ひろがるスカイ!プリキュア~ SUNLIGHT×STORY ~ 作:零たん
翌日の朝、ソラは虹ヶ丘家の食卓でヨヨに用意してもらった朝食を満喫していた。
「うんま~♪何ですかぁ~この魚~~~!?臭みがなくて、歯ごたえプリプリっ!甘味が口の中にぶわぁ~って広がって、目の前に大海原が広がるようですっ!!」
「グルメレポーターかな…?」
鮭の塩焼きのあまりの美味しさに全身を使って感動を表現するソラ。昨日はすっかり寝付いてしまい夕食を食べ損ねたのもあるのだろう。ソラは大喜びでご飯を口に運んでいく。ちなみに彼女は今ましろが用意したジャージに着替えている。
「こくこく…ぷはー♪」
一方赤ちゃんもましろにミルクを飲ませてもらっていた。彼女もお腹がすいていたのか一気に飲み干してしまった。お腹が膨れてご機嫌な様子でニコニコ笑顔を浮かべている。
「いっぱい飲むね!粉ミルク買い足したほうがいいかな?」
ましろは赤ん坊の背中をトントンと優しく叩いてげっぷをさせる。けぷっと可愛らしいげっぷをする赤ちゃん。上手くできたようでましろはほっとした。
「どんどん食べてね」
ヨヨはおいしそうに食事をとるソラをにっこり微笑みながら眺めている。
「はい!…ところでハルトさんの姿が見当たりませんが今どちらに?」
「実はハルくんまだ寝てるんだ。起こしたんだけど全然目を覚ましてくれなくて」
ましろが苦笑しながら答える。昨日は夕食ができた頃にちゃんとハルトを起こしに行ったのだが、何度呼び掛けても目を覚ましてくれないのでそっとしておくことにした。それから時計の針が一周し、もう朝の7時を過ぎるのに彼は全く目を覚まさないのだ。
「ではハルトさんは今もお部屋に?」
「うん、クークー寝てるよ」
「いけません!朝はしっかり起きなくては!私が起こしてきます!」
そう言うとソラは食事を急いでかき込む (途中梅干しの酸っぱさに顔をしかめてしまったが) と、ハルトを起こしに行くためにドカドカと二階へ上がっていった。
「ま、待ってソラちゃん!私も行くよ」
ましろも慌ててソラの後を追いかける。
「ハルトさん!おはようございます!」
ソラはドアを思い切り開けてハルトの部屋に入室する。部屋の主はベットの上で布団にくるまり気持ちよさそうに寝ていた。
「ハルトさん!起きてください!もう朝ですよ!」
ソラはハルトの身体を揺らしたり頬をぺちぺち叩いて起こそうとする。だがハルトは全く目覚めない。
「むぅ、全然目を覚ましません。これは強敵ですね」
「大丈夫だよソラちゃん。まだ春休みだし、もう少し寝かせておいてあげても大丈夫だから」
ハルトの寝坊癖に慣れているましろはやんわりとソラに言う。昨日のカバトンとの戦いで疲れが溜まっているのもあるだろうし、無理に起こすこともないと思っていた。それでなくても休日は昼頃まで寝ていることもザラなのだから。しかしソラは納得できない様子だ。
「そうはいきません。朝ごはんも食べずに寝過ごすなど、ご飯を作ってくれたヨヨさんにも失礼です!」
「いいよいいよ、温め直すから」
「こうなったら仕方がありません…奥の手を使います!」
「奥の手!?奥の手ってなんなの!?」
そうツッコむましろの前で、ソラはハルトに跨ると何やら不思議な構えを取り始めた。
「は!?これは、スカイランド神拳…!」
「おばあちゃん!?いつの間に!?」
知らぬ間にハルトの部屋の入口に立っていたヨヨにびっくりするましろ。
「これはスカイランドに古くから伝わる拳法よ。鍛えられたその拳は岩を容易く砕くという…」
「それ人に使っちゃダメなやつだよね!?待ってソラちゃん!いくらハルくんが寝坊助だからって、そんなパワーで殴ったら死んじゃうよ!?」
必死でソラを止めようとするましろ。ソラは昨日の戦いで自分より大きな怪物を殴り倒したのだ。その拳を人に向けて振るえば、起きるどころか永眠してしまうだろう。
「大丈夫です、威力は対人用に抑えます」
「いや抑えるにしても暴力で無理やり起こすのは…」
「寝坊助のハルトさんも、この一撃で目を覚ますはずです!!」
「まってソラちゃん!人の話を聞いて!?」
ソラはましろの制止も聞かず、構えた拳をハルトめがけて振り下ろした。
一方ハルトは夢を見ていた。今回は親父の夢でも闇に包まれた世界の夢でもない。
花びらが舞う桜の木の下で、ハルトは一人の少女と向かい合っていた。青い髪をサイドテールに纏め、自分と同じソラシド中学校の制服を着ている。それはソラによく似た女の子だった。
「ハルトさん…」
少女は髪の色と同じ青い瞳でハルトを見つめながら恥ずかしそうに頬を染める。
「これ、受け取ってください」
少女は可愛いハートのシールなどでデコレーションされた手紙をハルトに差し出す。明らかにラブレターだ。それをハルトは照れながら受け取り、頬をかく。
「開けてもいい…?」
そう尋ねると少女はさらに頬を染めながらこくりとうなずく。ハルトの心は躍った。まさか自分がラブレターを受け取る日が来るとは。しかも目の前の女の子はとびっきりの美少女。まだちゃんと告白されたわけではないが、照れくさそうに視線を逸らす少女の反応と、直接呼び出して手紙を渡すシチュエーション的にも告白でほぼ確定だろう。手紙の文面も自分への想いがこれでもかと綴られているに違いない。
ハルトは逸る気持ちを抑えつつハートのシールを剥がして中を確認してみる。
そこには少女に似つかわしくない文面で、でかでかとこう書かれていた。
『 ハルト スカイランド神拳 』
「…なんじゃこりゃ?」
その直後、ハルトの鳩尾に激痛が走る。目の前の少女がハルトに正拳突きを繰り出したのだ。そしてその痛みは現実のハルトにもリンクする。
「げぼぁああっ!?」
ソラの正拳突きをもろに食らったハルトの悲鳴が虹ヶ丘家に響き渡った。
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「いやぁ、今日の朝食はいつもより塩気が多い気がしたな~。お腹痛くて目から汗が止まらないし、もしかしてそれが調味料になったのかな~?」
「いいから涙拭きなよハルくん」
ましろに渡されたハンカチで顔を拭うハルト。ソラに殴られたお腹をさすりながら、しょっぱい朝食に思いをはせていた。
「ハルトさん、いくらお休みだからといってもお寝坊さんは感心しません!食事は栄養を取るだけでなく、家族と囲んで食べることでコミュニケーションも図れる大事な時間でもあるんですから。これからはちゃんと起きれるようにならないと、めっ!ですよ?」
まるで小さな子供に言い聞かせるようにハルトを諭すソラ。
「はい、ソラさんのおっしゃる通りです。僕これからはちゃんと朝起きれるように頑張ります」
ハルトは素直に頭を下げた。しばらくソラと一つ屋根の下で暮らす以上、ちゃんと朝起きれるようにならねば、またあのスカイランド神拳なる技で痛みと共に目覚める羽目になるだろう
(そうなったら体がいくつあっても足りないから、マジでちゃんと起きれるようにならないとな…。ていうかソラにまで弟扱いされてるような気がする…?)
今は遠くに行った元祖姉、お姉ちゃんを名乗る幼馴染に続いて三人目の姉が出現したような気がして、少し憂鬱な気分に陥るハルトだった。
「それで、今日も買い物に行くんだっけ?」
「うん!昨日頼まれたお使いと、ソラちゃんの服を買おうと思って!」
朝食を食べた後、ましろはカバンを肩にかけながら出かける準備をしていた。ヨヨのお使いは昨日の騒動が原因で中断せざる負えなかったのだ。
「お使い…そういや干したカエルとか頼まれてたっけ?ヨヨさん、これ何に使うんです?」
「んふふ♪」
んふふって何だよ誤魔化さないで教えてくれよおばあちゃん。なんて言葉は口が裂けても言えないのでハルトは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「お買い物の間は、この子の面倒は私が見ておくわ」
ヨヨは赤ちゃんを抱きかかえる。
するとソラは少し心配そうな表情を浮かべた。
「え?でも…」
「大丈夫だよ。俺もここに来た頃、ヨヨさんにしょっちゅう面倒見てもらってたそうだし、赤ちゃんのお世話は慣れてるよ」
「ええ、だからあなたも安心してハルトさんたちと出かけてらっしゃい」
ヨヨは赤ちゃんを抱きながらニッコリと笑顔を浮かべる。
「わかりました!いい子にお留守番しててくださいね、エルちゃん」
「えるぅ~♪」
ソラに『エル』と呼ばれた赤ちゃんは「行ってらっしゃい!」と言わんばかりにソラに笑いかけた。
「エルちゃんって…もしかしてこの子の名前?」
「はい、本当の名前がまだわからないので」
「勝手に名前をつけていいのか…?でもずっと赤ちゃんって呼ぶのもなんだし、まあいいか」
そんなわけで名も知らぬ赤ちゃんは、ソラたちによって『エル』と呼ばれるようになった。
支度のできた三人は、ヨヨとエルに見送られながら買い物に向かうのであった。
「昨日襲ってきたあの怪人…えっと、ザブトンだっけ?カツドンだっけ?」
「大体そんな名前だったと思います!」
「プルトンだよ。よくないぞ二人とも、いくらあいつが悪者だからって名前間違えたら」
「ハルくんだって間違えてると思うよ!?だってそれ海賊漫画の古代兵器の名前に似てるもん!」
ハルトにツッコミを入れるましろだが、すぐに神妙な面持ちになる。
「あの怪人、まだその辺にいたりするのかな?ばったり出くわしたらどうしよう…」
「きっとそのうち襲ってくるだろうな。エルの不思議な力を狙って…」
ハルトは昨日、エルと出会ってからの出来事を思い返す。
宙に浮いたり、黒い姿になったハルトの力を封じ込め、ソラをプリキュアにするためにスカイトーンまで生み出した。そんな超能力だか魔法みたいな力を何故赤ん坊のエルが持っているのかはわからないが、その力欲しさに今後もカバトンのような悪者が襲ってくる可能性は十分考えられる。
「いざという時はまた戦いになるかもな…」
ハルトは首にぶら下げたアクセサリーを見つめる。
エルもそうだが、このペンダントも摩訶不思議な物体だ。
ソラたちの来訪を知らせるように明るく輝いたと思えば、ランボーグの出現とともに黒く染まり、ハルトがピンチの時には夢で見た黒い姿に変身させて見せた。エルと似たような不思議な力を秘めたアクセサリー。これを狙う刺客が現れないとも限らない。
「そうなったら、俺も昨日みたいに変身して…」
だがハルトはあの姿にはなりたくなかった。あの黒い姿は強大な力を持っているが、同時によくないものだとハルトは直感していた。
ハルトは黒い姿になって力を振るっていた時、まるで心の中からどす黒い何かが湧き出るような感覚を感じていた。エルが止めてくれなければ本当に暴走していたかもしれない。それにあの黒い姿はエルの放った謎の光でパワーダウンしてしまい、仮に変身できても戦力になるかはわからない。実際力を止められた後はランボーグにかなわず負けてしまったのだから。
「それならいっそ、プリキュアになれたらいいのにな…」
「え、プリキュアに!?」
隣を歩いていたましろがハルトの呟きに反応する。
「プリキュアって、ハルくんが昨日変身したあの黒い衣装の?」
「あんな禍々しいやつじゃなくて、例えば…そう、キュアスカイみたいな明るいヒーローっぽいやつ!俺のこのアクセサリーもエルみたいな不思議な力を持ってるし、ソラのスカイトーンにも似てるから、もしかしたらプリキュアになれるかもと思って」
ハルトのアクセサリーはソラのスカイトーンと同様、持ち主を変身させる力を持っている。ソラの場合はミラージュペンとの組み合わせで変身するのだが。
エルが生み出したソラのアクセサリーと違ってハルトの物は出自が不明だが、何かしら関連はあると思う。だからこのペンダントにも、キュアスカイのようなプリキュアにする力もあるかもしれないと考えていた。
「もし俺がプリキュアになれたらカバトンから二人を守れるしさ!ソラの負担も減らせるし、いいアイデアだと思わない?もし実現出来たら『ふたりはプリキュア』でデビューしてみるのもありだな!」
「まだなれるかどうかも分からないのに妄想膨らませるのはやめようよ。あとそのタイトルも恐れ多い気がするからやめとこ?」
はしゃぐハルトにましろは困ったような表情を浮かべながら嗜める。しかしハルトは本気のようだ。
「じゃあ家に帰ってから、エルにプリキュアにしてくれーって頼んでみる!嫌がったり泣くようなら、俺の一発ギャグで笑わせて…」
「もうあの顔芸はやめようよ!恥ずかしいよハルくん!今年で14にもなるのにあんな変な顔するのは!?」
ましろは必死に訴えるが、プリキュアになりたくて半ば暴走気味のハルトには伝わらないようだ。そんなハルトに隣を歩いていたソラがこう言葉をかけた。
「ハルトさんはプリキュアにならなくても大丈夫です!」
「え、なんで?」
「だって、私が二人を守りますから!」
ソラはハルトにそう伝えると、右手で拳を握り気合を入れて見せる。
「いやでも刺客がカバトンだけとは限らないし。今後ランボーグみたいな怪物が何体も出てくるようなら、俺もプリキュアになって一緒に戦った方が…」
「私が追い払って見せます!ハルトさんたちには指一本触れさせません!」
ソラはハルトの言葉を遮りながら堂々とした態度で宣言する。力強い表情だが、少し無理をしているようにも見えた。
「友達を危険な目に遭わせるわけにはいきません…だから私にまかせてー」
ソラが喋っている最中、突如スマホの呼び鈴が響く。前方を歩いている男性のものらしい。ソラはその音を聞いてビクっとなったが、すぐに構えて二人を守ろうとする。
「ハルトさん、ましろさん、私の後ろに!いつどこから刺客が襲ってきてもおかしくありません!」
「任せちゃって大丈夫かな…?」
「心配だなぁ。やはり俺もプリキュアになった方がいいな」
「だ、大丈夫です!確かに少し取り乱してしまいましたが…ヒーローはどこであろうと冷静沈着でなければなりません!この世界の機械に驚くのはこれで最後です!」
それを聞いたハルトはおもむろにスマホを取り出すと、フンスと気合を入れるソラの近くでキュアチューブの動画を再生させた。
『ブンブンハローキュアチューブ、どうもプリキンです!』
「うひゃー!?いっ板の中に人が入って喋ってる!?」
飛び上がって驚くソラの反応が面白くて、ハルトは思わず噴き出す。
「あはははっ!こんなことで驚いてたらヒーローなんか務まらないぞ?」
「ハルく~ん?ちょっと悪ふざけが過ぎるんじゃないかな?これ以上ソラちゃんをからかったら…お説教だよ?」
「ひっ!?す、すみませんでした!もう二度とやりません…!」
笑みを浮かべながらも目元が暗く体から黒いオーラを発してるましろにハルトは即座に謝罪した。ましろは優しいがその分怒らせると怖いのだ。
その後は特に何も起きることなく目的地のショッピングモールへ到着した。
が、やはり目に映るものすべてが未知なる異世界の物であるためソラは驚きまくる。エスカレーターを動く階段だとはしゃいだり、案内用ロボットを敵の刺客だと勘違いしたり、そのたびに漫才めいたやりとりをするのだった。そして三人は目的の服屋さんの前にたどり着いた。
「じゃあソラちゃんの服を選びにいこっか!」
店の中に入ろうとするましろをハルトが呼び止める。
「ましろ、ごめん。俺だけちょっと別行動取っていい?」
「え?どうして?」
「服選びは時間がかかるだろ?その間ヨヨさんに頼まれてるお使いを済ませようと思ってさ」
「いいけど見つけにくい商品ばっかりだよ?それに服選びだって、男の子の意見も参考にしたいし…」
「俺のセンスなんて知れてるよ。だいたい俺が服買う時だってましろはいっつも『そんなのダメ!ハルくんにもっと似合う服あるから!』とか言って俺の意見は参考にすらしてくれないじゃん」
ハルトの衣服は主にましろが選んでいる。ましろは非常にこだわるタイプで、ハルトによく合うコーディネートを選ぶのに大層時間がかかるのだ。衣服にそんなにこだわりのないハルトは、その間ましろに着せ替え人形みたいに服を取っかえ引っ変え着替えさせられるので疲れてしまうのだ。
「だからソラの服選びはましろに任せる。その間俺はお使いを済ませる。効率的だろ?」
「うーん…わかった。じゃあ1時間後に1階のロビーで集合だよ」
「一時間で済むかねぇ…。でもOK、じゃあまた後でな」
ハルトはましろからメモを受け取ると、二人と別れて店を離れる。
「ふぅ…さてローズオイルにシナモンスティックは…てか干したカエルなんてぜってー売ってる店ねえよ。通販で調べた方が確実なんじゃないの?…ん?」
ふとハルトの視界に女の子向けの小物を扱ったお店が映り、自然とそちらへ足を向ける。
プリティ・ホリック、昨日ましろとお使いに向かう前に立ち寄ったお店である。
「へー、あの店このソラシドモールでもやってたんだ…あっ」
ハルトはショーウィンドーに置かれたある商品に注目する。
リボンや天使の羽の模様がついている可愛いデザインの手帳が置いてあった。
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「ふふっ!似合ってますか?」
「似合ってる!」
「ほんとですか!?」
「うん、ソラによく合ってて可愛いと思うよ」
予定通り合流したハルトは、ましろが選んだソラの服装を見る。白と水色のツートンカラーの長袖シャツと青いスカートを着用している。ソラの髪色とマッチしていて、とっても可愛らしい。
「~♪」
ソラはよほど嬉しいのかその場でくるくる回って見せる。今三人はハンバーガーショップ前のベンチで休憩していた。今着ている服以外もたくさん買ったようで紙袋がどっさり置いてある。
ハルトの方のお使いは、結局どれも見つけることができなかったので、休憩の後3人で探しに行く予定だ。
「ごめんな、結局見つからなくて」
「大丈夫だよ、今度は私も一緒に探すから。ところでハルくん、その袋は?」
ましろはハルトが大事そうに持っている紙袋を指さす。
「ああ、これは俺が欲しくて買ったやつ。大丈夫、ちゃんとお小遣いで支払ったから」
「いったい何を買ったの?えーと、ぷりてぃ…」
「わーわー!離れろましろ!セクハラで訴えるぞ!?」
「お店の名前読もうとしただけでセクハラ呼ばわりはひどいと思うな!?」
いつもの漫才のようなやり取りをしながらも、ハルトは紙袋をましろやソラから見えないように持ち直す。
「そ、そうえばさ!ソラに聞きたいことがあるんだけど!?」
「ほえ?わ、私にですか?」
急に話を振られてびっくりするソラ。
「そうそう。ソラは小さいころからヒーローになりたかったって言ってただろ?」
ハルトはましろに服を選んでもらっていたソラの言葉を思い出す。幼い頃からヒーローになることばかり考えて、服の事やそれ以外のことに気が回らなかったと語っていた。
「なんでそこまでしてヒーローになりたいのかなーって」
聞かれたソラは昔を思い出すように目を瞑る。そして青空を見上げて語りだした。
「本物のヒーローを見てしまったからでしょうか…」
ソラは小さい頃、入ってはいけないという禁断の森へ一人足を踏み込み、そこに生息する怪植物に襲われそうになったらしい。恐怖で泣き叫んでいたところ、とある人物が駆け付けソラの窮地を救ったのだ。
それ以来ソラはその憧れの人のようなヒーローになるために日々鍛錬をに励んでいた。そして理想とするヒーロー像を模索しながら『わたしのヒーロー手帳』にヒーローの心得を書き連ねてきたのだという。
「その手帳、そんなに大事なものだったんだ…」
その手帳は昨日カバトンに破り捨てられてしまった。ソラがずっと書き連ねてきた手帳はヒーローへの思いが詰まった大事な物のはずだ。ソラも暗い表情を浮かべている。
「あ~、その手帳のことだけどさ…」
「?どうしたんですかハルトさん」
「いや、その…実はな?えーっと…ほんと大したことじゃないんだけどさ…?」
「ハルくんどうしたの?なんか変だよ?」
普段と明らかに様子が違うハルトにましろが問いかける。彼は歯切れの悪いことをブツブツつぶやきながら紙袋をごそごそと弄っている。幼馴染の異変の原因はさっき買ってきたその商品らしい。
「…よしっ!」
意を決したように立ち上がり、二人に向き直るハルト。
「実は俺ーっ!」
「助けてくれぇええええーっ!!」
ハルトの声を遮るように男性の悲鳴が町に響き渡った。
「おぃいいっ!なんだ!?人がせっかく勇気を振り絞って言おうとしたのに…って!?」
声の方を向くと、そこには左腕に大量のハンバーガーを抱えたモヒカンヘアーのブタ怪人が立っていた。昨日戦ったエルを狙う怪人、カバトンである。カバトンはバーガーショップから奪ったハンバーガーをがつがつと口に押し込んであっという間に食べてしまった。
「うんめぇえええっ!パワーがみなぎってくるのねん♪これだけ食べれば!…ん?お、お前らっ!!」
カバトンはハルト達三人に気付き指をさしながら睨みつけてくる。
「あ、あなたはザブトン!?」
「ザブトンじゃないのねん!」
「では、オフトンですか?」
「それも違うのねん!!」
「失礼なこと言っちゃダメだ、養豚やったね?」
「全部違うのねん!ていうかお前が一番失礼な気がするのねん!!字面的にも確信犯なのねん!!」
カバトンはビキビキと青筋を立てて激昂する。
「性懲りもなくまた悪いことをして…許しませんよ!カバトン!」
「違う違う、コイツの名前はカツドンだって」
「いや合ってるのねん!お前やっぱりわざとやってるのねん!っえーい!あのガキンチョはどこだ!?」
カバトンの言うガキンチョとはエルの事だろう。幸い彼女は今虹ヶ丘家でヨヨと一緒にいるのでこの場にはいない。
「あの子はもう故郷に帰ったよ。お前もいつまでも迷惑系キュアチューバ―みたいなマネしてないで、スーパーのアルバイトからやり直しな」
「ぜってー嘘なのねん!てかお前こそすーっぐそうやって人をおちょくる性根の悪い性格を直すのねん!!」
また昨日のような漫才劇が繰り広げられようとした時、ソラがハルトに後ろへ下がるように指示を出す。
「ハルトさん、下がってください。今回は助太刀は入りません」
「ソラ?」
「貴方の相手は私です!エルちゃんも、この二人にも指一本触れさせません!」
カバトンに向かって叫ぶソラ。そんな彼女をカバトンは二ヤリと笑みを浮かべて見ている。
「相変わらず威勢だけはいいのねん、ソラ…。だが昨日のようにはいかないのねん!」
カバトンは地面に手を置くとアンダーグエナジーを呼び出した。
直後、ハルトのペンダントが黒い光を放ち始めた。
「まただ!このアクセサリー、あいつのアンダーグエナジーってのに反応しているのか!?」
一方、カバトンが生み出したアンダーグエナジーは、近くの自動販売機…をすり抜け背後にある
「腹いっぱいで絶好調の俺様が作ったTUEEEランボーグで、お前を叩き潰してやるのねん!」
地響きを上げながら出現したハンバーガーショップ型のランボーグを背に、カバトンはソラに指を突き立てる。背後のランボーグも、ハンバーガーの形をした看板からのぞかせる二つの黄色い目玉を光らせながら、ハルト達を見下ろしていた。