金色のガッシュベル、アプリゲーム配信おめでとうございます!
ゲームにもこんなIFルートとかあったら面白いと思いますが、いかがでしょうか。


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カサブタの歌詞を見て思いつきました


もしも細川が大人だったら

 

 

 

 俺の名前は『細川』。しがない運送業勤務の青年だ。

 

 毎日毎日、代わり映えのしない仕事の毎日、だがそれで構わないと思っている。

 自慢して言える事ではないが、俺は人よりも“欲望”というものが強いと思う。あれが欲しい、これが欲しい。ああしたい、こうしたい。ああだったらいいのに、こうだったらいいのに、と。心の中の欲求は再現なく膨れあがっていく。

 

 もしもそれに身を委ねてしまったとしたら、俺は自己中心的などうしようもない人間になっていただろう。

 

 

 

 だが、そうはならなかった。俺は『大人』だからだ。

 夢とか理想とか、そんなものは現実としっかり向き合う事で折り合いをつけられる。欲望だってそうだ。

 

 幼い頃より誰よりも強欲な人間だと自覚していたからこそ、俺はその感情を心の内に仕舞い込めるようになり、模範的な大人として生活をしていく事が出来ていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 そんな平凡な俺の人生に、ある転機が舞い降りて来た。

 

 

 ボリボリボリボリボリボリボリボリボリ…………

 

 

 ある日の深夜。

 自社の冷凍倉庫に納入作業を行っていると、奥の方からそんな音が聞こえて来た。

 

 気になって様子を見に行くと、そこには冷凍のブリまるごとを大口を開けながら食べている青髪の少年を見つけた。

 俺が想像もしなかった光景に立ち尽くしている間も、その少年はまるでせんべいを食べるかのように凍っているブリを食べていた。

 

 

「き、君……何をしているんだ。人の物を勝手に食べたら怒られるぞ……」

 

 

 彼が食べているのはうちの会社で取り扱ってる商品だ。とにかく止めさせないといけない

 そう結論を付けた俺の頭だったが、混乱した思考が絞り出せた言葉はこの場に似つかわしくない少々的外れな言葉だった。

 

 

 だが少年はその言葉に冷凍ブリを食べる手を止め、俺の方に振り返り()()()()笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌日。

 俺は上司のもとへこの少年。『レイコム』を連れていった。

 

 

 あれからレイコムは何も言わず、俺の後ろをついて来るようになった。複雑な事情があるのだろうと思ったが、今は何も聞かなかった。

 見た目7~8歳程度にしか見えない少年が一人でいた事もそうだが、冷凍のままブリをかじれる身体能力を持つ少年をどう扱うべきか、俺自身もわからず途方にくれていたのだ。

 しかし俺は大人で、彼は子供。追い出したり邪魔者扱いする事は間違っている、今は彼を保護し安全を確保するのが俺の役目だ。

 

 

 だがそれはそれとして、彼がやった事は立派な窃盗だ。きちんと責任を取るべきである。

 俺は上司に、昨夜考えたレイコムのカバーストーリーを語る事にした。

 

 レイコムは両親に不遇の扱いを常日頃から受けており、叔父である俺は彼の事を常日頃から気にかけていた。

 甥かわいさに俺が以前この倉庫の入り方を教え、昨日レイコムは両親の命令で商品を盗み出してしまったという話だ。

 失った商品の補填は俺が受け持つし、レイコムは今後このような事をしないように一旦俺が預かり教育すると上司に伝えた後、レイコムの頭を下げさせた上で俺も謝罪した。日本人が誇る最強の謝罪方法DO☆GE☆ZAだ。

 

 

 しばしの沈黙の後、上司は「今後二度とこのような事がないように」と念押しした上で謝罪を受け入れてくれた。

 何でも昨夜の盗難事件は、まるでブリが消えたかのように持ち出された手口から、内部犯を疑われていたらしい。まぁ誰もその場で食べたなんて信じられないだろうからな。

 もし今後もこのような事が重なった場合、自社の信用問題にまで発展し、最悪適当な社員を犯人として処理しなければならない程だったらしい。

 

 

 それを聞いて俺は心底安堵した。

 もしもレイコムを昨夜保護してなかったら。いや、あり得ない事だが保護しておいて食事も与えない環境においていたら。

 レイコムはあの倉庫で盗み食いを繰り返し、何の罪もない社員が例えば「タメ口をきいた」なんて理由でクビになっていたかもしれないのだ。

 

 やはり人は正直に生きるべきである。

 俺は改めて正しく生きる事の大切さを学んだのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「キャ────────!! ひったくりよ────ー!」

 

 

 閑静な住宅街に女性の悲鳴が響く。

 自転車に乗り、女性のハンドバックを追い抜きざま奪い取った男は上機嫌でそのまま自転車を走らせていた。

 

 

「ヘッ、楽勝だぜ。これだから止められねぇ」

 

 そのまま女性を振り切り、細い路地に入った瞬間……。

 

 

 

「《フリズド》!」

「うわぁぁぁあああああ!! がぁっ!」

 

 凍り付いていた地面に滑り、自転車は横転した。

 

 

 

「いつつつ。な、なんでここだけ道が凍って……」

 

「お前、悪い奴なんだろ?」

 

「!!?」

 

 ひったくりの男が声を掛けられ顔を上げる、その道の先。路地の奥に一人の少年と男が()()()を持った男が立っていた。

 

 

「なぁ細川。あいつ悪い奴なんだよな?」

 

「あぁそうだ、レイコム。あいつは悪い事をした悪い奴なんだ」

 

 

 青い髪をした少年が何度も問いかける。間違いがないか確認をするように。

 

 そして隣のくたびれた格好の男がそれを肯定する度に、少年の口が吊り上がり笑みとなっていく。

 

 小学生程度の背格好の少年。だがその少年が放つ圧力に、男は恐怖を感じていた。

 

 

 

 

「な、なんだお前……なんなんだお前?!」

 

「悪いことをした奴ならなぁ、悪いことをしていいんだぜぇ!」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!」

 

「《ギコル》!!」

 

 

 少年の口から鋭い氷柱がいくつも放たれ自身に襲い掛かる。

 

 既に心の折れかかっていたひったくりの男はそれがトドメとなり、自身の体が何本もの氷柱に貫かれる様を想像しながら意識を手放したのだった。 

 

 

 

 ***

 

 

 

「よくやったな、レイコム」

 

「あぁ。ありがとう、細川」

 

 

 俺はレイコムの頭を撫でながら優しく声をかける。

 最初は難しい顔で固まるだけだったが、今ではレイコムも素直に受け入れられるようになっていた。

 

 

 俺はレイコムを保護してから、無理のない範囲で彼の事を聞いた。

『魔物』だとか『魔界』だとか言っていたが、本質的には人間と同じ事がわかれば十分だ。

『魔界の王を決める戦い』というものも聞いたが、そんなものよりも大事な事があった。

 

 

 

 

 

 

 

 俺のやらなければならない事、それはレイコムの()()だ。

 

 いくら魔界だからといって窃盗が許される世界など世紀末だけだ。幸い魔物の中には「ヒャッハー、人間は消毒だー!」などと言い出す様な輩はいないと言っていた。ならば人間界流の教育を当てはめても問題はないだろう。

 

 

 レイコムの家庭事情も少し聞いてみたが、両親は健在。それなりに愛情を受けているだろう事はわかった。

 だがそれは大人になった俺だから理解できる内容だった。レイコムが語る両親の姿は、彼等を毛嫌いしていることが節々から感じられた。

 

 それにレイコムに趣味を聞いたところ『悪いこと』と返って来た。

 具体的な行動ではない、()()()()だ。恐らく両親の愛情を感じ取れないせいで、少々歪な形になってしまったのだろう。

 

 

 それを聞いた俺は決意した。

 必ずやレイコムを真人間として成長させてみせると!! いや、真魔物というべきか? 

 

 

 

 

 やる事は考え方の改革だった。

 いきなり「悪いことをやめろ」といって無理矢理に欲求を抑えつけても何一つ良い事はない。俺自身が実例だ。

 なので『悪いこと』を『別のこと』に考え方をゆっくりと変えればいい、レイコムはまだ幼い。時間はたっぷりとある。

 

 

 その第一歩として俺は『悪いことをするのは悪い奴にだけ』と教えた。

 当然、悪い奴なんてそうそういるものじゃない。頻度はかなり少なくなってしまうだろう。だがそれでいい。

 

 

 

 

「本当にありがとうね、ボウヤ。怖くなかった? 本当に勇気がある子だわ~」

「な、何でもないさ。こんなの」

 

 ひったくりからハンドバックを返したレイコムは、女性から感謝を言われ照れながら返事を返す。

 

 そう。頻度が少ないからこそやってやった時の達成感、高揚感は今までの比ではない。

 それに加え、俺も含めて徹底的に褒める、褒めちぎるのだ。あまり両親から褒められた経験のないレイコムは戸惑いながらもそれを受け入れ、段々『悪い奴に悪いことをする』という目的を薄れさせていくのだ。

 後はやりすぎない様に、俺自身がブレーキとなってやり方を調整すればいい。

 

 

 

 これが、俺が考えた『レイコム真人間化計画』だ。

 

 

 

 ***

 

 

 

「なぁ、細川。これみなよ」

 

「ん? なんだレイコム」

 

 

 そんな事を続けていたある朝、新聞を読んでいたレイコムが俺にある一面を見せて来た(悪い奴を探す為、レイコムはよく新聞を読む)。

 

 

 

【お手柄中学生!! 銀行強盗逮捕!】

 

 

 そう書かれた見出しにはレイコムと同じくらいの金髪の少年と、包帯を頭に巻いた()()()()()()()()()()()中学生くらいの少年が映っていた。

 

 

「……こりゃぁやばいな」

 

「やっぱり細川もそう思う?」

 

「あぁ、地方新聞とはいえ多くの目に入る。こいつ等、狙われるぞ」

 

 

 写真の表情を見る限り、こいつらにアピールをする気はない。偶然か。

 なんにせよ『魔界の王を決める戦い』を優先しない俺達みたいなやつ以外は誘蛾灯の様にこの少年たちに群がる事だろう。なら俺のすべきことは……

 

 

 

「行くぞ、レイコム」

 

「戦うのか?」

 

「それはこいつら次第だが。この新聞を見て悪い奴が狙わないとも限らねぇ」

 

「!! そうか、悪い奴がくるんだな」

 

「あぁ。モチノキ町へ向かうぜ」

 

 

 願わくば、この金髪の少年がレイコムの()()になってくれる事を願うだけだ。

 

 

 

 


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