ひろがるスカイ!プリキュア~ SUNLIGHT×STORY ~   作:零たん

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第23話:ましろと添い寝

 

自販機ランボーグと戦ったその日の夜、ハルトは自室の机に向かい、手帳に何かを書き記していた。

 

「えーっと『今日戦ったランボーグは自販機型だった。ペットボトル型のミサイルを撃つうえに空も飛ぶ厄介な相手だったが、スカイとプリズムと協力して倒すことができた』」

 

どうやら今日の戦いの記録をメモしているようだ。

 

「『しかし戦いの最中、プリズムが敵のミサイルを受けてダメージを負ってしまった。俺が敵を攻撃することに意識が行き過ぎたせいで、彼女と連携が取れなかったのが原因の一つだ。幸い戦いの後傷は癒えたが、今後は気を付けないといけない』」

 

悔しそうに顔をしかめながらもハルトはペンを走らせる。

 

「『ソラの言う通り、ランボーグは様々な能力で俺たちを翻弄してくる。サンライトのパワーが通用しない相手も増えてくるだろう。今後はスカイとプリズムとの連携を意識し、敵の攻撃に臨機応変に対処できるようにしていきたい』…んー、ほかに書いとく事はあったっけ?」

 

ハルトは口元に指を当て、他に書くことはないか思案し始めた。その時、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「はーい?」

 

「ハルくん、私だよ。ちょっと入ってもいい?」

 

ましろの声が扉の外から返ってきた。

 

「どうぞー」

 

ハルトが返事すると、ましろが部屋に入って来た。彼女の手にはノートと参考書の束があった。

 

「どうしたの?」

 

「今度学校に持っていくノートと参考書、ハルくんの分を届けに来たんだ」

 

「おお、わざわざありがとう。ここに置いといてくれる?」

 

ハルトは勉強机の上にノートを置くよう促した。ましろは言われた通りそこへ書類を置くと、ハルトが熱心に書き記しているものに気づいた。

 

「ハルくん今何してるの?もしかして予習?」

 

「違うよ、今朝の戦いの記録を手帳に書いてたんだ」

 

ハルトは手帳を開いてましろに見せた。そこには今日の戦闘の詳細や反省点がびっしりと書かれていた。

 

「わぁ~すごーい!というかこの手帳、私とソラちゃんがプレゼントしたヤツだよね?ちゃんと使ってくれてるんだ!嬉しいな~!」

 

「まあ、せっかく貰ったし、使わないと勿体無いと思ってな…」

 

照れ臭そうに頬を掻くハルト。昨日ソラとましろからプレゼントされた手帳。ハルトはこれをどうするか考えた結果、プリキュアとして戦った記録や反省点などを書き記し、次回の戦いに役立てようと考えたのである。

 

「ソラちゃんのヒーロー手帳みたいだね!これ見せたらソラちゃんすっごく喜ぶよ!」

 

ましろは嬉しそうにハルトに言った。

 

「いやぁ…これの事だけど、ソラにはまだ内緒にしといてくれない?」

 

「え、どうして?」

 

「まだ始めたばかりだし、こういうのは影でコツコツやるのが一番だからさ…」

 

「ええ~、絶対教えてあげた方がいいと思うのに。…それともソラちゃんに褒められるのが照れくさいのかな?」

 

「そ、そんなんじゃねえよ…!」

 

図星を突かれたハルトは顔を赤くしながら視線をそらす。ましろはそれを見てクスッと笑った。

 

「無理に見せようとしなくて大丈夫だよ。ハルくんが内緒にしておきたいなら、私もその気持ちを尊重するから」

 

恥ずかしそうにするハルトに、ましろは優しく微笑みながら応えた。

 

「だから今は、この手帳の事は私とハルくんの秘密…だね!」

 

「あ、ああ…そうだな、秘密だな」

 

ハルトはソラだけ内緒にすることに後ろめたさを感じつつも、ましろの言葉に頷いた。

 

「今後の戦いか…」

 

ましろの表情がふと曇る。

 

「春休みが終わっても、カバトンは変わらずエルちゃんや私たちを狙ってくるんだよね?」

 

ましろは不安げに呟いた。もうすぐ春休みが終わり、新学期が始まる。カバトンがまたプリキュアたちを狙ってくるなら、学校が戦いの舞台になったりクラスメイトや先生も戦いに巻き込まれる可能性がある。

 

それに学校にいる間はエルとも離れ離れになる。その間、ソラとヨヨが彼女を見てくれるとはいえ、カバトンがハルト達のいない隙をついて家を襲撃しないとも限らない。幸い今のところはエルの居場所をカバトンに気づかれていないが、戦いが長引けばそれも分からなくなる。

 

「カバトンの野郎は今後も襲ってくるだろうなぁ。今朝もリベンジするって言ってたし」

 

「そうだよね…」

 

ハルトの言葉にましろはますます表情を曇らせる。

 

「けど俺は負けない。エルにスカイランドへ帰るまでの間、絶対守り通すって誓ったからな」

 

だがハルトは力強く言い切った。

 

「エルだけじゃない。ソラやましろを守るためにも、俺は今よりもっと強くなりたい。今日始めた俺のヒーロー手帳は、そのための一歩だ」

 

ハルトは、ソラとましろからプレゼントされた手帳を優しく握った。

 

「まあ、やってることはソラの真似事だけど、これを続ければ少しでも自分の力になると思ってるんだ。もちろんこれまで通りトレーニングも頑張る。朝だって起きれるようになってきたし…」

 

照れくさそうに頬を掻くハルト。だがすぐに真剣な顔つきになる。

 

「自分にどれだけの事ができるかは分からないけど、ソラ達の力になりたい気持ちは本物だ。だから、何事も為せば成るの精神で、少しずつでも努力していこうって思うんだ」

 

「ハルくん…」

 

ハルトの決意を聞いたましろは目を丸くする。以前のハルトはどこか冷めており、ましろ以外の他人と関わりを持とうとせず、何かを努力する積極性も欠けていた。しかしソラと出会ってプリキュアになってからのハルトは、友達の力になるために自分にできることを頑張ろうとしている。ましろはそんなハルトの姿がとても眩しく映っていた。

 

「すごいよハルくん。ほんとに変わったね」

 

「え?そう?」

 

「だって友達の力になりたいなんて言葉、今までのハルくんなら言わなかったと思うんだ」

 

「ま、まあ確かに…」

 

ましろの言葉に苦笑いを浮かべるハルト。

 

「けど今のハルくんは、友達の為に変わろうとしてる。強くなろうって頑張ってる。私、それがすごく嬉しいんだ!」

 

ましろは嬉しそうにハルトの手を握り締めてきた。

 

「ハルくんは絶対強くなれるよ!ましろお姉ちゃんが応援するから、自信を持ってね!」

 

「お、おう。ありがとう、ましろ…」

 

ハルトは頬を赤らめながらましろにお礼を言った。

 

「私もハルくんを見習わなきゃだよ。今日の戦いでは全然役に立てなかったし…」

 

ましろは申し訳なさそうな表情で呟いた。

 

「ましろ…やっぱり今朝のこと気にしてるのか?」

 

そんな彼女をハルトは心配そうに見つめた。

 

「うん、ちょっとだけ…」

 

ましろの表情がまた曇る。

 

「私は二人みたいに強くないから…。今日だって危ないところを二人に助けて貰ったし…」

 

今朝の戦いを思い返し、ますます表情を暗くするましろ。彼女は二人と比べて自分は強くない事を気にしているようだ。ましろの変身するキュアプリズムは、スカイやサンライトと比べて力もスピードも劣っている。煌く光弾で遠距離の敵を攻撃できるという、他の二人にはない特殊な能力を持ち合わせているが、ランボーグを押し切れるほどの火力はない。何よりましろはプリキュアになって日が浅く、ソラやハルトに比べ実戦慣れしていないのも問題だった。

 

「今のままじゃ二人の力になるどころか、足を引っ張っちゃうんじゃないかって、すごく不安になるんだ…」

 

ましろは弱々しい面持ちを浮かべながら、自分の胸の内をハルトに明かした。以前から感じていた不安が、今日の戦いでの無力さをきっかけに膨れ上がったらしい。

 

「ましろは足を引っ張ってない。もう充分俺たちの力になってくれてるよ」

 

そんな彼女を、ハルトが励ますように言った。

 

「そうかな…私、ハルくんやソラちゃんと比べて全然強くないし」

 

「そんなことない。ましろは誰にも負けない強さをもってる」

 

「それって何?」

 

「優しさって強さだよ」

 

ハルトは力強く答えた。

 

「優しさという強さ…。あげはちゃんにも言われたけど、それって戦いで役に立つのかな…?」

 

ハルトの言葉にましろは首を傾げる。ましろは優しい心の持ち主だが、それをランボーグとの戦いに活かせるかは疑問だった。

 

「きっと役に立つよ。だってましろの優しさは、人を救う力を持ってるからさ」

 

だがハルトは迷いなく言い切った。

 

「現に俺も、ましろの優しさにずっと救われてきたからさ」

 

「えっ…?」

 

突然のハルトの褒め言葉に、ましろはきょとんとした表情を浮かべた。

 

「ましろは赤ちゃんの時から俺と一緒だった。あげは姉と別れることになった時、泣いてぐずってる俺に「お姉ちゃんになる」って言ってくれた。いじめっ子に馬鹿にされて悔しかった時も、俺を庇ってくれた。寂しい時は、ギューして慰めてくれた。どんな時でもましろは俺と一緒にいてくれて、その優しさで俺を支えてくれた」

 

ハルトは、ましろが自分にしてくれたことを一つ一つ思い出しながら語った。

 

「その優しさにいつも救われてきた俺にとって…ましろはソラに負けないくらい、俺のヒーローだと思ってる…」

 

「私がハルくんのヒーロー…?」

 

ハルトは少し照れくさそうにしながらも、ましろの目を見てはっきりと答えた。それを聞いたましろは、胸の奥が熱くなる感覚を覚えた。

 

「そうなんだ…ハルくんは私の事、ヒーローだって言ってくれるんだ…」

 

「ああ、ましろもずっと俺を支えてくれたヒーローだよ」

 

ハルトはましろに優しく微笑みかけながら言った。

 

「それにましろの優しさに救われたのは俺だけじゃない。ソラもだ」

 

「ソラちゃんも…?」

 

「ああ、ソラだってましろに感謝してただろ?俺と喧嘩した時も、ずっと傍で励ましてくれたって。あの戦いのときも、俺達の力になりたい、助けたいから一緒に戦うって、ソラに手を差し伸べてくれた。それがソラにとってどんなに心強かったか…」

 

ハルトはソラがましろにお礼を言っていた時のことを思い出しながら話した。

 

「だからソラはまた立ち上がることができた。二人がアップドラフト・シャイニングに目覚めたのも、ましろの優しさが、ソラを救ってくれたことが切っ掛けになったんじゃないか?」

 

「私の優しさが…ソラちゃんを救った?」

 

「そうだよ。あの必殺技が誕生したのはエルのおかげでもあるけど、目覚める切っ掛けは二人の気持ちが一つになったからだと思う。それができたのは、ましろの優しさがソラの心に届いたからだ」

 

ハルトは確信に満ちた様子で、ましろに語り続けた。

 

「ソラはましろがいるだけで心強いって言ってたろ?それは俺も同じだ。だって俺たちはましろの優しさにずっと助けてもらってるからだ。だからましろはもう充分、俺達の力になってるんだよ」

 

「ハルくん…」

 

ハルトの言葉を聞いて、ましろの瞳が微かに潤む。以前あげはに自分の優しさは強さだと教えられ、その力でハルト達の力になろうとプリキュアになる決意をした。しかし実践ではあまり力になれず、今朝の戦いでもハルトたちに迷惑をかけてしまい、自信を失いかけていた。優しさは戦いでは何の役にも立たないと思いかけていた。

 

でもハルトのおかげで気付かされた。強さとは敵を倒すだけではない。優しさで友達を支えたり、勇気づけたりすることも強さなのだと。そしてその強さでずっとハルトやソラを救ってきたのだと。

 

「私、もっと自信を持っていいのかな…?」

 

「当たり前だろ。ましろはもう充分強いんだから」

 

ハルトは力強く断言すると、ましろの両手をぎゅっと握りしめた。

 

「俺は優しくないから、ランボーグやカバトンをぶっ飛ばすことしかできない。でもましろは友達を救える優しさを持ってる。それは敵をやっつける事よりも凄い力だと俺は思うぜ」

 

ハルトは優しい笑顔を浮かべながら言った。

 

「ましろの強さは、この先も俺やソラ、他にも大勢の人たちを救う力になると思う。ずっと傍でましろに救われてきた俺が言うんだ、間違いない」

 

「ハルくん…!」

 

ハルトの言葉に、ましろの心は日差しのように温かく照らされていくのを感じた。先ほどまで抱いていた不安が嘘みたいに消えていき、代わりに自信が湧き上がってくるような気がした。

 

「うん、ハルくんがそう言ってくれるなら間違いない…私、自分の強さをもう一度信じてみるよ!」

 

そう言ってましろは、ハルトの手を強く握り返してきた。

 

「そうだよ、私、ハルくんやソラちゃんの力にちゃんとなれてたんだ…。あげはちゃんが言ってた優しさが強さって言葉の意味が、やっとわかった気がするよ!」

 

ましろの顔には自然と笑みが浮かんでいた。

 

「ハルくんのおかげで大事なことに気づけたよ!本当にありがとう!」

 

「そ、そうか…それはどういたしまして…」

 

満面の笑みを浮かべてお礼を言うましろに、照れくさくなったハルトは思わず目を逸らした。

 

「じゃ、じゃあ悩みも解決したところで、そろそろ手を離してくれるか?明日も早いからそろそろ寝なきゃだし…」

 

ハルトは少し顔を赤くしながらましろに言った。時刻はもうすぐ午後10時。明日も朝早くからソラのトレーニングに参加するので、そろそろ休まなければならないとハルトは思っていた。あとましろとずっと手を握り合ってるのが恥ずかしいので、そろそろ離れたいとも思っていた。

 

しかしましろはハルトの手を握ったまま、どこか名残惜しそうな表情をしていた。

 

「ま、ましろ…どうした…?」

 

ハルトが恐る恐る尋ねると、ましろは頬をほんのりと赤らめながらこう言った。

 

「ねえハルくん…今日は久しぶりに一緒に寝てもいい…?」

 

「えっ!?」

 

ましろの提案にビックリするハルト。一緒に寝ることもそうだが、何故このタイミングでそんなことを言いだすのか理解できなかった。

 

「ど、どうして急にそんなことを…?」

 

「ハルくんが励ましてくれたおかげで、私の心はポカポカって温かい気持ちになったんだ。今ハルくんに握ってもらってる手も、すっごくポカポカで…」

 

ハルトの手を見つめながら、ましろは呟くように言った。

 

「だからそのポカポカをもっとハルくんの傍で感じたいんだ…。だからハルくん、今夜は一緒に寝てくれないかな?」

 

「え、えーっと…いや、その…」

 

ましろのお願いにしどろもどろになるハルト。小さい頃ならいざ知らず、今年で14歳になる女の子と一緒の部屋で眠るなんて、思春期真っ盛りのハルトにとっては色々と恥ずかしいのだ。

 

「ハルくんは嫌?私と寝るの…」

 

「い、嫌じゃないけど、この年の男女が一緒の部屋で寝るの色々まずいのでは…?」

 

「まずくないよ。昔は一緒のベットで寝てたでしょ?」

 

「ち、小さい頃はよくても、俺らもう色々成長してるし、やっぱりマズイというか、止めといたほうがいいというか…」

 

何とか断ろうとするハルト。しかしましろも引き下がる気はないらしい。彼女はハルトの手を握る力を強め、上目遣いで見つめてくる。

 

「ハルくんの言うこともわかるよ?けど私もね、このポカポカをもっと近くで感じたくて仕方がないんだ…」

 

そう言いながらましろがハルトに寄り添ってくる。彼女の吐息や女の子の香りがハルトの鼻腔をくすぐり、心臓がドクンと跳ね上がる。

 

「お願いだよハルくん…今夜だけお姉ちゃんのわがまま…聞いてくれないかな?」

 

ましろがハルトの耳元に近づき、甘い声で囁いた。

 

「……はい、わかりました」

 

ましろのおねだりにとうとう陥落したハルトは、顔を真っ赤にしながら頷くのであった。

 

 

______

 

 

 

その後、寝巻に着替えたハルトとましろは、ハルトの自室のベットで一緒に横になっていた。

 

「ふふっ…♪」

 

ましろは嬉しそうにハルトに抱きついている。対するハルトは緊張でガチガチになっていた。

 

(ダメだ…この状態は危険すぎる…)

 

心の中で冷や汗を流すハルト。小さい頃はましろと同じベットで寝ていた。だが幼い頃と違って成長した彼女と一緒に寝るのは刺激が強すぎる。腕に押し付けられる彼女の柔らかい胸の感触と、少女特有の甘い匂いに包まれハルトの理性はゴリゴリと削られていく。

 

(このままじゃ絶対眠れない…やっぱり別々の部屋で寝るべきでは?)

 

ましろには悪いが、ハルトはこの場から逃げ出したくてたまらなかった。このままましろに抱き着かれていると、いつ理性が決壊するかわからないからだ。

 

「なんだか久しぶりな気がするね…」

 

「えっ!?久しぶりって、何が…?」

 

ましろに突然話しかけられたハルトは、動揺しながらも聞き返す。

 

「こうやって私とハルくんが二人きりになることだよ」

 

「ああ、そういえばそうかもな…」

 

ソラとエルがスカイランドからやってきて、虹ヶ丘家に住むようになってから二週間近く経とうとしている。その間ずっと彼女たちと行動を共にしていたため、ハルトとましろが二人だけの時間を過ごすのは久しぶりのことだった。

 

「私ね、ちょっと寂しかったんだ」

 

「寂しかったって、ずっと一緒にいたじゃん」

 

「だってハルくん、ソラちゃんと一緒にいる時とっても楽しそうだから。私の知らないハルくんの顔、いっぱい見るようになっちゃって…」

 

ましろはハルトに抱き着きながら、どこか寂しそうな声色で呟いた。

 

「ハルくん、ソラちゃんと出会ってから前よりも明るくなったでしょ?嬉しいと思うけど、ちょっと寂しいとも思っちゃうんだ。私と一緒にいる時より楽しそうな気がして…」

 

「俺はましろと一緒にいるときも楽しいぞ?」

 

「ありがとう。けどごめんね…やっぱり不安を感じちゃうよ」

 

ましろはぎゅっとハルトの身体を抱きしめながら言った。

 

「ハルくんがソラちゃんと仲良くするのは嬉しいけどね、その分私との距離が遠くなっていくような気がしたんだ…。だから、今日ハルくんと一緒に寝たいって言いだしたのも、今だけでもハルくんを独り占めしたいって思ったからかもしれないんだよ…」

 

「そうだったのか…」

 

ハルトは小さく呟きながら、寂しそうな表情を浮かべるましろを見る。彼女にそんな寂しい思いを抱かせてしまっていたことに、ハルトは罪悪感を感じた。ましろの事も自分なりに気にかけていたつもりだ。さっきもましろが今朝の事で悩んでいると察して、彼女を励まそうと言葉をかけた。さっきの悩みはそれで解決できたようだが、今ましろが抱えている寂しさは言葉だけでは完全には拭えないのだろう。

 

「ごめんなましろ…寂しい思いをさせて…」

 

だからハルトはましろに謝り、彼女を抱きしめた。ましろが今一番欲しいであろう自分の温もりを与えようと、優しく包み込むように。

 

「お詫びに今夜は、ずっとましろの傍にいるよ…」

 

「ハルくん…!」

 

ハルトの言葉にましろは満面の笑みを浮かべ、より一層強く彼を抱きしめた。

 

「ありがとうハルくん!とっても嬉しいよ…!」

 

よほど嬉しかったのか、胸元に顔をうずめ頬ずりまでする始末だ。ましろの甘い香りと柔らかさに、ハルトは心臓の鼓動が激しくなるのを感じた。

 

「そ、傍にいるのはいいけどあんまり密着しないでくれな?恥ずかしいから…」

 

「なんで?昔からずっとギューしてるのに?」

 

「だから昔と今じゃ色々違うって言っただろ?そんなに押し付けられたら、俺の理性が持たないというか…」

 

「ん?どゆこと?」

 

「も、もういい!勝手にしろ!」

 

首を傾げるましろを見て、ハルトは顔を赤くしながらプイッと視線を逸らした。

 

「…やっぱりハルくんは優しいね」

 

「え?」

 

ましろの呟きを聞き、ハルトは再び彼女の方に顔を向ける。ましろはハルトを優しく見つめていた。

 

「今俺のこと、優しいって言った?」

 

「うん、言ったよ。ハルくんは優しいって」

 

「そうかぁ?昨日ヨヨさんも俺の事優しいって言ってくれたけど…正直ピンとこないというか…」

 

「ハルくんは優しいよ。だって私だって、ハルくんの優しさに救われてきたんだよ?」

 

不思議そうに首を捻るハルトに、ましろは穏やかな声で語りかける。

 

「覚えてるかな?あげはちゃんとお別れした夜に、ハルくんがしてくれたこと…」

 

「あげは姉と別れた夜?俺何かましろにしたっけ?」

 

「ほら、いつもエルちゃんにしてる一発ギャグだよ」

 

「あ…ああ!そういえば!」

 

「思い出してくれた?」

 

「思い出した。そう言えば、あの時が初めてか。あの一発ギャグをやったのは…」

 

ハルトは懐かしそうに呟く。彼の脳裏にその時の記憶が鮮明に蘇った。

 

______

 

 

____

 

 

__

 

 

数年前、あげはとお別れした日の夜。幼いハルトは自室に閉じこもり泣いていた。

 

「あげはねえ…」

 

床で蹲り一人泣くハルト。あげはは自分を本当の弟のように可愛がってくれた。出会って友達になってから毎日遊んでくれたし、いじめっ子に泣かされた時は庇ってくれた。彼女と過ごした時間は長くはないが、ハルトにとってあげはは、かけがえのない大切な存在だったのだ。そんな彼女が遠くへ行ってしまい、ハルトは悲しくて仕方がなかったのだ。

 

「……おなかすいた…」

 

だがどんなに悲しくてもお腹は減る。夕飯も食べずにずっと部屋に籠って泣いていたが、今は空腹感が勝っていた。まだあげはと別れて悲しい気持ちでいっぱいだが、ひとしきり泣いて少し気持ちが落ち着いたのだろう。

 

そろそろご飯を食べたくなったハルトは、ましろの母に夕飯を用意してもらおうと思い自室を出た。そして丁度ましろの部屋の前を通りかかった時、部屋の中から彼女の泣いている声が聞こえてきた。

 

「ましろ…?」

 

ハルトはこっそり部屋の中の様子を伺う。

 

「あげはちゃん…!ひっぐ…ぐすっ…!」

 

そこには布団を被って泣いているましろの姿があった。お別れする時、あげはを悲しませまいと必死に笑顔を繕っていたが、一人になったことで抑え込んでいた感情が爆発してしまったようだ。それでもハルトにバレないように声を押し殺し、静かに涙を流し続けていた。ハルトのお姉ちゃんになったのだから、弱いところを見せてはいけないと幼心に思ったのだろう。

 

その光景を見たハルトは、心が締め付けられるような感覚を覚えた。ましろだってあげはとお別れして寂しいに決まってる。でも彼女にまで泣いてほしくないとハルトは思った。

 

だから彼は意を決し、ましろの部屋に入った。

 

「ましろっ!」

 

「ひっ!?」

 

突然ハルトに名前を呼ばれ、ましろはビクッと身体を大きく震わせる。そして布団から顔を出し、恐る恐るハルトを見つめる。彼女の顔は涙で濡れており、目元は真っ赤になっていた。

 

「は、ハルくん!?えっと…その…」

 

ましろは涙で濡れた目元を必死に擦る。ハルトが突然やってきたうえに、泣いているところを見られてひどく動揺している様子だ。

 

だがハルトはそんなこと気にせずましろの元へ駆け寄ると、彼女を自分の方へ向かせた。

 

「は、ハルくん…?」

 

きょとんとするましろ。一方、ハルトは真剣な表情を浮かべながらも、泣いている彼女になんと声をかけていいのかわからなかった。でも、これ以上彼女に泣いてほしくない。ましろに笑ってほしい。そう思ったハルトは自分が思いつく限り最高に面白い顔をしてやろうと決意する。

 

そしてハルトは深呼吸すると、ましろに向かってあの一発ギャグを披露した。

 

「ペロペロペロペロぉ~…パァ~!!」

 

ひん剥いた目球をグルグル回し、手と舌を高速で動かしながら謎の擬音を発するハルト。これが人生で初めて披露したハルトの一発ギャグ「ペロペロパー」である。これを見せられたましろはポカンとした顔のまま硬直していた。予想外すぎる展開に頭が追い付いていないのだろう。当然と言えば当然なのだが。

 

「…どう?」

 

変顔をしたまま尋ねるハルト。ましろの反応を見て幼心にスベったと悟ったのか、顔を引きつらせていた。しかし…。

 

「…ぷっ!うふふっ!あははっ!」

 

奇跡が起きた。ましろはハルトの変顔を見て吹き出し、笑い始めたのだ。

 

「は、ハルくん!急になにそのかお~!ヘンテコだよ~!あはははっ!」

 

ましろは腹を抱え、目に溜まった涙を拭いながら笑う。彼女はハルトの一発ギャグがツボにはまってしまったらしい。ハルトはましろの笑顔が見れて嬉しかった。

 

「ましろ…」

 

「ふふっ!な、なにぃ?ハルくん?」

 

まだ笑いが収まらないましろに、変顔を解いたハルトが語りかける。

 

「おれも、ずっとましろのそばにいるから…」

 

「ハルくん…?」

 

「さみしい時は、いっしょにいる!なきそうなときは、また今みたいにいっぱつギャグで笑わしてあげるから…!」

 

ましろを元気付けるために一生懸命言葉を紡ぎ続ける。

 

「だからましろ、なかないで…」

 

最後は縋るようにましろの手を握り、懇願するように呟いた。直後にハルトはましろから顔を背ける。自分が余計な事をして、またましろが泣き出してしまわないか不安で仕方がなかったのだ。

 

「ハルくん…!」

 

だがましろはもう泣いていなかった。泣いている自分を励ましてくれたハルトの優しさに、心がポカポカと温かくなるのを感じたのだ。

 

「こっちむいて、ハルくん!」

 

ハルトは恐る恐る振り向く。そこには満面の笑みを浮かべたましろがいた。

 

「はげましてくれてありがとう!いっぱつギャグ、おもしろかったよ!」

 

「ましろ…!」

 

ましろにお礼を言われて、ハルトも自然と笑顔になった。

 

「うん、どういたしまして!」

 

二人はお互いに微笑み合う。初めて披露した一発ギャグは、ましろとハルト自身を笑顔にさせたのだ。

 

 

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__

 

 

 

「そんなこともあったなぁ」

 

「うん。あの時、ハルくんが見せてくれた一発ギャグがおかしくて、悲しい気持ちが一気に吹っ飛んじゃったんだ」

 

ましろは当時の事を思い出しながら語る。

 

「昔のこととはいえ、ましろがあの一発ギャグで笑ったとはなぁ。やっぱり俺は人を笑わせる才能あるかもしれないな」

 

「ハルくん、寝言はお休みしてからでも遅くないよ?」

 

ましろは呆れた表情をハルトに向ける。

 

「そもそもあのギャグは私だけに披露してれば、あの後みんなにペロペロマンなんて仇名を付けられずに済んだのに…」

 

「ぺっペロペロマン…!そういやクラスの連中にそんなあだ名付けられたっけ…」

 

ハルトは悔しそうな顔をしながら拳を握り締める。ハルトのあの一発芸のエピソードには後日談があった。

 

ましろを笑わせたことで、自分の一発ギャグに味を占めたハルトは、数日後、転んで泣いているクラスメイトの女の子を笑わせようとあの変顔をみせたのである。その結果、その女の子からドン引きされただけでなく、それを見たいじめっ子達から『ペロペロマン』というクソみたいなあだ名を付けられ、余計に馬鹿にされる羽目になった。他のクラスメイトからも変人扱いされ、ハルトは一層孤立してしまうことになったのである。

 

「ちくしょう…その仇名を聞くと、今でもはらわたが煮えくり返りそうになるぜ…」

 

「だからエルちゃんの時もやめとこって言ったんだよ?まあ、エルちゃんはハルくんの一発芸を気に入ってくれたからよかったけど…」

 

怒るハルトにましろは苦笑いしながら言う。

 

「それに私もあの一発ギャグ好きだよ?クラスの皆にはウケなかったし、実際見てみるとやっぱりドン引きするけど、あの日沢山笑わせてもらった思い出のギャグだから」

 

「何そのコメント。貶してるのか感謝してんのかどっちなんだよ、返答に困るわ」

 

ハルトはジト目になりながらツッコミを入れる。

 

「もちろん感謝してるよ。それにあの時、私を励まそうとしてくれたハルくんの優しさが、すっごく嬉しかったんだ」

 

そんなハルトにましろは柔らかい笑みを向ける。

 

「ハルくんは小さい頃からずっと私の傍に居てくれた。悲しい時も、変なギャグで笑わせてくれた。お父さんとお母さんと離れて暮らすことになっても、ハルくんがずっと一緒だから、毎日が楽しいんだ!」

 

ましろはそう語りながら、ハルトの手を握る。

 

「だから、私もハルくんの優しさにずっと支えてもらってるんだ。それはソラちゃんやエルちゃんも同じだと思う。ハルくんの優しさは、誰かを助け、支えられる強さでもあるんだよ」

 

「そうなのかな…?」

 

「絶対そうだよ!ずっとハルくんの優しさに助けてもらった私が言うから、間違いないよ!」

 

さっき自分がましろに言ったことをそのまま返され、ハルトは思わず苦笑する。

 

「そっか…うん、ましろがそう言ってくれるなら、間違いないな」

 

ハルトはそう呟くとましろの方へ向き直る。自分を穏やかな表情で見つめる彼女と目が合った。

 

「ありがとうましろ。俺もちょっと自信がわいてきた」

 

「どういたしまして!私の方こそ、今日は色々ありがとうだよ!」

 

お礼を言うハルトにましろも笑顔で感謝の言葉を返した。

 

「ねえハルくん…」

 

「何?」

 

「これからもよろしくね!」

 

「ああ、こちらこそ…!」

 

二人は互いに笑い合う。この日、ましろと気持ちを伝えあい、より一層絆を深めることができた。今後もこうやってお互いの存在に感謝し合いながら共に楽しく過ごしていけたらいいなと、ハルトは心から願うのであった。

 

 

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翌朝、ジャージに着替えたソラは庭でハルトとましろの到着を待っていた。

 

「遅いですね…」

 

既に約束の時間から10分以上は経過している。待っている間にストレッチを終えたソラ教官は、腕を組みながらハルトの自室の窓を眺めていた。

 

「ハルトさん、もしかして連日の戦闘で疲れてるのかな…?」

 

トレーニングに参加してから目覚めがよくなったハルトだが、昨日と一昨日と戦いが続いているので疲労がたまって寝坊している可能性がある。もっとも、彼が寝坊した場合はましろが起こしに行くのだが。

 

「ということは、ましろさんがハルトさんを起こすのに難儀しているのでは…?」

 

ハルトは以前ソラに叩き起こされたトラウマから「スカイランド神拳」を耳元で囁くと飛び起きるようになっている。それで起きないほど疲れているのか、もしくはそのワードに耐性ができつつあるのか。どちらにせよ、ましろの呼びかけに反応しない時点で相当熟睡していることは確かだ。

 

「とにかく様子を見に行きましょう!」

 

ソラは家に戻るとドカドカと足音を立てながら二階への階段を駆け上がる。そして勢いよくハルトの部屋の扉を開けた。

 

「ハルトさん!おはようございます!もう約束の…じか…」

 

挨拶しながら部屋に入った瞬間、ソラは言葉を失った。何故ならハルトとましろが一緒のベットで眠っていたからだ。しかも二人とも仲良く抱き合いながら、幸せそうな顔で眠っている。

 

「な…な…なななっ…なっ!?」

 

二人の姿を見て固まるソラ。彼女は最近ましろから少女向け漫画を借りて読んでおり、若干偏った知識を仕入れてしまっていた。そのせいもあってか、今のこの光景を見てある勘違いをしてしまっているのだ。

 

「ハルトさんとましろさんが…いやらしいことを…!?」

 

顔を真っ赤にしながらワナワナ震えるソラ。

 

「んみゅ…だれぇ…?」

 

すると、人の気配を感じたましろが目を覚ました。目をこすりながら身体を起こし、気配のする方に顔を向ける。

そこには、顔を真っ赤にしながらこちらを見つめるソラの姿があった。

 

「そ、ソラちゃん!?」

 

冷や水をぶっかけられたように一気に覚醒したましろは慌ててベッドから出て立ち上がる。一方ハルトはまだスヤスヤ眠っていた。

 

「ましろさん…ハルトさん…お二人はまさか…!」

 

「まってソラちゃん!?こ、これには訳があってね!?」

 

なんとか弁明をしようとするましろ。しかしもう遅かった。

 

「二人とも夜のトーンコネクトをしてたんですね!破廉恥ですぅぅ!!」

 

「違うよぉぉ!誤解だよぉぉ!?」

 

完全に勘違いしたソラと、ましろの叫び声が、家の中に響き渡った。この後、騒ぎを聞きつけたヨヨも駆けつけてしまい、彼女を交えた家族会議に発展することとなった。無論ハルトとましろは誤解を解くべく必死に弁明することになるのだが、それはまた別のお話である。

 

 

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