十一月四日には更新したかったのですが、どうにも筆が進まず、二日ほど日にちがズレてしまいました。
…………あ、なぜ四日なのかは誕生日だからです。
ふっふっふ。ついにこれで合法的に十八きnーーイエ、ナンデモアリマセン。
なるべく週一更新を心がけるつもりですが、遅れてしまうこともあるかもしれません。その時はどうぞ御容赦下さい。
では、本編をどうぞ。
キバットより告げられた緊急事態に大慌てで帰還したライは、音もなく自室のバルコニーに着地する。
返り血で悲惨なことになっていた元々の服装はさっさと破棄して別のものに着替えを済ませている。これは気を利かせたキバットに感謝するしかない。いくらなんでも血塗れはないだろうし。
「さて……」
小さく深呼吸して、逸る気持ちを落ち着かせる。
クロメの状態にもよるが、落ち着かせる側の自分が取り乱していてはどうにもならない。
そっと窓を開けて、ライは部屋へと入った。
ーー部屋の中は強盗にでも荒らされたのかと思うほどに散らかっていた。
本棚やタンスは引っ繰り返され中身が床に散らばっており、ティーカップなどの食器も粉々に砕かれてしまっている。よくよく見てみれば窓には罅が入っている。
元々そう多く物を置いていない部屋だったことが幸いした。後の片付けが多少は楽になる。
そして、この惨状を作り出した犯人は、部屋の中央にヘタリ込んで茫然としていた。
「クロメ」
意識して、優しく声をかける。
兄の声に反応したのか、ビクリと肩を震わせるクロメ。
ゆっくりと顔を上げた彼女の瞳にはまるで光が宿っていなかった。
「おにい、ちゃん?」
光の宿らない空虚な瞳がライを映し出しーー次の瞬間、その目に怯えが宿った。
人の感情の機微に必要以上に敏感なライは、クロメの感情を理解するなどわけもない。その原因が自分自身にあることを察することさえも。
近付くライから逃げるように後ずさりーーするよりも早く距離を詰めて、華奢な体を包み込むように抱き締める。
「ひぅ……」
肩を大きく震わせて咄嗟に離れようとしたクロメを更に強く抱き締めて、ゆっくりと頭を撫でる。
「ごめんね」
耳元で囁かれた言葉に、震えが治まる。
「クロメのことが嫌いになったわけでも、怒ってるわけでもないんだよ。ただちょっと、散歩に行っていただけで。ごめんね?心配したよね?本当にごめん」
「あ……う……」
優しく頭を撫でながら、そう囁く。
あくまで優しく。クロメに一切の非がないことを訴える。この時に部屋の惨状について言及することはしない。言ったところで無駄なのだ。
何故なら、この惨状はクロメ自身も無意識の内に行ったことなのだから。
以前も似たような出来事があり、その時は妹に甘いライも心を鬼にしてクロメを叱り付けたこともあった。が、クロメは心当たりがないと言ったように瞳に涙を溜めながら首を傾げるばかりだった。
演技などではなく、本当に何故怒られているのか分からないと言った表情で。
それがクロメの自身に対する依存心から来る暴走だということに気付けたのは、かつての世界の親友……その妹が同じような状態になっていた時期があったからだ。
目の前で母親を殺され、その精神的なショックから心を閉ざし、兄一人だけに傾斜していた少女。彼女もまた兄が不在の時はクロメと同じように無自覚で暴走し、時には己自身をも傷付けることさえあった。幸いにしてその少女は兄のーーそしてライのーーもう一人の親友が閉ざされた世界に踏み込んできたことによって改善されたが、クロメにはそう言った相手がいない。
クロメの世界は今も昔も、酷く狭い。三人ーーあるいはもしかすると二人だけで完結してしまっていることもあり得る。
どうにかしないといけない。それは分かっている。
だがーー
「本当……?本当に、怒ってない?」
「ああ。勿論」
「……もう、私を置いて何処かに行かない……?私を一人にしない?」
「……ああ。そうだな。時と、場合にもよるけどね」
そう言うことで、クロメを落ち着かせると同時にその依存を深めてしまっていることを理解しながら、それでもどうすることもできない自分が酷くもどかしい。
(せめて、もっと早くタツミが仲間になっていてくれたら……)
そう考えてしまう自分が憎い。本来はライ自身の手で片付けなければならない問題を他者に押し付けようとしている自分が。既に諦めかけている自分が許し難い。
そんな自身の苦悩などクロメには微塵も感じさせることもなく、優しく撫で続ける。
「えへへ……よかったぁ」
幸せそうな笑顔で、今度こそ完全に怯えは払拭されたのか、自らの身を委ねる。
頬を胸板に押し付け、心臓の鼓動の音を愛おしそうな顔で聞いている。
「私ね、お兄ちゃんの全部が好き」
唐突に、クロメがそんなことを言い出した。
「お月様みたいに綺麗な髪が好き」
持ち上げられた手がライの髪に触れる。さわさわとその感触を楽しむようにくすんだ銀の髪を撫でて、顔の輪郭をなぞりながら下へと指先が移動する。
「宝石みたいにキラキラしている目が好き」
ぐいっと顔を近付けて蒼い瞳に口付ける。咄嗟に閉じた瞼を舌で舐めて、名残惜しげに顔を離した。
「微笑んでくれる唇が好き。優しい言葉をくれる声が好き」
指先で口周りをなぞり、唇を撫でる指先が往復する。
ライは、抵抗しない。これが暴走した後の習性のようなものだと理解しているから。
クロメのような美少女にこんなことをされれば理性が焼き切れそうでもあるが、そこはそれ、クロメは“妹”でライは“兄”。その関係性がある限り、ライが我を忘れて襲いかかるーーなどということはあり得ない。
「クロメ」
「なぁに?お兄ちゃん」
「そろそろ寝よう?休める内に休んでおかないと、明日も早いから」
「……お兄ちゃんがそう言うなら」
不承不承、と言った感じだが、クロメは基本的にライに逆らうことはない。こう言った“スキンシップ”を黙認し続ければ最終的にどうなるのか予想できないのだし、強引にでも打ち切ってしまう方がいいと言うのは経験上よく分かっている。
布団に潜り込むと、当然のように抱き締められる。それはまるで、外すことのできない拘束具のように。
「お休み、お兄ちゃん」
「お休み、クロメ……」
優しく頬を撫でてやると心地よさそうに目を細めながら更に身体をすり寄せるクロメ。
そんな彼女の表情に癒されて、彼女の依存心を切り離さなければいけないと、そう思う心の何処かで、「このままでもいい」と思っている自分のことがどうしようもなく憎い。それこそーー
ーー殺してやりたいと、思うほどに。
「うっし!今日も一日頑張ろう!」
気合を入れるようにパンッと頬を叩いて眠気を覚まし、タツミは日課の修練を始める。
剣の素振りは勿論、基礎体力向上のためのランニングも欠かせない。アップダウンの激しい土地柄、こう言った修行がやりやすいのは幸いである。
「おっ、朝っぱらから気合入ってんな、タツミ!」
「あ、兄貴!」
と、そこへ現れたのはリーゼントが目立つ大柄な男性、ブラートである。
木製の訓練用の槍を手にしていることから、目的がタツミと同じ朝練であることは疑いようがない。
「言い忘れてたがこの間は任務ご苦労だったな」
「い、いやぁ、それほどでも……」
謙遜しつつ、まんざらでもない様子のタツミ。尊敬している人物より褒められると嬉しいのは誰だって同じである。
そんな、謙遜しながらも照れるタツミの背後から、高速で飛翔する物体が後頭部に激突する。
「いったぁっ!?」
タツミ、堪らず絶叫。
完全に油断しきっていたところにいきなりの衝突。これは痛い。
「な、なんだ!?敵襲か!?」
「ふん。この程度の奇襲に反応できないとは、まだまだ未熟だな、タツミ?」
不敵且つ尊大な口調の低い声。絶対の自信を言下に容易に感じ取ることができるその声の主には心当たりがあった。
と言うより、該当する者が一人?しかいない。
「キバットじゃねぇか。こんな朝っぱらからお前が起きているなんて珍しいな」
と、心底珍しそうな表情のブラート。
対するキバットは機嫌悪そうに鼻を鳴らした。
「貴様が普段、どんな目で俺を見ているのかよく分かったぞ。この報復はいずれ必ずさせてもらう……!」
尊大な口調の通り、プライドの高いキバットである。
それはともかく、何故キバットが此処にいるのか。と、不思議そうに首を傾げるタツミ。
「なぁ、キバットってライさんの帝具なんだろ?なんで此処にいるんだ?」
「む?……なんだ、お前達。まだ説明してなかったのか?」
不機嫌そうな顔から一転して呆れたように言うキバット。バツが悪そうにブラートは頬を掻いた。
「あ~、それな。ぶっちゃけ忘れてたんだよな、説明すんの」
「ええ!?」
タツミ、二度目の衝撃。
ナイトレイドのみんな、実践主義過ぎないだろうか?習うより慣れろが多過ぎて若干挫けそうである。
思えばライが一番優しいのかもしれない。訓練は死ぬほどキツかったが。
「悪い悪い。後でちゃんと説明するからよ。ーーで、お前が来ってことは“そう言うこと”なんだよな?」
「無論だ」
先程までの何処か巫山戯たものとは違う、任務に挑む時のような雰囲気に一瞬で切り替わる。
此処までの切り替えの早さは、タツミにはまだできない。
(俺ももっと頑張らないとな……)
「分かった。じゃあ、俺はボスを読んでくるからタツミはみんなを会議室まで集めてくれ」
「押忍!」
決意を新たに、早速仕事に当たるタツミであった。
「ーーさて、今回の話し合いを始める前に、だ。タツミ、なんでお前は既にボロボロなんだ?」
「不幸な事故っす」
頬に赤い紅葉を張り付けたタツミは、憮然としながらそう言った。
そんなタツミに噛み付く少女が一人。
「何が『不幸な事故』、よ!この覗き魔!変態!」
……お察しの方もいるかもしれないが、マインその人である。
ブラートの指示を受けてメンバーを呼びに言ったタツミであったが、既に起きているメンバーと未だ夢の中にいるメンバーがいた。
起きているメンバーについては滞りなく済んだものの、眠っていたメンバーについてはちょっとした問題が起こったのだ。
その問題と言うのがーー
「だから誤解だって言ってんだろ!大体、ノックした時にお前が返事をしないのがそもそもの原因じゃねぇか!!」
「だからって女の子の部屋に勝手に入る普通!?あんたはデリカシーがなさすぎるのよ!この馬鹿!」
マインが着替えている最中に部屋へと入室した、という……ラッキースケベな所謂“お約束”である。
「ああ!?誰が馬鹿だと、この馬鹿!」
「あんたに決まってんでしょうが!バーカ!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!」
「うるっせぇ!!お前の方が馬鹿だろ!この馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!」
「何よ!」
「何だよ!」
「……どうでもいいけど、仲いいねぇ、お前ら」
「「何処がだ!」」
息ピッタリなところがだよ、と口には出さずにレオーネは苦笑するだけに留めた。こう言った諍いを宥めるのはライなのだが、いないのだから仕方ない。触らぬ神に祟りなし、賢明な判断である。
「やれやれ……朝から元気があるのはいいことだが、ひとまずは話をさせてくれ。痴話喧嘩はその後にすればいいさ」
「だから、痴話喧嘩なんかじゃないって言ってるでしょうが!!」
「マイン、抑えて」
荒ぶるマインを苦笑しながら宥めるシェーレ。任務で組むことも多い二人だが、こう言った性格の相性もあるのかもしれない。
「ボス、話しを」
「お前がいると随分と楽になるな、アカメ」
苦笑と共にそう言って、ナジェンダは一瞬で雰囲気を切り替えた。
それに応じて他メンバーも雰囲気を切り替える。
「話をさせてくれ、とは言ったが、今回は私ではなくーー」
「俺から話すことになる」
翼を羽ばたかせながらそう言って来たのは、闇色の身体を持つ蝙蝠ーーキバットバットⅡ世である。
「キバット!ってことはーー」
「兄さんからの直接の依頼……!」
驚くラバックと兄からの依頼に僅かに顔を綻ばせるアカメ。
「そうだ。今回の件はライから直接頼まれた」
キバットの言うように、ライから直接(と言ってもキバットを介してだが)依頼するのはそう多いことではない。普段、ライが依頼を申し込む場合は大抵の場合痕跡を辿られないようにいくつもの偽装と仲介を介しているため、それがライからの依頼であると理解しているのはナジェンダぐらいのものである。
まぁ、大抵の場合ライの依頼は民からの依頼とほぼ同じ内容なので、誰が依頼しようと大した違いはないのだが。
「って言うかさ、そろそろキバットが此処にいる理由を教えてくれよ」
「ふむ。そう言えばまだ説明してなかったな」
と、ナジェンダが頷く。
「ちょうどいい。今此処で説明してしまおうか。ーーライが、帝都の宮殿内で将軍として潜入任務を遂行していることは知っているな?」
「ああ」
それは勿論知っている。
と言うか僅か一年で帝国の将軍にまで登り詰めることがどれほどの偉業なのかは、そういうことに疎いタツミであっても容易に分かる。
つくづくライと言う人間のとんでもなさに驚嘆する。
「あの魔の巣窟みたいな場所で将軍にまで成り上がるって、ホントに化け物みたいだよな」
「……いくらラバでも、兄さんの悪口は許さない」
「いや、アカメちゃん?今のは悪口とかではなくてですね、単に言葉の綾っていうか、いい意味での化け物だから。だからとりあえず村雨の柄に置いた手を退けようか?」
文字通りの意味で一撃必殺の妖刀に手を掛けるアカメと脂汗を滝のように流すラバック。兄のことになると異様に沸点が低くなるのはブラコン故の弊害か。普段は人間味が薄い無表情ばかりなのでこう言った一面があることはいい意味で親しみが持てるのだが、軽口を言った程度で死の危機に直面するのは遠慮したい。
口は災いの元、と言う諺を深く心に刻みつけるタツミであった。
「やれやれ。アカメの病気にも困ったものだな。ーーと、それはともかくだ。ライは帝国内部の情報を誰よりもよく把握している。だが、それを伝えることは難しい。当然だな。将軍の地位になると権力や特権も増えるがその分身動きが取りづらくなる。軽々しく革命軍と密会を拓くわけにもいかんしな」
これが帝国を裏切り、革命軍に加担するのならまた話は違ってくる。が、ライの場合はそもそもの順序が逆なのだ。
“裏切る”のではなく“潜り込む”。敵陣の真っ只中に素知らぬ顔を飛び込む胆力はまさしく“化け物”と称するしかないだろう。当初、ライがその計画を話した時は誰も本気にはしていなかった。それをあっさりと成し遂げたのだから、当時は冗談抜きで開いた口が閉じなかったものだーーと、懐かしい過去に若干思いを馳せるナジェンダ。
が、すぐさま意識を切り替えたのは流石というより他はない。
「得られた情報を伝えられなければ意味がない。そこで登場するのが」
「この俺、ということだ」
「……そうか、キバットなら見付かりにくいしわざわざ紙に書いて知らせる必要もない!」
ようやく疑問が氷解した、と言ったタツミの表情は明るい。
「そう言うことだ」
「っていうかそんなことも分からないなんて、あんたってホント馬鹿ね」
「んだとコラァ!?」
嘲るように嗤うマインに我慢の限界が来たのか怒髪天を衝くとばかりに怒鳴るタツミ。
しかし、当のマインは素知らぬ顔をしている。タツミのことなど眼中にもないようである。
「落ち着いて下さい、タツミ。マインもタツミを挑発しないで」
険悪な雰囲気になりかけた二人の間を慌ててシェーレが取り持つ。……何だかんだで一番の苦労人気質は彼女なのかもしれない。
「……そろそろ話を始めるぞ」
「あ、はい」
いい加減に苛ついてきたのか低い声で告げるキバットに先を促す。
そもそもは彼からライの依頼について聞くのが目的なのに色々と脱線しすぎた。
それぞれ自覚があるのかどことなくバツが悪そうに居住まいを正した。
「ようやく話が始められる……。今回の話というのは他でもない。現在帝都に出没する連続通り魔についてだ」
「連続通り魔?」
「ああ。……まぁ、最近はなりを潜めているようだが」
「それが今回の標的ってわけ?」
「そうだ。実は既にライが接触し、一度は交戦した」
『ーーっ!』
何気なく放たれた言葉に、その場の全員が硬直した。
ライと言えば、ナイトレイド……革命軍最強の切り札である。
その実力は帝国最強と名高いエスデスに匹敵するとまで言われるほどであり、実際、それを証明するのが今の彼の立場だ。
キバットが管理する『キバの鎧』を身に纏った時の戦闘能力は言うに及ばず、生身の戦闘能力も桁外れのライと交戦し、その上で取り逃がした?
「おいおい……アイツが取り逃がすほどの相手を俺達で倒すってのはちょっと無茶じゃねぇか?」
「何時になく弱気だな、ブラート」
「いや、そうは言ってもよ……」
ライの実力は文字通り“骨身に染みて”理解しているブラートだ。
それが及ばぬ相手となると一体どんな化け物が出てくるのやらと、想像するだけで気が滅入る。
「安心しろ。標的は別にライ以上の怪物でもないし、お前達以上の実力者というわけでもない」
「ふむ……詳しく話してもらおうか」
「元よりそのつもりだ。と言っても、標的について話すことなどそう多くはないがな」
そう前置きしてから、キバットは話し出した。
曰く、今回の標的は帝具を持っているということ。
曰く、帝具の名は『スペクテッド』と言い、その能力は“五視”の能力を持つと言うこと。
曰く、標的は首を斬ることに快楽を見出す精神異常者であること。
などである。
「ライと交戦し、負傷を負うまでは深夜に無差別に現れ首を切り取っていたらしい。被害者の中には帝都警備隊の連中もいる。帝具抜きにしてもそれなりの実力者であることに間違いはないだろうな」
「首斬り……そいつの名前は分かっているのか?」
「いや。まだ調査中、とのことだ」
「なら十中八九そいつは“首斬りザンク”だね」
首斬りの精神異常者なんてそいつぐらいしか思い浮かばないし、とラバックは続ける。
「な、なぁ、そいつって誰だ?」
「ん?タツミは知らないのか?ってああ、田舎じゃそこまで有名じゃないのかもな」
いいぜ、教えてやるよ、と耳打ちするタツミに笑いかける。
元はそれなりにいいのでそうやって好青年を装い続ければモテそうなものだが、そこはそれ、内からにじみ出る“残念臭”のようなものがその魅力を妨げてしまっている。しかし何時も何時も覗きを敢行しようとしたりと常日頃から変態行為に勤しんでいるので自業自得と言えばそれまでなのだが。よって、同情の余地はない。
「知らないの?本当にド田舎から来たのね」
と、二人の会話を聞いていたのか呆れたように言うマイン。
「うるせぇな。お前には聞いてないっつうの」
憮然と返すタツミに何かを言おうと口を開きかけたマインだが、
「すみません。私も分かりません」
「シェーレは多分忘れてるだけだと思うわ……」
天然なのか計算なのか、タイミングよく口を挟んだシェーレによって出鼻をくじかれたマインであった。
「とりあえず、説明な」
首斬りザンクは元々帝国最大の監獄で働く首斬り役人だった。
大臣のせいで処刑する人間が多く、毎日毎日、命乞いする人間の首を斬り続けてきた。
それを何年もの間繰り返し続けて行く内に、首を斬ることが癖になってしまった。その時点で既にザンクは壊れてしまっていたのだろう。
そう考えると哀れではあるが、同情の余地はない悪人であることは間違いない。
「で、監獄で斬ってるだけじゃ満足出来なくなって、辻斬りになったってわけ」
そう言って、ラバックは説明を打ち切った。
「毎日毎日そんなことを繰り返していけば、そりゃおかしくもなるわな……」
「同情なんかするんじゃないわよ。どんな理由があったとしても、ザンクが何の罪もない人々を無差別に殺しているのは確かなんだから」
「わ、分かってるよ」
何時になく真剣な表情のマインに気後れし、悪態をつくことなく頷く。
「分かってるならいいわ」
髪をかき上げて何事もなかったかのようにタツミから視線を外す。
「今回はその“首斬りザンク”を見付け出して始末しろ、と言うのがアイツからの依頼だな」
「でもザンクは負傷して今は姿を眩ませてるんでしょ?どうやって見付けるのさ?言っとくけど、怪しいところを片っ端から探す、なんてことはお断りだぜ?」
「問題はない」
ラバックの言葉に、表情を小揺るぎもさせずに堂々と宣言する。
「ライ曰くーー『布石は既に打ってある』、だそうだからな」
その後、ライが交戦して得られた帝具の情報と残りの能力の推測と帝都警備隊の巡回経路を説明して、キバットはアジトを去って行った。
任務が始まるまではまだ時間があるため、一人でアジト内を目的もなくぶらついていたタツミは偶然にも同じく一人だったアカメと遭遇した。
そこでふと、タツミはアカメ帝国を裏切ったと聞いた時から気になっていたことを尋ねて見ることにした。
「なぁ、アカメ。一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「いや、さ。アカメが帝国を裏切った経緯はレオーネ姐さんに聞いたんだけど、ライさんが離反した経緯は聞いてなかったからさ」
「兄さんが離反した経緯?」
不思議そうな顔で聞き返してくるアカメ。それは単に話したくない、と言うより、どうして知りたいのか、と不思議に思っているような表情だった。
流石に唐突すぎたので、タツミも説明を付け加える。
「ほら、此処にいるメンバーはみんなライさんのことを知ってて、仲もいいだろ?でも俺は最近来たばっかりだからライさんについて全然知らないんだよ。物凄くスゲェ人だってのは分かるんだけどさ、やっぱりこう、もうちょっと詳しく知りたいな、と」
成程、と心中で頷く。
確かに自分達は昔からライのことを知っているが、タツミは全然知らないのだ。それでいてことある毎に彼を持ち上げ称賛するのだから、気になるのも当然だろう。
アカメとしても兄について語るのは嫌ではない。むしろ語りたいのだから、タツミの提案はまさに渡りに船、と言ったところだろうか。
「それで、兄さんが帝国を離反した理由だったな」
「ああ。簡単にでいいから聞かせてくれ」
「分かった」
何時もの無表情で頷いて、アカメは口を開いた。
レオーネから聞いているならもう知っていると思うが、私達は昔、親に兄妹揃って帝国に売られたんだ。
そこで私達は一度、バラバラに隔離されかけたんだ。依存されるのは不味いから、と。
抵抗しようにもこちらは子供で向こうは訓練を受けた軍人。本来ならどうすることもできなかった。……でも、兄さんは違った。押さえ付けようとした男達を逆に叩きのめして、こう言ったんだ。
『僕は今のままでも十分使える。もし、妹二人を僕の管理下に置いて、絶対に引き離さないと確約できるのなら、僕は如何なる命令にも従うし、どんな任務であっても完璧にやり遂げて見せる』
相手はその時、全然本気にしてなかった。面白半分に兄さんの出した条件を呑み、ろくな訓練もなしに苛酷な任務に送り出した。一度でも失敗すれば約束は無効。弱音を吐くことも、任務を拒否することも許さない。
任務が終わればまた次の任務。それが終わればまた次の……。休む間もなく兄さんは次々と任務に駆り出されーーそれら全てを完璧にやり遂げて見せた。
そうやって私達は離れ離れになることなく、一緒にいられることになった。その頃にはもう無茶苦茶な連続任務はなくなっていたが、兄さんは帝国の忠実な駒として命令に従い続けた。
そんな生活を続けていく内に、私は任務でボスと出会い、革命軍に寝返る決意をした。……兄さんは、もっと前から帝国を裏切るつもりだったらしい。私達の顔を知っている者や記録を全て抹消して、クロメと共に離反したーー
「ーーと言うのが、大まかな経緯だ」
「はぁ~……」
なんて、気の抜けたため息が溢れる。
感想を述べるなら、一言「驚いた」と言うだろう。何が驚いたのかと言えば、それは、
(アカメがあんなに饒舌に喋ってるところなんて初めて見た……)
薄々気付いてはいたが、この少女は兄のこととなると若干性格が変わるらしい。
当初は苦手意識を持っていたタツミではあったものの、こうして純粋に兄を慕う姿を見ると、親近感のようなものを抱けてくるのだから不思議である。
「と言うかアレだな」
「どれだ?」
「ライさんって昔からとんでもなかったんだなぁ」
此処までくると嫉妬よりも呆れが出てくる。
普通、自分達をこれから暗殺のための道具にしようとしている機関の人間に、あんな生意気な口を利けるわけがない。少しでも機嫌を損ねればその場で処刑されることだってありえたかもしれないのだ。
タツミでさえも容易に思いつくことを、聡明な彼が思い浮かばないわけが無い。
一体どんな経験と胆力があればそんなことができるのか……想像するだけで目眩がしてくる。
「当然だろう?兄さんは昔からそうだった。どんなことでもあっさりやり遂げてしまいながら全然驕ったところなんて見せないで何よりも私達のことを優先してくれてーー」
饒舌に兄について語り出すアカメを見て、ふと、タツミは思うのだった。
ーーあれ?俺もしかして地雷踏んだ?
気付いた時には大抵の場合、遅いのである。
何時終わるとも知れない“兄自慢”を話半分に聞き流しながら、「もうアカメにライさんの話を振るのは止めておこう」と密かに決意を固めるタツミであった。
本当は今回でザンクの話を終わらせたかったのですが、そろそろ作者の力量限界がきた上に確実に一万文字オーバーとなってしまうので、均一性を保つために強引に打ち切らせてもらいました。
とういうか十話ですよ、十話!当初は1話限りの短編の予定だったのにいつの間にか二桁に突入しましたよ!
せっかくの十話、誕生日に更新したかったな……。
まぁ、というわけで、十話記念兼受験合格兼誕生日祝いに何か特別編のようなものを書こうかなーと思っているわけですが、どうでしょう?要望があれば活動報告の方に書き込み下さい(感想欄に催促すると規約違反になるので明言はしないZE☆)。
そんなもんより本編かけやコラァというのが多いのでしたら、本編を書きます。アップするのはいつになるのかわかりませんが……。と言うか話を重ねる毎に文章力が落ちて行っている気がする。
それでは皆様、本日はこの辺で。感想や意見、いつでもお待ちしております!