言葉を聞いた彼女はもう一度ぎゅっと抱きしめる。そして身体を離した瞬間、一瞬だけ、彼女の顔が見えた。

 

「エアリス?」

 

 そうつぶやいた瞬間、セフィロスは目を覚ました。

 

 




次章は[μ]-εγλ 1992。ラディオル島任務の年ですが、FS編が終わっていなくて、グレンたちがどうなるか詳しくわかっていないため、ラディオル島任務についてはぼかします。

プロット全て書いてしまったのでFF7EC FS編 CHAPTER 6までの情報を元にしていることをご承知おきください。
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