青い光が宙に浮く巨大で広い空間に複数の声が響く。物がなく誰もいない空間なのに声だけが聞こえる奇妙な状態。そんな場所で声の主達は空間に近づいてくるであろう人の事を気にしていた。
『我らが子孫が近づいてくるのが分かる』
『少し歪だが魔法が使える体のようだ』
『すでに我ら一族は滅びたと思っていたが、これほど幸運な事はないだろう』
『もうこれ以上、我らに魔物を押さえておく力はない』
『時間がない。あの子を覚醒させ魔物を消滅させるのだ』
『あの子がここまでたどり着けるように魔法に願おう』
『そうだな。我らの心を一つに……』
声が沈黙するのと同時に空間が青い光を激しく帯びていく。宙に浮く青い光も呼応するように、より一層光り輝くと部屋中に大きく響くほどの声が駆け巡る。
『魔法よ導け‼』
光はやがて誰かを祝福するような柔らかな光へと変化し、部屋全体を包み込むのであった。
♢
ここはプラトディアと呼ばれる世界。人々は王の庇護の下、金属を使用して城下街や町村で生活をしている。主に作物を育てる者、武器を作る者、狩猟する者などの様々な職業に就いて人々の暮らしは回っていた。
「こちらが申請書類となります」
「ふむ……」
豪華な衣類を身に纏う男は、卓上に置かれた分厚い紙束から一枚を手に取る。
「これはゲーマ王国からの申請?」
「ディストリア諸島。あそこの調査権を数ヶ月いただきたいという名目の申請ですな」
「あそこか……」
大量の紙束をせっせと卓上に置いている老人の言葉に男は息を吐いた。
「今日も多いな」
「何を言うかと思えば、ここは国の中心です。書類が多いのは当たり前ですな」
男はいつまでも積みあがっていく紙束を見て見ぬふりして天を仰いだ。
「……そういえば、我が曾祖父の代に見つかったとされる福音の解読は進んでおるのか?」
「解読が進んだという話は耳に入っておりませぬ」
「祖父が写本を作って一般公開したのにもかかわらずか?」
「全くと言ってもいいほど聞いてませぬ」
作業の手を止めた老人は首を横に振る。
「国の研究機関ですら解読できなかったものです。一般国民では歯が立たぬかと」
「だが中には国に属さない専門家もいたはずだ」
「それでも解読できなかったのでしょうな」
「曾祖父が見つけて、祖父が公開し、父が賞金を懸けたのにか……」
「王が思い出すまで私ですら忘れていたほどですぞ。期待はしない方がよろしいかと」
「ディストリア卿の印は既に押してあるな。なら問題はなかろう」
男は印章を取り出すと紙に押し付けたのだった。
♢
「ついに! ついに分かったぞ!」
部屋にこもって複製本の文章を睨みつけていた男が突如、叫び出した。
「早速、冒険の準備だ! 福音・お金・傷薬・解毒薬、それに保存食っと」
その福音の文章に書かれていたのはディストリア諸島の地下に巨大な建造物が存在しているという内容だった。更に聞いたこともない鉱物や生物の名前があり、彼が思っていた通りのことが書かれていた。
「あとはーそうそう、これを忘れちゃあいけない」
彼は興奮を抑えきれないまま荷物を麻袋に入れて、出発準備の支度を始める。家の壁に立てかけてある短剣を腰につけ、躍り出るように外へと玄関を開けた。
「ん?」
静けさが漂う暗くなった街を見た彼は、自身が徹夜していたことに気づいたが、些細なことだと気持ちを切り替えて目的地へと指を差した。
「さあ出発だ! 港はこっちだな!」
居ても立っても居られないといったように彼は走り出した。街灯りが道を照らす中、一直線に港のある方へと向かう。薄暗く潮風が当たる場所へとたどり着いた彼は一目散に光が灯る家の扉を開けた。
「船を出してくれ!」
「バッカ野郎! 今何時だと思ってるんだ!」
中にいる男に叩きだされる。外に出て来た男が手に持った照明に目がくらんだ。
「まっぶ」
「何だ? よく見たら坊主じゃねぇか」
「坊主じゃなくてアートです」
「アートか坊主じゃなくてなぁ。今何時だと思ってるんだ?」
「そんなことよりディストリア諸島の謎を解きにいきたんだ」
「そんなことぉ? 睡眠不足で頭おかしくなってねぇか?」
「福音だよ。福音。この本を解読したんだ」
「福音?」
「この本」
アートが麻袋から取り出した福音を男に突きつけた。
「懐かしい本だなぁ。俺が小さいころからあった本だ。誰も読めないから意味わからんけどな」
男は本を眺めては裏返す。それから一通り懐かしむと本をアートに返した。
「解読できたんかこれを?」
「そうです」
「ふん」
自信たっぷりで返答するアートの顔に男は溜息を吐いては、外に浮かぶ船とアートを交互に見つめる。やがて諦めたように頭を掻いた。
「分かったよ。船は出してやる」
「よっし!」
「喜ぶんじゃねぇ! 追加料金は払ってもらうからな!」
※読みやすく推敲しました