アカメが斬る! 銀の皇帝   作:白銀の亡霊

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前回からまたしても時間が空いてしまって申し訳ありませんでした。
待っていてくれた人(いるのか?)には御迷惑をおかけして申し訳ないです。はい。
このままでは月一更新になってしまう可能性が…………

それでも待っていてくれるみんなが大好きですヾ(‐-)オイ


それはそうとして、サブタイからして分かりますが、今回は遂に“あの人”が登場。
分からない人は本編へGO!







ーーという訳で本編をどうぞ。


第十二幕 帝国最強の帰還 上

北の異民族、要塞都市。

“北の異民族”とある通り、帝国の北方に位置する国家である。同時に、帝国に従わない国でもある。

彼らは自国の要塞都市を拠点とし、帝国に従うどころか逆に帝国へと侵略を強めていた。

彼らが強大国家であり、数々の実績を持つ帝国を相手に此処まで強気に出られるのは、偏にある人物のお陰だろう。

 

ーー北の勇者、ヌマ・セイカ。

 

彼は北方異民族の王子であり、槍を持っては全戦全勝。凄まじい軍略を併せ持ち、更には秀麗な容姿も相まって民の絶大な信頼を受けている。

彼の武勇は留まるところを知らず、その勇名は帝国の辺境に住まう者、つまり田舎者であるタツミでさえも知っているほどの人物である。

その彼が率いる精強な軍隊はまさに帝国の脅威と言える。

 

故に帝国は、北方異民族の侵略に対抗するために北方征伐部隊を組織。派遣したのだ。

一人の将軍が率いる征伐隊は、北方異民族との激しい闘争が予想され、最低でも一年はかかるだろうと多くの者達は予想していた。

 

ーーだが、彼らはまだ理解していないのだ。征伐隊を率いる一人の将軍……“彼女”の規格外さを。

 

 

ぴちゃ、ぴちゃ、と水気を帯びた音が、雪の降る北の地に響いていた。

周囲を見渡せば、衣服を剥がれ、目鼻口を惨たらしく縫い止められたまま絶命し、貼り付けにされているかつての異民族達の姿が。

そして、湿った音の発生源は、『北の勇者』と称えられた北方の王子ーーヌマ・セイカその人だった。

彼は全裸のまま地面に這い蹲り、ある人物の靴に舌を伸ばして舐めていた。

そこには王子としての誇りも威厳もなく、ただただ惨めな『敗者』の姿があるだけだった。

ーーふと、彼が顔を上げる。

屈辱に歪む表情でも、恥辱に怒る表情でもなく……“飼い主”の命令に唯々諾々と従う“犬”のような、屈辱的な扱いを受けて恍惚と頬を染める姿があった。

今の彼を見て、一体誰が『北の勇者』だと信じられるだろうか。

そしてその“負け犬”の姿を無表情に見下すのは、椅子に腰掛け靴を舐めさせている女性。

「北の異民族を瞬く間に討伐。流石です将軍!」

彼女の部下の一人が、今回の成果を褒め称えるものの、彼女の表情には変化がない。

気だるげな表情で、ヌマ・セイカを見下ろしている。

「兵も民も誇りも砕かれ壊れたか……これが北の勇者とはな。つまらん」

嘆息し、ゾッとするほど美しくも冷たい顔で、

「死ね、犬」

片足が霞み、ヌマ・セイカの頭を蹴り砕く。

飛び散った鮮血が先程彼女を褒め称えた兵の顔にまで飛び散った。

その容赦のなさに恐怖さえも覚えるが、同時にこの上ない心強さもある。

『彼女がいれば、自分達が負けることはない』

そんな絶対的な安心感を抱くほどに。そして、そんな彼女の部隊にいることが彼らの自信にもなる。

とは言え、そんな彼らの心の淵など知ったことではないとばかりに音を立てて彼女は立ち上がる。

余りに強く、まさしく『飢えた獣』とまで称された彼女が求めるものは、兵からの信頼でも支持でもなく、次なる獲物の到来。

強者であるが故に、己の好敵手足りうるーーあるいは、己に比肩しうる最強の敵を常に求めているのだ。

北の勇者を喰い殺してもなお、彼女の『飢え』は満たされない。彼は彼女にとって死力を尽くして戦う“強者”ではなく蹂躙されるだけの“弱者”でしかない。

まぁーー武人としての渇望を持つと同時に、殺戮し蹂躙することに快楽を見出す彼女にとっては、今回の遠征はそこそこに楽しめる内容ではあったのだが。

だが、やはりーー

「今回の敵も……お前のようには楽しませてくれなかったよ」

右腕をーーその服の下に刻まれた傷跡を愛おしそうに撫でながら、彼女は何処か寂しそうに呟く。脳裏にあるのはかつて相対した最大最強の“敵”の姿。

生まれながらの強者であった彼女に傷を付けたたった一人の『魔王』。

「お前は今、何処で何をしている……?帝都へ往けば、お前もそこにいるのか……?」

誰にともなく彼女は囁く。

その声は熱っぽく、まるで今は会えない恋人を想う一途な女性のような。

だがしかし、内に秘める想いはそんな甘いものではない。

「なぁーー『キバ』」

かくして、北の地を制圧した彼女は帝都へと舞い戻る。

彼女の名はエスデス。

性格、ドS。その強さーー“帝国最強”

 

 

 

謁見の間ーー

「ナカキド将軍、ヘミ将軍。両将が離反。反乱軍に合流した模様です!!」

なされた報告に、謁見の間に集った文官達がにわかに騒がしくなる。

「戦上手のナカキド将軍が……」

と、一人が言えば、

「反乱軍が恐るべき勢力に育ってきてるぞ……」

「早く手を打たねば帝国は……」

一人、また一人と後ろ向きな言葉が我先にと飛び出してくる。

それも当然だろう。反乱軍の革命が成れば、真っ先に殺されるのは現在の帝国の象徴。即ちそれは皇帝と大臣に他ならない。

いや、皇帝が大臣の傀儡と化しているのは周知の事実であることに加え、更にまだ年若い童子であることを考えればまだ殺されずに済む可能性はあるが、どちらにせよ皇帝としての地位は失われる。

大臣が消されてしまえば、今まで彼に付き従い、甘い汁を吸い続けてきた彼らも無事では済まないだろう。まさしく明日は我が身なのだ。

大臣に従い、そのおかげで手に入れた権力を以て贅沢三昧。その生活がなくなることを考えれば、焦るのも無理はない。

 

「狼狽えるな!!」

 

騒ぎ出す室内に、幼くも凛とした声が叱責する。

騒いでいた文官達がハッとしたように玉座の前に立つ幼き皇帝を見上げた。

「所詮は南端にある勢力。何時でも対応できる!反乱分子は集めるだけ集めて掃除した方が効率が良い!!」

例え大臣に傀儡とされていたとしても、千年続く血統に刻まれたカリスマ性はなくなることはない。

歴代の皇帝もまたそのカリスマ性を以て多くの人間を魅了し、忠義を得ていたのだから。

「……で、良いのであろう、大臣?」

ーー例えそれが、大臣の言葉を借りたものだとしても、だ。

「ヌフフ……。流石は陛下。落ち着いたものでございます」

大臣を振り向いて確認を取る皇帝と、笑いながらそれを肯定する大臣。これだけで二人の関係性が良く分かるものだ。

「遠くの反乱軍よりも近くの賊。今の問題はコレに尽きます」

グチッ、グチッ、と行儀悪く音を立てながら手にした肉に食らい付きつつ、オネストは最近起こった事件を挙げていく。

「帝都警備隊長は暗殺される。私の縁者であるイヲカルは殺される!首切り魔も倒したのはナイトレイドで帝具は持って行かれる!!」

感情を抑えきれないとばかりに徐々に口調が荒くなる。

常日頃から不気味な笑みを浮かべていて本心を覗かせることのないオネストであるが、今日に限ってはその怒りを隠すこともしないようぜある。

そう、彼は今怒りに駆られていたのである。

“自分の”帝都を何処の馬の骨とも分からない者共に荒らされることに怒りを感じている。ナイトレイドの行動によって帝都周辺を縄張りとする賊共や、彼らに希望を抱いて増長する無駄に数だけはいる家畜のような民達が此処最近増えてきているのだから。

「やられたい放題……!!悲しみで体重が増えてしまいますっ……!!!」

……もしこの場にライゼルがいたら、「そのまま高血圧で心臓発作を起こして死ね」と思われそうな言葉を口にするオネスト大臣。

この場にいるのは全員オネストに与した者達ばかりなので、そう思う者はいないのだが。

「……あの異民族はどうしたのだ。アジトを見付けるプロなのだろう?」

ふと思い出したように皇帝が言う。肥満体型で今更体重が増えるも何もないだろう……とは口にしなかったが、その顔には若干の呆れがある。

「連絡を絶っています。ほぼ確実に消されているでしょうな」

生かしたまま拘束するような甘い連中でもないでしょうし、と振り向くこともせずに言い捨てる。元より然程の期待はしていないが、こうも簡単に消されるとなると実に使えない連中である。

「もう穏健である私も怒りを抑えきれません!!」

お前の何処が穏健なんだ……と突っ込む人間はいなかったが、口を挟んでくる人間もいない。

皇帝もそうだが、文官達も大臣にとっては替えの利く駒でしかない。不要と判断すれば一瞬後には自分の首が切られる。

誰だって、自分の命は惜しいのだから、誰も大臣には逆らわないーー逆らえない。

誰もが口を挟まないまま、オネストの次の言葉を待っている。

「北を制圧したエスデス将軍を帝都へ呼び戻します」

『!!!』

ーーもっとも、その言葉にまでは黙っていることはできなかったようではあるが。

「て、帝都にはブドー大将軍がおりましょう!」

「大将軍が賊狩りなど、彼のプライドが許さないでしょう」

この国において大臣と並ぶ人間と言えば、誰もが帝国軍最上位、ブドー大将軍の名を挙げるだろう。

古くから続く武官の家系であり、皇帝からの信頼も厚く、大臣と言えど容易には手を出せない相手。帝国の切り札と謳われる彼だが、周囲には「堅物」と言われるほど気難しい武人気質の男である。

そんな男が賊討伐など引受けるだろうか?……答えは否である。

「で……では、ライゼル将軍は!?彼ならば実力も申し分なく、賊討伐であろうと引き受けてくれるでしょう!!」

「……確かに彼ならば問題ないでしょうが、今回エスデス将軍を呼び戻すのは何も賊狩りのためだけではありませんよ。最近急激にその勢力を拡大させている革命軍や彼らに触発されて帝国に歯向かおうとする周辺諸国への示威行為でもあるのです。それに、ライゼル将軍は帝都警備隊長の抜けた穴を埋めるために後任が決まるまでは警備隊のまとめ役を代理しているでしょう。その上で彼に賊狩りを命じるのですか?」

「そ、それこそ賊狩りは警備隊に任せておけば……」

「その警備隊でも最強の実力者である隊長が暗殺されるほどの相手に、隊員達が適うと思いますか?」

それを言われてしまうと、もはや言葉もない。

何故彼らがエスデスの帰還をこれほど嫌がるのかというと、単純に彼女の性格と言うのもあるし、尚且つ彼女はオネストと組んでいるのだ。

ただでさえ絶大な権力を握っているオネストにエスデスと言う最強最悪の矛まで付いてしまえば、もはや誰も手が付けられなくなってしまう。少しでも大臣の不興を買えばその日の内に消されているかもしれないのだ。ーーそれも、限りなく凄惨なやり方で。

エスデス自身も文武共に優秀としか言いようがないのだが……如何せん。その闘争と殺戮にのみ興味関心を注ぐ危険人物なのだから、下手し刺激しても不味い。

まさに八方塞がりと言えた。

「エスデスか……」

ふむ、と思案顔の皇帝。

「確かに彼女ならブドーと並ぶ英傑。安心だ!」

「異民族四十万人を生き埋め処刑した氷の女ですからな」

このエピソードで彼女のぶっ飛び具合が良く分かるというもの。むしろ彼女にしてはこれは軽い部類に入るのだから救えない。

「それまでは無能な警備隊に活を入れなさい。最早生死は問いません」

全ては、己が欲望を満たすために。

オネストは命じた。

「一匹でも多く、賊を狩り出し始末するのです!!」

ーーこれが、後に結成される特殊警察「イェーガーズ」と暗殺組織「ナイトレイド」との血で血を拭う闘争の切っ掛けとなる言葉となった。

そして、「エスデス帰還」の報告はライゼルにも届き、彼を通してナイトレイドにも通達される。

 

ーー新たな戦乱が始まろうとしていた。

 

 

時は過ぎて夜。

丁度、レオーネとタツミが薬の密売人達を始末し終えた頃、別働隊として薬を横流ししていた標的を無事始末したマイン、シェーレのコンビは人目に付かない夜道を疾走していた。

「あのチブルって標的、用心深いにも程があったわ」

「でも無事に片付いて良かったです」

話す口調は明るくとも、その内容は物騒極まりない。

ナイトレイドのメンバーとしては慣れ切った会話である。特筆することもない何時もの会話。

談笑しながら人目を避けつつアジトへ帰還するーーそれが彼女達の日常である。

ただし、今晩は何時も通り何事もなく、というわけには行かなかった。

『!?』

見た目は可憐な女性であれど、実態は幾多もの修羅場を越えてきた暗殺者である。

不意打ちのように放たれた殺気混じりの攻撃を寸前で回避した。

「敵……!?」

ザザーッ、と地面を滑りつつ、マインが警戒しつつ呟く。

視線の先には、長髪を一つに束ねた女性が一人佇んでいる。彼女の所属は身に纏う帝都警備隊の制服を見れば一目瞭然である。

それ自体は問題ない。彼女達にとって警備隊の人間に狙われるのは当然であり日常茶飯事でもある。更に付け加えるなら先日警備隊隊長のオーガを暗殺したばかりなのだから、狙われることはおかしくない。

問題はーー

(何コイツ……気付かなかったわ……)

(気配丸出しの警備隊員とは違うようですね……)

眼前に佇む女性の実力の底が見えない。

使用する帝具が遠距離専用であるマインならともかく、近接戦闘を主とするシェーレの知覚をもすり抜けて奇襲してきた彼女に警戒レベルを引き上げる。

「……やはり」

手にした紙切れに視線を落とし、シェーレの方を向く。

「手配書と顔が一致……ナイトレイドのシェーレと断定!」

キッパリとした口調で言い切り、次いでマインへと視線が移る。

「所持している帝具から、連れの女もナイトレイドと断定!」

警戒し、油断なく身構える二人には目も呉れず、独白のように彼女は続ける。

「夜ごと身を潜め待っていた甲斐があった……」

言葉の節々から、殺意が滲み出る。憎悪に満ちた視線が、二人を真っ直ぐに射抜いた。

「やっと……やっっっっっっと巡り合えたなナイトレイド!!!」

抑え切れない殺意が開放される。狂喜によって歪んだ笑みの先には警戒する二人の姿が。

この時を待っていた。親を殺した賊。師である隊長を殺したナイトレイドを自らの手で断罪できるこの時を、どれほど待ち侘びたことか!

「帝都警備隊ーーセリュー・ユビキタス」

この時二人は知る由もないことだが、彼女は昼間、借金取りに追われるレオーネのとばっちりを受けて逃げ回り、ものの見事に道に迷って迷子になったタツミが偶然出会った女性だった。

「絶対正義の名の下に、悪を此処で断罪する!!!」

ーーもっとも、これから始まる殺し合いには、無用な情報でもあるのだが。

 

時計塔の時計が時間を刻一刻と刻む中、呟くようにマインが言う。

「……正体がバレた以上、来てもらうか死んでもらうかしかない訳だけど……」

どう見ても、平和的且つ穏便には片付きそうにはない。殺気がダダ漏れでこちらを殺すと言う意志が口にするまでもなく如実に伝わってくる。

「賊の生死は問わず……ならば正義(わたし)が断罪する」

人差し指を向けて静かに……されどそこに紛れもない殺意を載せて、セリューは血走った瞳で睨み付ける。

「パパはお前達のような凶賊と戦い殉職した。そしてお前達は師である隊長を殺した……!」

言うまでもなく交渉は決裂。憎しみと共に吐き捨てる。

「絶対に許さない!!」

一瞬の静寂。

それを破ったのは、マインだ。

「やる気満々って訳ね……なら」

そっと、帝具「パンプキン」に触れる。距離はそう遠くはない。マインの腕ならば、一々狙いを定めるまでもなく当てられる距離。

殺意を持って相対する敵への対応は決まっている。

「先手必勝!」

瞬時に構えたパンプキンの銃口から、精神エネルギーの銃弾が幾つも撃ち出される。

正確には弾丸ではなく衝撃波なのだが……まぁ、細かいことはいいだろう。

放たれた弾丸に対してセリューの方は棒立ちのまま動かない。

「キュアーッ」

可愛らしい声を上げて、セリューの傍に控えていた謎の生物が唐突にセリューの前に躍り出る。

その刹那、着弾。土煙が舞い上がり、セリューの姿が見えなくなる。

「…………やったか……?」

ポツリとマインが呟く。

不意打ち気味に放った銃撃。土煙に覆われる前までは、謎生物がセリューの前に躍り出る場面までしか見えなかった。

これで終わってくれる相手なら、マイン達としても楽なのだがーーそんなわけなかった。

セリューの前には堅牢なる盾の如く立ち塞がる謎生物がいる。ーーただし、先程の小さな体などではなく優に二メートルは超えようかという巨体へと変貌を遂げて。

パンプキンの銃弾も、謎生物の腹の部分に着弾しており、全弾防がれていた。

こんな非常識極まりない生物が自然界に存在する筈がない。いたらいたで気持ち悪い。

ならば、考えられるものは当然ーー

「マイン。やはりアレは帝具です!」

「みたいね。しかも生物型ってやつか……」

生物型帝具「ヘカトンケイル」。犬に似た姿を持ち、戦闘時には巨大化して相手を捕食する。

内部の核(コア)を砕かない限り無限に再生可能であり、物理攻撃は勿論毒への耐性も強い。

「“旋棍銃化(トンファガン)”!」

今度はセリューが動いた。

腰に収めていたトンファガンを瞬時に構え、先程のお返しとばかりに発砲した。

ーーが、そこはそれ、今までに数々の修羅場をくぐり抜けてきたナイトレイドの二人である。放たれた銃弾を見切り、瞬時に回避行動を取っている。

その際にシェーレは自身の帝具「エクスタス」を皮鞘から抜き放ち、マインはパンプキンの銃身を交換している。

(この距離で銃撃しても、効果は薄いか……)

ならばとセリューは銃撃による攻撃案を破棄。傍に控えるヘカトンケイル……通称「コロ」へと命令する。

「コロ!捕食!」

その言葉で、大きな口が開かれる。人間など簡単に丸呑みできそうな巨大な口腔内にはビッシリと鋭い牙のような歯が生え揃っている。あれに噛み付かれたらどんなに頑強な人間であれど噛みちぎられそうである。

おぞましい巨体が大口を開けて飛びかかってくるのを、シェーレは冷めた目で見ていた。

手には万物両断エクスタス。この世のあらゆるものを切り裂く巨大な鋏。生物型の帝具だろうが慌てる必要はない。何故ならーー

「すいません」

ーーエクスタス斬れぬものなど、ありはしないのだから。

背後には首をザックリと切り裂かれて横たわるコロの姿。エクスタスに付着した血(?)を振り払い、次はお前の番だとセリューへ向かって歩き出そうとしーー背後から聞こえる音に思わず脚を止めた。

「!」

振り返ると、何事もなかったかのように立ち上がっているコロ。主人の殺意を共有するかのような凶悪な眼差しが、シェーレと交錯する。

そのコロを背後から情け容赦なく吹っ飛ばすのはマインのパンプキンによる一撃。

先程までの銃身が連射に重きを置いた物ならば、今のそれは一発一発の威力に重心を置いたものらしい。

その証拠にコロは主人のセリューが立つ場所まで吹っ飛ばされてしまっていた。

「文献に書いてあったでしょ、シェーレ。生物型の帝具は体の何処かにある核を砕かない限り、再生し続けるって」

それに、と忌々しそうにマインは続けた。

「心臓がないんじゃアカメの村雨も効かないだろうし」

「なかなか面倒な相手ですね」

思わず苦言を呈する。

そう、実に面倒だ。核の位置が分からない以上マイン達はコロを倒せない。持久戦になってしまえば人間である自分達より疲れを知らない道具が勝つに決まっているのだから。ーー勿論、勝利への策はあるが。

「コロ、腕」

主人の命を受けて、コロの両腕が変化する。……いや、変化と言っていいのか。

図体はデカくなれど、四肢が変化することはなく人形のような形のままだったのだが、セリューの言葉により両腕がまるで人間のような形へと変わる。変わるというより生えてきたと言った方が適切だが。

「キュウウウ……」

「……気持ち悪い」

マインが思わずそう呟いてしまうほど、その有様はグロテスク。とは言えドン引きしている訳にも行かない。

「こうなったらアレしかないわ、シェーレ」

「分かりました」

流石はパートナー。ここら辺のやり取りは以心伝心である。

「粉砕!」

「キシャアアアアア!!!」

咆哮を上げて、コロが突撃してくる。生え変わった両腕の拳を、まるでマシンガンのように展開させながら。

「!?何よコレ!逃げ場ないじゃない!!」

驚愕するマインの前へとシェーレが躍り出る。

「マイン!私の後ろへ!」

何時ものおっとりした表情は何処へやら。緊迫した表情でエクスタスを盾のように前へ構えーー瞬間、コロの豪撃が衝突する。

「ぐ……重い……!」

エクスタスは鉄壁を誇るインクルシオの装甲でさえ簡単に切り裂くほどの切れ味を有している。その切断能力の高さ故に刀身そのものの強度も群を抜いている。その為、攻撃だけではなく時にはこうして身を守る盾にも使用できるのだが……使い手であるシェーレが攻撃に耐え切れずに押され気味となっていた。

必死に耐えるシェーレを尻目にセリューは笛を取り出しーー高らかに鳴り響かせる。

駄目押しとして増援を呼ぶためだ。目論見が上手く行き、ほくそ笑むセリュー。

 

ーーだが、

 

「嵐のような攻撃……」

それこそがマインの狙い通り!

「援軍も呼ばれた……」

何故なら彼女には、どんな逆境からでも逆転できるーー

「これはまさに……ピンチ!!!」

一発逆転の切り札があるのだから!

「だからこそ行けぇぇええええ!!!」

帝具「パンプキン」は使用者の危機に比例してその威力を増加させる帝具。

絶体絶命の窮地こそ、その威力を最大限に発揮する絶好の機会!

そのチャンスを逃す程、彼女は馬鹿ではない。

銃口から放たれたそれは、最早銃弾などではなく砲撃に等しい。

増大した威力はコロを見事に吹き飛ばし、倒したーーように見えた。

「クソ!もう修復を始めてる……なんて生命力……!」

思わず毒突くマイン。

「ハッ!帝具の耐久性を嘗めるなーー!?」

ゾクリ、と背筋に走る悪寒。振り向けばそこには砂塵を振り払うように迫るシェーレの姿があった。

「帝具は道具……使い手を仕留めれば止まります!」

(初めから私狙いか!)

そう、それこそが彼女達の策。

如何に優れた武具なれど、帝具は道具。それ自体は意思を持たず、人間が使役しなければ物言わぬ置物に過ぎない。

であるならば、厄介な帝具そのものを相手取るよりも、使い手を仕留める方が遥かに簡単である。

慌てて武器を構えるセリューだが、シェーレも余り時間をかけてはいられない。

ならーー

(奥の手で一気にーー)

シェーレはエクスタスの“奥の手”の発動を決意する。

十分に接近したところで、叫ぶ。それこそが、彼女の奥の手の発動を意味していた。

「鋏(エクスタス)!!!」

カッ、と眩い閃光がセリューの目を焼く。

「金属の発光現象!?こんな技が……!!」

完全に不意を突かれ、驚愕しながらも距離を取るために後ろへ下がったのは正しい判断である。

ただ、その隙を見逃す程甘い相手ではなかったというだけのこと。

「終わりです」

冷たい死刑宣告。

視覚を封じられてしまえば、どんな人間であれど常と同じようには行動できない。パフォーマンスは激減してしまう。

が、それでもそう易々と死んでやる程セリューとて諦めがいい人間ではない。

「……う……」

僅かながらも回復しつつある視覚とそれ以外の五感と直感を以て迎撃するためにトンファガンを握り締める。

「うわあああああ!!」

巨大なハサミによる挟撃ではなく尖端での刺突の連激を辛うじて捌く。

(!彼女自身も強い……!)

と、主人の危機に反応して援護に動こうとするコロ。その脇腹を撃ち抜くのは、マインに他ならない。

「おっと。アンタは私!行かせないわ!」

威勢よく言ったはいいものの、

(ピンチが薄くなった分倒し切れないか……)

パンプキンは使用者の危機に比例して威力を変動させる。つまり、危機的状況でなければ大した威力は発揮できないのである。

それは、先程のように一撃でコロを半壊させる程の威力が出ていないことが証明している。

(でも足止めには十分……)

単純な話し、シェーレがセリューを仕留めるまで時間を稼いでおけばいい。まぁ、そんな時間稼ぎに徹するだけの役割など、マインのプライドが許さないのだが。

(核の場所も消去法で見当は付いてきた)

「シェーレがアンタの主人を仕留めるより早く、私がアンタを仕留めてやるわ!」

再度マインはパンプキンを構えた。

 

互いに距離を取る暇すらなく至近距離で攻撃を捌き続ける。

攻撃を仕掛けているシェーレはともかく、彼女の奥の手で視界を一時的に封じられたセリューが未だに仕留められていないのは彼女自身の戦闘能力の高さ故だろう。

が、セリューが後退する時不幸にも足を滑らせてしまったことにより均衡は終わりを告げた。

「あ」

と間の抜けた声と共に力が抜け、トンファガンを落としてしまうセリュー。

その隙をシェーレが見逃すはずもなく、命を絶たんと開いたハサミの刃が迫る。

(まずい!!)

防御不可の切断攻撃に対し、なんと彼女は躊躇いなく腕を捨てることにより致命傷を防ぐ。

絶たれた両腕が宙を舞い、血が吹き出すものの、シェーレは止まらない。躊躇いなく腕を捨ててきたことには驚きを感じるものの、好機であることには変わらない。

次の攻撃で確実に仕留めるために更に接近する。

「正義は」

鬼のような形相で、セリューは絶たれた両腕を向ける。

瞬間、肉から突き出すように二丁の銃身が両腕に現れた。

「必ずかぁぁぁつ!!」

(人体改造!?)

勝利のために自らの体に改造手術を施す、まさに狂人としか思えない所業に、さしものシェーレも驚愕する。

「隊長から授かった切り札だ!喰らえぇぇぇぇぇ!!!」

銃声が鳴り響く。

幾ら優れた戦闘能力を持つと言えど、この至近距離からならば防げないはず。

勝利を確信したその認識の甘さが、セリューの致命的な隙となった。

なにせ、シェーレは銃撃を喰らうどころか咄嗟に前に出したエクスタスの刀身で完璧に防いでいたのだから。

(防いだ!?)

驚愕するのも束の間。エクスタスを一閃。無情にも両腕の銃身が斬り飛ばされる。

「ぐっ、まだ……負けてない!」

このままでは死ぬ。そんなこと誰が見ても明らかだ。

だが、そこで大人しく死を受け容れるわけには行かない。

(使うとオーバーヒートで数ヶ月はコロが使えなくなるけど、仕方がない……!)

「コロ!狂化!!」

その一声で、コロの姿が変わる。白い体色が鮮血を思わせる赤黒い色へと変わり、様相もまたより凶悪に、凶暴に変貌する。

帝具、魔獣変化「ヘカトンケイル」の奥の手。内部に蓄積されたエネルギーを使用する「狂化」がそれである。一度使用すれば数ヶ月はオーバーヒートしてコロが動けなくなるというリスクはあるものの、それによって得られる力は強大である。

「ギョアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

咆哮。先程までのそれとは迫力も規模も威力さえも桁違いだった。

凶悪。その一言に尽きる。

「うああああっ!!」

「ぐっ……」

ビリビリと大気が震撼するほどの咆哮に真正面から晒されたマインは悲鳴を上げ、直接無形の衝撃波を当てられたわけでもないシェーレでさえ苦悶に顔を歪めた。

大音量のその咆哮は、耳を貫き脳へと到達し、一時的にその身を硬直させるには十分で。

「しまっーー」

その隙に、コロがマインを捉えることなど造作もないことだった。

「!マイン!」

「握り潰せぇ!!」

小柄なマインの体を握り締めたコロの腕に力が込められて行く。ミシリミシリと軋む音はマインの体から発せられたもの。

「う……うう……あああああ」

遂にはバキッ、と骨が折れる音。

マインとて鍛えていないわけではない。だが、その身は小柄で、鍛えるにも限界がある。その上相手は奥の手により強化された帝具。

少女の身体が悲鳴を上げるのも無理はない。

「ああっ、あああああああ!!!」

折られた腕を更に圧迫される激痛に耐えかねて、涙を流しながら絶叫する。

文字通りマインを握り潰すつもりなのだろう。それを証明するかのようにマインを握り締める腕の力がどんどんと上がって行っているのだから。

このまま死んでしまうのかーーマインが諦めかけたその時だった。

ザンッ、と極太に肥大化したコロの腕を横合いから切り裂くパートナー……セリューそっちのけで駆け付けたシェーレの姿があった。

「シェーレ!」

圧迫から解放され、拘束から抜け出したマインは涙ながらにパートナーの名を呼ぶ。

「間に合いました!」

一方の助けた本人は間一髪だったと安心したように息をついた。

 

ーーそれが、戦いの場において最もしてはならない“油断”に他ならなかったとしても、仲間思いの優しい女性であるシェーレは、大切な友人でもある少女を助けられたことに安堵し、気を抜いた。

 

「ーー……え?」

パンッ、と、一発の銃声が鳴り響いた。

 

 

 




十二話でした。最後まで読んでくださった方はありがとうございます。
や、なんか最終回っぽいな、これじゃ。もちろんまだまだ続きますよ。だってサブタイに上って付けてるし。
実は連載を始めてからこの人の帰還までが目標点だったんですよね。つまり、後一話でその目標が到達できる、と。
本当なら二巻のラストまでを収めたかったんですが、そうすると文としての繋がり的に作者的美意識に反するといいますか……まぁ、特撮系のお約束だよね!

話は変わって番外編ですが、余りに票がないので密かに涙している状態です。感想でも突っ込まれましたしね。
……仕方ないやん。だって全然誰も書いてくれへんのやしorz
現在作者脳内プロットには唯一得票があったものが候補として上がってます。知りたかったら感想書いてね!←無理矢理な催促
まぁ、どの道書くのは下が終わってからですが。作者的な区切りでもありますし。


ーーというかなんで自分は友達から借りただけの作品の二次創作をかいてるんだ?自分の持ってるやつの二次創作を書けばよかったのに。
いや、テンションって怖いですね、ホント。

なにはともあれ感想御意見いついかなる時でもお待ちしております。それでは、また次回
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