冷たい雨が降る中、俺とアルルさんは目の前の敵を殺すために武器を振るう。
二本の短剣と大きな鋏が何度もぶつかり合い、火花が飛び散る。
鳴り響く金属音。
互いに一歩も引かず、俺とアルルさんは戦い続けた。
「はぁ!」
「シッ!」
素早い連続攻撃を放つアルルさんと、重い一撃を放つ俺。
相手はLV2。対して俺はLV1。
強くなったとはいえ、俺の方がレベルが低い。
その証拠に少しずつではあるが、俺が後ろに下がっていった。
だが負けるわけにはいかない。
何より冒険者はレベルだけで決まるわけではない。
「変形!」
俺が叫ぶと大きな鋏はガチャガチャと変形。
そして俺の両手を覆う籠手となり、鋭い爪を生やす。
目を見開くアルルさんに、俺は怒涛の連撃を放つ。
猛獣の如き鋭く大きめ爪による攻撃に、アルルさんは一歩だけ下がる。
そのわずかな隙を俺は見逃さない。
「変形!」
また俺が叫ぶと大きな爪は別の姿へと形を変える。
今度は大きな鎌だ。
身体を回転させて振るわれる鋭く重い一撃。
それを紙一重で躱わすアルルさんは、チッ舌打ちした。
「随分と面白い武器ですね、それは」
「ええ、最高の鍛治師が作ってくれた最高の武器です!」
アナティアが最後に作ってくれた武器、《断絶》。
この武器の特徴は戦斧、大鎌、爪、大鋏などに変形する能力を持つ。
硬く、そして斬撃能力が高い最高の武器だ。
「これで決める!」
《断絶》をノコギリのように刃がギザギザしている大剣に変形させ、俺は力強く振り下ろした。
その瞬間、アルルさんの瞳が怪しく光る。
ゾワッ嫌な予感を感じ取った時には、もう遅かった。
大剣はアルルさんの片腕を斬り飛ばす。
直後、彼女はもう片方の手に持っていた短剣で俺の顔を覆う兜を破壊し、頬に鋭い傷をつけた。
すると突然眩暈が襲いかかり、俺はうまく呼吸ができなくなる。
「こ……これは、毒?」
「ええ……私のオリジナルの毒ですよ」
武器を手から落とし、片膝を地面につける俺をアルルさんは見下ろした。
ハァハァと荒い息を漏らし、彼女は汗を流す。
「まさか……その毒を俺に……与えるため……だけに、片腕を……」
「ええ……こうでもしないと勝てないと思いましたから」
片腕を失った場所から血を流すアルルさんは、回復薬を切断面にぶっかけて傷を塞ぐ。
なんという覚悟。
俺を倒すために片腕を犠牲にしやがった!
「生きたまま連れて帰れと言われましたが、あなたは危険すぎます。今、ここで……殺します」
短剣を上段に構えるアルルさん。
彼女は迷わず短剣を振り下ろす。
迫り来る刃。
回避不可能な一撃。
俺はそれを受け入れ……、
「受け入れるわけないだろう!」
俺は腹の底から叫び声を上げた。
「【狂戦士】!」
次の瞬間、俺の身体から赤黒い炎のようなものが噴き出した。
激痛が襲い、全身の血が沸騰したような感覚が襲う。
だが同時に眩暈や気持ち悪さが消えた。
身体が思い通りに動き、力が湧き上がる。
「なっ!」
驚愕するアルルさんを無視して、俺は立ち上がる。
「四番武装・装備!」
俺の右手に嵌められた指輪の一つが光った直後、何もない空間に緑色の長剣と片刃の白い短剣が現れた。
それはかつてアナティアが作った武器。
俺は長剣と短剣を握り締め、力強く、そして素早く突き出した。
二つの剣はアルルさんの胸を貫き、赤い花を咲かせる。
片手で握り締めていた短剣を落とし、彼女は口から血を吐く。
「……ハハハ、負けちゃい……ましたね」
両膝を地面につけ、笑うアルルさん。
俺はそんな彼女を黙って見ていた。
今、雨が降っているが雨の音も匂いも感じない。
感じるのは、肉を貫いた感触と胸を締め付ける痛み。
「……何か……言い残すことは?」
「そう……ですね」
ハァハァと息を漏らすアルルさんは、雨を降らす空を見つめたまま小さく呟く。
「最後に……弟たちに……会いたかったです」
その言葉を言った瞬間、アルルさんはガクリと首を落とした。
もう彼女の呼吸の音は聞こえない。
俺は優しくアルルさんから長剣と短剣を引き抜く。
死体となった彼女を見下ろしていた俺は、ポツリと呟いた。
「正義って……なんだよ」