ヴィンセント逆行   作:キザキすい

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Ⅱ バノーラ村

 

 

 

 セフィロスは、ヘリの中から窓の外を眺めていた。近くにいる研究員に気づかれぬように、コートの裾の、隠しポケットに触れた。ここには、折り畳み式携帯の下半分部分に似た通信機が入っている。小さな画面とボタンだけのそれは旧型の携帯電話にもよく似ていた。

 

『何かあった時は、頼ってください』

 

 そう言ってこれを渡した黒髪でひげの生えた男は、名をリーブという。ケット・シーを裏で操っていた人物であり、ヴィンセントの仲間なのだと言っていた。

 

『これから、大きな試練が襲い掛かってくるかもしれません。もし、そうなったときは』

『全力で戦います』

 

 まっすぐにリーブを見てそう返したセフィロスの両手を握り、リーブは目を伏せ、ゆっくりと首を横に振った。

 

『逃げてください』

『なぜ?』

『自分の力を過信してはいけません。どうか、戦うにしても、一人で抱え込まずに、誰かを頼ってください』

『……』

『私たちは、君の味方です』

 

 切実な思いを持った瞳にほんの少し戸惑いながら、セフィロスは『何かあった時は、頼ります』と頷いた。すると、彼はほっとしたような表情で、セフィロスの手を放す。

 

 ――ヴィンスの仲間と言うだけあって、あの人も心配性だな

 

 セフィロスは隠しポケットから手を放すと、窓の外を眺めるのに集中した。

 

「英雄。なにが、見えるのですか?」

 

 無機質な声は、近くに座る研究員のものだ。宝条の部下である彼は、セフィロスのことを人間だと認識していない。こういう研究員は、神羅の科学部門に掃いて捨てるほどいる。そんな彼らが、セフィロスは嫌いだった。

 

「海」

「海を見て何になります?」

「……見たことが無いから」

 

 それは事実だ。ヴィンセントと逃げている時も内陸部を通っていたため、海とはとんと縁がなかった。どこまでも続く水平線が、恐ろしくもあり、同時に『この先は何があるのだろう?』と好奇心を刺激した。

 ふいに、セフィロスは思った。

 もし、ヴィンセントと神羅から逃げ出して、追手もいなかったら、自分はどうしていたのだろうかと。どうしたかったのだろうかと。

 

 ――普通の生活。寝て、起きて、学校へ行って、友人を作って、それから。

 

 その先が、どうにも思い浮かばなかった。

 

 

 

 ヴィンセントが軟禁されている《バノーラ村》は、バノーラ・ホワイト――通称:バカリンゴと呼ばれるリンゴを名産品とする村だ。

 一見穏やかな村であるが、もともとは、神羅が魔晄採掘を行っていたところ、ウェポンが発見されたという曰く付きの場所である。そのウェポンの存在を隠すために作られた村が、バノーラ村だ。一部を除いて神羅の関係者が住んでいるこの村は、そのせいか神羅の影響を色濃く受けている。

 英雄を賛美する空気もそうだ。神羅を絶対の正義だと信じている者も多いためか、ここで生まれ育った少年は、英雄にあこがれる者が多い。

 こうしてヴィンセントのもとに訪ねてきた二人もそうである。

 どこから聞きつけたのか、ヴィンセントがセフィロスと会ったことがあるらしいと知って、ヴィンセントの元を訪ねる少年は後を絶たなかった。彼らすべてに対し冷たく突き放していたから、ほとんどの少年はこちらを訪ねてくることはない。―-が、この二人は別だ。なんど冷たく突き放しても、こちらに付きまとってくる。

 

「今日こそは英雄セフィロスの話を聞かせてもらいます」

 

 そう言ってまっすぐこちらを見上げている茶髪の少年はジェネシス・ラプソードス。この村の領主の息子であり――

 

 ――プロジェクトGの生存者

 

 ジェノバ細胞を移植した女科学者ジリアンの細胞を移植された女性の胎から生まれた少年。それが、ジェネシスだ。

 ガスト博士と見た資料を思い出す。

 ジェネシスの隣にいるのは、彼ほど押しは強くないものの、毎日ジェネシスにくっついて英雄の話を聞きたがる少年――アンジール・ヒューレー。彼もまた、プロジェクトGの生き残りだ。

 バノーラ村に飛ばされると知った時、確かにこの二人に接触しようと計画はしていた。しかし、接触方法を考えるまでもなく、向こうからこちらを訪ねてくるのだ。さすがにこれは想定外である。

 本来なら、《英雄セフィロス》の話題を提供して、うまく彼らに取り入ることが最善だろうが、ヴィンセントは、セフィロスの話題を娯楽のように消費することに抵抗があった。

 だから、毎回追い返して、たまに気が向けば神羅の話をしているのだが、彼らは飽きもせずにセフィロスの話を聞きたがる。

 

 ――今日も何も話を聞かずに帰ることはないのだろう

 

 英雄に並々ならぬあこがれを持つ二人の親に連絡を取り、強制的に追い出してしまうという選択肢もあるのだが、初っ端からクレームをかけるとなると、アンジールの母――ジリアンへの印象が悪くなる。彼女はジェノバプロジェクトの関係者だ。ある目的のためにも、彼女をこちらに引き入れたい。

 

 ――腹をくくるしかないか

 

 ヴィンセントはため息一つ、二人を自分の家の中に招いた。

 

「それで、いったいどんな話を聞きたいんだ」

「「英雄セフィロスは、どのくらい強いのか!」」

 

 ジェネシスとアンジールが声をそろえて言う。子供相手にあまり血なまぐさい話はしたくないと思いながら、ヴィンセントはセフィロスの戦闘記録を思い出した。

 

「そうだな……この家ほどのモンスターを一人で倒せるくらいだ」

「じゃあ、やっぱりミドガルズオルムみたいなモンスターも?」

 

 ジェネシスの言葉にヴィンセントは首を横に振った。

 

「まだ、無理だ」

 

 その言葉に少し残念そうな顔をするジェネシスと、苦笑いをするアンジール。

 ヴィンセントは、二人に言い聞かせるように言う。

 

「英雄と呼ばれているが、あの子はお前たちと変わらない年齢の子供だ。まわりが思っている以上に、できないことの方が多い」

 

 そう言ってはみるが、二人はどうにも納得していない表情だ。

 それを気にせず、ヴィンセントは問いかけた。

 

「二人はソルジャーになりたいのか?」

 

 ヴィンセントの言葉に二人は同時にうなずいた。

 それに苦い表情をしながら、ヴィンセントは言う。

 

「やめておけ」

「どうして? 俺は、英雄になりたいんだ」

 

 ジェネシスの無邪気な言葉。ヴィンセントは、ため息を吐く。

 

「英雄は、なりたいと思ってなるものではない」

「どういうこと?」

「それがわからないうちは、英雄にはなれない」

 

 そう言った後に、ヴィンセントは外に人の気配を感じた。窓から外を見ると、ラプソードス夫人と、ジリアンの姿が見えた。息子たちを迎えに来たらしい。

 

「ほら、お迎えだ。早く帰りなさい」

 

 さすがに母が来たとなれば帰らなければならない。少し残念そうに、二人の少年は『はーい』と答えて母の元へと向かっていった。

 

 

 

 

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