ひろがるスカイ!プリキュア~ SUNLIGHT×STORY ~ 作:零たん
カバトンが生み出したバーガーショップ・ランボーグは周辺の店を見下ろせるほどの巨体を誇っていた。ハンバーガーの包み紙を模したような巨大な両手を上げながら「ランボーグゥ~!」と叫び周囲にいる人たちを威嚇している。
「あの怪物!昨日のよりも強そうだよ!」
「ああ、強そうだ。それに…」
あのランボーグから感じる嫌な気配が昨日の奴よりも強い。これは父親のアクセサリーを身に付けているハルトにだけ感じることである。
そういえばランボーグの素体になったお店に取り込まれたアンダーグエナジーの量が異様に多かった気がする。もしランボーグの強さが注がれたアンダーグエナジーの量に比例するなら、今回の敵は見た目以上の強敵かもしれない。
「ランボォーグゥー!!」
腹部のドアらしきものが開くと、突然ドリンクを模したロケットをハルトたち目掛けて撃ち込んできた。
「伏せて!!」
即座に回避行動をとり、ランボーグの攻撃をかわす。ロケットは背後で爆発し、周囲がジュースのような液体で水浸しになる。
「おい汚ねえな!ポイ捨てはよくないぞ!」
「ハルくんそんなこと言ってないで、こっちへ!」
ソラに手を引かれながら逃げるましろの後ろを、ハルトも走って追いかける。
ランボーグは今度は肩からポテトを模したミサイルをハルト達に向かって発射し始めた。ポテト型ミサイルは建物の壁や地面に突き刺さった後に爆破し、周囲に煙が広がっていく。
ランボーグの巨体といい、豊富な飛び道具で周囲を攻撃する様は、動く要塞のように見えた。
「さすが絶好調の俺様が作ったランボーグ!俺TUEEE~!そしておめえらはYOEEE~」
カバトンが建物の上からハルト達を嘲笑う。だがそんなことを気にする余裕はない。ランボーグの攻撃はハルト達だけではなく、周辺の建物や人々達も巻き込んでいるのだから。
「やばいな…このままじゃ町が滅茶苦茶にされて、被害者も…」
「ええ、これ以上好きにはさせません。早く止めないと…!」
「ソラちゃん…?」
ふとましろは自分の手を握っているソラの手が震えているのに気づいた。
「大丈夫です…ハルトさんもましろさんも、街の人たちも守って見せます」
迷いを振り切るように。ソラはミラージュペンを取り出す。
「私は未熟です、憧れのヒーローにはまだ遠い…。でも今は…!」
―――ヒーローの出番です!
その言葉と共にソラは眩い光に包まれ変身する。
「無限に広がる青い空!キュアスカイ!」
一瞬で変身を完了させたキュアスカイが、水色のツインテールと青いマントをなびかせながら地上に降り立った。
「出たなプリキュア!やれっランボーグ!」
カバトンがそう命令すると、ランボーグは肩の前面からバーガー袋を模した弾丸をマシンガンのようにキュアスカイの方へ撃ち込んできた。
キュアスカイはハルトとましろを両腕で抱き抱えてジャンプし、弾丸の雨を避ける。
そして近くの建物の屋上へ着地し、二人を降ろした。
「二人とも、ここで待っていてください。あの怪物は私が倒します!」
「うん、気を付けてねソラちゃん」
キュアスカイは静かに頷き、ランボーグの方を向き拳を握り締める。その手が今だに震えていることにハルトは気づいた。
「ソラっ!」
ハルトは思わず大声で呼び止めた。キュアスカイの肩がビクッと跳ね上がる。
恐らく今回の敵は昨日のランボーグより強い。それはアクセサリーから感じるアンダーグエナジーの気配からも伺い知れる。キュアスカイだってこれから戦う相手に恐怖心を抱いているはずだ。
それでも彼女は立ち向かうつもりなのだろう。ヒーローとして、相手がどんなに強くても、正しいことを最後までやり抜くために。
戦う覚悟を決めた彼女の戦意を削ぐ真似はしたくない。だから色々伝えたいことをぐっと飲み込み、ただ一言、キュアスカイに告げた。
「頼んだぜ、ヒーロー…」
「…はい!」
キュアスカイはハルトに向かって力強く返事をすると、ランボーグに向かって高く飛び上がった。
いよいよ戦いが始まった。ランボーグはこちらへ飛んでくるキュアスカイに向かって先ほどの紙コップ型ロケットを撃ち込んできた。
キュアスカイはそれを拳で打ち落とし、さらにランボーグへ向かって突進する。そして敵の懐に潜り込み渾身のパンチをお見舞いするが…。
「くっ、硬い…!」
ランボーグの体は頑丈で、キュアスカイのパンチを喰らってもびくともしていない。すぐにランボーグはキュアスカイを片手で振り払おうとした。射撃攻撃と比べると腕の動きは随分遅く、キュアスカイは余裕をもって回避する。着地した後、再び高くジャンプしランボーグの頭上を舞って、敵を観察する。
(どこかに弱点は…それでなくても、何かしら脆い部分を狙えれば…)
キュアスカイは敵のウィークポイントを探ろうと試みるも、敵はその猶予を与えてくれない。ランボーグは両肩からポテトケースを模したミサイルランチャーを展開。ポテト型ミサイルを乱発して、キュアスカイを撃ち落としにかかった。
「くっ!町が!」
キュアスカイは撃ち出されるミサイルを空中で回避するが、流れ弾を受けた建物や道路が破壊されていく。幸い近隣住民は避難しているようだが、敵の攻撃範囲が非常に広く、このままでは被害が拡大する一方だ。いつ誰が巻き添えになるか分からない。
(戦いを長引かせるわけにはいきません!ならば…!)
キュアスカイはランボーグに急接近し、必殺技の構えを取る。
「ヒーローガール!スカイパァーンチ!!」
単純な物理技が効かないのなら必殺技で一気に浄化するしかない。キュアスカイは超スピードでランボーグの懐に潜り込み、青い拳のオーラを纏ったストレートパンチを叩き込んだ。
だが昨日のランボーグを葬った必殺技ですら、目の前の怪物を一瞬のけ反らせただけに終わってしまった。
「そんな…!」
キュアスカイは愕然とする。自分の技が一切通用しない。敵を浄化するための最大技すら無力化された。そのことに動揺したせいで、ランボーグの太い腕が自分を薙ぎ払おうとしているのに気づくのが遅れた。
「っ!!きゃあああっ!!」
間一髪防御は間に合ったものの、ランボーグの巨大な拳を受け止めきれず、キュアスカイの体はアスファルトに叩きつけられた。
「ソラッ!!」
「ソラちゃんっ!!」
弾き飛ばされたキュアスカイを見て、ハルトとましろは声を上げる。
「ギャーッハハハ!スカイパンチ対策ばっちりなのねん!言ったはずなのねん!昨日のようにはいかないってなぁ!」
カバトンは吹き飛ばされたキュアスカイを見てゲラゲラと笑う。
「さあランボーグ!そいつをプチっと踏みつぶしてやるのねん!」
そう命令されたランボーグは、足元の街路樹や車を踏みつぶしながらキュアスカイへ向かっていく。キュアスカイは何とか立ち上がるが、先ほどの攻撃で受けたダメージが大きいらしく、足元がふらついている。
「まずい!助けに行かないと!」
「助けるってどうやって!?ここ屋上だよ!?」
ハルトとましろはキュアスカイの手で建物の屋上に降ろされ、そこで戦いを見守っていた。少なく見積もっても十数メートルの高さにいる。助けに行こうにも下の階へ続く扉は施錠されているし、ましてや飛び降りることなど不可能だ。
「はぁ…はぁ…大丈夫です、二人とも…」
「ソラちゃん!?」
キュアスカイが二人を心配させまいと声をかけた。
片腕を抑え苦悶の表情を浮かべる彼女の姿が非常に痛々しい。
「心配しないでください…まだ戦えますから、二人を、私に守らせてください…!」
「守るって、そんな傷じゃ…!?」
ふとハルトは先ほどのソラの様子を思い返す。ハルトがプリキュアになるのを止めたり、自分が二人を守ると言ったり。今だって自分の力だけで戦うことにこだわっているように見える。
「まさかソラ…俺らが助けに行けないように、ここに置いてったんじゃないだろうな!?」
邪推かもしれないが、そう思わざる負えなかった。
一方なんとか体勢を整えたキュアスカイはランボーグに再び接近する。再度攻撃を仕掛けるが、一刻も早くこの怪物を倒さなければいけないという焦りから、攻撃が散漫になってきている。
無論、スカイの必殺技すら無力化した防御力を誇るランボーグに、そんな適当な攻撃が通用するわけはない。ランボーグは巨大な腕でキュアスカイを追い払って間合いを明けると、再びポテト型ミサイルを彼女目掛けて発射した。何本かは拳で打ち落とすことができたが、残りは防ぎきれずキュアスカイに炸裂。吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。
「どうしようハルくん!?このままじゃソラちゃんが!!」
「もう見てられない…助けに行こう!」
ハルトはましろの手を引いて、屋上の扉まで走り出した。扉は鍵で施錠されているが関係ない。無理やり叩き壊してでもソラの元へ行くつもりだ。
そんな二人の様子に気づいたカバトンはランボーグに命令する。
「脇役二人が何かごそごそやってるのねん…。ランボーグ!目障りだからぶっ飛ばすのねん!」
命令を受けたランボーグは、腹部にある自動ドアから特大サイズのハンバーガー弾をハルト達のいる建物目掛けて撃ち込んだ。
「っ!?ましろ!!」
「ハルくん!!」
ハルトがましろを庇うように抱き寄せる。そしてハンバーガー弾が建物に着弾する直前、キュアスカイがギリギリのところで受け止めた。
「っぐぅ…ううっ!!」
何とか踏ん張っているが、先ほどのダメージが大きすぎて、キュアスカイの体は悲鳴を上げていた。その間にランボーグが距離を詰めてきた。
「ランボォ…グゥウウ!!!」
ダメ押しと言わんばかりに巨大な拳をバーガー弾目掛けて繰り出した。ランボーグの巨大な拳に潰されたバーガー弾は大爆発を巻き起こし、キュアスカイとハルト達を吹き飛ばしてしまった。
「うぁあああっ!!」
「きゃあああっ!!」
「ギャーッハハハ!!やったのねん!さあこのまま落ちてぺちゃんこになるのねん!!」
三人の体が宙を舞う。間もなく落下し地面に叩きつけられるだろう。
その時、ハルトのペンダントが黒い光を放ち巨大なバリアーのようなものを形成して三人の体を包み込んだ。
吹き飛ばされた瓦礫類を防ぎつつ、三人はゆっくりと地面に着陸した。
「え?えっ!?わ、私たち、助かったの…!?」
「そうらしい。俺たちはまたコイツに助けられたみたいだ…」
ハルト達が地面に降り立つとアクセサリーの輝きは落ち着いた。だがトーンからは相変わらず鈍く黒い光を放ち続けている。
「くっそー!もうちょっとだったのに!アンダーグエナジーを生み出したり変身したり、そのメソメソ野郎のペンダントは一体なんなのねん!?」
「メソメソって俺のことか!?知らねえよそんなもん!こいつのことは親父に聞いてくれ!」
「親父?まあ、何しろそのペンダントにも興味があるのねん!プリンセスのついでに、そいつもいただくのねん!ランボーグ、いくのねん!」
カバトンがランボーグに命令する。しかし怪物は建物の瓦礫に埋もれてしまい身動きが取れないらしい。
「何やってるのねん!さっさと動けこのウスノロ!!」
敵がもたついている今がチャンスだ。ハルトとましろは倒れているソラの元へ向かう。彼女の変身は既に解けている。プリキュアになった影響で多少ダメージは抑えられているが、それでも全身傷だらけだ。せっかく買った衣服もところどころ破れて汚れている。
「ごめんねソラちゃん!私たちを守るために無茶させて!」
「相手が動けないうちに一旦逃げよう。立てるか、ソラ?」
ハルトはソラを起こそうと手を差し伸べるが、その手を払いのけられてしまった。
「かまいません、私はまだ動けます…」
「無茶だよ!そんな体で戦ったら、本当に…!」
「ヒーローは…傷ついて倒れても、決して諦めない!何度だって立ち上がってみせます…!」
「バカっ!!」
我慢できなくなったハルトが、ソラの顔を両手で自分の方に向けさせて一喝した。
「今はヒーローとかそんなので意地張ってる場合かよ!!死んだら意味ねえだろ!!」
ハルトは、先ほどの光景が脳裏に焼き付いて離れない。敵の攻撃でボロボロになっていくキュアスカイの姿を。その間、ただ見ていることしかできない自分の無力さを呪っていた。
「ヒーローは確かに誰かを守るために頑張るもんだろうけどな、友達が目の前でボロボロにされるのは辛いんだよ…!だから、もう無茶はしないでくれよ…!」
「そうだよソラちゃん!一人で無理して頑張らなくてもいいよ!私たち友達なんだから、頼っていいんだよ!」
ましろもソラの手を握って必死に呼びかけた。すると、ソラの固く閉ざされた瞳から一筋の涙がこぼれた。
「…嫌です」
「お前まだそんなことを…!」
「私だって、二人が傷つくのは嫌なんです…!だって、だって二人は…!」
「ソラちゃん…?」
「私が生まれて初めてできた、友達ですから!!」
ソラが涙を流しながら、悲痛な声で叫んだ。
「私、ヒーローになりたくて、ずっと鍛錬に励んで、それで友達が出来なくて、でもヒーローになるって決めたのは自分だから、仕方ないって思って!」
ソラは大粒の涙をこぼし泣きじゃくりながら語る。ハルトとましろは黙って聞いていた。
「でも、よその世界からやってきた私に、二人は友達だって言ってくれました!嬉しかった…!でも怖いんです!ハルトさんが、ましろさんが傷つくなんてっ絶対嫌だから…!だから一人で、戦おうって…!でも、結局二人を守れず、巻き込んで…!」
ソラは嗚咽交じりに今までずっと押し殺してきた感情を吐き出した。
「ソラちゃん…」
ましろはソラに寄り添い優しく抱きしめた。
(何やってんだよ俺は…)
ハルトは泣きじゃくるソラの姿を見て胸が張り裂けそうになった。自分はプリキュアではないし、あの黒い姿に自分の意思で変身することができない。だからソラに頼るしかなかった。その結果、ソラに重荷を背負わせてしまった。
(これじゃましろに助けてもらってた、昔の俺と同じだ…それじゃダメだ!)
ハルトは拳を強く握りしめる。
(しっかりしろ、朝日ハルト…今度こそ、いじめっ子からソラとましろを守るんだ!)
そして決意を固めたハルトは、涙で顔をくしゃくしゃにするソラの目をまっすぐ見て話す。
「ソラ、聞いてくれ」
「…何ですか?」
ソラは涙で濡れた顔を上げてハルトを見つめる。
「やっぱり、俺も一緒に戦うよ」
「えっ!?」
「ハルくん!?」
ハルトの言葉を聞いてソラもましろも目を見開く。
「そ、そんなのダメです!ハルトさんを危険な目に遭わせるわけにはいきません!友達が傷つくのは嫌なんです!」
「それは俺も同じだよ。ソラが…俺のヒーローが傷つくのは嫌なんだ」
ハルトの言葉にソラは呆気に取られた表情で彼を見つめる。
「私が…ハルトさんのヒーロー?」
「そうさ。ソラにはもう2回も助けてもらった。昨日の怪物と戦った時と、夢の中で…」
「夢の中?どういうことなのハルくん?」
「ああ…そっか、ましろにもまだ話してなかったな」
ハルトは、ソラとましろに先日見た夢のことを話した。黒い姿になったハルトが闇の世界に一人佇んでいたこと。そこで黒い瘴気と憎しみに染まった声に取り込まれそうになったことを。
「それでもうダメだってなった時に、ソラが…キュアスカイが俺を助けてくれたんだ」
「夢の私が…ハルトさんを助けた…?」
「ごめんよ、急にこんな事話して。意味が分からないよな。でも、俺にとってソラは命の恩人だ。昨日の事も、夢の事も、ソラが俺を助けてくれたことには変わりない!」
気が付くと、ハルトはソラを抱きしめていた。昨日、己の無力さに打ちひしがれていた自分をソラが優しく包み込んでくれたように。
「俺を救ってくれて、ありがとうソラ。君は俺のヒーローだ」
「は、ハルトさん…!」
ソラの瞳からまた涙が溢れだした。初めて人に感謝された。自分のことを認めてもらえた。そのことが何よりも嬉しかった。
「だから…俺のヒーローが、大切な友達が泣いて苦しむ姿なんか見たくない…!」
ハルトはソラから離れ、ゆっくりと立ち上がる。
「誰かを守るために戦って、傷つくのがヒーローの運命なら…俺がそのヒーローを守れる存在になりたい!」
その瞳には強い決意が宿っていた。
「だから俺もプリキュアになる…!これ以上ソラを、ましろを、大切な友達を傷つけさせやしない!」
「ハルトさん…」
「ハルくん…」
「ギャーッハハハ!!メソメソ野郎がプリキュアに!?冗談も休み休み言うのねん!」
ましろとソラが声の方を向く。どうにか起き上がり体勢を立て直したらしいランボーグを従えたカバトンが腹を抱えて笑っていた。
「ましろ、ソラを頼む。あと、これ預かっててくれ」
「え!?ハルくん!?一体何するつもり!?」
「アイツらをぶちのめしてくる」
「ちょ、ちょっとハルくん!?」
ハルトはましろに紙袋を渡すとランボーグに向かい合い、彼らを睨みつける。
「おいテンドン、そんなにおかしいか?俺がプリキュアになるのが?」
「テンドンじゃなくてカバトンなのねん!」
また名前を間違えられたカバトンがブチ切れながら地団太を踏んだ。
「ああ、おかしいにきまってるのねん!肝心な時に役に立てねぇ!男の癖に女に慰めてもらうような弱虫のメソメソ野郎が!仮にプリキュアになったところで、このカバトン様の敵じゃないのねん!!」
「ああ、確かにお前の言う通りだ。俺はましろやソラに助けられて、守られて、慰めてもらってばかりな弱虫のメソメソ野郎だったさ。けどな…」
「け、けど、何なのねん!?」
「こんな情けないままで終われるほど、落ちぶれちゃいねえんだ!俺はよぉっ!!」
ハルトは羽織っていたパーカーを勢いよく脱ぎ捨て、首にかけていたペンダントの紐を噛みちぎった。今だ黒く染まるアクセサリーを右手で強く握りしめる。
「頼みがあるんだ…」
ハルトはペンダントに語り掛けた。
「お前の力を貸してほしい!ソラとましろを守るために、俺と一緒に戦ってほしい!!」
ハルトはあらん限りの力を込めて叫んだ。
「そのためなら俺はヒーローに…プリキュアになってやる!!」
その声に答えるように、ハルトの掌に握られたアクセサリーが激しい輝きを放った。
それも黒い姿に変身した時のような、黒く邪悪に染まった色ではない。太陽のような暖かな光を解き放ち始めた。そしてアクセサリーも赤い宝石のような色に染まり始める。
「親父のペンダント…こんな色に染まるの、初めて見た…。っ!?うっ!なんだ!?胸が、熱い…!?」
ハルトは胸の中が急に熱くなり、思わず呻いた。
その時、彼の胸の中からソラと同じミラージュペンが出現した。
「あ、あれソラちゃんと同じペン!?」
突然ミラージュペンが現れたことにましろもソラも困惑していた。だがハルトは落ち着いた様子でペンを手に取ると、ペンダントに語り掛ける。
「ありがとな、俺の声に答えてくれて…」
そして右手にアクセサリーを、左手にミラージュペンを握り、叫んだ。
「ここからは、ヒーローの出番だ!!」
ソラの時と同様、マイク上に変化したミラージュペンにアクセサリーをはめ込んだ。
「スカイミラージュ!!」
「っ!?まっまずい!ランボーグ!早くぶっ飛ばすのねん!!」
ハルトのペンダントが輝き始めたあたりから呆然と見ていたカバトンだったが、正気に戻ってランボーグにハルトを攻撃するよう命令する。
巨大な拳が振り下ろされる中、まだ変身が完了していないハルトは突如駆け出し、ランボーグの拳に目掛けて自らも拳を突き出した。
「!?ハルくんダメ!!逃げって…って、えええっ!?」
ましろは驚愕した。何故ならハルトとランボーグの拳同士がぶつかり合い、拮抗したからだ。
するとハルトの体を炎のようなエフェクトが包み込み、彼の姿を変えていく。服装は肩を露出させた、赤色をベースに黒やオレンジが入ったラインのスーツとズボンを着用し、首に長いマフラーを巻いていた。両手に黒をベースに赤い装甲を纏った穴あきグローブを装着し、腰には中央に赤い太陽のエンブレムがついた金色のベルトを装着している。髪の毛の色は黒から燃えるような赤い炎髪に変わり、太陽を模した髪飾りが付与され、瞳も炎のように赤く輝いている。
「おらぁあああっ!!!」
ハルトはブーツを地に踏みしめ、拳を振り抜いた。ハルトのパワーに押し負けたランボーグの巨体が吹っ飛び、地面に倒れ大きな地響きを立てた。
ランボーグを地に伏せた少年は、炎髪を煌かせるヒーローに姿を変えていた。
「ハルくんが、ほんとにプリキュアになっちゃったぁあああ!?」
両手で頬を覆ったましろが驚きの声を上げた。隣にいるソラも目を大きく見開き、カバトンも口をあんぐり開けて絶句していた。一方、ハルトは変身が完了した己の体をまじまじと見ていた。
「すっげえ…それに、力がみなぎってくる」
黒い姿のような闇の力ではない。太陽のように熱い力が溢れ出しているのをハルトは感じていた
「ま、まさか…メソメソ野郎がマジでプリキュアに!?き、昨日のことといい、お前いったい何者なのねん!?」
「俺が何者か、だって?」
ふとハルトは空を見上げた。雲一つない青空で、太陽がひと際、眩しく輝いている。以前夢で見た親父の言葉がハルトの脳裏をよぎった。自分の笑顔は太陽みたいで、大きくなっても皆を照らしてほしいと。
以前の自分ならそんな柄じゃない、とか言っていただろう。だがプリキュアになった今なら堂々となれそうだ。太陽のように熱い輝きで人々を照らす存在に。ならばそれに相応しい名前を付けよう。ハルトはカバトンに向かって名乗りを上げた。
「熱くひろがる太陽の輝き!キュアサンライト!!」
力強く拳を突き出しながら決めポーズを取る。
「それが、俺の名だ!!」
「キュアサンライトぉ~?じゃあ登場早々退場してもらうのねん!!やれ、ランボーグ!!」
カバトンの命令を受けたランボーグがポテトミサイルを乱射した。キュアサンライトは即座にましろとソラを抱えて空中へジャンプする。その勢いはすさまじくまるでジェット機のようだった。
「きゃあああっ!?ハルくんスピード出すぎぃいい!?」
「ああっごめん!?力加減がまだわからなくて!?」
空中で態勢を整えると、再び地上へ降下する。今度はなるべく速度を降ろしながら、ハルトは近くの建物の屋上へ着地し、二人を降ろした。
「いや~足のパワー半端ないな。これがプリキュアの力かぁ」
「はぁ…はぁ…このまま宇宙へ行っちゃうかと思ったよ…」
ましろが肩で息をしながらぼやいた。一方、こちらを視認したランボーグがのっしのっしと向かってくる。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
キュアサンライトはましろたちに背を向け、ランボーグの方へ向き直った。
「ハルトさん!」
さっきとは逆に見送る立場になったソラが、ハルトの背中に声をかけた。
「さっき言ってくれたこと、嬉しかったです。初めて自分が、認めてもらえた気がして…」
「そっか…」
「でも今は私は戦えません。だから、ハルトさんやましろさんが言ってくれたように、頼らせてもらっていいですか?」
「ああ、もちろんだよ」
キュアサンライトはソラに振り返り、微笑みを浮かべた。
「お願いします!私たちを守ってください、キュアサンライト!」
その呼びかけに、キュアサンライトは強く頷いて返した。
「ああ、任された!」
そして再びランボーグの方へ向き直り、空高く飛び上がった。
「あっ!まってハルくん!私からも一言!」
ましろの声は、既に跳んで行ったキュアサンライトの耳には届かなかった。
ランボーグは空中に浮かぶキュアサンライトを視認すると、両腕に紙コップ型の砲台を展開。飲料水のような色をしたエネルギー波をキュアサンライト目掛けて放出した。
キュアサンライトは臆せず跳び込み左腕を構える。すると左腕に太陽の形を模した赤い盾を形成し、敵の攻撃を防いだ。そして盾から放たれる熱い輝きが敵のエネルギー波を蒸発させていく。
「ほわぁっ!?あれを防ぎやがったのねん!?」
キュアサンライトはそのままランボーグの懐へ飛び込むと、その巨体に渾身の右ストレートを打ち込んだ。
「吹っ飛べおらぁああああああっ!!!」
キュアサンライトの剛腕は、キュアスカイの攻撃を全て無力化したランボーグの巨体をものともせず、後方へ吹き飛ばした。ランボーグはビルに激突し、崩壊するビルの瓦礫に埋もれてしまった。
「ワシのビルがー!」
「しゃちょう!」
どこからか悲鳴が聞こえてきたが、キュアサンライトは気にせず次の攻撃に移る。
ランボーグはビルの瓦礫から這い出すと、お返しと言わんばかりに大量のポテトミサイルを発射した。それを見たキュアサンライトは盾を腕から分離させる。盾は光のチェーンのようなもので腕と繋がっており、それを握って豪快に振り回しながら風圧でミサイルを跳ね返して見せた。吹き飛ばされたミサイルはランボーグに全弾命中し、その巨体を大きくのけ反らせる。
「かぁーっ!なんてヤツなのねん!?ランボーグ!!飛び道具は効かないから、そのでけぇボディで押しつぶしてやるのねん!」
そう命令されたランボーグは背中と足からジェットを噴射し、キュアサンライトに向かって弾丸のように突っ込んできた。キュアサンライトはその巨体を受け止める。
「ぐっ!流石に重てぇなっ…!!」
キュアサンライトは必死に踏ん張るが、ランボーグの巨体に徐々に押されていく。だが負けるわけにはいかない。彼の背後には、ましろとソラがいる建物があるのだ。
「ぎゃーっははは!!そのまま後ろのソラと脇役ごと潰してやるのねん!!」
「ああ?お前余裕ぶっこいてる場合か?」
「えっ?はっ!?はぇえええっ!?」
カバトンは驚愕した。キュアサンライトがパワー勝ちし、逆にランボーグの巨体を持ち上げたからである。逆さまになったランボーグは手足をじたばたさせて「助けて」と言わんばかりにカバトンを見つめる。
「潰れてミンチになるのは…」
キュアサンライトはランボーグを持ち上げたまま高くジャンプする。
「お前の方だ!!昨日俺を殴ったお返しも込みでくらいやがれぇ!!このやろぉおおおおっ!!!」
そしてその巨体をカバトン目掛けて投げ飛ばした。
「へぶぅうううっ!?」
ランボーグの巨体に押しつぶされぺしゃんこになるカバトン。
このキュアサンライトの出鱈目なパワーに、ソラもましろも唖然としていた。
だが、それでもランボーグは起き上がる。空高く宙を舞うキュアサンライトを撃ち落とさんと、全武装を展開した。
「ランボォ…グゥウウウウウウ!!」
肩からポテトミサイル、両腕からエネルギー放射、紙コップロケット、そして腹部から超巨大バーガー弾。出し惜しみなしの一斉掃射で、キュアサンライトを撃ち落とそうとしていた。
だがキュアサンライトは輝く太陽をバックに空中で姿勢を整え右手を握り締めた。そして浄化の力を拳に込める。
「ひろがるっ!!サンライト、バスタァアアアアアアーッ!!!」
サンライトの全身が炎のオーラを纏い、巨大な紅蓮の拳となってランボーグへ振り下ろされた。
サンライトの必殺技『ひろがるサンライトバスター』
スカイパンチよりもはるかに巨大な炎の鉄拳は、ランボーグの放った巨大バーガー弾を粉砕し、数多の射撃兵装をものともせず、眼前にいるランボーグの巨体に必殺の一撃を叩き込んだ。
「モエツキター…」
ランボーグの体は灰のように真っ白になって崩れ去っていった。たがこれでも浄化されたらしく、ランボーグとなったバーガーショップは元に戻り、破壊された街も綺麗に修繕され、ソラの傷も癒され服装も元通りになった。唯一、社長のビルだけは直らなかった。
(これがハルくんの変身したプリキュア。キュアサンライト…。ちょっとやんちゃすぎるよぉ~~~!!)
プリキュアに変身した幼馴染の暴れっぷりに、ましろは心の中で頭を抱えて叫んだ。
一方、先ほどランボーグの下敷きになったカバトンは、全身ペラペラになりながらも生き延びていた。
「ぜぇぜぇ…き、キュアサンライト…なんてSUGEE馬鹿力なのねん!まるであっちが怪物なのねん…!」
何とか起き上がろうとするが、丁度ソラとましろを地上に降ろしていたサンライトと目が合う。彼がこちらをギロッと睨みつけてきたのを見て震え上がった。
「まだやる気なら相手になるぜ。丁度カツ丼が食いたいと思ったところでなぁ…」
「ひぃいいっ!?か、カバトントン!!」
すっかり怖気づいたカバトンは呪文を唱えて逃げてしまった。その後キュアサンライトの体が赤く輝き、元のハルトの姿に戻った。ミラージュペンに装着されたアクセサリーも、力が失われたように元の半透明に戻ったのであった。
「終わったか…うっ!?」
変身を解いたハルトは体に異様な脱力感を感じ、思わず膝をつく。
「ハルくん!?大丈夫!?」
「もしかしてどこか怪我したんですか!?すみません!私たちの為に…!」
ソラもましろも心配そうにハルトに寄り添う。
「あ、大丈夫!ちょっと疲れただけだから…」
ハルトはそんな彼女たちに笑顔で答えるのであった。
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____
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戦いの後、人目がつく前に退避した三人は、とある公園のベンチに腰かけて休んでいた。
「いや~、力を出し切ったなぁ。プリキュアになるのってすごい体力いるんだなぁ」
「あれはいくら何でも暴れすぎだったよハルくん!途中からどっちが街を襲う怪物なのかわからなかったもん!?」
初陣を終え満足げに呟くハルトにましろが興奮気味にツッコみを入れる。ビルや建物を巻き込みながら怪物をぶちのめすサンライトの姿は、傍から見れば街を襲う怪人の片割れに見えただろう。
「でもお疲れ様、また私たちを助けてくれてありがとう!それとプリキュアになれておめでとう!ご褒美とお祝いのギューっだよ♪」
「わっぷっ!?だからギューはやめてくれ!ソラが見てるし!あと色々当たって…!?」
人目をはばからずご褒美のギューをするましろに慌てふためくハルト。そんな中ソラがおずおずとハルトに声をかけてきた。
「ハルトさん、私からもお礼を言わせてください。この度は本当にありがとうございました」
「ふぇ?い、いえいえそんな!どういたしまして…!」
「それと、色々とご迷惑をおかけしました。二人を守れなかったどころか、弱音まで吐いてしまって…すみませんでした」
段々表情が曇っていくソラ。そんな彼女にハルトは優しく声をかける。
「何言ってるんだよ。ソラだって俺たちのために頑張ってくれたじゃないか。迷惑だなんて思ってないよ」
「そうだよ。誰だってあんな怪物と戦うなんて怖いし、弱音だって言いたくなるよ。それでもソラちゃんは勇気を振りしぼって立ち向かったんだから。本当に立派だったよ!」
ましろもハルトを解放した後、ソラと向き合い励ました。
「ハルトさん…ましろさん…」
「まあでも、今後は一人で無茶するのはナシな?俺もプリキュアになったことだし、これからは一緒に戦おう!もう一人で体張ったり、責任背負い込まなくていいからな」
「ハルくんそそっかしいところがあるから、ソラちゃんもハルくんのこと助けてあげてね。あと悩み事があったらいつでも言ってね!友達なんだから、いつでも相談に乗るよ!」
「二人とも…ありがとうございます…!とっても嬉しいです…!」
ソラはまた目に涙を浮かべはじめた。だが今回は嬉し泣きのようで二人に微笑みかける。ましろはそれを見てハンカチを取り出し、ソラの目元を拭ってあげた。
「それでさぁ…さっきの続きなんだけど」
「?続き?」
「ほら、戦いが始まる前に言おうとしたこと。実は俺……あれ!?あの袋は!?やっべ、さっきの戦いでどっか落としたか!?」
「ここにあるよ。この袋を私に預けて行ったんじゃない。もうハルくんったら、そういうところが抜けてるんだから…」
ましろは笑いながら、先ほどの戦いの際にハルトが渡してきた紙袋を返した。大事に抱えていたおかげで、袋は破れたりせず綺麗なままだった。
ハルトは袋を受け取ると、何やら緊張した面持ちで中身を取り出した。
それはプリティホリックで買ったあの可愛らしい手帳だった。それを
「ソラ!ましろ!これ二人にプレゼント!」
「え!?ぷ、ぷれぜんと?」
「ほぇ!?わ、私にも!?」
二人は目を丸くし、差し出された手帳を見つめた。
「ソラはこれ、破かれたヒーロー手帳の代わりに…。ましろはほら、前から欲しいって言ってたじゃん。日頃お世話になってるし、そのお礼も兼ねて…」
「そんなぁ!ソラちゃんはともかく、私に気を使わなくていいよ!それにこれ高かったでしょ!?」
ましろはこの手帳を発売前から情報チェックしていたので、その値段の高さも知っていた。それを二冊も買ったことでハルトの貯金も底をついたのではないかと不安になった。
「値段のことはいいから受け取ってくれよ。これ持ってレジ行くとき、周りの客や店員さんの視線がすげぇ恥ずかしかったんだからな!受け取らないなら羞恥心に耐えた俺の努力を無碍にすることになるんだぞ!!」
ハルトは顔を赤くしながら、ずいっと手帳をソラとましろに押し付けてきた。ましろは男一人、慣れない女性向けショップで周囲の目を気にしながら肩身の狭そうにレジに並ぶハルトの姿を思い浮かべる。相当恥ずかしかったのだろう。クスリと笑うとハルトから手帳を受け取った。
「ありがとうハルくん、大事に使うね!とっても嬉しいよ!ありがとうのギュー♪」
「ギューはもういい!!で、ソラは?」
ハルトは今だ手帳を受け取れず、困惑した様子のソラを見る。
「ハルトさん、どうして…」
「どうしてって…本物のヒーローに出会えたから、だよ…」
「本物のヒーロー…ハルトさん、さっきも私のことをヒーローって…」
「そうだよ。でも今日から俺もプリキュアになったから、ソラとは友達でヒーロー仲間だ。この手帳はその友情の証ってことで受け取ってもらえないかな…?」
照れて頬を掻きながらそう告げるハルト。ソラは目を輝かせながら、彼から手帳を力強く受け取った。
「はい!ありがとうございますハルトさん!友情の証、確かに受け取りました!これからはヒーロー仲間としても、末永くよろしくお願いします!」
「おう、どういたしまして…。じゃ、じゃあそろそろ帰ろうか!もう俺腹ペコで限界なんだわ~」
「あっ、まってハルくん!おばあちゃんのお使いはどうするの!?結局干しカエルはどこで買ったらいいの~!?」
照れて先に歩き出すハルトを、ましろは慌てて追いかけた。大事に手帳を抱えて嬉しそうに二人の後を追うソラ。そんな三人の様子を、ヨヨはエルと一緒に不思議な鏡の映像越しに見つめていた。
「物語の始まりね、ハルトさん」
ハルトの父親から赤子の彼を預かった時の事が脳裏によぎる。夜明けと共に昇ってきた太陽の日差しが、ハルトを祝福するように明るく照らしていたのを思い出していた。