そして相変わらずの駄文&キャラ崩壊。
色々詰め込みすぎた結果、一万文字越えとなっておりますので、ご了承下さい。
それでは第七幕、どうぞご覧下さい。
ーータツミとの訓練も終わり、ライはソファーに腰掛けゆったりと寛いでいた。
「ふぅ……」
こうしてゆっくりするのは随分と久し振りな気がする。体調管理はしていたし、疲労は残さないようにしていたのだが、やはり知らぬ間に疲労が溜まっていたのだろう。
タツミは現在暇を持て余したブラートたちの相手をしているので此処にはいない。出会った当初ならいざ知らず、現在のタツミの力量はかなりのものに成長しているから、そうそう一方的にやられっ放しになるような展開はないだろう。……帝具を使われれば、分からないが。
帝具の能力を過信し、それに頼りっ放しにするような輩ならば不安はないが、自身の力に更に磨きを掛けるような相手だと…………今のままでは、危ないかもしれない。
「……やはり時間が足りない、か」
とはいえこればかりはどう仕様もない。後はタツミの成長力とみんなの指導に期待するしかない。
「何が足りないんですか?」
ーー不意に、声をかけられた。
事前に気配は察知していたので別段驚きはないが。
「シェーレか……。いや、タツミのことについてだよ」
「タツミの?」
首を傾げるシェーレ。童顔な彼女には不思議と子供っぽい動作が似合うーーなどと、しょうもないことを考えてしまうのは、やはり疲れているからか。
「ああ」
自然な動作でシェーレがライの隣りに腰を下ろし、問いかけてきた。
「どうして、タツミのことを?」
不思議そうに問うてくるシェーレに、思わず苦笑する。どうやら彼女は忘れてしまっているらしい。
「忘れたのか?僕がいる間はタツミに稽古を付けることになってただろう?」
「…………ああ!」
ようやく合点がいったと手を叩くシェーレに再び苦笑する。どうも本当に忘れていたらしい。
彼女は見た目理知的に見えるのに、物忘れが激しいのだ。更に言えば、ドジっ子というか天然と言うか、小さなことで失敗することも多い。
殺し屋の業界に入る前はそれで散々周囲の人間にからかわれていたらしい。ーー別に、ライはそのことを気にしていないし、むしろ彼女のそういうところは彼女自身の魅力の一つだとも思っているのだが。
そう言えば、と。シェーレがやたらと自分のことを気にかけるようになったのもその辺りからだったような気がする。
「ーーそれで、何が足りないんですか?」
「ん?……ああ、時間だよ。時間」
「時間、ですか?」
頷く。
訓練開始一日目はあんなことがあったためろくに鍛えられなかったが、それを抜きにしても時間が足りない。
ライが向こうに残した影武者も、何時正体が露見したとしてもおかしくはない。それを考えると冷や汗ものだ。……まあ、影武者の件がバレたとしても、表立って言ってくる人間はいないだろうが、面倒な探りを入れられるのも御免である。
それを考えると、余りアジトには長居できない。
「確かにタツミを鍛えてる時のライは楽しそうでしたからね」
「楽しそう?僕が?……と言うか、見てたのなら声をかけてくれれば良かったのに」
「すみません。ライが楽しそうでしたので声をかけづらくって」
困ったように微笑むシェーレ。
訓練することは忘れていたのに、その時の様子は覚えていたらしい。……彼女のことだからきっと「今思い出しました」とか言いそうだが。
「そんなに楽しそうだったのか?」
「はい。それはもう」
全く自覚がない。が、シェーレがそう言うのならきっとそうなのだろう、と不思議とそう納得してしまうのがシェーレの長所なのだろう。包容力があるというか。この場合は優しさ、になるのだろうか?
微笑むシェーレを見ていると、ついそう思ってしまう。
「楽しそう、か…………。確かにそうかもしれないな」
正直に言えば(まあ、別段隠すようなことでもないのだが)、タツミの成長スピードはライの予想を遥かに超えていた。流石にアカメが『伸びしろの塊』と評したことはある。
まるで乾いたスポンジが水を吸うように、あるいは周囲を石に囲まれた宝石の原石が加工され、徐々にその輝きを表わして行くかのように。次々と技術を吸収し、研ぎ澄まされて行っている。まだまだ青い果実に過ぎないが、このまま成長し続けて行けば、いづれは自分やエスデスのようなーー帝国最強とも渡り合えるほどの強者になる、かもしれない。……まあ、アカメやクロメにも同じことが言えるのだが。
帝国最強に並び立つほどの才を手ずから磨き上げて行くのはーーなるほど。確かに楽しかったのかもしれない。
まだ全然、ナイトレイドのメンバーに比べれば弱いのだが、これから先経験を積み、己を律し、その才能を研磨し続けて行けばーー必ず此処まで来れるはずだ。いや、来る。
それが何時になるのかは分からないが、あのまま行けば、昇り詰めてくるだろう。ーーもっとも、その場合も負けるつもりは毛頭ないが。
「ああ、確かに楽しみだ」
もう一度、今度ははっきりとそう告げて。
だからこそ残念でならない。輝かんばかりの原石を、自らの手で磨き上げられないことが。
「ふふっ。ライがそこまで言うから、私も気になってきました」
笑うシェーレにライもまた笑い返して立ち上がる。
「それなら、確かめ見るといい。これから何度でもその機会はあるさ」
「そうですね。時間はたっぷりありますし、その時に確かめることにします」
「ああ」
頷いて、二人はもう一度笑い合うのだった。
「あら、ライじゃない。妹は一緒じゃないの?」
アジトを適当にぶらついてると、偶然にもマインと遭遇した。ーーいや、この言い方では会いたくなかったと聞こえるが別にそんなわけではなく。
「それだとまるで四六時中一緒にいるみたいだな」
「実際そうじゃない」
呆れながら断言するマイン。
「そんなわけ…………あるな。確かに」
反論しようとして一切反論できないことに思い至った。
思えば、一人でいる時間など此処最近まるでなかった。そりゃ疲労も溜まるはずである。
「ま、でもちょうど良かったわ。ちょうど今誰かの感想が聞きたかったところなのよ」
そう言ってマインは不敵な笑みを浮かべて胸を張る。
「どう?この服。似合ってるでしょ?」
そして表情と言葉が一致しないと思うのは自分だけだろうか?思わず首を傾げるライである。
しかし尋ねられた以上、答えなければならない。
ふむ、と頷きつつ胸を張るマインを見て、
「ーーって、ああ。その服、新しく買ったのか?」
「今頃気付いたの?ーーって、そうか。アンタってば宮殿内に潜入しているおかげで全然アジトにいないんだったわね」
お互い今更のように互いの置かれた現状を再確認。
「アンタって昔からそうなのよねぇ」
と、不意に呆れと感心が混じったような声音でマインが口を開いた。
「そうって……なにが?」
「何時の間にかそこにいるのが当たり前になってるってことよ。ホント、不思議よね、ライは」
「……人を座敷童子みたいに言わないでくれるか?」
ライの場合は「ちょうぴらこ」とでも言うべきか。座敷童子の中でも格が高く、色白な肌が特徴の美形である。まさにピッタリ。ぜひ住んで欲しい。
「何よ、座敷童子って」
「妖怪……いや、なんでもない。忘れてくれ」
この世界に危険種はいるが、妖怪はいない。ついでに言うと、そう言った伝承も言い伝えもない。ナマハゲみたいなのはいるらしいが。
余り根掘り葉掘り聞かれても困る。答えられないわけではなく、答えた結果その出処を聞かれると困るのだ。
ーーなにせ、そもそも別世界で伝わる伝承なのだから。
幼き日はアカメとクロメに寝物語としてよくかつての世界での御伽噺を聞かせてやっていたのだが、今ではそういう機会はめっきり減った。せいぜいが孤児院に行った時に戯れに聞かせるぐらいか。
「それより、服のことだっけ?ーーうん。よく似合ってると思うよ」
怪訝そうな顔のマインを誤魔化すように無理矢理軌道修正。
「ホントにそう思ってるの?ありきたり過ぎて聞き飽きたわよ、その台詞」
「また我侭な……。まあ、そうだな。所々がレース生地になってるところとか、全体的に見ても変なところとかも見当たらないし」
「でしょ!?アタシも気に入ってるのよ!こういう細部までキッチリデザインされてる服が一番よね!」
話が合う相手が見付かったからか、マインのテンションが高い。顔が綻んでるし、饒舌である。
誰にでも高飛車な態度を取る彼女だが、それはかつての悲惨な子供時代から来る反動のようなものだろうとライは思っている。逆境の中、希望を諦めることなく耐え忍び、必ず這い上がってやるという強い意志。それこそが彼女の強さなのだろう。帝具も彼女のその在り方を体現するかのような代物だし。
「ーーちょっと、聞いてるの?」
「ああ、それは勿論」
並列思考はお手の物。でなければ一年足らずで将軍職に就ける訳がない。
数多もの策略を巡らせてどうにか命綱なしの綱渡りを成功させたのである。…………もっとも、終わった後も今度は別の綱を渡ることになっているのだが。今なお現在進行形で。
「ホントに~?」
しかしマインはまだ疑ってーーというよりかはこの遣り取りを楽しんでいる風でもある。
話しの分かる友人は男女関係なく稀少なのである。
「本当だって。ーーそうだ、マイン。ちょっとその場で回ってみてくれないか?」
「何よ行き成り……。まぁ、いいけど」
不思議そうに首を傾げつつも言われた通りくるりとターン。
ふわっ、とスカートが舞い、ツインテールの髪が風に揺れた。
「はいっ、と。これでいいの?」
「ああ。完璧だ」
頷く。
思った通りである。満足する結果だったらしく、口元が軽く緩んでいる。
「……で?これって結局なんなわけ?」
「ん?いや、マインって何と言うかお姫様みたいなイメージがあったからな。……うん。可愛いよ」
お姫様、と言っても、その頭に『お転婆な』とつくだろうが。
しかしそこは空気の読めるライである。余計なことなど言いはしない。真顔でさらっととんでもないことを言うのがライクリオリティ、なのである。
「ふぇっ!?ちょっ、可愛いって……行き成り何言い出すのよ!」
顔を真っ赤にしながら何時もの癖で、高圧的に言ってしまう。
「何って……見たまま、感じたままにありのままのことを言っただけだが?」
むしろ君が何を言ってるんだ?と言わんばかりにきょとんとした表情でライが言う。
まさに追い討ちだった。
「~~~~ッッ!!」
顔どころか耳まで赤くなったマインを流石に心配したのか、
「おい、大丈夫か?」
と顔を覗き込むようにして声をかけーーる前にマインの限界がきた。
「うっさいわよ馬鹿!ライのバーカ!!」
「ええっ!?」
心配したら行き成り罵られたことに驚き、思わず仰け反るライ。
早足に去って行くマインの背中を見詰めつつ、
「何だったんだ、一体…………?」
一人首を傾げるライであった。
そう言えばタツミは無事だろうか?と今更のように思い至り、訓練所へとライは足を運んでいた。
「おーい、タツミ。大丈夫、か……?」
そこでライが見たものとはーー。
ーー嫌に晴れやかな表情で額の汗を拭うブラートとレオーネの二人と。
ーーボロボロの状態で地面に倒れ伏すタツミの姿だった。
「ーーって、本当に大丈夫か!?」
慌てて駆け寄る。…………息はしている。脈拍はやや速いが許容範囲内。つまりは正常。意識はないようだが、気絶しているのだろう。
時間が経てば目覚めるだろう。
しかし、しかしであるーー!
「ブラート……レオーネ……」
知らず低い声で二人の名を呼ぶ。
「おう、ライじゃねえか。どうした?」
「『どうした?』じゃない!一体何やったんだ!?」
「まあまあそう怒るなって。命に別状はないんだし、なっ」
そういう問題ではない。
「明らかに、どう見ても、やりすぎだろう!」
「いやー、タツミがどれくらい強くなったのか気になってさぁ。試してみたらこれがなんと想像以上にできたもんだから、つい」
てへペロ、とレオーネ。
思わず拳を握り締めた自分は悪くない。そのはずだ。
深呼吸して内心の感情を押し留め、ジト目で二人に問う。
「で?なんでこんなボロボロになるまで何をやってたんだ?」
返答しだいでは鉄拳制裁も辞さない覚悟である。
「だからそう怒んなって。これはタツミだって了承していたことなんだしよ」
「ーーその通りだ」
不意に響いたその声は、この場にいる全員に馴染み深いものだった。
「ナジェンダ……それにラバックも」
不思議そうな声音のライに向けて、「よっ」と片手を挙げてラバックが返答し、そのまま近付いてきた。
「ブラートの言う通りだぜ、ライ」
「と言うか、私がけしかけたんだ」
衝撃の真実である。
「……どうして、そんなことを?」
そこはかとなくナジェンダを睨むように見詰めながら、ライが問う。
「何、タツミが悩んでいたようなんでな。私からアドバイスというか、自分の力を試せる機会を与えてやったんだ」
「それに私たちが乗っかったってわけ」
「そう、だったのか?それで?タツミが何に悩んでるって?」
ライの見ている限りでは、そう言った兆候は見られなかったため、怪訝に思うライ。
「ああ、それはなーー『自分は本当に強くなっているのか?』ってことだ」
「?タツミは十分強いーーああ、なるほど」
いいかけて、納得する。
確かに実力に大きな差があれど、掠り傷一つ付けられなければ自身の力に疑問を抱いたとしてもおかしくはない。ライとしては調子に乗らないように徹底的に叩いていたのだが、今回はそれが裏目に出たようである。
はあ、と思わずため息。
「言い訳するわけじゃないが……調練は苦手なんだ」
「ま、お前は現場指揮で兵の力を何倍にもするタイプだからな」
肩を竦めてナジェンダが笑う。
的確なその指摘は流石は元将軍と言うべきか。
「それはそうとして、やはりお前に頼んで正解だったな」
「まあ、タツミ自身の成長スピードが予想以上だったこともあるが」
「それでも、鍛えたのはライでしょ?流石は一年足らずで将軍職に就いた出世頭!」
「茶化すなラバック」
やたらと持ち上げてくるのは一体なんのつもりなのか。ライは自身が褒められること苦手なのだ。
ライは兵を鍛えるのは余り得意ではない(それでも人並み以上にはこなせるのがライのハイスペックたる所以である)。だが、自身よりも圧倒的に格上の相手との戦闘経験はタツミの持っている技量を大幅にブーストして上昇させた。
習うより慣れろ、百聞は一見に如かず、である。
「相変わらず、褒められるのは苦手なんだな」
と、呆れてるのか感心しているのか微妙な表情を浮かべながらラバックが言う。
「貶されるより褒められる方が何倍もいいと思うんだけど?」
「そう言われてもな……」
そう言って苦笑する。
こればかりは性分なのだから仕方ない。
「ま、それがライの美点ってことだろ?いいじゃねえか。褒められて無駄に威張るより、よっぽど“らしい”と思うぜ」
「つーかライが威張り腐ってるところなんて想像もできないって」
と、貶してるのか褒めているのか良く分からない感想を送るブラートとレオーネ。果たしてどう反応するべきなのか、判断に困るところだ。
「まあ、それは一旦置いといて、だ」
ふと、ブラートが真剣な声音と眼差しでライを見詰める。
「どうした?」
その真剣な眼差しに何かを感じたのかライもまた表情を真面目なものに変えて問い返す。
見れば、他のメンバーも真剣な眼差しでブラートの次の言葉を待っている。
それだけ彼からは真面目な雰囲気が出ていた。
「俺と……」
ゴクリ、と唾を飲み込んだのは一体誰か。誰もが固唾を呑んで見守る中、ライが無言で次に言葉を促す。
「ーーやらないか?(槍を構えつつ)」
「全力で拒否する」
真面目な雰囲気とは一体なんだったのか。
身の危険を察知して、ライは全速力で駆け出したのだったーー
「んぅ……お兄ちゃぁ~ん、頭ぁ」
ーー猫撫で声を出しながら、クロメがグリグリと頭を腹部に擦り付けてくる。
「はいはい」
昔から変わらない妹のその姿に苦笑しながら、要望通りに優しく頭を撫でてやる。
「んふふ~」
嬉しそうに笑いながら、更に頭を押し付ける。
未だに兄離れできていないことに嘆くべきなのか、最愛の妹に甘えられて喜ぶべきなのか。
どうでもいいことに思考が偏るのは、すっかり気を抜いてしまっているからか。
自身のだらけっぷりに自嘲する。
(もし今敵が奇襲してきたらどうなるんだろうな?)
ふと、そんなことを考える。もし今敵が奇襲してきたら……恐らく、その全員を死よりも恐ろしい生き地獄へと誘うのだろう。二人が。物騒になったと言うべきか、逞しくなったと取るべきなのか……判断に困る。
「……兄さん。私も…………」
クロメの甘えっぷりにあてられてか、寂しそうな顔をしながら隣りに腰掛けるアカメが服を引っ張ってきた。
何時も無表情でクールなアカメだが、実際は寂しがり屋で甘えん坊なのである。特に、ライとは何時も一緒にいられないからその傾向が強い。ーーもっとも、甘える相手がライしかいないと言うのも一因なのだが。
……アカメも、クロメも、あの何処までも狂った施設に入れられて。どうにか共に過ごせるように命懸けの交渉でもぎ取って。二人が狂った施設に染まってしまわないようにずっとずっと守ってきた。……守れた、はずだ。
薬物による強化も、『教育』による洗脳も、どうにか防げたはずだから。一部の例外を除いて、ほぼ四六時中一緒にいたのだから。
疎まれてでも共に居続ける心算だったのだが、すっかり自分に依存してしまったことには反省しているが。
「兄さぁん……」
「ーー……あ、ごめんごめん」
ーー妹の、涙混じりのその声に、意識を引き戻される。
気付かない内に考えに没頭してしまっていた。そのせいで無視されたとでも思ったのか、アカメが若干涙声になってしまっている。
しまったな、と思いつつ、微笑みかける。
「ごめん。ちょっと考えごとしてて」
「……うん」
ゆっくりと髪を梳くように撫でれば、うっとりと紅い瞳を蕩けさせて鷹揚に頷く。
「おいで、アカメ」
「うん」
片手でクロメを相手しつつ、もう片方の手をアカメに差し伸ばす。
嬉しそうに笑みを浮かべながら擦り寄るアカメの姿はやはりーー
(犬……と言うか忠犬だな)
試してみようか、と脳裏に思い浮かんだことをなんとなしに実行してみる。
「アカメ、待て」
ピクンッ、と小さく肩を震えさせ、ライの肩に頬を擦り付け腕を抱き締めていて「ほぅ」と息を吐いていたアカメが硬直した。
紅い瞳を潤ませて、切なそうに見上げてくる。……やっておいてなんだが、罪悪感が酷い。
潤む瞳が「どうしてなんだ?」と問いかけてきているようである。
「お手」
しかしなんとなくこのまま引いてはいけないような気がしたので、更に踏み込むライ。……疲れているのだろうか?自分でやっておいて首を傾げる。
差し出した掌の上にポフッ、と素早くアカメの手が乗せられる。
「…………」
ジィ、と見詰める瞳から消えなき声が伝わってくる。言うことを聞けばご褒美が貰えると期待する犬のようである(いや、悪い意味でも変態的な意味でもなく、比喩的な意味で)。
「これでいい?これでいい?」と激しく振れる尻尾とピンと立った犬耳を幻視した。
(……大分疲れてるな、僕)
眉間の辺りを揉みほぐし、ふぅ、と小さく息を吐く。
「よしよし。よくできたな」
片手だけではなく両手を使って撫でさする。
もうまんま人間ではなくペットに対する飼い主の構図である。俗に言う、深夜のテンションである。
「ふあぁぁ……にいさん、にいさん」
褒められたのが嬉しいのか顔を綻ばせ、舌っ足らずに兄に擦り付くアカメは、こちらも兄妹と言うより、飼い主に褒められて喜ぶペットにしか見えない。もし尻尾があったらちぎれんばかりに振っていたことだろう。それはもう、ブンブンと激しく。
しかしアカメが『犬』だとするなら、クロメはーー
(……猫、かな?甘えん坊な飼い猫)
「お兄ちゃん…………?」
自身を撫でる手の感触が止まったことを不思議に思いますクロメが不満を表すように起き上がった。ーーちなみに、お分かりの方もいるかと思うが、クロメはずっとライの膝枕で横になっていた。
「クロメ、待て」
「?」
兄の意図が分からないという風に小首を傾げる。……まあ、妥当である。
次は手を差し伸ばして、
「お手」
「……?…………!」
首を傾げ、考えても無駄だと判断したのか、行き成りニコッ、と笑ってクロメがライに飛び付くように抱き着いた。
姉のアカメとは大分違う反応である。
試しに喉をくすぐるように撫でてみる。
「……あ、猫?」
と、楽しそうに言って、モノマネするようにゴロゴロと喉を鳴らす。
(……うん。猫、だな)
しかし姉妹でこうも反応が違うというのが面白い。
「くぅーん……」
「……よしよし」
ライがクロメに構ったことで結果的に放って置かれる形になったアカメが寂しそうに喉を鳴らす。本格的に犬っぽくなったアカメに苦笑しながら、片手で抱き寄せて髪を撫でると心地よさそうにまた「くぅーん」と喉を鳴らす。
三人が三人、ベッタリとくっついているおかげで身体が自然と温まる。暖房いらずだな、とライはかつての世界を思いながらそっと微笑んだ。
「ーー」
草木も眠る丑三つ時。みんなの眠りに妨げにならないようにそっとアジトを抜け出したライは、ヴァイオリンの入った特注のケースを片手に歩いていた。
そして、到着したのはタツミの幼馴染みが静かに眠る場所。
「……夜分遅くに済まないな。明日にはもう此処を出るから、そのお別れを言いに来たんだ」
実は此処でタツミのための演奏を行なってからというもの、毎晩のように此処に来て、演奏を行なっていたのだ。
台所からくすねててきた果実酒の入った瓶を傾けて、そっと墓地に染み込ませる。
近くに花が添えてあるのはタツミか、それとも優しいシェーレか。
今は眠るーー会ったことはないーー二人の冥福を祈ってしばし手を合わせ、ライはヴァイオリンを取り出した。
そうして演奏するのが此処最近のライの日課である。そして、何時もならこの場にもう一人ーー
「ーー今日も此処にいたのか」
「ああ。……最後だからな」
「そうか」
背後から声をかけてきたその主の正体を、わざわざ確認するまでもない。
無愛想に言って、声の主ーーキバットは翼を羽ばたかせて墓石の上に留まる。罰当たりではあるが、言ったところでどうにもならないことは長い付き合いでとうに理解している。
観客が静かに目を閉じたところでーーライはヴァイオリンを構えた。
ーー旋律が響く。
月明かりが照らす中、銀髪の青年の姿を闇夜に浮かび上がらせる。
何処までも優しく、暖かい旋律を奏でる青年。
朽ちかけていた草花が再び生気を取り戻すかのように咲き乱れるその様は幻想的で美しくーーまるで、この世界を青年が支配しているかのような、そんな錯覚を得た。
(………やはり、俺の目に狂いはなかった)
キバットは思う。この男こそが、今のこの世界を破壊し、新たな世界を創るに足る男だーーと。
(キバの鎧の持つ選定に選ばれたことが、一体何を意味するのか…………お前は気付いているか?)
かつての彼が言ったように、『キバ』は通常の帝具とは違う。だが、それは何も選定のことばかりではない。
だがーーそれを教える気は、今のところない。言ったところで無駄だろうし、ライ自身が信じることもないだろう。ーーいや、案外あっさり納得するかもしれないが。
どちらにせよ、今のところは教える気はない。
(“その時”が来たら教えてやろう。だからーーそれまでに死ぬなよ、ライ)
何処までも自分の命に無頓着な、優しくも狂った青年のことを想い、キバットは内心でそう呟いた。
ーー闇夜に、一人の青年の奏でる音楽が静かに木霊するのだった。
翌朝、荷物を纏めてアジトを去ろうとするライを見送りに、タツミが出てきていた。
「もう行っちゃうんだな」
「まあ、任務だからな」
何処か残念そうな響きを含んだ声音に、苦笑しながら返す。ーー本当に残念なのはこちらの方だ。
などと思いながら。
「俺、まだ色々教わりたかったのに」
「確かにな。だが、後はアカメたちに教えてもらうといい。“暗殺者”としてなら、僕よりもみんなの方が優れてるし」
言いながら、ライは一度纏めた荷物を置いて、真っ直ぐにタツミの目を射抜いた。
「タツミ」
静かに名を呼ぶライに、思わず姿勢を正す。
特に何かを威圧している訳ではない。至って自然体。何時も通りの姿だ。
だが、タツミは自然とそうしていた。そうさせる“何か”ライにはあった。
「アカメは表情が分かりづらかったり、厳しく当たるかもしれないけれどーー」
そこで一拍間を空けて、ライは優しい微笑みを浮かべた。
帝国の将軍でも、ナイトレイドの間諜でもない、妹を想う優しい兄としての笑み。
そこから紡がれるには、他の誰でもない『ライ』と言う家族思いの青年の言葉。
「あの子は誰よりも仲間思いで優しい、素直ないい子なんだ。だから、どうかあの子のことをーー」
ーー宜しくお願いします。
そう言って、ライは頭を下げた。
新入りでまだ実力も遥かに劣るタツミに向かって。
……それだけ、アカメのことを大事にしているのだろう。その思いが、何よりも深く感じられた。
「ーーああ!任せてくれ!」
胸を張ってタツミは答える。
尊敬する人が此処まで言って、それに応えなければ男が廃る。
「……ふっ。それじゃあ、任せたよ、タツミ」
荷物を担ぎ上げ、先に待っているクロメの下へと歩き出すライの背中を、タツミは無言で見守っていた。
(ーー何時か、絶対に追い付いてやる)
果てなき背中を夢見ながら。
ーー斯くして、舞台は再び帝都へと舞い戻る。
アカメ(以後ア)「アカメと」
クロメ(以後ク)「クロメの!」
ア・ク「「あとがきコーナー!」」
ワーワーパチパチパチ!!
ア「というわけで、調子に乗った作者が試験的に作ったあとがきコーナーだ」
ク「ここでは本編の解説や読者の疑問なんかにお答えしたりする完全メタ空間だよ」
ア「ゲストとして本編未登場のキャラクターとかも招待するかもしれないが、メタ空間なので気にしては駄目だ」
ク「好評だったら本格的にこのコーナーを始めると思うから、感想を書いてね」
ア「今回は初回と言うことで特に質問もないしな……。本編についての解説をしよう」
ク「今回は初心に戻って短編集みたいに幾つかの小話を詰め込んだんだよ」
ア「時系列的には三日目の昼、タツミとの訓練が終わった辺りからだ」
ク「お兄ちゃんとシェーレさんとの会話だね」
ア「ああ。そしてラストは兄さんとタツミの会話だ」
ク「作者さんはキャラクターの口調とか結構悩んでるらしいよ。キャラ崩壊酷いのはやっぱり私とお姉ちゃんなんだって」
ア「それは仕方ない。兄さんだから」
ク「お兄ちゃんだもんね」
ウンウン
ア「……ん、そろそろ終わりだな」
ク「こんな感じで進めていくので、他にこうした方がいいとかああした方がいい、そもそもするな!って言う意見とかくれると嬉しいなぁ」
ア「あと、感想をくれないと作者が『不安で夜も眠れなくなるので感想書いてください』、だそうだ。全話で全然感想が来なかったからかなり不安がってたぞ」
ク「というわけで、今日はここまで。それじゃあ、」
ア・ク「「さようならー!」」
書いてみました。不評だったらやめます。次回は別パターンのを書いてみようかとも思ってます。
というわけで、感想、誤字報告、どうか宜しくお願いしますm(__)m