魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

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第十話 蔓延る不穏

 波の音が聞こえ、やさしい風が頬をなぞり、潮の香りを鼻へと連れてくる。沢山の建物が並び、にぎやかな人の声が響きあう港町でアートとコミの二人は買い物に来ていた。船着き場には複数の船が並び、船から荷物が下ろされ町の中へと運び込まれていくのが遠くからでも見える。

 

「久しぶりに戻って来ましたけど、にぎやかですね。さて、武器屋はどこでしたっけ?」

 

「アートさん、武器屋は赤い屋根の家です。近くまで行けば看板が見えるはずなので、すぐに分かりますよ」

 

 二人は会話しながら石で出来た通りを歩いていく。しばらくして赤い屋根の家に近づいてくると、玄関口から男が一人、剣を大事そうに持って出ていくのが見えた。二人は家の前まで到着すると玄関の上にある看板の文字を読んで確信する。

 

「看板に武器専門店って書いてありますね。入りましょうか」

 

 扉を開けると鈴の音が鳴り、入店を知らせる。二人が中に入り店内を見渡すと武器が一つも目に入ってこない。壁には何もかかっておらず、武器が入れられていたはずの木箱や、ガラスで出来た入れ物には埃だけが漂っていた。

 

「一応、武器屋ですよね? 商品が一つも見当たらないのですが」

 

「どういうことでしょうか? もしかして片づけてしまったとかですか?」

 

「でも入り口は開いていましたし、お店はやっているはず……」

 

 二人が問答していると、店の奥から背の低いヒゲの生えた筋肉質な中年らしき男が二人に向かって歩いてくる。

 

「お客さんかい? せっかく来てくれたのに済まないな。武器は、ついさっき売れたので最後なんだ。もう店内には何も残っていないよ」

 

「武器が売り切れるなんてことあるんですか⁉」

 

 すべての武器が売り切れていることに二人は驚き、アートが思わず質問する。

 

「普段であれば、売り切れることなんてまずない。いかに武器が消耗品とはいえ壊れにくいからな。だけど今日はなぜか武器を買いに来る人が多かったんだ。おかしいと思い、使っていた武器を見せてもらったが、どれも壊れ方が共通していた。お客さんも同じ口だろう?」

 

 中年らしき男の言葉に何か思うことがあったのか、少し考えた仕草をするコミが口を開く。

 

「アートさん、もしかして黒い霧の獣のことではないでしょうか?」

 

 コミの言葉を耳に入れた中年らしき男は目を見開き叫びだした。

 

「そう、そうだ! 確かに買いに来たものは皆、霧の獣のことを言っていた!」

 

 叫んだ後に彼は突然、手を合わせると頭を下げだす。

 

「お客さん、知っていることがあれば教えてくれないか? 普段、起こらないことが起きていて不安なんだ。情報の分だけのお礼は必ず、するから!」

 

 彼の必死な懇願に二人はたじろぎながら頷く。

 

「ありがとう! 先にお店を閉めるから、奥の方にある椅子に座って、ちょっとだけ待っていてくれ」

 

 二人にお礼を言った彼は、急ぎ足で店の外へと出て行った。

 

 それを見送った二人は言われた通りに店の奥にある机と椅子が置かれている場所へと向かいオジサンが戻ってくるのを待つ。しばらく待っていると、彼が急ぎ足で二人のもとに向かってきて椅子に座った。

 

「お待たせした。早速だが教えてくれないか?」

 

 彼の言葉に頷いた二人は、自身が知っている黒い霧の獣のことを話していく。やがて二人が話し終えると、真剣な表情で話を聞いていた彼は納得したように頷いた。

 

「だから武器を欲しがる者が多かったのか……」

 

 彼は上を向き深く息を吐いた。

 

「先ほどの話で聞いた、獣が現れるといった異常現象を考えると、今後現れないとは思えん。それに、たった一回で武器が壊れてしまうのであれば、どれだけ武器を用意してもダメだろうな」

 

「なら、壊れないような武器を作ることは可能ですか?」

 

 中年らしき男の溜息交じりの呟きを聞いたアートが、提案を述べるが彼は首を横に振った。

 

「無理だろうな。武器を作るために使う鉱石が同じなんだ。作ったとしても鉱石が質以上の効果を超えることはないため、形が違うだけで中身はまったく同じものが出来上がる。だから、たった一回で壊れる武器を壊れないように作ることは不可能に近いんだ」

 

「何か方法はないんですか?」

 

 コミから方法がないかと聞かれた彼は、一息置いてから口を開く。

 

「方法だって言ってもなぁ。武器を作るために使う鉱石よりも質の高い鉱石を使えばもしかしたらだな。ただ、そんな鉱石なんか現在、確認されていない。無理だろう」

 

 その話を聞いたコミは麻袋から小袋を取り出し、小袋の中に入っている紫色の透き通る石の欠片を机の上に置いた。

 

「この石ではダメですか?」

 

 彼は一度断りを入れてから、紫色の石を手に取り観察を始める。

 

「見たことのない宝石だな。もしかして、先ほどの話にあった石か?」

 

「そうです。霧の獣から手に入りました」

 

「うーん……未知の石すぎて何も分からん。ちょっと強度を確かめさせてくれないか?」

 

 聞かれたコミは少し悩むようにするが、すぐに了承した。

 

「分かりました。その石は差し上げますので、自由に使ってください」

 

「いいのかい? 希少な物だろう?」

 

 本当に貰ってもいいのかという確認に頷いたコミを見た彼が、紫色の石を持って細長い机の奥にある扉の中へと入っていく。しばらくすると扉の中から何かを何度も打ち付けるような大きな音が聞こえてきた。

 

「コミさん、あの石をあげてよかったんですか?」

 

「あげてよかったんです。後で返さないといけない場合、壊さないように確認しようとします。ただ、そうしてしまうと十分な確認をおこなうことができず、確認不足になる可能性があるからです」

 

「確かに、後で返すものを乱暴に扱うことは出来ないです」

 

「はい。それに、もしお眼鏡が叶って武器を作ってくれても、確認不足により本来の性能が分からないなんて嫌ですから」

 

 二人が、そんな会話をしていると、扉が開く音が聞こえ中年らしき男の彼が、煤をつけた状態で姿を見せた。

 

「ありがとよ嬢ちゃん、おかげでしっかりと確認ができた」

 

「お眼鏡に叶いましたか?」

 

 コミの問いにオジサンは頷いた。

 

「確かにこいつは、武器で使われている鉱石よりも硬い。それに耐熱耐性もあるみたいで溶けにくかった。これなら壊れない武器ができる可能性はあるな」

 

「では、その石で武器を作れるんですか?」

 

「今まで使用してきた鉱石と混合すれば、作れなくはないが、あくまで可能性だ。作ったとしても性能までは保証できないぞ。それに石の欠片はどれだけ持っている?」

 

 コミが小袋に入っていた石の欠片をすべて取り出す。

 

「これだけですが……」

 

「それだけだと、足りないな。最低でも今の三倍ぐらいはいるだろうな」

 

 オジサンの提示した条件にアートが三倍と呟く。

 

「それさえ持ってきてくれれば、後はこっちで何とかしよう」

 

「分かりました。数がそろいしだい、もう一度来ます」

 

「持ってくるのを待っているぞ」

 

 アートとコミは椅子から立ち上がると歩き出すと、彼が何かを思い出したように叫んだ。

 

「ああ! お礼、忘れてた! 二人とも待ってくれ!」

 

 その叫びに出口へと向かっていた二人は足を止めて彼の方へ振り向く。

 

「すまない。お礼が、まだだった」

 

「あ……忘れていました」

 

「とりあえず、お礼の件で話したいから座ってくれないか?」

 

 彼の言葉に二人は了承し再び椅子に座った。

 

「お礼なんだけどな。本当であれば現金で渡したいところなんだが……代わりに今回の剣を作るのをタダで請け負うというのはどうだ?」

 

「それはいいのですが、もし数がそろわなかった場合は、どうするのですか?」

 

 コミの言葉に彼が悩む様に腕を組む。

 

「そうか……少し待ってくれ」

 

 彼はそう言うと再び奥の扉に入っていくが、すぐに何かを持って戻ってきた。持っていたものを二人の目の前に置く。

 

「この宝石を預ける。剣を作る場合は返してもらい。剣を作らない場合は貰ってくれて構わない。どうするかは、そちらに判断を任せるよ」

 

 彼の提案に二人は了承し、宝石を小袋の中に入れる。

 

「もう他には……そうだった。俺はこの店ベートウフを経営しているゲングだ。よろしく」

 

 ゲングの自己紹介に二人は自身の名前を言い、よろしくと返してから改めて外に出るのだった。

 

 ♢

 

 武器屋を後にしたアートとコミは食材を買うため、人々が賑わいを見せている商店街通りに向かい、通路の途中にある食品売り場へと足を運んでいた。

 

 コミが買い物用の入れ物を右手に持ち左手で野菜を手に取って物色する。どうやら良いものを探そうとしているようで、真剣な眼差しをしていた。

 

「アートさん、今日は野菜が安いので多めに購入しましょう。荷物をお願いしますね」

 

「分かりました。他にすることはないですか?」

 

 その言葉にコミは悩んでから話始める。

 

「そうですね。では、今から言う物を持ってきてください」

 

 コミはアートに近くに置いていない買いたい物を持ってくるように指示すると彼は言われた商品を取りに、その場を離れた。彼を見送ったコミは、手に持った買い物用の入れ物に購入する物を商品を入れていくのであった。

 

 しばらくして彼女は商品を持ってきたアートと合流し、中年ほどの女性の店員が待つ細長い机へと向かう。買い物用の入れ物を置き、商品を購入しようとすると店員から声をかけられた。

 

「コミちゃんじゃないか。元気していたかい?」

 

「はい。元気にしています」

 

「最近、島で物騒なことが起きていてね。危険だから、もし夜に出歩くときは気を付けたほうがいいよ」

 

「どうして危険なのですか?」

 

「うーん。なんて言ったらいいのかなー」

 

 店員は眉毛を曲げ、少し考えこむようにしてからコミからの質問に答えた。

 

「なんか……夜に大量の獣が姿を現して沢山の人が怪我をしたらしいんだ。しかも朝になったら姿形が跡形もなく消え去ったんだってさ。意味が分かんないね。でも切り裂かれた跡を見せてもらったから、間違いなく何かがいるのは確かだよ。だから危険だと思ったんだ」

 

「分かりました。もし夜に出かけるときは気を付けます」

 

「本当だったら、しばらく夜は出ない方がいいと思うけどね。さて、商品の値段は全部で八百二十ゴールドだよ」

 

 コミは店員から指定された金額分の硬貨を麻袋から取り出し、店員に渡す。

 

 店員は天秤を用意し硬貨を受け取ると、その硬貨を天秤の皿の上に置き、もう一つの空いた皿に重りを置く。すると左右の皿が水平になった。

 

「毎度あり、それにしても今日は随分と買い込むんだね。いつものオジサンも見かけないし、どうやって持っていくの?」

 

 店員が麻袋に入れた商品を渡しながら聞く。

 

「アートさんがいますので、持ってもらいます」

 

 購入の邪魔にならない場所にいたアートの方へ、コミは視線を向ける。

 

 コミの視線に誘導された店員は彼を見て興味深そうに頷き、コミの耳元に口を近づけ囁いた。

 

「あの青年がアート君か……なに? 彼氏?」

 

 店員の言葉にコミは少し顔を赤らめたが、急いで首を振り否定する。

 

「違います。アートさんはベル博士の助手として現在の調査に協力してもらっています」

 

 コミの必死に否定する姿に店員は少し笑う。

 

「分かっているから、そんなに必死にならなくても大丈夫よ」

 

「からかわないで下さい」

 

 店員から少しだけそっぽを向いたコミが横目で睨むような視線を送る。

 

「アート君の所まで荷物を持って行ってあげるから許して……ね?」

 

 少しだけ、ため息をついたコミは店員の謝罪を受け入れ、荷物を持った彼女と共にアートがいる場所に向かった。

 

「アートさん、お待たせしました。早速ですが荷物を持ってもらえませんか?」

 

 コミが店員の持つ麻袋へ視線を向けると、彼女は荷物をアートへと差し出した。差し出された荷物をアートは受け取る。

 

「コミさん、もう他に購入するものはないですか?」

 

「ないですね。ベル博士の所に戻りましょうか」

 

 アートとコミが店から出ようとすると、店員がアートを引き留めた。

 

「君、少し待ちな。アート君だね?」

 

 引き留められた彼は足を止め、店員の方へ振り向く。

 

「そうですけど……」

 

「最近、島が物騒になってきている。もし、コミちゃんが危険な目に合いそうなときは守ってあげるんだよ」

 

「はい。その時は全力で守って見せます!」

 

 店員はアートの返答に満面の笑みで頷く。

 

「ならよし! 早く店から出な。コミちゃんが外で待っているよ」

 

 それだけ言うと店員は持ち場に戻っていった。

 

 店員を見送ったアートは玄関の外に顔を向ける。すると荷物を持ったまま、うつむいているコミが見えた。

 

「どうしたんですか?」

 

 どうして彼女が、うつむいているのか不思議そうにアートは尋ねると、コミは何でもないと返答してアートを放置して足早に歩きだした。急に足早で去っていくコミに驚いたアートは、急いで追いかけて合流する。コミの方へ顔を向けると、うつむいたままでいて、時折ボソボソと何かを呟いているのだった。

 

 コミの理解不能な行動に不安を感じたアートはベルがいる仮研究室に向かうまでに何度か質問を繰り返したが、コミはそのたびに何でもないといって歩く速さを上げた。結局、コミが顔を上げたのは仮研究室に着いてからだった。

 

 仮研究室の玄関の扉を開け中に入ると、四つん這いになってうつむいているベルと、近くで呆れかえっているミランダが見えた。アートとコミは訳が分からないといった表情で交互に二人を見る。

 

 部屋の中にアートとコミがいることに気がついたミランダが口を開いた。

 

「あのね……研究がひと段落着いた後に、霧の獣の弱点をどうやって知ったのって聞いたの。そしたら見える君で発見したのじゃって言ってきて……でも見える君が分からなかったから気になって聞き返したら、ベル博士が嬉々として語ってきたんだけど……」

 

 ミランダがベルを横目で見て溜息を吐く。

 

「名前どうにかならないって言ったらこうなったのよ」

 

 ミランダが言い終えると口を閉ざした。その後、誰も言葉を発することはなく微妙な空気と静けさが襲ってくる。

 

 しばらくの間、謎の沈黙が続いていたが、それを破ったのはアートとコミだった。二人はベルに恐る恐るとした足運びで近づく。すると四つん這いのまま動かないベルが、うわごとのように何かを呟いているのが確認できた。

 

「ベル博士、大丈夫ですか?」

 

 コミは心配してベルの背中に触れようと手を伸ばそうとすると……突然、ベルが起き上がりアートとコミの肩をつかんだ。

 

「わしの名づけの才能は素晴らしいじゃろう!?」

 

 ベルは必死の形相で二人を揺らしながら問いただす。どうやらミランダの指摘が余程、効いていたようであった。

 

「おっ落ち着いてください!」

 

 揺らされながらアートが落ち着くように必死に訴えかけると、ベルは目を見開き動きを止めた。二人の肩から手を外し、わざとらしく咳き込んだ。

 

「それで……質問の答えはまだかの?」

 

 ベルは二人を横目で何度も目線を向けると、答えを待つように沈黙した。

 

 二人は横目で目線を合わせてどうしたらよいかと悩んだ果て、アートが先に口を開いた。

 

「ベル博士の名づけ才能は……壊滅です」

 

 それを聞いたベルは膝から崩れ落ちた。訴えかけるような目で二人を見つめる。

 

「初めてお主たちに説明した時、何も言わなかったのじゃ。もしかして……わしの気を使って?」

 

 ベルの疑問に二人は目を泳がせると、ゆっくりと肯定するように頷いた。

 

 二人の肯定に理解してしまったベルは、両手をわなわなと震えさせると、崩れるように四つん這いになり、再びうわごとを呟き始めた。

 

 それを見いていたミランダが溜息を吐き、ベルを見つめて立ち尽くしている二人の声をかける。

 

「取り合えず、ベル博士は放っておいて椅子に座ったら? 買い物で歩き疲れたでしょう?」

 

 彼の扱いに、どうしようかと困惑していた二人はミランダに誘導されて荷物を椅子の横に置き座った。彼女も後に続き二人と対面になるように椅子に座る。

 

「アート君、剣は購入できた?」

 

「いえ、購入できませんでした」

 

 ミランダはアートの言葉に少し理解できなかったのか口早に確認を始める。

 

「ちょっと待って、あなたたちが買い物に行ったのは港町のはずよね」

 

 慌てるミランダがコミの方へと顔を向けるが、彼女は港町に行ったことを肯定した。

 

「確かに港町で買い物しましたが、武器屋に武器が一つも売っていませんでした」

 

 二人の言葉にミランダは更に困惑した顔になり、少し前のめりに頭を抱えた。

 

「どういうこと? 港町にしか武器屋はないだけあって、品ぞろえは豊富のはずよ。それが一つも売っていないなんて……おかしいわ」

 

「そのことですが……霧の獣により剣が使い物にならないと言ったことは覚えていますか?」

 

「ええ覚えているわ。私がアート君に教えたのだから。でも、そのことと何か関係が——」

 

 ミランダは目を見開きアートを凝視した。

 

「そうだ、霧の獣が他の場所でも現れていた可能性を考慮していなかったわ。さらに武器が枯渇しているってことは、武器を失なった人が大量に続出した可能性もある。これらから導き出される答えは……」

 

 おもむろげに椅子から立ち上がると「ごめんなさい。少し席を外すわ」と言い、急ぎ足で家の外へと出て行った。

 

 玄関の扉が閉まると同時に二人の視界の端で、何時までも四つん這いなっていたベルが、おもむろに立ち上がり、ミランダが座っていた椅子へ座った。心なしか元気がなさそうに見える。

 

「話は聞いていたのじゃ。どうやら、剣の新調はできなかったようじゃな。それに武器が枯渇していると……」

 

 彼は先ほどの三人の会話を聞いていたようで、溜息交じりに話していく。

 

「ベル博士。そのことについてなのですが、ミランダさんから紫の石を回収しているようなことは聞いていませんか?」

 

「確かに、ミランダは研究のためにいくつかは回収したと言っておったが、それがどうかしたのじゃ?」

 

 ミランダとの会話を思い出すように彼はコミからの質問に答えるが、よく分からないといった表情をする。

 

「武器屋の店主とお話をしまして、その時に紫の石が武器になるかもしれないと分かりました」

 

 彼女の言葉にベルが机の端を激しく掴み「なんじゃと! どういうわけか教えてくれなのじゃ!」と前のめりになって二人に顔を近づける。

 

「どうやら紫の石は、普段武器を作るために使われている鉱石よりも硬く熱に強いといった性質を持っているようです。なら、鉱石と紫の石を混合させて、壊れにくい武器を作れるのではないのかという考えに至りました」

 

 落ち着かせるように手を伸ばしたコミの説明にベルが納得したようで椅子に腰を下ろした。

 

「確かにその可能性は否定できないのう。試してみる価値はあるのじゃ。ミランダが戻ってきたときに貰えないか一度聞いてみることにしようかの」

 

「分かりました。ところで、ベル博士は研究で何か掴めましたか?」

 

「紫の石が、この世界で判明しておるどの鉱石より硬い物質なのが分かっただけじゃの。他は何も分からなかったのじゃ」

 

「ベル博士でさえ分からないなんて……」

 

 思わずコミが声を口にだした。

 

「そりゃ、わしだって万能ではないのじゃ。現に福音の解読ができなかったからのう。さて、ミランダが帰ってくるまでに、見える君の新たな名前を決めるのじゃ!」

 

 ベルが生き生きとした表情で調子よく騒ぐと、ミランダが戻ってくるまでに見える君の新しい名前を決定するため三人は談義しあうのであった。

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