活動報告でも書いたように、受験が重なり連絡もなく更新が途絶えたことを謝罪します。
合格発表の合否にもよりますが、これからはなるべく早めに更新できるように努めたいと思っています。
それでは本編をどうぞ。
人で賑わう帝都メインストリート前に、一組の男女が佇んでいた。
野性味溢れるアウトローと言った雰囲気を感じさせる長身の女性と、未だ幼さの残る小柄な少年ーー言うまでもないかもしれないが、レオーネとタツミの二人である。
この二人が今や帝都を震撼させる殺し屋集団、『ナイトレイド』の一員であると一体誰が想像できるだろうか。
(あの時は勢いで「任せてくれ!」って言ったけど……正直自信がないぜ)
渋い顔で思い悩むタツミ。
たった三日間とは言え、タツミにとっては鮮烈な印象を残した銀髪の青年。その彼から頼まれたのが、彼の妹ーーアカメについてだ。
タツミにとっては(誤解だったとは言え)二度も殺されかけた苦い思い出がある相手だが、同じ職場で戦って行く仲間。どうにか距離を縮めようと彼なりに頑張ってみたのだが……結果は惨敗。
青年が去った後に世話係として彼女と組まされたのだが、無表情で何を考えているのか分からない。その上タツミに対しての対応が明らかに他のメンバーとは違う。認められていないのは明白だが、タツミとて聖人君主ではない。厳しくされれば反発心だって芽生えるし、どうにか認めさせてやろうと言う気概も湧いてくる。
そのための今回の任務なのだが…………果たしてこれで認められるのだろうか?と言う不安がある。
それに、タツミにとってはこれが初任務。その成否によっては今後の立ち位置も変わってくる。
思わず頭を抱え込みそうになるタツミに朗らかな声が掛かる。
「この道を真っ直ぐ行けばメインストリートだ…………って、どうしたんだい。頭なんか抱えちゃってさ」
「いや、なんでもねえ。分かった」
頭を振って思考を切り替える。
アカメに自分を認めさせるためにも、今回の任務ーー帝都警備隊隊長オーガの暗殺ーーは絶対に成功させる。
気合十分、メラメラと反骨精神を燃やしながら勇み込んで行こうとするタツミに対して、唐突にレオーネが話しかけた。
「これはアカメーーまあ、ライとクロメもなんだがーーの昔話なんだが」
「ん?」
タツミが振り返ったのを確認して、レオーネは語り出した。
ーーかつてアカメ自身から聞いた、幼い兄妹の話を。
アカメ達は小さい頃に兄妹揃って帝国に買われたんだよ。……酷い話だが、まあ、貧乏な親が子供を売るのはよく聞く話だ。
そして同じ境遇の子と一緒に帝国の暗殺者育成機関に入れられて、殺しの教育を受けながら、過酷な状況を生き延びてきた……。
やがて、帝国の命ずるままに仕事をこなす、一人の暗殺者が生まれた。……だが、任務をこなす度に帝国の闇を感じ取り、当時標的だったボスに説得され、帝国を離反。真に民を想う革命軍についたんだ。
「ーーそうなるまでに、共に育った仲間のほとんどは死んでしまったらしい」
そう言ってレオーネは昔話を締め切った。
彼女から聞かされた、アカメ達の壮絶な半生に、思わず黙り込む。
(そんな環境で育ったから……あの人は二人を大切に思ってるんだな)
脳裏に浮かぶ、優しげな表情。見るもの全てを優しい気持ちにさせる、ただただ優しさに満ちた微笑みを向ける相手は、決まって二人。
彼の妹ーーアカメとクロメ。過酷な環境の中で、あの三人は互いに身を寄せ合って生き延びてきたのだろう。だからこその、絆。
「何が言いたいか分かるか?」
その問いかけに、思い付く回答は一つしかない。
「殺しのプロとして俺がヌルいって言いたいんだろ?」
だが仕方ないではないか。こちらは少し前まで暗殺稼業に身を窶すことなど考えもしなかったのだから。
そんな思いを込めて放たれた言葉に、レオーネは困ったような微笑を浮かべて、
「……ま、今日のが成功したらお前にも分かるさ」
「おう!絶対成功させて見せるぜ!」
「グッドキル!」
湿っぽい空気を振り払う様に明るく宣言するタツミに、こちらも明るくエールを送るレオーネ。
随分と物騒なエールを背に受けながら、タツミは今度こそ背中を向けて歩き出した。
ーー帝都警備隊隊長、通称「鬼のオーガ」。
鬼と呼ばれるだけあり、その剣の腕は多くの犯罪者達から恐怖の対象とされている。
普段は多くの部下と見回りに出ており、それ以外は警備隊の詰め所で過ごす。賄賂は自室に相手を呼んで受け取っており、今回の任務はオーガと賄賂を送って好き勝手に無法を働く油屋のガマルの暗殺。
ガマルはアカメとレオーネが担当し、難敵であるオーガはタツミが一人で担当する。
そして、非番の日は役目柄詰め所を離れるわけにもいかず、宮殿付近のメインストリートで飲んでおり……今日この日が、オーガの非番の日である。
ローブを目深に被り、顔を見られないようにしながら周囲に目を配る。
ボスーーナジェンダの情報通りなら、オーガはこの辺りにいるはずである。
(…………いた)
酒を飲んだ直後なのか、若干足元が覚束無いが、警備隊の服装に身を包んでいるその姿は確かに写真の姿と一致する。
周囲から揉み手擦り手で言い寄られながら、機嫌良さそうに相手をしている。…………まだ、接触するには早い。
周囲に気付かれぬようにオーガを殺すには、まず人のいない場所に誘導する必要がある。
「………………」
小さく深呼吸して心を落ち着かせ、オーガの周りから人がいなくなった時を見計らって近付いて行く。
「……あのう、オーガ様」
「あん?」
「ぜひ、お耳に入れたい話があるのですが……」
ニヤリ、と悪っぽそうな笑みを浮かべながらオーガに提案する。酒が入って気分が良くなっている今なら、多少怪しくとも乗ってくるはずだ。
果たしてーー
「……なんだ?言ってみろ」
「(かかった!)此処では少し……」
予想通り、乗ってきた。なら後は、人気のない場所ーー裏路地辺りにオーガを連れ込む。
「裏路地でお話できませんか?」
(此処では、順調……後は、俺次第だ)
「(人の気配がねえな)オラ。此処ならいいだろ。話してみろ」
人の気配がないことを悟っていながら、こうもタツミの話に釣られてきたのは、単純に自分の力量に絶対の自信を持っているからだ。
例えタツミが敵だったとしても、自分なら問題はないと言う強い自負……或いは、傲慢。
なんにせよ、此処が運命の分かれ道であったことは想像に難くない。
そして次の瞬間、タツミがとった行動とはーー
「お願いします!俺を帝都警備隊に入れて下さい!!」
土下座。そう、土下座である。
それはもう見事な土下座。非の打ち所がない完璧なDO☆GE☆ZAである。
「…………」
今までの雰囲気を纏めてぶち壊さんばかりの行動に流石のオーガも唖然とする。
しかし、徐々に現状が理解できたのか、呆れたように「はあ~」と息を吐き出した。
「金を稼いで田舎に送らなきゃならないんですよ~~!!」
泣き付いてくるタツミにオーガの反応は至極冷たい。
「はあ~……。んなこったろうと思ったぜ」
そう。帝都警備隊の隊長であるオーガならば、自らの裁量で新たに隊員を入隊させることなど難しくない。こうして入隊を頼んでくる人間はしょっちゅういるのだ。
だから、その時の対応も心得たものである。
「正規の手順を踏んでこい、ボケ!」
断じて、去って行こうと背を向ける。
「ですが……」
膝を着いた体勢から、静かに剣に手を掛ける。
「ーーこの不景気では、倍率が高すぎます」
ゆっくりと、刀身が顕になる。
「ーー仕方ねえだろ」
その気配を察して、何時でも対応できるように剣の柄に手を置いた。
「お前が力不足ってこったな」
背後に気を配りながら、柄を握る。
一瞬の静寂。そしてーー
ーー斬ッ!
と、弾丸のように飛び出したタツミと振り返り様に上段から斬り下したオーガが交錯する。
崩れ落ちたのはーーオーガ。
(……迅え!!)
剣技の冴えも、抜刀から斬撃に移るまでの速さもそうだが、何よりも、恐れを知らぬ思い切りの良さ。
それがーーより早く、より深い踏み込みへと繋がり、タツミの力を一段階押し上げている。
(まさかこの俺様に歯向かう奴がいるとは……)
タツミ自身の技量もあったが、何より大きかったのはオーガ自身の油断だろう。
自身の技量を過大評価し、タツミの実力を侮ったこと。それが彼の敗因。
ドサリ、と倒れたオーガを見て、思わず「やった!」と歓声を上げてしまう。
これで任務は達成したーーと達成感に浸るよりも早く、アジトでアカメに言われた言葉が脳裏に甦る。
『きちんと任務を遂行し、報告を終えて初めて立派と言える』
「あ……そうだ…………すぐ報告に行かないとーー!?」
その瞬間、凄まじい悪寒が背筋を走り抜け、振り向きつつ咄嗟に剣で防御しつつ、思いっ切り後ろへと跳躍する。
距離は空いてしまうが、衝撃を殺して場を仕切りなおすためにも有効な手段である。
「……俺が…………このオーガ様が……テメェみてぇなクソ餓鬼に殺られるかよ……」
犯人は、倒したと思っていたオーガ。
斬られた箇所から血を流しながらも、男は立ち上がっていた。
「弱者が泣こうが喚こうが関係ねえ……この街じゃ力が全てなんだよ」
ブツブツと独り言のように呟かれるのは、今際の際の言葉ではない。
「俺が人を裁くんだよ!俺が裁かれて堪るかぁ!!!」
それは、権力に取りつかれ、力に酔った者の果て。ーー今の腐り切った帝国同様、芯まで腐った醜い男の叫び。
「勝手なことーー」
柄を握り締めて、勢い良く地面を蹴り付ける。
全身の力を一点に集中させ、それを一気に開放することで爆発的な加速力を得る技術ーー拙いながらも習得した、銀の青年の技術。
弾かれたように接近し、下段から更に地面を蹴って跳躍、斬り上げる。
「言ってんじゃねえッ!」
だがーータツミの放った斬撃は、敢え無くオーガの剣によって受け止められてしまう。
「噴ッ!!」
「ぐっ!?」
それだけでなく、元々の体格、筋力の差によって強引に剣を押し込まれ、地面が上からの圧力に耐えきれずに陥没する。
その執念とも言うべき力に、拮抗するだけで精一杯のタツミ。
「そうかぁ……」
と、唐突に何かを気付いたようにニヤリと表情を歪める。
「さてはお前、ナイトレイドの一味だな?」
(ーーッ!気付かれた!?)
「誰の依頼だ?心当たりは腐る程あるが……最近だとこの間殺った奴の婚約者か?」
ギリギリと変わらず剣に力を乗せてタツミを押さえ込みながら、オーガはタツミの動揺を見抜いていた。
「当たりかぁ……やっぱあの女もあの時殺っておけばよかったなぁ…………いや。今からでも遅くはないか」
上からかかる力に歯を食いしばって拮抗するタツミを絶望させようとするかのように、楽しげに“その後”の想像を語り出した。
「まずはあの女を探し出し、親兄弟を重罪人に仕立て上げて、女の目の前で皆殺しにしてやる……!テメェを殺った後になぁ……!!」
哄笑をあげるオーガの姿にーータツミの中の何かが音を立てて切れた。
拮抗させていた力を少しだけ抜いて、刀身を滑らせ体勢を崩す。
地面スレスレまで屈み込んでーー跳躍。下からすくい上げる様に剣を振るい、オーガの両腕を切断する。
(コイツら、みんな同じだ。手に入れた権力を振りかざして、理不尽にそれを行使する)
二人の大切な幼馴染みの姿が脳裏に蘇るーー
(貴様みたいなクズはーー)
空中で体勢を整えるタツミと、オーガの視線が交差する。ーーその、何の感情も宿さぬ瞳に、背筋が凍った。
そしてその瞳はーーかつて一度だけ会った男を回想させる。
余りにも冷え切った、蒼い瞳を。
(ーー俺が切り刻む!!!)
タツミが放った神速の連続切りに、両腕を切断された男に対応できるはずもなく、為すすべもなく滅多切りにされーー今度こそ、オーガの命は尽きるのだった。
「強敵の始末、ご苦労だったなタツミ」
見事だった、と上司に称賛されて嬉しくないはずがない。
「おう!」
と返答しつつご満悦のタツミ。しかし、彼の災難は此処から始まるのだ。
「どうだアカメ!報告終えて任務終了!何とか無傷でやりとげてきたぜ」
話しかけられたアカメはと言えば、相変わらずの無表情でタツミを眺めていた。
「さあ、俺を認めろ……」
鼻高々ですっかり調子に乗っているタツミに無言で近付きーー行き成り上着を脱がせた。
「なっ……!なにすんだよ行き成り!?」
思わず叫ぶタツミには一切取り合わず、ガッチリと両腕をホールドしたまま、アカメは外野の二人に応援要請。
「レオーネ、ボス。押さえて!」
やたらとキリッとした顔で。
「分かった!」
「お?なんだか面白そうだな!」
そしてそれに乗る二人。何となく、先の流れが読めてきたタツミが静止の声を上げようとするよりも早く、
「イヤアアアアアッ!?!?」
アカメによってズボンを降ろされた。
思わず生娘のような悲鳴を上げるタツミ。下着に靴下という全く需要のない姿になり果てたタツミ……哀れである。
そんなマニアックな格好になり果てたタツミを紅い瞳でじっくりと観察しーーやがて、ほっ、と息を吐いた。
「……よかった」
「え……?」
余りの恥ずかしさに俯いていた顔を上げると、タツミには初めて見せる優しい微笑みがあった。
共通点のない兄妹ではあるが、その微笑みは、確かに兄のものと似通っていた。
「強がって傷を報告せずに毒で死んだ仲間を見たことがある。ダメージがなくて何よりだ。初めの暗殺(任務)は死亡率が高い……よくぞ乗り越えた!」
戸惑うタツミの手を取って、強引に握手。先程までとは打って変わった様子である。
「あ、ああ……?」
首を傾げるタツミに、静観していたレオーネが説明してくれた。
「アカメはお前に死んで欲しくないから厳しく当たってたんだよ」
「料理は仲間とのコミュニケーション。難しい狩りで暗殺を学ぶ……どれもお前にとってプラスな日々だと気付いていたか?」
真意を語らない所は兄とそっくりだな、と補足説明の後に面白そうに付け加えるナジェンダ。
「え……あ……そ、そうなの?」
確かに、言われてみればそうだと納得するものも多い。
「ゴメン、アカメ……俺、誤解してた」
『あの子は仲間思いの優しい子だから』
優しげに笑った青年の言葉は間違っていなかった。今までの態度は、全てをタツミのためを思ってのものだったのだ。
「いいさ。これからも生還してくれ、タツミ」
小さく笑みを浮かべながら握手を求める手を、
「ああ!これからもよろしくな、アカメ!」
力強く握り返すのだった。
「服も着ないで何をよろしくするつもりなんだよ」
「お前らが脱がせたんだろうが!」
一言余計な奴である。
コン、コン、コン……と三度のノックの後、中から男の声が耳朶を打つ。
『誰だ?』
「私です。スピアです」
『……入れ』
名乗った後、数瞬の間を空けて入室の許可が出た。
「失礼します」と断って、扉を開けて入室する。
部屋に入ると、まず殺風景な室内の景色が目に映る。華美な調度品を好まず、無駄なものを置かない主の性格が現れた部屋は、必要最低限のものしか置かれていない。以前、気を利かせたスピアが持ち込んだ花が花瓶に入れられて飾られているくらいだろうか。
以前、装飾品の類は置かないのかと聞いたことがあったが、「仕事部屋に何を飾れと?」と逆に問いかけられて以来、その手の話題は口に出さないようにしている。
次に目に映るのは、綺麗に片付けられた書類の傍で、静かに紅茶を啜っているこの部屋の主の姿ーースピアの上司であるライゼル将軍である。
「それで、何用だ?仕事ならば今日の分のノルマは果たしたぞ」
「帝都警備隊隊長のオーガが暗殺されました」
無駄なことを嫌う主のために、簡潔且つストレートに報告する。
ピクリ、とカップを持つライゼルの手が止まった。
「犯人は?」
「依然、調査中です。ですが、フードを被った小柄な人物がオーガと共に裏路地に入るのを見たと言う目撃証言があります。恐らくはその人物が犯人ではないかと」
「妥当な所だな。……それで、お前は犯人についてどう思う?」
抽象的な言い回しだが、彼の部下である以上、こう言った言い回しには慣れている。彼がこう言った言い回しをする時は、決まって意見を求める時ではなく、何かを“試す”時であることも、スピアは知っている。
「そうですね……殺害されたオーガは『鬼のオーガ』と呼ばれるほどの力量を持った人物です。並の相手に殺られるような男ではありません」
無言で、ライゼルが先を促す。
「調査によれば、彼は殺害される前に近くの店で酒を飲んでいたそうですが……」
「以前にも似たような騒ぎがあった。その時は奴自身が捕縛し、一族野党皆殺しにしたーーだったな」
「はい。ですので、“酔った隙を狙われた”と言う線は薄いかと」
此処までは調査の結果とオーガ自身の経歴を鑑みれば誰でも予測できるようなことである。当然、そんな答えはライゼルは望んでいない。主の期待に応えるため、スピアは自身の推測を話し出した。
「これは私の推測なのですが、犯人は恐らくナイトレイドの一味かと」
「……根拠は?」
「辺りにオーガと争った形跡はありましたが、その他の証拠ーー犯人の手がかりとなるような証拠などが発見されませんでした。それにより、相手は相当な手練だと思われます。そしてオーガを一方的に惨殺出来る程の手練、事前の目撃証言にある小柄な人物……これを“男性”ではなく“女性”と見れば、平均身長と同程度になります。そんな条件に当てはまる人間となれば、自ずと答えは限られます」
即ちーー
「ナイトレイドのアカメ、か」
「はい」
一口紅茶を含んで、ライゼルは微かに唇を吊り上げた。
「中々いい線を行っているが、犯人はアカメではない。……多分な」
「……では、誰が犯人だと?」
先の考察にはそこそこ自信があったため、どことなく棘のある言い方になったのは勘弁して欲しい。まぁ、彼はその程度で腹を立てるような人間でもないのだが。
「犯人がナイトレイドであることは間違いないだろう。帝都内で帝都の警備隊隊長を殺すなど、連中くらいのものだろう。メリットがあるのは。だが、それだけでアカメが殺したと考えるのは早計だ。ーーそもそも、その死体はどんな殺され方をされていた?」
「袈裟斬りに着いた傷が一つと、それより後に付いたと思われる多数の斬撃痕がーー」
と、資料での写真を思い出しながら答えると、言い終える前にライゼルが口を挟んだ。
「そこだ」
「はい?」
「犯人がアカメであるなら、その殺害方法はおかしい。ーーよく考えろ。アカメは何を持っている?」
そこまで言われれば、流石に気付いた。
ナイトレイドのアカメが殺したとするならば、確かにそれは引っかかる。
何故なら、アカメはーー
「『村雨』……!」
「そうだ。その時に限って村雨を持ってこなかったーーなどと言う間の抜けた失態を奴が犯すはずあるまい。であれば、アカメ以外の誰か…………新しく加入したのか、それとも元からいたのか。何れにせよ、アカメが殺したのならば最初の一撃でカタが付いている」
「成程。確かにそうですね」
確かに、ライゼルの口にした考察は理に適っているし、スピアの言ったものより説得力がある。
「まぁ、犯人探しは私達の役目ではない。それは他がやることだ……ふん。しかし奴が殺られたとなると、“抑止力”がなくなるな」
オーガは賄賂を受け取り好き勝手にやっていたが、その力は犯罪者達の行動を抑制する一種のストッパーになっていたのだ。これにより、今まで息を潜めていた犯罪者連中が図に乗り始める可能性が高い。
面倒なことになったな、と三度紅茶を啜る。
「……まぁ、いい。それは私が出れば済む話か」
「将軍自ら、ですか?しかしそれは……」
将軍格の人間がそう簡単に動いていいのかと余り乗り気ではない様子のスピアに、表情も変えずに(まぁ、何時も通りと言ってしまえばそれまでなのだが)ライゼルが付け加える。
「元より外には出ていた。今回は範囲を広げるだけだ。それに……」
「それに?」
「将軍自ら動いたとなれば、民も安心するだろう」
「……成程」
相も変わらず無愛想な言い方ではあるが、彼なりに帝都を慮っているのだ。民なくして国は成り立たんーーかつて父より聞かされた言葉が脳裏に甦る。
父に頭を下げてまでこの方の下に仕えてよかったと思う。彼の下ならば、自分の槍は最大限に活かせるだろう。
「では私もお供します!」
「いや、お前は残れ」
「ええ!?」
ビックリである。
「……私の留守中、何があるか分かったものではないからな。番は任せたぞ」
しかしそれも自身を信頼してのことだと分かり、一安心。
だが、それでも不安が残る。
「ですが、何の護衛も付けずにお一人で出回るのは……」
「私に傷を付けられる人間がいると思うか?…………いや、済まぬ。意地が悪かったな。何、心配せずとも私には腕の立つ護衛が既にいるーー『黒』」
音も、気配もなく、まるで影のようにライゼルの傍で佇む全身黒ずくめの仮面の人物。『黒』と呼ばれた人物は、彼が従軍するよりも前から彼にのみ仕える従者として、皇帝の命であっても従う必要はないというかなり特殊な立ち位置に立っている。……その特殊性を認める代わりに、ライゼルの権限は他の将軍達と比べると低くなってしまっているのだが。
「一体何時の間に……」
「気にするな。ーーともあれ、護衛の件は問題ない。不安事項も抜けたことだ。茶でも飲んで行け」
「え?で、ですが」
「遠慮はいらん。美味い茶菓子もあるぞ……手作りだがな」
「頂きます」
どんなに己を律していても、そこは花も恥じらう可憐な乙女。甘味の誘惑には打ち勝てなかった様子。ーー何より、秘かに慕っている人の誘いなのだ。戸惑いこそすれ、断る理由などない。
「ああ。ゆっくりして行くがいい」
その後、手作りだという茶菓子が自身が作ったものより美味しくて、若干ショックを受けたスピアであった。
今回、後書きにて『キバットによる華麗なる後書きコーナー』を企画していましたが、作者の精魂尽き果てそうなので、今回は無しです。
なので代わりに本編での新キャラ、スピア登場。……知ってる人、覚えている人はいるかな?
原作では早々に猟奇的な殺され方をした彼女ですが、『銀の皇帝』ではライゼルの部下として生存してもらいました。なお、帝具“は”持っていません。
彼女にはライゼルの部下として頑張ってもらいます。
それでは、今回はこの辺で。感想、何時でもお待ちしております。