シャワーから流れる湯で、体中の泡を流し、コックをひねって湯を止める。すると曇った鏡に映る自分が目に入った。普段、顔や身体の汚れがないか確認するくらいしか鏡を見ないが、その時は珍しくまじまじと、セフィロスは鏡を眺めていた。
ヴィンセントと初めて出会ったとき、彼は自分を見て『ルクレツィア』と言っていた。
――俺と母さんは似ているのかな?
濡れた手で曇った鏡をこすり、ジッと顔を見ながら、あのときヴィンセントから見せてもらった母の顔を思い出した。
髪の色は違う。瞳の色も同様だ。
前髪は、分け目が違うが少し似ているかもしれない。目元は、自分の方か幾分が鋭い気がする。
――俺が女だったら、母さんとよく似た顔になるのだろうか?
女になった自分を想像してみるがうまく思い浮かばない。当たり前だ。セフィロスの周りに同じ年頃の少女はいない。少年期の男女の違いというものが、よくわかっていないのである。
いつの間にか身体がずいぶんと冷えてきた。
このままでは風邪をひいてしまうと、セフィロスは脱所にあるバスタオルで身体を拭いた。
――ヴィンセントさんに聞いたら、答えてくれるかな
そうと決まればすぐ行動とばかりに、セフィロスは手早く服を身に着けるとヴィンセントを探しに脱衣所を出た。
すぐ近くにいたので、ヴィンセントはすぐに見つかった。
「ヴィンセントさん!」
ヴィンセントの元へ駆け寄ると、彼は優しそうな目でこちらを見たかと思ったら、少し厳しい視線を向けた。
「セフィロス、髪がずいぶん濡れているぞ」
「あ」
ヴィンセントに会いたいがために、濡れた髪を拭くのをおろそかにしていたことを思い出す。
ヴィンセントはため息をつき、セフィロスを脱衣所まで連れて行くと、そこにあったタオルで彼の髪を拭いた。
「ちゃんと髪を乾かさないと風邪をひくぞ」
「ごめんなさい」
「ところで、私に何か用があったのか?」
ヴィンセントの言葉に、セフィロスはうなずく。
「ヴィンセントさんと初めて会ったとき、あなたは俺を見て『ルクレツィア』と呼びましたよね」
「ああ、そういえば」
そうだった気がする――と、少し考えてから、ヴィンセントは言う。どうも意識を取り戻したばかりのころは寝起きでうろ覚えなのだという。
「俺は、母に似ているのでしょうか」
「うん、そうだな」
ヴィンセントはジッとセフィロスの顔を見てから言う。
「母親似だろうな」
「そうなんですね」
すっきりしたとばかりに、セフィロスは微笑む。
「鏡で自分の顔を見て、母親に似ているかどうかが気になったのか?」
ヴィンセントの言葉にセフィロスはうなずいた。
「はい」
「それで、髪を乾かすこともせずに私のもとに来た――と」
「……」
ばつが悪そうに眼をそらす。
そんな彼を見て、ヴィンセントはくつくつと笑った。
「思い立ったらすぐ行動。こうと決めたら周りが見えなくなるのも、ルクレツィアに似たのかもしれないな」
どこか困ったようにそう語るヴィンセントの瞳は、愛おしい者を見るようにとてもやさしい目をしていた。