アカメが斬る! 銀の皇帝   作:白銀の亡霊

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十四話です。
何時にも増して駄文です。自分の文才になさに絶望して欝になって泣きたくなったorz

なお、後書きにて重大発表があります。


第十四幕 この身が外道へ堕ちようと

謁見の間。

玉座には何時ものように幼い皇帝が座り、その傍らには当然の如くオネスト大臣が侍っている。

そして彼らが見下ろす先には、一人の女性が跪いていた。

「エスデス将軍」

「はっ」

エスデス、と呼ばれた女性が短く返答する。

彼女こそ帝国最強と謳われる将軍にして最年少で将軍となったとは外見からはまるで想像できない。ーーもっとも、その内面を知っているからこそ例え味方であったとしても彼女は恐れられているのだが。

「北の制圧、見事であった!褒美として黄金を用意してあるぞ」

「ありがとうございます。北に備えとして残してきた兵達に送ります。喜びましょう」

下賜された褒美を部下に送る、と言うのはライゼルがよくやっていることだが、どちらかと言えば彼女が最初である。どちらもその思惑は違えどやることは一緒と言うのは中々に面白いところである。

「戻ってきたばかりですまないが、仕事がある」

皇帝の言葉に居住まいを正す。豪放磊落な性格の彼女ではあるが、だからと言って仕えている君主の前でも慇懃無礼に振舞うわけではない。当たり前だが。

「帝都周辺にナイトレイドをはじめ凶悪な輩がはびこっている。これらを将軍の武力で一掃して欲しいのだ」

一瞬、エスデスの瞳に雷光のような鋭い光が走った。

「……分かりました」

が、それを指摘できる者もまた気付ける者もいない以上、その意味を理解できるのは彼女一人だけ。

内心の思いを己の内に封じ込め、エスデスは静かに口を開いた。

「一つお願いがございます」

「うむ……兵士か?なるべく多く用意するぞ」

それは賊討伐を依頼する側としては当然の言葉だった。帝都周辺の凶悪な賊の筆頭であるナイトレイドの構成員はほぼ全てが帝具使い。一騎当千の力を持つ帝具使いを相手にするには、用心しすぎて困ることはない。

エスデスとて一騎当千の猛者だが、実際にその実力を理解するには彼女の戦い振りを目の当たりにするしかない。

結局の所、皇帝もオネストも、又聞き程度でしか彼女の力の一端を知らないのだ。これもまた、当然だが。

しかしエスデスの要求はある意味において予想通りだが、ある意味において予想の斜め上を行っていた。

「賊の中には帝具使いが多いと聞きます。帝具には……帝具が有効」

そしてそれは、。つまりはナイトレイドにとって最悪にも等しいこと。

「六人の帝具使いを集めてください。兵はそれで十分。帝具使いのみの治安維持部隊を結成します」

思わず絶句。彼女の要求があまりにも突き抜けたものだったからだ。

「……将軍には三獣士と呼ばれる帝具使いの部下がいたな?更に六人か?」

帝具優れた武具ではあるが、使い手を選びすぎるため帝具の数に比べて帝具使いの数は十分とは言い難い。逆に言えばそれだけ帝具使いの数を揃えたナイトレイドは脅威であるとも言えるが。

「陛下」

そのような実状もあってかエスデスの要求に難しい顔になる皇帝だが、すかさず傍に侍っていたオネストが口を挟んできた。

「エスデス将軍になら安心して力を預けられます」

全幅の信頼を寄せる大臣の言葉を受け、皇帝は表情を緩めた。

「うむ。お前がそう言うなら安心だ。用意できそうか?」

「勿論でございます。早速手配しましょう」

「これで帝都も安泰だな。余はホッとしたぞ!」

言葉通り胸をなで下ろして安堵の息を吐く皇帝に向けて、オネストは慈愛に満ちた優しい表情を浮かべて見せた。

「まことエスデス将軍は忠臣にございますな」

などと嘯きつつ、頭の中では冷徹な思考を走らせる。

(エスデスは政治や権力に全く興味がない。戦いに勝って蹂躙することが全て……!)

彼はエスデスの力を又聞き程度でしか知らないが、彼女の本質的なことに関しては熟知していた。

でなければいくらなんでも帝具使い六人と言う戦力を預けられるわけが無い。

それだけの戦力に内乱でも起こされたら一体どれだけ面倒なことになるのか、想像したくもない。

(私が国を牛耳ることで彼女は欲するままに暴れられる。利害の一致……最高の手札です!!!)

更に言えば、エスデスを味方に付けている限り、どれだけ自分に叛意を持っていたとしても処理できる。一部の内政官達がライゼルを祭り上げようとしていることもとうの昔に把握している。が、エスデスがいる以上実力行使には出られない。何せ、ライゼルの部隊には帝具使いはいないのだから。

(まぁ、“臣具”使いならいますけどねぇ)

どの道たった一人で何ができるのだ。武器の質で劣り、実力でも劣っているのに勝ち目などない。

帝具を隠し持っているかもしれないが、それこそ一人で何ができるのだ。

絶望的な戦力差を覆すことなどできはしない。

とは言え戦に関してはオネストも専門外である。いざ戦うとなれば自分ではない誰かが戦うのだから関係ないといえば関係ない。

「苦労をかける将軍には黄金だけではなく別の褒美も与えたいな。何か望むものはあるか……?爵位とか領地とか」

ふむ、と考え込む。望むもの、と急に言われて思い浮かぶものはーーまぁ、あるにはあるが。

「そうですね……あえて言えば……」

「言えば……?」

「恋を、したいと思っております」

 

ーー空気が凍った。

 

暫し沈黙が場を支配し、

「……そ……そうであったか!将軍も年頃なのに独り身だしな」

逸早く皇帝が復活し、先程までの沈黙を誤魔化すように付けている限り努めて明るい声を上げた。

「しかし将軍は慕っている者が山程おりましょう?」

次いで再起動を果たしたオネストがそう問うが。

「あれはペットです」

身も蓋もなく断言する彼女に再び凍る空気。

「……では誰か斡旋しよう。この大臣などはどうだ?いい男だぞ!」

「ちょ……陛下!!」

まさかのキラーパスだった。

容姿に関しては文句はない。むしろ満点に近い。近いのだが……性格が致命的である。

ドSな彼女の伴侶となった暁には一体どれほど苛烈なプレイが待ち受けているのか想像するだに恐ろしい。

「お言葉ですが、大臣殿は高血圧で明日をも知れぬ命」

「これで健康です失礼な」

しれっと毒を吐くエスデスに物申すオネストだが、寿司を頬張る肥満体型の中年男の言葉では説得力がまるでない。

「将軍はライゼル将軍と親しい仲なのでしょう?彼では駄目なのですか?」

さりげなく聞くオネストだが、実際は探りを入れていた。

有り得ないだろうが、もしも彼女がライゼルと手を組んで攻め込んできたとしたら……。あまり考えられないが、万が一ということもある。

「彼とは確かに親しい仲ですが……ただの戦友です。それ以上でもそれ以下でもありません。それにーー」

「それに?」

一度言葉を区切り、エスデスはその美貌に笑みを浮かべた。

ーーゾッとするほど危険な笑みを。

「ーー彼とはいずれ殺し合う。そんな予感がするのです。だからこそ、私達は決して結ばれることはない」

その予感は、出会った時からあった。今なおその予感は続いていて、彼女の中では確信へと変わりつつある。

二人は結ばれることはないが、ある意味において結ばれているのかもしれない。

例えそれが、血塗られたものだとしても。

「うぅむ……では一体、将軍はどのような男が好みなのだ?」

「此処に……」

と、胸の谷間に手を入れて、一枚の紙を取り出した。

「私の好みを書き連ねた紙があります。該当者がいれば教えて下さい」

用意してたんかい!と突っ込むことはなく、皇帝は素直に頷いた。

「分かった。見ておこう」

決して、衝撃続きで疲れたわけではないことを此処に記載しておく。

 

 

皇帝陛下との謁見が終わり、エスデスとオネストは並んで廊下を歩いていた。

「相変わらず好き放題のようだな大臣は」

「はい。気に食わないから殺す。食べたいから最高の肉を頂く。己の欲するままに生きることのなんと痛快なことか」

フフフ……と笑みを零すオネストに呆れたように「本当に病気になるなよ」と一言進言する。とは言え、この男は放っておいてもしぶとく生き残りそうだが。

「しかし妙なことだ……私が闘争と殺戮以外に興味がわくとはな」

オネスト達を驚愕させたエスデスだが、彼女自身も自分に芽生えた新たな欲求に戸惑いを感じているらしい。

「あぁ、生物として異性を欲するのは至極当然のことでしょう。その気になるのが遅すぎるぐらいですよ」

恋と言う言葉は全然似合っていないが、と言う本心は心の中に押し止め、年長者らしい言葉をかける。

彼女もまた人の子、と言うことだろう。

「なるほど。これもまた獣の本能、というわけか……まぁ、今は賊狩りを楽しむとしよう」

新たに芽生えた欲求には一先ず納得が行ったのか、まずは目の前のことを片付けることにしたらしい。

彼女の場合、下手に色事にうつつを抜かされたら非常に困るのでその方がオネストとしても喜ばしい。が、

「それですが、帝具使い六人は要求がドSすぎます」

「だがギリギリなんとかできる範囲だろう?」

薄く、笑う。

「揃える代わり……と言ってはなんですが……私……居なくなって欲しい人達がいるんですよねぇ……」

隠す気の無い邪悪な言葉に、エスデスもまた小さな笑みを浮かべた。

「フッ……悪巧みか」

呆れているのかそれとも楽しんでいるのかは定かではないが、オネストがエスデスに“頼みごと”をするのは珍しくない。依頼される内容も大抵は似たりよったりなのだが。

 

 

所変わって、オネストと別れたエスデスの前に、黒い軍服を身に纏った三人の男達が跪いていた。

一人は見上げるほどの巨体を持つ筋骨隆々の男性。

一人はまるで童女のようにも見える中性的な風貌の少年。

一人は三人の中では最も高齢だろう白髪の男性。

彼ら三人はエスデスの忠実なる下僕にして、彼女の部隊の中枢を担う存在ーー三獣士。

「お前達に新しい命令をやろう。今までとはちと趣向が異なるが……」

彼女の言葉に、跪く三人があらかじめ口裏でも合わせていたかのように順繰りに口を開いた。

「何なりとお申し付けください、エスデス様」

「僕達三人はエスデス様の忠実なる下僕」

「如何なる時如何なる命令にも従います」

迷いなく紡がれるのは揺るぎなき忠誠の言葉。

「よし」

満足げにそう言ったエスデスの唇は、獰猛に歪んでいた。

 

 

ライゼルと同じ執務室で書類仕事をこなすスピアは、何処と無く浮かれている様子であった。……いや、浮かれていた。

作業しながら鼻歌とか歌っているし。

それで気が散るというわけではないが、仕事に対して真面目な姿勢を崩さない彼女が何故今日はこれほどまでに浮かれているのか気になったライゼルは、本人に聞いてみることにした。

「スピア。何をそこまで浮かれている?」

「えっ!?」

ライゼルの言葉に驚いた表情でスピアが固まった。

それから恥じ入るように頬を朱に染めつつ、ライゼルの表情を伺うように上目遣いになりつつ問い返す。

「う、浮かれてましたか?私」

「それはもう、鼻歌を歌うほどにな」

今にもそこら中をスキップして駆け回りそうだったぞ、とは言わないでおいた。理由をしいて上げるとするならば、優しさ、である。

ライゼルの予想通り、スピアはかあぁぁ、と頬どころか耳まで赤く染めて小さく縮こまった。

「う、うぅ……まさかそこまで浮かれていたとは…………しかもライゼル様に見られてしまうとは……不覚。一生の不覚です…………!」

「何をそこまで浮かれているかは知らんが、流石に気になる。一体何があった?」

「う、そ、それは……」

言い淀むスピアに、ライゼルは閃いた。

「……あぁ、もしや結婚相手が決まったとか?それならば大急ぎで祝言をーー」

「違います!!」

「むぅ……」

一瞬で否定され、思わず唸る。では一体何だというのか。

「じ、実は、父上が近日中に帝都へと来るとの知らせを受けたものですから、つい……」

「父上……と言うとチョウリ元大臣か」

「はい」

成程、と心中にて納得する。スピアは元大臣でもあった自分の父チョウリのことを心から尊敬しているのだろう。親離れしていない、というのとも違うだろう。単純に家族仲が良く、尊敬している。実に見習うべき家族関係である。

尊敬している人が来るとなれば嬉しくて当然だろう。彼女の浮かれっぷりはまさにそのことが原因だったのだ。

ライゼルとしても、チョウリの政治手腕は尊敬に値すると思う。まぁ、娘のことに関するとダダ甘の親馬鹿になり果てるのだが。

娘を貰ってくれ、と以前あった時にそう言われたのは懐かしい思い出である。

「では、到着し次第歓迎するとしよう。私としても色々と便宜を図ってもらった恩がある故」

「本当ですか?きっと父上も喜ばれると思います」

嬉しそうに微笑むスピアに頷きつつも、ライゼルはエスデスの帰還、と言う出来事に一抹の不安を抱かずにはいられなかった。

(何もなければいいが…………)

ライゼルのその予感は見事に的中することとなる。

 

ーー元大臣チョウリがナイトレイドに暗殺された、と言う報告によって。

 

 

(……やってくれたな)

「お兄ちゃん……」

表に出さないように気を付けていたどす黒い感情はしかしクロメには感じ取られてしまったようで、心配そうな眼差しを送られる。

そんな彼女を安心させるように艶のある黒髪をそっと撫でて、ライは自室のソファーに深く腰を下ろした。

勢いを付けすぎたのかギシッとソファーが軋む音を立てたが、それは思考として纏まる前に霧散して消えた。

チョウリが暗殺されたのは帝都近郊の小さな村の近く。そこで彼は多数の護衛の屍達と共に頭と胴を切り離された死体となって発見された。そしてその周囲に散乱していた『ナイトレイドによる天誅』と書かれた犯行声明の紙。

今回のように帝都で文官が殺される事件が此処の所多発していた。チョウリの事件を含めれば四件目ーーそして、その全ての現場にナイトレイドの犯行声明のビラが撒かれていた。

無論、これらの事件がナイトレイドによるものでないことはその一員であるライがよく分かっている。ナイトレイドにとって革命は最重要事項ではあるが、革命を起こすことが最終目的ではない。その後のより良き新時代を作るためにも大臣に同調しない、それでいて優秀な人材というのは貴重である。特に、反乱軍のスカウトにも靡かない者達は。そんな彼らを殺したところでメリットはない。むしろ、良識派の人間を殺してしまえば、民からの信頼も落ちる。デメリットしかないと言ってもいい。

だから、ナイトレイドが彼らを殺すことはない。ーーが、あくまでそれはナイトレイドに属しているからこその考え。そうでない者にしてみればそんな理屈は関係ない。

無論、今まで犯行声明などしなかったナイトレイドがいきなりビラをばら撒くなどの行為をしても、本物と受け取る輩は少なかっただろう。が、それが二件三件と重なっていくなら話は別である。

更に、事件が起これば当然他の文官達も警戒する。警戒して護衛の数を増やしてーーその上で四件目。チョウリ暗殺の際の護衛人数は四十名近くが殺されている。

そんな芸当が出来るのはナイトレイドしかいないーー簡単だが効果的な一手。考えた人間の意地の悪さが良く分かる。

ともあれこれでナイトレイドは動かざるを得なくなった。後は適当に待っておけば向こうからやって来る。

信頼を築き上げるのは難しいが、崩れるのは一瞬なのだ。このまま放っておくわけには行かない。

はぁ、と鬱屈とした思いを吐き出すようにため息。誰がやったのかは簡単に想像できる。エスデスの所の三獣士だろうということは。だが、こちらから何か行動を起こすことはできない。

下手に動けばライの素性を勘づかれる恐れがある。それだけは避けなければいけない。でなければ、一体何のために危険を冒して宮殿内に潜り込んだのかが分からなくなる。

そしてーー気になることがもう一つ。

(スピア…………)

ライのーー否、ライゼルの部下である彼女。彼女は葬儀の際、決して涙を見せず黙したままだった。ライとしても世話になった人物が亡くなるのは辛いこと。であれば、肉親というより深い繋がりを持つ彼女の悲しみは如何ほどのものだったのか。

自宅休養を出したはいいが、短気を起こさないとは限らない。

スピアは真面目だ。真面目であるが故に、思い詰めたらその内なにかとんでもないことを仕出かしそうで怖いのだ。

「よくもまぁ、此処まで不愉快極まりない策を使ってくれたな…………」

低く、怒気を含んだ声が響く。近くでクロメが怯えたように身を震わせたのを見て、四苦八苦しながらどうにか自身の激情を抑え込む。それからクロメに謝ろうとした所でーーノックの音が聞こえた。

目配せをして素早くクロメが黒装束と仮面を身に付けたのを確認して、ライーーライゼルが扉を開けると、そこには一人の女性……スピアが立っていた。

「……夜分遅くに申し訳ありません」

深く、暗く、沈んだ声。

彼女の声に我を取り戻し、意識して平静を保って問いかけた。

「どうした?しばらく休みを取らせる、と言ったはずだが」

「仕事を、させて下さい」

「駄目だ。今のお前では任せられん。一度休養を取り、気持ちを落ち着けてから仕事はしてもらう」

だからもう帰れーーそう言って扉を閉めようとしたが、それよりも早くスピアが口を開いた。

「仕事を下さい」

「だからーー」

「お願いします」

ライゼルの言葉を遮って、スピアが再度同じ言葉を口にした。

思わず息を呑む。彼女の瞳には、今にも溢れ出しそうなほど涙が溜まっていたから。

「何かしていないと、どうにかなってしまいそうなんです。今すぐにでも全てを忘れて父上を殺したナイトレイドを打つために槍を振るってしまいそうになるんです」

だから、と。仕事をさせてくれ、とスピアは懇願する。自分が復讐に取り憑かれる前に、と。

「…………」

これは、ライゼルのミスだ。彼女の親愛を事前に見抜けなかった、そして警戒すべき相手がいるのに警戒を怠ったライゼルの。

「黒。暫しの間、外へ出ていろ」

言いつつスピアの手を引き室内へ招き入れる。

黒は一瞬戸惑ったものの、結局は指示通り退室した。

音を立てて閉ざされた扉を視界の端へ収めて、ライゼルはそっとスピアを抱き締めた。

「っ!」

「スピア。私にはお前の気持ちは分からない……が、理解は出来る」

肩を震わせて反射的に離れようとしたスピアを強引に腕の中に押さえ込んで、囁くように語りかける。

「悔しいだろう。哀しいだろう。殺した相手が憎いだろう。ーーそれより何より、何も出来なかった自分が許し難いだろう」

だが、スピアが感情のままに暴れることはできない。否。許されない。

彼女は個人ではなく組織の一員なのだから。私情を優先させることはできないし、できる立場でもない。

だが、だからこそーー

「お前の全てを、私に寄越せ。お前の感じた全てを私が背負おう」

「ライゼル、さま……?」

 

ーー今のスピアは精神が不安定な状態。そんな状態で、不用意に情報を与えてしまえば最悪壊れてしまう。

それを許容できるほどライゼルは非情でもなければ、見捨てるには情を抱き過ぎた。

 

不思議そうに見上げたスピアの顔へ自身の顔を近付けて、僅かに開かれた唇に自分のそれを重ね合わせる。

「んんっ!?」

先程とは違った驚愕で体を震わせる彼女を押さえ付け、片手でほっそりとした腰を抱き、空いた片手で顔が離れないように抑え続ける。

噛み締めた歯の周りの歯茎を舌でなぞり、優しく唇を愛撫する。

「んっ……はぁ、んぁっ……」

丹念にゆるゆると愛撫を続けていると、自ら求めてくるようにスピアの口が開かれた。

おずおずと差し出された舌に自分の舌を絡み付かせて、今度は口腔内を愛撫する。

「ちゅっ……あふぁ……らいぜる、さま」

くたり、と強ばっていた体から緊張が抜け、ライゼルに体を預ける。

青白かった肌は赤みを帯び、瞳は情欲に濡れ光っている。

「お前の憎しみも、哀しみも、喜びや幸せも、全てを私に捧げ尽くせ」

ライゼルが行うのは、人として唾棄すべき最悪の手段。

だが、今はもうこれしか思い付かなかった。

 

「スピア、その命尽きるまで、この私と共にあれ」

 

「は、い……」

即ち、敬愛する父親を失い、悲しみの渦中にいるスピアの心に付け込み、彼女をライゼルへと依存させる。

少なくとも、スピアの心は救われる。

…………今は、それでいい。

(だが、この借りはいずれ利子付きで返させてもらうぞ……オネスト)

そう、例え、この身が地獄の業火に包まれることになろうとも。

 

奴だけは殺さなければならない。例え、外道へ堕ちようともーー

 

 

 




最後まで見ていただき本当にありがとうございます。
今回の話しは賛否両論あると思いますが、頭を空っぽにしてお読みいただければ幸いです。

えー、それはそうと前書きにあったように重大発表です。
作者の拙作『アカメが斬る! 銀の皇帝』の本編は今回の話で一旦終了となります。
………はい、すみません。一応理由がありますので、説明します。


元々この作品は作者が試しに投稿してみたものなんですよね。だから、元々連載する気はなかったんですが、連載希望の感想が多数(誇張)書かれまして、調子に乗って連載し始めたのがきっかけです。
ちょうど友人からアカメの漫画を借りていたので、その場のノリとテンションで書いたものでして、しかし卒業式が近付き、友人とも離れ離れになるので借りた漫画を返却しなければならなくなり、これ以上本編を書き進めることができそうにないので、本編は申し訳ありませんが取り敢えず本編は凍結にさせてもらいます。
いままでこの作品を楽しみにして下さった読者の皆様には深くお詫び申し上げます。



え~、既に察した方もいるかもしれませんが、“本編”は一応打ち切りとなりましたが、それとは関係ない作者のオリジナルとなる外伝は投稿します。
それと、作者の初めての二次創作作品なので思い入れも当然ありますし、いつかまた更新再開出来ればいいな、とも思ってます。完結もさせたいですし。
以上、作者からの重大発表でした。それでは、また別の作品か外伝でお会いしましょう。

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