ひろがるスカイ!プリキュア~ SUNLIGHT×STORY ~ 作:零たん
四月某日。約二週間の春休みが終わり、今日から新学期が始まる。春休み明けの登校日といえば、大半の学生にとって憂鬱なものであろう。それはこの小説の主人公も例外ではなかった。
「はぁ…今日からまた学校か。もう家でゴロ寝し放題の日々とおさらばなのか…」
ハルトはどんよりとした表情を浮かべながら、モタモタと制服に着替えていた。
「まあ、今年の春休みはそんな暇なかったけど…」
思い返してみれば、プリキュアに変身してランボーグと戦ったり、エルのお世話を手伝ったり、ソラとトレーニングに励んだりと、中々濃い春休みだった。
「大変な目にもたくさんあったけど、今まで一番充実した春休みを過ごせたかもしれないな…」
ハルトはしみじみ呟いた。すると1階からましろの呼ぶ声が聞こえてきた。
「ハルくーん?準備できたー?」
「もう行く。ちょっと待ってて」
ハルトはそう返事し、急いで身支度を整えて下に降りた。
「待ってたよ~ハルくん」
玄関で待っていたましろがハルトに声をかける。彼女もハルトと同じ学園の制服を着用している。
「わぁ~!ハルトさんもとっても素敵です!」
ソラがハルトの制服姿を見て目を輝かせながら感想を伝える。
「え?そ、そうかな…?」
「はい!まるで青の護衛隊みたいでかっこいいです!」
「そ、そんなに?あ、ありがとう…嬉しいよ」
褒められたハルトは気恥ずかしくなり、ソラから目を逸らした。
ちなみに『青の護衛隊』とはスカイランドの王国を守護する護衛組織のことだ。
ソラの話によると、青の護衛隊はヒーロー部隊として王国を守る存在であり、彼女もこちらの世界に来る前にこの組織の入隊を目指して王都へ向かっていたらしい。なんでもソラを助けてくれた恩人もこの組織に所属しているらしく、幼い頃から入隊を夢見ていたのだとか。
「うん、私もよく似合ってると思うな。今日のハルくん、いつもよりしっかり者に見えるよ~」
ましろはハルトを見つめながらしみじみと呟く。以前のハルトなら時間通りに起きれなかったり、起きて準備ができても寝ぐせだらけで制服のボタンをかけ間違えるなど、色々だらしがなかった。だからましろは、こうしてきちんと制服を着こなすハルトを見ると、成長した我が子を見るような感慨深い気持ちになるのだ。
「ま、ましろまで何だよ…でもありがとう」
ましろにまで褒められ照れくさくなるハルトだが、彼女にもちゃんとお礼を言った。
「二人とも準備できたのね」
ヨヨがエルを抱っこしながら、リビングから出てきた。
「ましろさんもハルトさんも、とっても似合ってるわ。今日から新学期だけど二人とも頑張ってね」
「える~♪」
ヨヨに抱っこされたエルが二人の制服姿を見て、嬉しそうに小さな手をぱたぱたと動かした。
「エル…」
ハルトは無邪気に喜ぶエルを寂しそうに見つめる。
「ヨヨさん、行く前にエルを抱っこさせてもらってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
ハルトはヨヨからエルを預かると、両脇をかかえて持ち上げた。
「えるぅ♪える~♪」
たかいたかいされてご満悦のプリンセス。
「そっか…学校が始まるとエルと離れ離れの時間が増えるんだ…寂しいなぁ」
ハルトはエルを見上げながら心底悲しそうに呟いた。春休みの間ハルトは毎日のようにエルの遊び相手になっていたので、彼女にすっかり愛着が湧いていたのだ。
「ましろ、今日だけ学校休んでもいいか?」
「ええっ!?それはダメだよハルくん!」
いきなりとんでもない事を言い出すハルトに驚くましろ。
「だって俺がいないとエルは寂しがって泣いちゃうかもだし…」
「寂しがってるのはハルくんだよね!?気持ちはわかるけどズル休みはよくないよ!」
至極真っ当なツッコミで弟分を諭すお姉ちゃん。
「それに学校行ってる間は、おばあちゃんやソラちゃんが面倒見てくれるから、エルちゃんも寂しくないと思うよ?」
「えー、でもエルだって俺がいないと寂しいよな?」
「えるぅ?」
エルに同意を求めるハルトだが、彼女は首を傾げながらハルトを見つめるだけだった。
「ほらハルくん!モタモタしてると遅刻しちゃうよ!」
「そうです!学校に通えるのは一生のうち一度きりです!さぼったりしたら、めっ!ですよ?」
「ソラまで…うう~わかったよ!行けばいいんだろ、行けば!」
ソラに叱られてようやく観念したハルトは、渋々エルをヨヨに預けた。
「じゃあおばあちゃん、行ってきまーす!」
「はい行ってらっしゃい」
「エル~!お兄ちゃんすぐ帰ってくるから、寂しくても泣かずに待っててくれな!」
「える~♪」
ヨヨとエルに笑顔で見送られながら、ハルト達は学校へ向かうのであった。
――――――
家を出たハルト達は、お喋りに花を咲かせながら通学路を歩いていた。
「そういえば、ソラのいたスカイランドも学校ってあるんだ?」
「はい、もちろんです!スカイランドにも学校はありますから、私も通ってましたよ」
「そうなんだ。それじゃあそこら辺はこっちの世界と同じだね―」
「ですねー」
ハルト達の傍には何故かソラの姿もあった。
「そういえばハルトさん!昨日教えて頂いた『仮面ライダーソウガ』とっても面白かったです!この世界にもあんな素晴らしいヒーローがいたなんて!私、感動しました!」
「まじで!?よかったー!あの番組俺が子供の頃めっちゃ見てて大ファンだったから、ソラも気に入ってくれて嬉しいよ!」
ハルトは昨日、自分が小さい頃から大好きだったヒーロー番組、仮面ライダーソウガをソラに熱くプレゼンしていた。ましろの両親に遠慮することが多かったハルトが、唯一変身グッズを買ってほしいとお願いするほどハマった特撮番組である。
「あんなに強く逞しく、優しいヒーローはそうそういません!ぜひお会いしたいのですが、どこに行けば会えるんですか?」
「え!?えーっと…それは…」
ソラの質問に言葉を詰まらせるハルト。特撮ものは架空のお話なので、ソウガというヒーローは実在しない。だがそのことをソラに説明するのは、子供の夢をぶち壊すようで気が引けた。
「ほ、ほら!ソウガならこう言うんじゃないかな!?『仮面ライダーはいつでも君たちの心の中にいる』って感じでね!?」
「そ、そうそう!わざわざ会いに行かなくても、ソウガは俺たちの傍にずっといるんだよ!」
見かねたましろがフォローしてくれたので、ハルトも便乗してそれっぽい言葉を並べた。
「なるほど…さすがソウガ!」
こんな苦しい言い訳でも、純粋無垢なソラはすぐに信じてくれた。そして今ましろが言ったソウガの名言?をヒーロー手帳に書き込み始めた。
「サンキューましろ」
「流石にソラちゃんに作り話だよって言うのはかわいそうだからね…」
ハルトとましろは小声で会話を交わす。いつかはソウガが作り話だという事実を知る日が来るかもしれないが、今は黙っておくことにした。
「そういえば私、この前逆立ちしたままどれだけ歩けるか?っていうのをやってみたんですけど…」
「へーすげー。ソラくらい体力あれば逆立ちのままでもソラシド市内一周できそうだなー…」
その後も会話が弾むハルトとソラ。
(あれぇ…?)
そんな二人…というかソラを、ましろは首をかしげながら見つめていた。
「そうそう、エルちゃんって眠ってる時たまに一人でお喋りしてるんですよ!」
「うわーめっちゃ見たいなそれ!何喋ってたの?俺の名前とか呼んでなかった?」
(あれれぇ~…???)
もう学校が目の前なのに、まだソラはハルト達についてくる。スカイランドからやってきたソラは、当然この学校の生徒ではない。本来は玄関で二人を見送った後、家でお留守番するはずなのだが…。
「あら?あなた、ここは部外者は立ち入り禁止ですよ」
校門をくぐったあたりで遂に先生に呼び止められてしまったソラ。
彼女はキョトンとした顔で、先生に問いかける。
「うぇっ!?学校は誰でも入れる場所っていうのがスカイランドじゃ常識…」
「うわぁっ!?待ってソラちゃん!!スカイランドのことは言っちゃダメ~!!」
またスカイランドという一般人には禁止ワードを喋ろうとしたソラをましろが慌てて止めに入る。
「入れないとは知りませんでした!すみません!」
そしてましろから説明を受けたソラが素直に先生に謝罪した。
「びっくりしたよ~!自然に学校まで一緒に来るから、どこで声かけようか悩んじゃったよ」
「ごめんなさい。私の世界では誰でも自由に学校を見学できたので…」
「スカイランドの学校って、まるで東京大学みたいに懐が深いとこなんだな…」
ソラシド市は他の市町村と比べて治安がいいものの、流石に中学校を許可なく立ち入ることは許されない。もっとも最近はカバトンのせいで『頻繁に怪物が出現する街』と観光客からも認知され始めているので、前途の治安がいいという評価も今後どうなるか怪しいところだが…。
「じゃあソラちゃん、また後でね」
「学校終わったらまっすぐ家に帰るから、後で一緒にソウガのブルーレイ見ようぜ」
「はい!二人とも、勉強頑張ってください!」
ソラに見送られながらハルトとましろは校舎の方へ向かっていく。
「ソラちゃん一人で大丈夫かな…?」
「大丈夫だろ、ヨヨさんもエルも一緒だし」
「でも今日は午後も授業あるよ?ソラちゃん私たちとそんなに長く離れることなかったから、心配で…」
ソラはこの世界に来てからずっとハルトとましろと一緒に行動していたので、一人ぼっちになる機会がほとんどなかった。家にはヨヨやエルがいるとはいえ、同年代の友達がいなくなって心細くないかましろは心配なのである。
「そういえばソラと離れ離れになるのは二度目だな。寂しいなぁ…」
一度目は喧嘩した時、二度目は今日。せっかく仲直りしたのにまた離れ離れだ…とハルトは早くも寂しさを感じ始めていた。
「ハルくん、ソラちゃんと別れてまだ5分も経ってないよ?寂しがるには早すぎるよ」
「だってソラとは春休みずっと一緒だったし…」
「そんなに寂しいなら私に甘えてくれてもいいんだよ?何ならギューもしてあげる!」
「学校でギューはやめろ!ただでさえ年頃の男女が一つ屋根の下で生活してるって噂されてるのに、これ以上誤解を招くようなことすんな!」
ましろの好意を全力で否定するハルト。前のクラスでも、『あの二人は付き合ってる』だの『あんな可愛い女の子と同居してるなんて羨ましい』とか『朝日もげろ』等と散々からかわれたものだ。
だからハルトは学校に行くのがあまり好きではなかった。
「でも私たちが仲良しなのは本当でしょ?そんな噂なんか気にしないで、堂々としてればいいんだよ」
「そんなこと言われてもなぁ…」
ふと視線を周囲に向けると、こちらを見てヒソヒソ話している生徒が何人かいた。やはり自分達のことを話題にされているようだ。
「あいつらちょっとしめるか…」
「いきなり何言いだすの!?ダメだよコソコソ話されたからって喧嘩吹っ掛けようとしちゃ!?」
殺気立つハルトをましろが必死に宥めた。ハルトはプリキュアになってからちょっと血の気が多くなった気がする。だから本当におちょくる生徒をボコしに行きそうで、ましろは心配だった。
「も~う。周りのことはいいから早くクラス分け見に行こうよ!」
ましろはハルトの手を引っ張り、強引に掲示板の方へ連れていこうとする。
「ちょ、わかったから手を握るな!また変なこと言われるだろ!?」
ハルトは顔を赤くしながら抗議するが、ましろはお構いなしだ。結局そのまま掲示板の前に連れてこられた。そしてそこに張り出された新しいクラス分け表を確認する。ハルトもましろも同じ2年2組のクラスだった。
「やったねハルくん!同じクラスだよ!」
「もう何度目だよ!?ちくしょう…またクラスの連中に茶化される…」
喜ぶましろの傍らでガックリ項垂れるハルト。今年も一年間クラスメイトからからかわれる日々が続くのかと思うと、ハルトは憂鬱な気分になるのであった。