ひろがるスカイ!プリキュア~ SUNLIGHT×STORY ~ 作:零たん
ましろは赤ん坊を抱っこしながら走っていた。
肩で息をしながら必死で足を動かし、どこか安全な場所へと向かう。
(ハルくん、ソラちゃん、無茶はしないで!)
ハルトたちのことが心配だが、赤ん坊を抱えた自分が残ったところで足手まといになるだけだ。今はとにかく安全な場所へ逃げなければならない。
必死に走るましろだったが上空から降りてくる怪物に気づかないでいた。ドスンと重たい音を立て、ましろの前方に怪物が降り立った。
「きゃあっ!」
驚くましろ。怪物の腕に乗っているカバトンは両腕に何かを抱えていた。
「う、うそ…」
それは先の戦闘で叩きのめされたハルトとソラだった。カバトンは二人をゴミを捨てるようにましろの目の前に放り投げた。ドサッと鈍い音を立てて二人は地面に倒れる。
「ハルくんっ!!ソラちゃんっ!!」
ましろは二人の名前を叫び駆け寄る。二人とも全身傷だらけだ。
必死に二人を揺さぶるましろ。ソラは辛うじて意識が残っているようだが、ハルトはピクリとも動かなかった。
「さあ、こいつらのような目に遭いたくなければ、プリンセスを渡すのねん!」
カバトンはボロボロになって倒れる二人を指さしながら、卑しい目つきでましろを脅す。
ましろの瞳から涙が零れ落ちた。
「ひどい…どうして、こんなことをするの…?」
「俺様の邪魔をしたからに決まってるのねん。YOEE~脇役の分際でカバトン様に楯突くからこうなるのねん!」
それを聞いたましろはカバトンを睨みつけた。
自分と赤ちゃんを守るために勇敢に立ち向かったソラとハルトを侮辱されて頭に来たのだ。
恐怖心よりも怒りが勝った。立ち上がったましろは二人をかばうように前に出る。
「もうこれ以上、二人を傷つけないで!」
ましろは毅然とした態度でカバトンに告げた。
その態度が気に食わずカバトンは眉間に皺を寄せる。
「脇役が何カッコつけてるのねん?渡さないならお望み通りー」
「やめなさいっ!!」
ましろは声の主の方向へ振り替える。ソラが立ち上がりカバトンに向かって叫んだのだ。負傷した左腕を片腕で抑え、全身の痛みに苦悶の表情を浮かべるソラだったが、ましろとハルトを守るためによろよろとカバトンの方へ歩き出そうとする。
「あなたの相手は、わたし…っくぅ!」
「ソラちゃん!」
だがすでにソラの体は限界だった。痛みにバランスを崩しドサッと倒れ込む。倒れた拍子に持っていた手帳がカバトンの足元に転がってしまう。
「あぁん?『私のヒーロー手帳』…何じゃこりゃ?」
カバトンは拾い上げた手帳をめくって読み始めた。
そこにはソラが思うヒーローの理想の姿が文章と絵で記されていた。
「んん?『空の上を怖がっていたらヒーローは務まらない』、『ヒーローは泣いている子供を絶対に見捨てない』…ブフッ!『絶対ヒーローになるぞぉ!』…ぎゃーっはははははは!!」
一通り読んだカバトンは腹を抱えて笑いだした。そしておもむろに手帳のページをつまむと思いっきり破りはじめた。
「力のない奴は!ガタガタ震えて!メソメソ泣いてればいいのねん!ギャーッハハハハハッ!」
ゲラゲラ笑いながら破いたページを宙に投げ捨てるカバトン。
紙切れにされたページが宙を舞いヒラヒラと地面に落ちていく。
「ひどいよ、もうやめて…!」
その光景にましろが悲痛な声を上げる。その時、彼女の足元で倒れていたハルトが声を上げた。
「…おい」
「ああん?」
「お前、何笑ってやがる…?」
ハルトがゆっくりと体を起こした。怒りに満ちた形相でカバトンを睨み付けている。
「答えろ、何がそんなにおかしいんだ…!?」
「はんっ!おかしいに決まってるのねん!」
カバトンは手帳の表紙を地面にたたきつけた。そして地面に散らばったページの残骸をぐりぐりと踏みにじる。
「この世は弱肉強食!YOEE~ヤツはTUEE~やつに踏みつぶされる、紙屑みてぇなもんなのねん!そんな救う価値もないゴミみたいなYOEEヤツなんかを守ろうとするヒーローなんて、アホらしすぎて笑えるのねん!」
「アホなのはてめえだこのクソ野郎!!!」
怒りが頂点に達したハルトが叫んだ。普段は穏やかなハルトの怒号にましろは驚きソラも目を丸くする。ゆっくりと立ち上がったハルトが拳を握り締め、カバトンを睨みつけながら歩みを進める。
「お前の言う強さってのは獣の強さじゃねえか!本当に強い奴ってのはな…!」
ハルトはチラッとソラとましろに視線を向けた。
「どんなに逃げたくても、どんなに怖い奴が相手でも、勇気を振り絞って立ち向かえる奴のことを言うんだよ!」
「ハルトさん…」
「ハルくん…」
幼い頃いじめっ子に立ち向かい自分を救ってくれたましろ。
知り合ったばかりの自分たちを助けるために恐怖を乗り越えて怪物と戦ったソラ。
ふたりの勇気にハルトは強く感銘を受けていた。
「これ以上ましろを…」
だからこそ…。
「
ヒーローを侮辱する目の前の男が許せない。
「
ハルトは激情と共に駆け出しカバトンに向かって拳を振り上げた。
全身が痛みで悲鳴をあげるが関係ない。目の前の男を一発ぶん殴ってやらないと気が済まない。
ハルトはカバドンの顔面目掛けて渾身の右ストレートをお見舞いする。しかしその拳はカバトンの手で阻まれあっけなく止められた。
「ふん!ヒーロー気取りのYOEE~脇役が…カバトン様に楯突くなど100億年はええのねん!」
そしてカバトンは再びハルトを殴り倒す。ゴロゴロと地面を転がり仰向けに倒れるハルト。
「ハルトさんっ!」
「ハルくんっ!」
「かはっ!くっそぉ…」
ハルトは起き上がろうとするが体に力が入らない。痛みで瞑っていた眼を開くと黄色い二つの目と合った。ショベルカーの怪物がハルトを見下ろしていたのである。
「よく見ておけ。これがYOEE~やつの末路なのねん!潰せランボーグ!」
カバトンの命令を受け、ランボーグの拳が倒れるハルトめがけて振り下ろされた。
「!?だめっ!!」
「やめてぇっ!!」
ソラとましろが叫ぶ。怪物の拳がハルトを叩き潰さんと迫る。
そしてハルトに拳が当たる瞬間、彼のアクセサリーが怪しい光を放ち、黒いエネルギーを放出した。黒い靄を纏ったエネルギーはランボーグを突き飛ばし、その巨体が地面に倒れ伏した。
「はぁあっ!?」
「こ、これはいったい…!?」
「え、えるぅ…」
突如起きた出来事に驚愕するカバトンとソラたち。赤ん坊も目に涙を湛えて不安そうな表情で見つめる。中でもましろの視線はハルトの胸元のアクセサリーに向けられていた。
「ハルくんのアクセサリーが、真っ黒に…!」
アクセサリーが漆黒に染まり中心部にある太陽の紋章が血のように真っ赤に輝いている。
ハルトの体は仰向けになったまま空中に浮かぶ。そして放出された黒いエネルギーが彼の体を包むように纏わりつき始めた。
「あ、あれは
カバトンはあのエネルギーの正体を知っている。何故なら自分がショベルカーをランボーグにするために放ったアンダーグエナジーそのものだからである。
「バカな…
一方意識が朦朧とするハルトは自分を包み込もうとする黒い瘴気を見つめていた。昨日見た夢の光景が頭の中に浮かんでくる。自身を侵食し憎しみに染めようとした黒い瘴気とおぞましい声を。
(同じだ…あの夢の時と)
しかし自分を助けてくれたあの水色の少女は現れることはなかった。アンダーグエナジーはハルトを包み込むと大きい球体へと形を変えた。歪んだモヤが消え失せ何物にも染まらない漆黒の球体を形成する。まるで日蝕で黒く塗りつぶされたような太陽のように、球体が白い不気味な光を発していた。
そして突如球体に亀裂が走り、粉々に砕け散る。中からハルトが姿を現した。だがその様相は大きく変わっていた。
アンダーグエナジーに包まれる前のハルトはTシャツの上にパーカーを羽織ったごく一般的な私服姿だった。
それがは今では全身黒ずくめの衣装に変わっていた。服には所々に飾りがついたゴシック調の服でマントを肩に羽織っている。
衣装もそうだが一番大きく変わっているのは髪と目の色だった。髪は不気味な白銀に染まり、瞳は血のような真紅に変わっていた。その姿は異世界から来訪した魔王のような雰囲気を醸し出している。
「…ん?」
意識が戻ったハルトはあたりを見渡す。
ソラもましろも赤ん坊も、果ては敵であるカバトンまで呆然と自分を見ていた。
周囲の視線に疑問を浮かべるハルトだが、自分の着ている服に違和感を感じて自身の体を見下ろした。
「…何これ、えっ!?何だこれ!?」
ハルトは驚きの声を上げ、自分の今の服装をぺたぺた触り始めた。
昨日の夢で自分が着替えていたあの衣装と全く同じである。
「どういうこと!?あの夢の続き!?もしかして今ホントに夢を見てるの!?」
「は、ハルくん?あなたはハルくん、何だよね…?」
ましろが恐る恐る尋ねる。呼ばれたハルトはましろの方へ駆け寄ってきた。履きなれていないブーツのせいでよろめきながらも彼女の元へたどり着く。
「ましろぉっ!?一体何がどうなってるんだ!?怪物に潰されかけたと思ったらペンダントがパーッと怪しい光を放って中からぶわっとドロドロしたもんが出て怪物をドカンって!それで俺の体をぐちゅぐちゅ~って取り込んで!!」
「た…たいむ…」
どうやら目の前の少年はハルトのようだ。安心したいところだが、地上に降りてきたばかりのソラみたいに慌てふためきマシンガントークを浴びせてくる幼馴染にたじたじになる。
「そして丸いもんに包まれたと思ったらパリ―ンって割れて!そして夢で見た黒ずくめの恰好になってて!」
「たーいむっ!」
本日二度目のタイムが叫ばれる。その声でハルトはようやく我に返る。
「ごめんましろ、突然変なこと言って」
「う、うん。大丈夫だよ」
「えるぅ…」
一呼吸ついて気持ちを落ち着けるハルトとましろ。だが、ましろに抱かれた赤ん坊はハルトを怯えた表情で見つめていた。
「ハルトさん!?」
「ソラ!大丈夫!?」
「私の事よりもハルトさんですよ!その姿は!?それに体の傷は大丈夫なんですか!?」
「あ、そうだ!さっきあいつにぶん殴られて…あれ?」
自分の体に痛みがないことに疑問を抱くハルト。ぺたぺたと体に触るがなんともない。
ハルトの体はカバトンに殴られた跡も、電柱にぶつけた時の傷も全てなくなり、何事もなかったかのように綺麗な体になっていた。
「治ってる…?」
この異常な事態に驚いていると、さっきから蚊帳の外のカバトンが声を上げる。
「お、おいお前…これは一体どういうことなのねん!?」
呼ばれてカバトンの方へ振り向くハルト。カバトンは体を震わせながらハルトを化け物をみるかのように睨んでいた。
「どういうこと?それはこっちも聞きたいけど?」
「不気味な奴め、ランボーグ!今度こそとどめを刺すのねん!!」
その命令を受け、先ほどまで倒れていたランボーグが起き上がり、ハルトめがけて走り出した。
その時、ハルトの胸元のアクセサリーが怪しい黒い光を放ち始めた。それと同時にハルトの頭の中に自分が戦うイメージが浮かびあがってきた。
「そうか、
「ハルくん?」
「ハルトさん?」
「二人とも、危ないから下がってて」
ハルトは二人を下がらせランボーグの方へ向き直る。
怪物は再びハルトめがけて拳を振りかざしてきた。
だがハルトは落ち着いた様子で右手を前に差し出し、その手の平に意識を集中する。
するとアンダーグエナジーに似た黒いエネルギーが出現し、バリアーのようなものを形成した。それはランボーグの巨大な鉄拳を軽々と受け止める。
「はぁああああああっ!?」
「うっそぉ!?」
驚愕する一同。そんなことはお構いなしにハルトは意識を集中させる。
攻撃を受け止めたエネルギーは今度は拳を伝ってランボーグの全身に纏わりつく。
ハルトが手をゆっくり上げると同じようにランボーグが宙に浮かび始めた。
「ラ、ランボォグゥ…!」
藻掻くランボーグだが謎のエネルギーに阻まれ体が動かない。そのまま空中に浮かぶランボーグ。
ハルトは高く上げた手を勢いよく地面に向かって振りかざす、その動きに合わせるように空中に浮かんだランボーグは地面に叩きつけられた。
「ランボォーグゥウウ!?」
ランボーグは悲鳴を上げる。大ダメージを受けたが黒いエネルギーから解放されたようで、ランボーグはこちらに歩み寄ってくるハルトに向かって三度拳を振り下ろした。
だがその拳は今度はハルトの右手に阻まれてしまう。エネルギーなど使うまでもない、とばかりに片手で軽々と。ハルトは拳の勢いを利用してそのままランボーグを投げ飛ばした。
「ひぃっ!?何がどうなってるのねん!?」
再び地面に叩きのめされるランボーグを見てパニックになるカバトン。
慌てふためく彼にハルトが声をかける。
「こいつを始末したら、次はお前の番だ」
「ひぃっ!?」
ドスの利いた低い声で睨まれ、カバトンはその場で腰を抜かしてしまった。
一方、この戦いを見守っているソラとましろはハルトが起こす不思議な現象に驚きを隠せないでいた。
「すごい…でも…」
ましろは怪物と対峙するハルトを見て嫌なものを感じた。以前の彼とは違うどこか冷酷で恐ろしい雰囲気を纏っている。このまま力を使い続ければハルトは力に飲み込まれ別人になってしまうのではないか?
そんな不安を抱いているとましろは腕の赤ん坊の異変に気付く。
「えるぅ、うえっ…うえ~ん!」
赤ん坊が戦うハルトを見て涙をぼろぼろ流しながら泣き出した。
「この子、ハルくんを見て泣いてる?」
一方ハルトも再び掌を宙にかざし、エネルギーを集め始めた。巨大な漆黒の球体がハルトの頭上に出現する。この攻撃で決める気だ。
「くたばれ」
ランボーグに向かって球体を叩き込むべくハルトが手を振り下ろそうとしたその時。
「ううっ…!めぇえええっ!!」
突如赤ん坊が叫びだし体から不思議な光が勢いよく放出された。その光はハルトに命中し彼の体を包み込む。
「っ!?」
ハルトの体に異変が訪れた。先ほどまで黒いエネルギーを無尽蔵に生み出せるほど膨大な力を感じていた。しかしそれを生み出す力が無理やり押さえつけられているような感覚に陥り、エネルギーの供給が止まってしまったのだ。同時に彼の上空を漂っていた漆黒の球体も消失する。
「えっ!?一体何が?」
予想外の出来事に困惑するハルト。一方攻撃が不発に終わったことでランボーグは再び起き上がり、臨戦態勢に入る。
「な、なんだよくわかんねーけど今のうちなのねん!ランボーグ!」
カバトンはランボーグに命令を出し、再び攻撃を始めた。ハルトはランボーグに向かって手をかざすが、エネルギーは全く生み出せない。
「くそっ!」
目の前に迫るランボーグの拳。止む無く両腕でガードするが塞ぎきれずに殴り飛ばされてしまう。地面に転がったハルトは姿勢を起こし、地を蹴ってランボーグに飛びかかった。
お返しと言わんばかりにランボーグの顔面を殴るがまるで効いておらず、逆に殴り返され吹き飛ばされる。
「がはっ!?」
建物の壁に叩きつけられたハルトは呻き声を上げた。
エネルギーを生成する力を失ったのみならずパワーも弱体化したらしい。
「ぎゃーっははははは!さっきまでの威勢はどうしたのねん?」
形勢が逆転したことでカバトンは再びハルトに対して強気な態度を見せ始めた。
めり込んだ壁から落ちて地に落ちるハルト。その体から弱々しい光が放たれた。そしてー。
「うそ…だろ…?戻った…!?」
ハルトの体が元の姿に戻った。髪や目の色、服装も変身前の姿になっている。
「なんで…こんな時に!」
「おやおや、もうエネルギー切れみたいなのねん」
カバトンがにやつきながらハルトを見下ろす。
「ぎゃーっははははは!一時はなんてやべーやつっと思ったらとんだ勘違いだったらしいのねん!YOEEEEEEE!やっぱり脇役はTUEE俺様にひざまずくのがお似合いなのねん!」
ゲラゲラと笑うカバトン。ハルトは言い返す気力もなくふらふらと体を起こす。体の怪我は変身したおかげでかすり傷程度で済んでいる。しかし体力を大幅に消耗したらしく体に力が入らない。
「さあランボーグ!とどめを刺してやるのねん!」
ランボーグがハルトにゆっくり歩み寄り始めた。弱った獲物にとどめを刺しに行くようにじわじわと近づいてくる。ハルトはどうにか距離を取ろうとするが体が思うように動かない。
(なんでいつも俺は、肝心な時に役に立たないんだ…!)
窮地に陥り、自らの無力を呪うハルト。とうとうハルトの目の前にやって来たランボーグはその巨大な拳を振り上げた。
「くっ…ハルトさん!!」
その光景を見たソラは立ち上がり、ハルトの元へ走り出した。
「ソラちゃん!?」
そしてハルトに向かって拳が振り下ろされようとした瞬間、ソラは全力で地を蹴り飛び上がった。そのままハルトの体を庇うように抱き着く。
ドゴォッ!と鈍い音が地面を砕いた。その際に生じた衝撃波で二人の体は吹き飛ばされ、地面を転がる。
「いっつぅ…え?ソラ…!?」
「ハルトさん、大丈夫ですか…?」
「俺は大丈夫、でも、ソラは…?」
「このくらい、ハルトさんに比べたら…うぐぅっ!」
ソラは苦痛に顔をゆがめる。自分も深刻なダメージを追っているのに無茶して走ってきたらしい。全身の痛みに耐えきれず再び膝をついた。
また無茶をさせてしまった。自分の無力さを再び痛感するハルト。
「ソラ、ごめん…」
「ハルトさん…?」
「ソラもましろも赤ちゃんも、皆守りたかったのに、肝心なところで役に立てなくて…!それどころかソラにまたこんな無茶な事させて…!」
己の不甲斐なさに唇を噛むハルト。その目からボロボロと大粒の涙が流れていた。
「本当にごめん!結局俺は昔と変わらない…役立たずのー」
それ以上言葉は続かなかった。ハルトの言葉を塞ぐようにソラが彼を抱きしめたのだ。
優しい眼差しでハルトを見つめ、そっと頭を撫で始める。
「大丈夫、私はちゃんと見てましたよ。どんなに傷を負っても、どんなに相手が強くても、大切な人を守るために勇気を振り絞って立ち向かう、貴方の勇敢な姿を…」
ソラは自分たちを守ろうとしたハルトの後ろ姿が、昔自分を救ってくれた恩人の姿と重なって見えた。
「貴方のおかげで、私は今こうしてここに居ます。だから…」
ソラは立ち上がり、カバトンとランボーグの方を向く。
「今度は私が、貴方を守ります!」
そう告げるソラの瞳には強い意志が宿っていた。
「ああん?そんなめそめそ泣いてる弱虫野郎を庇うなんて、ほんとヒーロー気取りはかっこつけでやんなっちゃうのねん!」
「ハルトさんは弱虫なんかじゃありません!」
ソラはカバトンに向かって叫ぶ。
「出会って間もないですが、私は彼の強さを目にしました!」
ハルトは自分と一緒に戦ってくれた。大切な人を守るために勇気を振り絞って。
ハルトは怒ってくれた。ソラの夢を嘲笑ったカバトンを、まるで自分の事のように。
途中に見せたあの不思議な力が何なのかはわからない。
それでも彼は、最後まで自分たちを守ってくれた。
大切な人を守るために戦うハルトの姿は、ソラにとってのヒーローそのものだった。
「相手がどんなに強くても、正しいことを最後までやり抜く。それが…」
――ヒーロー!!
そう叫んだ瞬間、ソラの胸から青い光が発せられた。その輝きから不思議な羽ペンのようなものが生み出される。その光景を見ていた赤ん坊が大きく息を吸い込みこう叫んだ。
「ぷぃきゅぅああああっ!!」
赤ん坊がそう叫ぶと光のエネルギーがソラに向かって放たれた。それをソラが受け止めると小さなアクセサリーのようなものに変わる。
「あのアクセサリーは…!?」
ハルトの持っているものとそっくりだ。彼女のものは全体が水色で中央にピンク色の太陽の形に象られた紋章が付いている。
右手にペンを、左手にアクセサリーを握りしめたソラは力強く叫ぶ。
「ヒーローの出番です!!」
その瞬間、彼女の体が眩い光に包まれる。
「スカイミラージュ!トーンコネクト!」
マイクのように変形したペンに、水色のアクセサリーをはめ込んだ。
「ひるがるチェンジ!スカイ!」
その言葉と共にマイク部分にSKYと表示され、宇宙空間のようなエフェクトに包まれるステージにソラは舞い降りた。髪の色は澄み切った空のような水色に変わり、前髪のメッシュと髪先がピンク色に染まる。元気よく飛び跳ねた足には水色のブーツが装着されていた。
「きらめきホップ!」
その言葉と共に舞台が輝きを増し、ソラの頭に髪飾り、耳にアクセサリーが装着される。
「さわやかステップ!」
今度は青と白を強調したワンピースドレスを身にまとい、足に白いハイソックスが履かれる。
「はればれジャンプ!」
両腕にフィンガーグローブが嵌められ左肩に青いマントが装着された。
全ての衣装を身にまとったソラは、最後に自分の名を高らかに告げた。
「無限に広がる青い空!キュアスカイ!」
決めポーズが決まり、変身を終えたソラは地上に降り立った。
(ああ、やっぱりだ…)
ソラの変身を間近で見ていたハルトは確信する。
(君が俺を救ってくれたヒーローだったんだな、ソラ…いや、キュアスカイ!)
ハルトはキュアスカイの後ろ姿を見上げながら、彼女が夢のヒーローであると再認識した。
「わ、私…どうしちゃったんですか!?」
「は、ハルくんに続いて、ソラちゃんまで変身しちゃった!?」
「きゃぁい~♪」
自分が変身した姿に驚くソラ。びっくりするましろと、はしゃぐ赤ちゃん。
一方ソラが変身する姿を見て呆然としていたカバトンは正気を取り戻し、ランボーグに命令する。
「あ、あいつをやっつけろランボーグ!」
「ランボォオオグゥウウウ!!!」
命令を受けたランボーグはキュアスカイとハルト目掛けて拳を振るう。
キュアスカイはハルトを抱えると即座にジャンプし攻撃を回避した。
ランボーグの拳が二人がいた場所を砕く。しかし二人は既に遥か上空へと飛び上がっていた。
「ひやぁああああっ!高い高い高いっ!?」
「こ、この力はっ!?」
自分のジャンプ力に驚くキュアスカイ。先ほど変身したハルトのように身体能力が強化されていた。キュアスカイはびっくりするハルトを抱えたまま、ビルに向けて急降下する。
「うぎゃあああ!今度はスカイダイビングぅううう!?」
「ハルトさん!しっかり捕まって!」
そのままキュアスカイはビルの屋上に着地した。絶叫マシーン顔負けのスリルにハルトは口から魂が抜けかける。キュアスカイはハルトを地面におろすと拳を握り締め、自分を追ってビルまで飛び上がってきたランボーグに向き直った。
「ハルトさん、私の後ろに下がってください」
「は、はいっ!」
キュアスカイは握りしめた拳をランボーグに向けて突き出した。
「おいでなさい!」
「ランボォオオオオ…グゥウウウウッ!!」
キュアスカイの挑発を受けて、ランボーグが彼女に巨大な拳を振り下ろす。
彼女はそれを片手で難なく受け止めた。その腕は激しい衝撃にもびくともしていない。
「すげぇ…」
さっき変身した自分も似たようなことをやっていたのだが、そのことをすっかり忘れているハルトはキュアスカイのパワーに驚嘆する。続けて左手のパンチも繰り出してくるランボーグだが、キュアスカイは身をひるがえし右手を前に突き出した。
「はあっ!!!」
キュアスカイの右掌が再びランボーグの攻撃を塞ぎ、そこから発生した衝撃波が逆に怪物を弾き飛ばした。パワー負けしたランボーグはビルから垂直落下し、その下にいたカバトンは怪物が落ちた衝撃で吹き飛ばされた。
「うぎぃっ!?つ、TUEE…」
キュアスカイのパワーに驚愕するカバトン。
そして倒れたランボーグ目掛けてビルの壁を走り下りるキュアスカイは、怪物にとどめを刺すべく必殺技の構えをとる。
「ヒーローガール!スカイパァーンチ!!」
分厚い雲を吹っ飛ばし、晴れ渡った青空をバックに、青い拳のオーラを纏ったキュアスカイが流星のごとくスピードでランボーグ目掛けて突進した。
強烈な拳がランボーグの体にヒットし、攻撃を受けた怪物は神秘的な白い光を放散する。
「スミキッタァー…」
そう呟きながらランボーグは浄化され、元のショベルカーに戻った。破壊された建物やアスファルトも元通りになる。唖然とするカバトンにキュアスカイが振り向いた。
「ひぃっ!?か、カバトントン!」
勝ち目がないと悟ったカバトンは謎の呪文を唱え、黒い煙を放出しながら姿を消した。
そしてキュアスカイの体は光に包まれて元のソラの姿に戻った。
ハルトの時と同様、変身する前にできた傷もすっかり元通りに治っている。
「これは一体…!?」
ソラはマイクから戻った羽ペン「ミラージュペン」と、先ほど変身に使用したアクセサリー「スカイトーン」をまじまじと見つめる。そして驚いた表情で自分を見つめるましろのもとに駆け寄った。
「怪我はありませんか?」
「え?あ、あなたこそ…」
じっと自分を見つめるソラに、ましろは目をぱちくりさせる。
この短時間に色々なことが起こり、様々な疑問が頭の中で渦巻いている。
「ねぇソラちゃん…あなたはヒーローなの?」
思わず問いかけたましろに、ソラはしばし悩んだ後、こう答えた。
「うーん…私にもわかりません」
その答えにましろは苦笑いを浮かべる。
「いいや、ソラはヒーローだよ」
だがハルトは確信していた。一度目は夢で。二度目は現実で。窮地に立たされた自分をソラは二度も救ってくれた。
きっと、いや間違いなく、ソラはハルトにとってのヒーローだ。
「俺を救ってくれた、夢のヒーロー…」
澄み渡るような青空を見ながらハルトはそう呟いた。
アクセサリーも元に戻り、太陽の輝きを受けキラキラ輝いていた。
「ところで、俺ここからどうやって降りればいいの?」
一人ビルの屋上に置いてきぼりにされたハルトは、彼の行方をましろに尋ねられ慌てふためくソラの人影を遥か下に見下ろしながらポツリと呟いた。