ひろがるスカイ!プリキュア~ SUNLIGHT×STORY ~ 作:零たん
エルのホームシックが解消した数日後の早朝。
ジャージ姿のソラは玄関前で準備運動をしながら、ハルトとましろの到着を待っていた。
「ハルトさん、今日もちゃんと起きれるのでしょうか?…あっ!」
玄関の扉が開くと中からましろがハルトの手を引きながらやってきた。
二人ともソラと同じくジャージを着ている。
「ましろさん!ハルトさん!おはようございます!」
「おはようソラちゃん!ほらハルくんもあいさつ」
「おはようございまふ…」
まだ起きて間もないのか、眠そうに挨拶をするハルト。
「もうハルくんだらしないよ!自分からトレーニングに参加するって言ったんだからシャキッとしないと!」
「うごいてるうちに…めがさめるから…きにしないで…」
「めちゃくちゃ気になるよ~!ごめんねソラちゃん、ハルくん朝すっごく弱くて」
「大丈夫ですよ。でも今日もちゃんと起きれてえらいですね、ハルトさん!」
「ありがとう、ソラ。ふぁ~……」
ハルトはあくびをしながら返事する。彼は朝起きがすこぶる苦手で何時もましろに起こしてもらってる。
しかしこの間ソラに叩き起こされた影響か、スカイランド神拳という言葉を耳元で囁くと飛び起きるようになっていた。ハルトいわく「その言葉を聞くと古傷が疼く」らしい。
ましろが起こさなければならないのは変わらないが、これまでゆすろうが布団を捲ろうが鼻をつまんでも全然目覚めなかったのと比べれば大きな進歩である。
「では、準備運動をしてからランニングに行きましょう!」
「は~い!走るの苦手だけど頑張るよ~!」
「ふぁ~い」
ソラ教官の号令と共に、三人は準備運動を開始するのであった。
―――――――
ソラの自主トレにハルトが参加するようになったのは、前回の竹ランボーグとの戦いが切っ掛けである。あの戦闘で自分の力不足を痛感したハルトは、ソラのように戦えるようになるにはどうすれば良いか考えた結果、先ずは基礎体力をつけるべく彼女が毎朝やっている自主トレに参加することにしたのだ。
(一緒に戦うって決めた以上、あんな情けない姿はもう見せたくないからな)
今ハルトはソラたちと一緒にランニングをしている。体を動かすうちにすっかり頭も覚醒したハルトは、自分の目の前を走るソラの背中を見る。
(俺ももっと強くなってソラの力になりたい。一緒に肩を並べて戦いたい!)
その思いを胸に、ハルトは走るペースを上げた。前を走るソラに追いつき彼女の隣を並走する。
「ハルトさん、息が上がってますよ。競争じゃないんですから、自分のペースで大丈夫ですよ?」
「だ、大丈夫!まだまだ余裕だから!」
そういうハルトだが、その言葉とは裏腹に息が乱れている。彼は体を動かすこと自体は嫌いではないが、部活にも入らず取り立てて鍛えてはこなかったので、運動神経も体力も並み程度だった。
それでもハルトは、ソラと並んで走りたいと懸命にペースを上げた。
一方のソラは呼吸を乱さず、汗一つかいていない。ヒーローになるべく幼い頃から鍛えてきた彼女は、ハルトと比べ物にならない量のトレーニングをこなしてきており、フィジカルは人一倍どころか数倍はあった。それに追いつくにはハルトも必死にならねばならない。
(悔しいけど、追いて行かれてたまるか!)
ハルトは心の中で叫びながら、ソラに必死に食らいついていった。
そして隣を走る彼女に声をかける。
「見てろよソラ!俺、絶対ソラに負けないくらい強くなってやるからなぁ!!」
「おお、凄い意気込みですね!私も負けていられません!」
走るペースを早めるソラ。彼女に追いていかれまいとハルトも一層足を速めた。
「はぁ…はぁ…まって…ふたりともはやいよぉ~…」
一人置いてけぼりをくらったましろは、息をハーハー切らしながら、遠くなった二人の背を追いかけるのであった。
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「はぁ…はぁ…つ、ついた~!」
「お疲れ様でした、ハルトさん!」
漸くゴールにたどり着いたハルトは、汗だくになりながら芝生にへたり込む。
対するソラは全く呼吸が乱れた様子はなく、爽やかに笑っていた。
「ぜぇぜぇ…すごいなソラ、結構走ったのに全然余裕そうじゃん。さすが毎日トレーニングしてるだけあって、俺とはレベルが違うよ」
「ハルトさんこそ、今日は最後まで私と並んで走ってたじゃないですか!始めた頃と比べて確実に成長してますよ!」
「ははは、そうだといいな…」
ハルトは照れくさそうに笑う。初日のランニングはソラについていけず、ましろと一緒にヘロヘロになりながら完走した。しかし今日は最後までソラと並走することが出来た。まだトレーニングを始めたばかりでハルトの体力はソラに遠く及ばないのだが、毎日続けていけば少しずつでも彼女に近づいていけるだろうか。
「あ、ハルトさん見てください!お日様が昇ってきましたよ!」
「おお、ほんとだ」
ハルトはソラの指差す先を見る。山から顔を出した太陽の光が、町を柔らかく照らしていた。
「綺麗な朝日だなぁ…」
「そうですね。空気も澄んでいて、とても清々しい気持ちになります!」
ハルトとソラは朝の陽射しを浴びながら、穏やかな顔で語り合う。
「そういえばハルトさんの苗字も『朝日』でしたね。苗字にお日様が入ってるなんて、とても縁起がいいですね!明るくて元気なハルトさんにぴったりです!」
「そ、そうかな…。俺もソラの『ハレワタール』って苗字、ぴったりだと思うよ。名前と合わせて『晴れ渡る空』、ソラらしい爽やかな名前だ」
「あ、ありがとうございます!嬉しいですけど、ちょっと恥ずかしいですね…」
ハルトもソラもお互いの苗字を褒め合い照れくさそうに笑った。
「赤ん坊の頃、親父に言われたんだ。お前の笑顔は太陽みたいだって、大きくなっても皆を明るく照らしてくれってさ」
「お父さんは、ハルトさんのことを大切に思ってたんですね」
「あくまで夢でみた話だけどな。親父が夢で見た通りの人かは確証がないし、あの人が願うような人間に俺がなれるかはわからないけど…」
ハルトは父親が残したスカイトーンをじっと見つめる。
「でも、努力はしてみようと思うよ。ソラやエルと出会って守りたい友達ができたから。今はまだまだ未熟だけど、もっと強くなって大切な人たちを明るい笑顔にできるような存在に、いつかなりたい」
ハルトは朝日を眺めながら、自分の思いをソラに告げた。
ソラはそんなハルトを穏やかな顔で見つめながら、優しい声で言った。
「今のままでも、ハルトさんは太陽のように眩しく暖かい人ですよ。私やましろさんも、エルちゃんだって、ハルトさんに元気を貰ってるんですから」
「い、いやいや俺なんかまだまだだよ。ソラに助けてもらってばっかりだし、ましろにだって…」
褒められて恥ずかしくなったハルトはソラから目を逸らす。
するとこちらに向かってひーこら言いながら走ってくるましろの姿があった。
「は~るく~ん…そ~らちゃ~ん…や、やっと追いついた~…」
「いっけね、ましろのことすっかり忘れてた!」
ハルトとソラはヘトヘトになって地面に膝をつくましろに駆け寄る。
「お疲れ様ですましろさん、大丈夫ですか?」
「み、見ての通りだよ~。二人ともすっごい速さで走っていくもんだから、置いてけぼりにされちゃったよ~……」
ましろは息も絶え絶えになりながら、二人の方を見上げる。
その様子を見てハルトとソラは顔を見合わせて笑った。
「よく頑張ったなましろ、休憩しよう」
三人は近くのベンチに座って水分補給しながら、丘の上から見える景色を眺める。
青空の下、朝日に照らされ輝く町を見下ろしながら、三人はお喋りを始めた。
「大丈夫かましろ?無理に俺らに付き合うことないんだぜ?」
今だ息が整わない幼馴染に、ハルトは心配そうに声をかける。
「だ、大丈夫だよ!こないだも言ったでしょ?私もハルくんやソラちゃんの力になりたいから、体を鍛えたら少しでも二人の役に立てるかなーって」
ましろは運動が得意ではないが、ハルトとソラの役に立ちたい一心でランニングに参加していた。二人のように戦えないが、せめて自分にできることはやっておきたいと思ったのだ。
「まだまだ体力に自信ないけど、『千里の道も一歩から』だからね~」
「どういう意味ですか?」
「日々努力を積み重ねようって意味だよ」
「いい言葉です!」
ソラは手帳を取り出すと今の言葉を書き記し始めた。彼女の手帳は以前ハルトがプレゼントしたものである。自分が送ったものを使ってくれて、ハルトは嬉しい気持ちになった。
「ってソラ?もうこんなに文字が書けるようになったのか!?」
ソラが書き記した手帳には、ひらがなだが綺麗で可愛い日本語の文字で書き綴られていた。
「一日五文字ずつ、毎日コツコツです」
「すでに今のことわざを実践してるとは…俺ももっと頑張らないとなぁ」
「私も毎日ランニング続けたら、ソラちゃんやハルくんみたいに強くなれるかな?」
ましろの言葉に、ゆっくりと首を横に振るソラとハルト。
「だ、だよね~……って、ちょっと待ってよハルくん!」
「ん?何?」
一瞬ソラ達の反応に納得しかけたましろだが、目の前の幼馴染も首を横に振ったのに気付き、ハルトに詰め寄った。
「何でハルくんまで首を横に振るの!?そこは『ましろなら絶対強くなれるよ!俺と一緒に頑張ろうな!』って励ましてくれるところじゃないかな!?」
気が利かない幼馴染にぷんすか怒るましろ。
「わ、私は今のましろさんのままで良いと言いたかったんですが…」
そんなましろの様子にソラは困った表情を浮かべながら言う。
「そうだよ。ソラだってメチャクチャ強いのに、ましろにまで強くなられたら俺の存在意義に関わるもの」
「それどういうこと!?私だってハルくんの力になりたいから強くなろうって頑張ってるのに、そういう言い方はないんじゃないかな!?」
ハルトのデリカシーのない返答にムッとなったましろが言い返した。
「お、怒るなよましろ。今のは冗談だから…」
「冗談でも言っていいことと悪いことがあるよ!」
「は、はいそうです!すみませんでした!」
ましろの剣幕にたじたじになったハルトはただ謝ることしかできなかった。
「でも本当に無理しなくていいからな?今日のランニングだってすごくしんどそうだったし…」
「ハルくんに心配されるほど私はやわじゃないよ!私はハルくんのお姉ちゃんなんだから、頑張ればきっと強くなれるもん!」
「またそうやってお姉ちゃんぶる…そろそろ俺を弟扱いするのはやめてくれよ」
徐々にお姉ちゃんモードになりつつあるましろを見て、ハルトは「また始まった」と言わんばかりにうんざりした表情を浮かべた。
「でも私の方がちょっぴり誕生日早いもん!それにハルくんは朝私が起こさなきゃ起きれないし、ご飯だって私が用意してるでしょ!?」
「も~いちいちうるさいな!起きるのや自分の食事くらい、ましろの力を借りなくてもできるようになってやるよ!」
「でも心配だよ!昔目玉焼き作るの失敗して卵全部台無しにしたことあったでしょ!?洗濯だって洗剤と柔軟剤を間違えちゃうし、買い物だってお財布忘れて行っちゃうし…とにかくハルくんは私がしっかり見てあげないとだめなの!」
「そうやって構ってたら俺いつまで経っても自立できないだろ!そっちこそいい加減弟離れしてくれよ!」
「嫌だよ!!」
「嫌だよ、じゃねえよ!!」
次第に口喧嘩に発展しどんどんヒートアップするハルトとましろ。
「あ、あの二人とも、そろそろお腹が減ったんですが…」
ぼちぼち朝ご飯を食べに帰りたいソラ。彼女はお腹をクークー鳴らしながらハルトとましろの間になんとか割って入ろうと試みるのであった。