連れて行かれた先は研究室。
「何をするつもりだ?」
「お前の身体の中にあるものを調べるに決まっているだろう」
さっさと服を脱いでポッドの中に入れと宝条に言われ、ヴィンセントは顔をゆがめる。
「実験動物になる気はないぞ」
「拒否権があるとでも? ずいぶんセフィロスに肩入れするじゃないか」
言外に何かあるのかと問われる。それに対し正直にこたえるつもりはない。
「彼女の子だからだ」
「そういうことにしておこう」
宝条は何かの機会を操作しながらこちらを見ずに言う。
「そうだな。科学部門に協力するというのなら、セフィロスのそばに置いてやってもいい」
どうする? そう問われ、ヴィンセントは宝条の背を睨みながら「ああ」とうなずいた。
宝条の言う通り、今回は検査だけで終わった。未来のことを思うとこちらの体質を見破られるのはよくないことだとは思うが、どうせ知られるのも時間の問題だと、開き直ることにした。ディープグラウンドのことは後で考えればいい。
それよりまずはセフィロスのことだ。
セフィロスがいる部屋は、内側から容易に開けることができないようになっている。文字通り、彼を閉じ込める牢獄だ。
眠っているであろう彼を起こさないように音をたてないように部屋へ入る。
静かな寝息を立てる彼の手に貼られたガーゼに触れた。
一瞬、何かがざわめくのを感じる。
――なんだ?
カオスだ。自分の中のカオスが、何かを警告している。
――ジェノバか?
カオスもウェポンの一つ。星を守るために生み出されたウェポンたちと似た性質を持っているのか?
不意に、セフィロスがどこか遠くへ行ってしまうような気がした。思わず、彼の手を両手で包み込むように、怪我に障らないように優しく握る。
ゆるりと、手が握り返されると同時に、ヴィンセントの中のカオスが静まった。
「ん」
セフィロスが小さく身じろぎする。思わず手を離そうとしたが、それが強く握り返された。
「ヴィンセント、さん?」
「ああ、起こしてしまったか」
「いえ……へいき、です」
眠そうな顔でこちらを見るセフィロスは、ヴィンセントの手を離そうとしない。これはどうしたものかとヴィンセントはセフィロスを見た。どこか寂しそうな、迷子のような表情だ。彼がおずおずと手を離す。そんな彼の手を、また強く握りたいような衝動にかられた。
「セフィロス、今日はここで寝てもいいか?」
「え?」
「実は疲れてしまって、自分の部屋に帰る体力も無いんだ」
そう言えば、セフィロスはほんの少しうれしそうな顔をして、一人分のスペースを開ける。
「どうぞ」
「ありがとう」
セフィロスの隣に横になると布団をかけられる。
「寒いからもう少しくっついてくれ」
そう言って抱きしめれば、セフィロスは驚きつつ、少し恥ずかしがりつつ、ヴィンセントにくっついた。
なんとなく、バレットの気持ちが分かった気がする。彼がマリンを可愛がる姿がぼんやりと浮かんだ。そして、クラウドとティファが孤児たちの面倒を見ている姿も浮かぶ。
目の前のセフィロスは、あの時に見た子供たちと、そう変わらない存在のように思えた。小さく未熟で、寂しがり屋で、親の愛を求めている。そんな子供だ。
暖かな体温を感じながら目を閉じる。疲労が蓄積した体は、すぐに眠りに落ちた。
とある祠
そこで彼女は悪夢を見ていた。
自分の息子が実験体となり、ひどい目にあわされる悪夢を見ていた。
それと同時に、人ではない何かが息子を連れ去っていく悪夢も見ていた。
――セフィロス
声にならない声で、息子の名前を呼ぶ。
その頬に、一筋涙が流れた。
順調に父性本能刺激されています