ひろがるスカイ!プリキュア~ SUNLIGHT×STORY ~   作:零たん

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第27話:学校へ行こう!MAX

 

新学期が始まってから数日が経過し、遂にソラの転入日が訪れた。その日の朝、一足早く準備を終えたハルトは玄関でソラ達の到着を待っていた。

 

「お待たせしました…」

 

二階から降りてきたソラが照れくさそうにハルトに挨拶してくる。彼女はましろと同じセーラー服に身を包んでいた。

 

「うわぁー!ソラすっごく似合ってる!」

 

ハルトは制服姿のソラを見るなり嬉しそうに褒め始めた。

 

「そ、そんなに似合ってますか…?」

 

「もちろん!その制服、まるでソラのために(あつら)えたみたいだな~!」

 

ソラをまじまじと見つめながら感想を述べるハルト。ソラシド学園の制服は青色を基調としている。ソラの髪色も青色なので、まさに彼女にぴったりの装いと言えるだろう。

 

「は、ハルトさん…そんなに見つめられたら恥ずかしいです…」

 

ソラが恥ずかしそうにハルトから視線を逸らす。

 

「あ、ごめんな!制服着たソラがあまりに可愛くてつい…」

 

「もう!この間から褒めすぎです!」

 

尚も褒めちぎってくるハルトに、ソラは顔を真っ赤にしながら言い返す。ソラはメイクしてもらったあの日から、ハルトにやたら容姿を褒められることが多くなった。嬉しいがちょっと気恥しいのだ。

 

(こないだからハルくん、ソラちゃんにゾッコンだなぁ…)

 

一方、また蚊帳の外に追いやられてしまったましろは心の中で寂し気に呟く。あの後 あげはがソラに施したメイクをましろも実践し、ハルトに感想を聞いてみたのだ。しかしましろのコスメを見慣れているハルトは、ソラの時ほど褒めてくれなかった。

 

(でもまだだよ!他にも新しいコスメを教わったし、次こそはソラちゃんみたいにたくさん褒めてもらえるよう頑張るよ!)

 

ましろはこっそりリベンジを誓うのであった。

 

「みんな、そろそろ学校に行く時間よ」

 

リビングから出てきたヨヨが三人に出発の時間を告げる。彼女の足元にはハイハイするエルの姿もあった。

 

「える~♪」

 

ご機嫌なエルが あっという間にハルト達に近づいてきた。彼女はここ数日でハイハイが早くなったのだ。ちょっと目を離すとすぐにどこかへ行ってしまうので、ハルト達は今まで以上に注意して見守りしている。

 

「エルも一緒に学校来るか?」

 

ハルトはエルを抱きかかえるなり彼女に問いかけた。

 

「行けるわけないでしょ?エルちゃんは赤ちゃんだよ?」

 

ましろが呆れた表情でツッコむ。エルは1歳児なので当然だが中学校には通えない。

 

「じゃあましろが子供の頃から持ってる お人形って設定にして、こっそり学校に連れて行くのは…」

 

「絶対無理だし失礼すぎるよ!ハルくんはエルちゃんがプリンセスってこと忘れてない!?」

 

無茶を言い出すハルトに ましろがすかさずツッコミを入れる。一国のお姫様をおもちゃ扱いするなど 国王夫妻に知られれば極刑ものだろう。

 

「冗談だよ。これ以上学校の連中に変な噂されるの嫌だしな」

 

「分かってるならそういう冗談やめてね?」

 

ジト目で睨むましろを余所に、ハルトはエルを床におろした。

 

「えるぅ~…」

 

するとエルが泣きそうな顔をしながら三人に向かって手を伸ばす。数日前のハルト達と同様、エルも彼らと離れ離れで寂しがっているのかもしれない。

 

「エルちゃんは私と遊びましょ。楽しいお話がたくさんあるわよ♪」

 

ヨヨはエルにミラーパッドを見せながら にこやかに声をかける。鏡の画面には色んな童話が表示されている。それを見たエルはそっちに興味を惹かれたようで、ヨヨの方へよちよち向かって行った。

 

「すみませんヨヨさん。何から何までお世話になって…」

 

ソラはヨヨに申し訳なさそうに頭を下げた。彼女には学校に行くための手続きや、制服をはじめとする必要な物品を取り揃えてもらった。それだけでなく、学校にいる間エルのお世話まで任せてしまうことになる。そのことをソラはずっと気にしていた。

 

「ここまでしてもらったのに、もしスカイランドの事がバレてしまったら…」

 

申し訳なさと不安で暗い表情を浮かべるソラ。

 

「案ずるより産むが易し。まずはやってみないと」

 

そんな彼女にヨヨが微笑みながら声をかける。

 

「うん、私たちもフォローするから!」

 

「せっかくの学校生活、一緒に楽しもうぜ!」

 

ヨヨに続くようにハルト達もソラに声をかける。

 

「ヨヨさん…ましろさん…ハルトさん!」

 

ソラは感激しながら三人の顔を見回した。色々不安はある。でも自分を支えてくれる人達が傍にいる。それだけで彼女は十分すぎるほど救われていた。

 

「じゃあそろそろ行こうぜ。転校初日から遅刻なんてシャレにならないしな」

 

「だね!行こう、ソラちゃん!」

 

「はい!行きましょう!」

 

こうしてハルト達はヨヨとエルに見送られながら家を後にする。今日からソラと一緒の新しい学園生活が始まるのだ。

 

 

______

 

____

 

__

 

 

 

私立ソラシド学園に朝のホームルームを告げる予鈴が鳴り響いた。それを聞いたハルトら2年2組の生徒たちは各々の席に着く。やがて教室のドアが開かれこのクラスの担任である男の教師が入ってきた。

 

「えー、ホームルームを始める前に、今日は皆に新しいお友達を紹介する!それじゃ、入って来なさい!」

 

担任の先生がそう言うと教室のドアが開いた。本日の主役、ソラが緊張気味に入ってきた。

 

「そ、ソラ・ハレワタールです!よ、よろしくお願いします!」

 

ソラは照れながらも礼儀正しくお辞儀した。そんな彼女にクラスメイトたちが一斉に拍手を送る。

 

(やっとソラと学園生活を送れるんだ、嬉しいなぁ)

 

ハルトは嬉しそうにソラを見つめる。ハルトは学校にいる間ソラと離れ離れで寂しかった。だから彼女と一緒に学校に通えると知ったときは飛び上がるほど嬉しかったし、今日という日を大変心待ちにしていた。転入の手続きをしてくれたヨヨ大先生には超絶感謝している。今後一生彼女に足を向けて寝ることなどできないだろう。

 

「ソラ・ハレワタールさんは海外からの転校生だ。外国生活が長いので不慣れなこともあると思うが、そこは皆でサポートしてほしい」

 

「わかりました!任せてください先生!!」

 

ハルトは先生の呼びかけに元気よく答えた。それをましろを除くクラスの面々はギョッとした様子で見つめる。他人に無関心なハルトがこんな返事をするなんて思いもよらなかったからだ。

 

「お、朝日くんは頼もしいなぁ。じゃあハレワタールさん、席は虹ヶ丘さんの隣で」

 

「はい!」

 

元気に返事したソラが、ましろの隣の席へ向かう。彼女はハルトの傍を通りかかった際、彼に向かってにっこりと微笑んだ。あまりに可愛くてハルトの胸がときめいてしまう。

 

(ていうかソラ、俺の真後ろの席かよ?緊張するなぁ…)

 

自分の友達で、憧れのヒーローに恥ずかしい恰好は見せられない。今日からこっそり居眠りしたりスマホを弄るような真似はしないとハルトは心に誓うのであった。

 

「ねえ、ソラちゃんはなんて国から来たの?」

 

茶髪のポニーテールの少女『吉井るい』が、さっそくソラに質問する。

転入生への質問はある意味通過儀礼のようなものだが…。

 

「はい!スカイランドです!」

 

「……それってどこ?」

 

「別の世界です!」

 

「「ちょっと待った~!!」」

 

ハルトとましろが立ち上がり、禁句を漏らしたソラを自分たちの席へ引っ張った。

 

(ソラちゃん!スカイランドの事は話さないようにしようって昨日みんなで約束したでしょ!?)

 

ましろに耳打ちされたソラはみるみる顔が青くなる。

 

「う、うわぁぁぁ!そうでした!間違えました!今のは忘れてください!」

 

「そうだ忘れろ軽井沢!なんならお前の頭をカチ割って記憶を消してやってもいいぞ!?」

 

「いや質問したの俺じゃないし!?ていうかハルトは何急に物騒なこと言いだすの!?」

 

いきなりバイオレンスな提案をされてドン引きする軽井沢。

 

(ごめんなさいハルトさん!ましろさん!私ついうっかりスカイランドのことを…!)

 

(いやこっちそごめん!ソラが転入したのが嬉しすぎて油断してた!)

 

(さらっと言っちゃってたから私もフォローできなかったよ~!)

 

ハルト達はそれぞれ申し訳なさそうに謝りあう。一方クラスの皆や先生は、ボソボソと喋っているハルト達を不思議そうに見つていた。

 

「あ、あの!えっと~私が住んでいたのは…スカイランド…ではなく…」

 

アタフタしながら必死で弁明するソラに先生が助け舟を出してきた。

 

「確か虹ヶ丘さんのお婆さんの話では、スカンジナビア半島の方の国だと…」

 

「はい!確かその~すか~…すかい~なんじなびあ~?の方の国です!」

 

先生にフォローされたソラはたどたどしい口調で誤魔化した。

 

「そういうことだ軽井沢。これ以上余計な詮索をして俺らのソラさんを困らせるんじゃないぞ?」

 

「だから俺は何も言ってないって!何で今日のハルトは俺に当たりが強いの!?」

 

いつもより数倍鋭い目つきで睨んでくるハルトに軽井沢はドン引きしながらツッコんだ。

 

「そういえば今の話にましろんのおばあちゃんが出てきたけど、ソラちゃんとましろんはどういう関係なの?」

 

今度はボブカットの少女の『仲田つむぎ』がソラに質問してきた。

 

「はい!実はましろさんの家にお世話になってます!」

 

ソラはましろの家に住まわせてもらっていることをクラスメイト達に明かした。まあこれくらいなら言ってもいいだろうと思いハルトもましろも止めなかった。10秒後、その判断を大いに後悔することも知らずに。

 

「ましろんと一緒に住んでるんだ~!いいな~楽しそう!」

 

羨ましそうに話すつむぎ。その直後、彼女はある疑問を抱いた。

 

「あれ?ということはソラちゃん、ハルトくんとも一緒に住んでるってことだよね?」

 

「はい!ハルトさんとも一緒に住んでます!」

 

「「し、しまったぁぁぁ~!!」」

 

ハルトとましろの絶叫が2組の教室に響き渡る。ハルトがましろの家に住んでいることはこのクラス…どころか学園中で周知されている。年頃の男女二人が一つ屋根の下で暮らしているのだ。これだけでも目を引くのに、ソラとも一緒に住んでいると知られたら…。

 

「うわぁ~そうなんだ~!ハルトくん、ましろんだけじゃなくてソラちゃんとも暮らしてるんだ~!これってもしかしてハーレム?」

 

「うぉ~漫画でよく見る展開!ソラちゃんとっても可愛いし、ましろんに強力なライバル出現だね!」

 

つむぎとるいが興奮気味に話し出す。このように3人の関係について想像を掻き立てられるのは、火を見るよりも明らかだった。

 

「ち、ち、違うよ二人とも!私たちハーレムとかいう不健全な関係じゃないし、ソラちゃんとは友達でライバル同士じゃないから!」

 

ましろが顔を真っ赤にしながら弁明するも、時すでに遅し。周りのモブ生徒たちも3人の関係を面白半分に話題にしていた。

 

「そういえばましろん、この間ハルトくんがソラちゃんシックになったとか言ってたよね。それってこのソラちゃんに会えなくて寂しかったってことなのかな?」

 

「多分そうじゃない?あのハルトくんが気に掛けるくらいだし」

 

「じゃあ二人はすっごく親密な関係だったりする!?」

 

「かもね!どうするの~ましろん?マジピンチじゃん!」

 

キャーキャー騒ぎ立てるつむぎとるい。

 

「だ、だから違うってば~!」

 

ましろは慌てて否定する。だがハルトは最近ソラにお熱なので上手く反論できなかった。

 

「おいおいすごいなハルト!虹ヶ丘さんだけでなくハレワタールさんとも暮らしているなんて、両手に花じゃないか~!」

 

今度は軽井沢がハルトを冷やかし始めた。

 

「軽井沢よぉ、くだらないことほざく口はさっさと塞ぐべきだと思わないか…?」

 

しかしからかう相手が悪すぎた。ハルトが鬼のような形相で睨みつけてきたのだ。それを見た軽井沢や、ハルトを遠巻きにからかっていたクラスメイトも恐怖で震えあがってしまった。

 

「さっきも言ったよな?余計なこと言ったら顎の骨を砕いて二度とお喋りできないようにするってよぉ…」

 

「そ、そんなこと言ってなかった…いや、すまんかった!気を付けるから睨まないで…!」

 

ハルトの圧に屈した軽井沢は、恐怖で顔をひきつらせながら謝った。

 

「ほらほら、みんな騒ぎ過ぎだ!ハレワタールさんだけでなく朝日くんや虹ヶ丘さんも困ってるぞ!?」

 

見かねた先生が生徒を落ち着かせようと大声を張る。それでようやくクラスの喧騒は収まった。ついでにハルトに睨まれた軽井沢もホッと胸をなでおろした。

 

「す、すみません皆さん!あまり質問されると、困ってしまいますぅ…」

 

「うん、私の方こそごめんねソラちゃん」

 

つむぎがソラに申し訳なさそうに謝った。

 

「私も勝手に盛り上がっちゃってごめんね。ソラちゃんだってこんな話されたら恥ずかしいのに…」

 

続けてるいも謝ると、ソラははっとした表情を浮かべた。

 

「じ、実はそうなんです!私はもうメチャクチャ恥ずかしがり屋なんです!」

 

どうやら恥ずかしがり屋のふりをして、クラスメイトの質問を回避するつもりらしい。

 

「こりゃ先が思いやられるな…」

 

「だね…ソラちゃんのフォローは思ってたより大変そうだよ…」

 

ハルトとましろは揃ってため息をつく。ソラと過ごす学園生活は、二人の想像以上にハードで騒がしいものになりそうな予感がした。

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

「ハルトさん、ましろさん、どうやら私は何でも正直に話してしまうところがあるようです」

 

「うん、知ってた。俺ソラはスカイランド出身っていうよりドン家の末裔って言われた方がしっくりくるもん」

 

「それは暴太郎をしらない人には伝わりにくい例えだよハルくん…」

 

朝のホームルームが終わった後、ハルトら3人は教室の窓際で話をしていた。

スカイランドやプリキュアの事は3人以外の誰にも話さないように固く…それはもう固く約束したのだ。だが彼女は暴太郎のリーダー並みに嘘をついたり誤魔化す機能が欠落しているのか、なんでも正直に話してしまうのだ。

 

「とにかく早くクラスに馴染むには、これ以上質問をされないよう目立たない方がよさそうです!」

 

「それがいいかもな。俺もこれ以上目立ちたくないし…」

 

ハルトの表情が段々沈んでいく。彼がソラとも同棲している話が早くも他所のクラスに広まってしまったからだ。噂話は風邪よりも蔓延しやすいものだ。このことが学園中に知れ渡るのも時間の問題だろう。

 

「すみません、ハルトさん。私のせいでご迷惑をおかけして…」

 

目に見えて落ち込んでいるハルトに、ソラが申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「だ、大丈夫!気にしてないから!」

 

ハルトはソラを落ち込ませまいと、慌ててフォローを入れた。

 

「目立たないようにするのは大変だろうけど、俺やましろがいつでもサポートするから遠慮なく頼ってくれな」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

ハルトの言葉にソラは嬉しそうに微笑んだ。

 

「目立たないように…本当にそれでいいのかなぁ?」

 

ただ一人、ましろだけは複雑そうな表情を浮かべていた。

 

そして授業が始まった。ソラは宣言通りクラスの注目を浴びないよう、席でひっそりと息をひそめていた。途中ましろやハルトに教わったことわざが出てきて問いに答えるチャンスがあったものの、ソラは先ほどの失敗を思い出して手を上げずにやり過ごすことにした。

 

(なんかソラちゃんらしくないかも…)

 

そんな彼女をましろは心配そうに見つめるのであった。

 

その後も特変なく二限目、三限目と授業は進み、やがてスポーツテストの時間になる。ずば抜けた身体能力を持つソラにとって、本来ならクラスメイトにアピールできる絶好の機会だろう。

 

「皆さんの真ん中くらいの記録を狙います!」

 

しかしソラは目立つことを恐れて、あくまで普通に振る舞おうとしていた。

 

「え~ソラちゃん運動神経いいのにもったいないよ…」

 

「いいじゃないか。ソラが目立ちたくないって言うならさ」

 

見かねたましろがそう呟くと、それを聞いたハルトが彼女を宥めた。

 

そして始まるスポーツテスト。だがソラは色んな種目で目を疑うような記録を叩き出していった。

 

50m走ではウ〇インボルトもビックリのダッシュ力で駆け抜け新記録を樹立。立ち幅跳びではスタントマン顔負けの見事な宙返りを決め、握力計測では測定器を粉々に握り潰してしまった。

 

それらはあらゆる偶然が積み重なった結果起きたもので、ソラが意図してやったわけではないのだが…。

 

「ソラちゃんすごーい!」

 

「かっこいー!」

 

ソラの超人的な身体能力にクラスメイト達は大興奮。彼女はすっかり注目の的になってしまった。

 

(はは…やっぱりソラ目立ってるなぁ)

 

ハルトはその様子を遠巻きに眺めながら苦笑いを浮かべていた。ちなみに彼は今、ボール投げの順番待ちだ。

 

(まあスカイランドの秘密を喋らなければいいか…)

 

そう思っていると、彼と同じくソラの活躍を見ていた男子生徒たちがこんな事を言い出した。

 

「まさかハレワタールさんがあんなに運動神経がいいとは…」

 

「ああ、うちの陸上部にスカウトしたいぜ」

 

どうやら彼らは運動部員のようで、ソラの身体能力に目を付けているようだ。

 

(なんだこいつら。ソラをじろじろ見やがって…)

 

ハルトはソラを見つめる男子生徒たちに苛立ちを覚えた。一瞬、連中に一言物申してやろうとも考えたが、トラブルを起こせばソラやましろに迷惑が掛かってしまうと考えこの場は何とか踏みとどまる。

 

(ま、まあ…俺たちのソラさんが誉められて悪い気はしないし…)

 

そう自分に言い聞かせるハルト。が、今度はソラに下心を抱いている連中の会話が聞こえてきた。

 

「やべえ…ハレワタールさんめっちゃタイプかもしれない」

 

「俺も!礼儀正しくて可愛いし。ちょっと変わったところがあるけど、それも愛嬌っていうか!」

 

「おれ、このスポーツテストが終わったら、ハレワタールさんとお話するんだ…」

 

(………ああん?)

 

流石にこれはスルーできないようでハルトは額にビキビキと青筋を浮かべた。そしてソラに色目を向けるモブどもの下へズカズカと向かっていったのだ。

 

「おいお前ら。気持ち悪い面してソラをジロ見してんじゃねーぞ?」

 

「はぁ?なんだそのいい草は!?お前俺に喧嘩売ってんの…か…?」

 

突っかかってくるハルトに文句を言おうとしたモブ男子。だが怒り狂った彼の眼光を前に震えあがってしまった。

 

「ソラはこの学園での生活を本当に楽しみにしてるんだ。余計なことしてソラに迷惑をかけたり、傷つけるような真似したら……ただじゃ済まないからな?」

 

「そ、そうか。悪かったな…」

 

ハルトの怒気に気圧された男子生徒たちはすごすごと引き下がっていった。

 

「おい朝日!お前の番だぞ!」

 

「あ、はい!今行きます!」

 

先生に呼ばれたハルトは慌てて駆け出した。その際、またソラに関心を示す生徒のひそひそ声が聞こえてしまい、ハルトのイライラがますます募っていった。

 

「くそ…ソラは俺の友達だぞ?なのにどいつもこいつも気安く近づこうとしやがって…!」

 

苛立ちで歯ぎしりをするハルト。怒りで震える手を何とか抑えてボールを構えた。

 

「こんちくしょうめええぇぇえっ!!」

 

そしてこの憤りを晴らすかのように、ボールを力いっぱいぶん投げた。するとボールは校庭のフェンスを軽々と越え、空の彼方へと消えていった。

 

「おいいぃぃっ!?どこ投げてんだぁぁ朝日ぃ!?」

 

「やっべ!?手元が狂い過ぎたぁ!?」

 

これには投げた当人もビックリだった。そしてハルトが投げたボールはどこぞの原っぱで寝そべっていたカバトンの顔面に直撃したのである。

 

「ぐはぁぁぁっ!?一体何なのねぇぇん!?」

 

痛みに悶えるカバトンの叫びが、人気のない野原に響き渡った。

 

 

 

 

______

 

 

 

 

 

「またやらかしてしまいました…」

 

がっくりと肩を落としながら廊下を歩くソラ。彼女はすべての種目において学園…どころか全国でもトップレベルの記録を出してしまったのだ。

 

「落ち込むことないよソラちゃん!これはすごいことだよ!」

 

そんなソラをましろが優しく励ました。

 

「いいや、これは由々しき事態だぞ。何せ全国規模の記録を叩き出したんだぜ?このことが学園中に知れ渡るのは時間の問題だ」

 

ましろとは対照的にハルトは深刻そうな表情を浮かべていた。

 

「きっとあのモブどもみたいにソラを部活に勧誘したり、下心を持って近づく輩がわちゃわちゃ湧いて出てくるに違いない…。そんな真似させないよう連中に片っ端からヤキ入れとかないと…」

 

「ソラちゃんがクラスの皆に関心持たれたからって大げさだよ!?いけないよハルくん!乱暴したら!?」

 

また暴力的な解決策で片を付けようとするハルトをましろが必死に止めに入った。

 

「うう…きっと他の皆さんは私の事を変だと思ってます…」

 

そんな二人を尻目に、ソラはまるでこの世の終わりのような顔をしながら頭を抱えていた。

 

「もしこれで別の世界から来たことまでバレたら、もう皆さんと友達には…!」

 

「ソラちゃん…もしかして目立たないようにしてた理由って、皆と友達になりたかったから?」

 

ましろにそう尋ねられてこくりと頷くソラ。

 

「それなら気にすることないと思うよ!」

 

「え…?」

 

ましろに促されて顔を上げるソラ。彼女の目の前につむぎ、るい、軽井沢の3人がやってきた。

 

「ソラちゃ~ん!さっきはすごかったよ~!」

 

つむぎがいたく興奮した様子でソラを褒め称えた。

 

「今度俺にも宙返り教えてよ!クラスの皆も教えてほしいって!」

 

「何?皆だと…?」

 

軽井沢の言葉にハルトは不機嫌そうな表情を浮かべた。

 

「ちょっと軽井沢くんグイグイ行きすぎ!ソラちゃん恥ずかしがり屋だって忘れたの?」

 

「吉井さんの言う通りだぞ軽井沢。ソラは恥ずかしがり屋だから、あんまり距離を詰めすぎないでくれるか?」

 

るいが軽井沢を諫めていると、それに便乗するようにハルトが軽井沢に詰め寄った。

 

「その代わり、俺が宙返りの仕方を教えてやるよ」

 

「あ、いや…やっぱり遠慮しとく…」

 

不気味な笑みを浮かべるハルトに危険を感じた軽井沢少年は後ずさる。

 

「そう言うなよ。ついでに逆蜻蛉返り(さかとんぼかえ)のやり方も伝授してやるからさ…」

 

「それ絶対俺がひどい目に遭う展開になるじゃん!?だからいいって!あと近づかないで怖いから!?」

 

全力で拒否する軽井沢。先日ハルトに絞め落された経験から、自分がこういうポジションに置かれることを察しているようだ。

 

「あの…構いませんよ?私でよければ喜んでお教えします」

 

そこへ救いの天使が舞い降りた。ソラが嬉しそうに微笑みながら軽井沢の申し出を了承したのだ。

 

「ほ、ホントに!?ありがとうハレワタールさん!」

 

「……ちっ」

 

喜ぶ軽井沢少年。対してハルトは面白くなさそうに舌打ちをした。

 

「じゃあ約束してもらえたし、そろそろ飯行こうぜ!」

 

「あんたもマイペースな奴ね…。じゃあソラちゃん、また後でね~!」

 

軽井沢達はそう言うとお昼ご飯を食べに教室へ戻っていった。

 

「アイツあとで覚えてろよ…」

 

ハルトは機嫌よさそうに歩いていく軽井沢の背中を苦々し気に睨みつけた。

 

「あの、ハルトさん。私もお昼ご飯を食べに行きたいです…」

 

ソラが恥ずかしそうにお腹を擦りながらハルトに声をかけてきた。

 

「おっとそうだな。じゃあ俺達も行くとするか」

 

我に返ったハルトは急いで笑顔を取り繕うと、ソラと一緒にお弁当を取りに行こうとする。

 

「ねえ二人とも。ちょっと私について来てくれないかな?」

 

だがましろがそう言って二人を呼び止めてきた。

 

「え?どこに行くの?」

 

「いいからいいから」

 

そう言いながら二人の手を引き、ましろは校舎の屋上までやってきた。

春の心地よい風が3人の頬を優しく撫でる。

 

「ここってましろのお気に入りの場所じゃん」

 

「そうだよ!ハルくん達とあれを一緒に見たかったんだ!」

 

ましろの指さす先には満開の花を咲かせた大きな桜の木が立っていた。

 

「綺麗です…なんていう木ですか?」

 

「桜だよ。この学園ができた時からずっとあそこにあるんだって」

 

桜の花が風に揺れ花びらが舞う様子は、幻想的でありそしてどこか儚げであった。

ソラはその美しい光景に目を奪われていた。

 

「ソラちゃん、もっとクラスでも自分の事出していいんじゃないかな?」

 

「え?」

 

「実は私もね、入学したころ新しい友達と上手く話せなくて悩んでたんだ。そんな時にここにきたらあの桜に元気をもらって、なんだか肩の力が抜けたんだ」

 

「ましろさん…」

 

「だからソラちゃんも変に自分を偽らないで、いつものソラちゃんのままでいたら良いと思うな!」

 

「いつもの…わたし…」

 

ましろの言葉に、ソラは何かを思い返すように少しうつむいた。思えば自分の秘密をばらさないように必死で、せっかくの学園生活を心から楽しめていなかった。

 

それではあまりに勿体ない。せっかく巡り合えたクラスメイト達と、もっと仲良くなって友達になりたい。

 

「ましろさん!ありがとうございます!おかげで吹っ切れました!」

 

ましろの言葉で本当の気持ちに気づいたソラは、いつもの笑顔を取り戻した。

 

「ここからは、いつもの私にチェンジします!そしてクラスの皆さんと友達になります!」

 

「うん!その意気だよソラちゃん!」

 

すっかり元気になったソラを見て、ましろは満足そうに微笑んでいた。

 

「……やっぱりソラはクラスの連中と仲良くしたいんだ…」

 

一方、ハルトは寂しそうにぼそりと呟いた。

 

「ハルトさん?どうかしましたか?」

 

ハルトの異変に気付いたソラが、心配そうに彼の顔を覗き込んできた。

 

「あ、いや!?べべ、別にどうもしてないぞ!?」

 

ソラに話しかけられたハルトは慌てて誤魔化そうと試みる。

 

「そ、そうだな!ソラがいつも通りでいたいなら、それが一番だと俺は思うぜ!?」

 

「は、はい!ありがとうございます、ハルトさん!」

 

明らかに挙動不審なハルトの様子に戸惑いながらも、ソラは感謝の言葉を口にした。

 

(もしかしてハルくん、ソラちゃんに友達ができるの嫌なのかな…?)

 

そんな中、ましろはハルトの様子がおかしい原因に薄々と気づき始めていた。

 

(さっきもクラスの皆…特に男の子に当たりが強かったし。今日のハルくん、去年の時と似てるよね…?)

 

ましろは自分に新しい友達ができた時のハルトの様子を振り返る。自分がクラスの子たちと仲良くしてると不貞腐れたり、男子生徒が話しかけてくると睨んだり…今のハルトは明らかにあの時と似た様子だった。

 

しかも今のハルトは何かと攻撃的だ。このままほっとくとクラスの皆に突っかかって喧嘩するかもしれない。

 

(そうならないように、私がハルくんをしっかり見守ってあげなきゃだよ…!)

 

ましろはハルトが暴走しないよう、今まで以上に彼をフォローしていこうと心に決めたのであった。

 

しかしこの後、その決意も空しくハルトがとんでもない大惨事を引き起こすことになるとは、この時のましろは知る由もなかったのである。

 

 

 





色々あって予定よりも投稿が遅れてしまいました。楽しみにしてくださってる方々には申し訳ない気持ちでいっぱいです…。次回のお話はなるべく早くお届けできればと思います。
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