アートとコミとベルは港町から、軍の仮拠点にある仮研究室の中へと戻っていた。
「二人はここで待っておるのじゃ。わしが軍の者に武器屋での話を報告してくるからの」
ベルはそう言うと二人を置いて外へと出ていく。それを見送った二人は、部屋にある机への元へと足を進めた。
「そういえば、ミランダさんが見えませんね」
「外にある台座などを調べているのではないでしょうか? 研究対象ですから、いなければその辺りに居るはずです」
アートが部屋の中を見回しながら椅子へと座ると、コミも彼の疑問に答えながら共に座った。
「台座……研究対象ということは、もしかして福音があった場所とは……」
彼の考えに、コミは頷く。
「お察しの通り、あの台座の上に置かれていました。でも少しおかしいですよね。雨風を凌げる訳ではないのに、多少風化しているだけで綺麗な状態を保っていたのですから」
「確かにおかしいです。どう見ても野ざらしになっていました。あれでは雨風を凌げられません。もしかしたらマホウが関係している可能性があるのでは?」
「これまでの出来事だと関係してそうに感じます。一度、ミランダさんに聞いてみましょう」
「分かりました。ただ、聞きに行くのはベル博士が戻ってきてからにしよう」
その後もアートとコミはベルが戻ってくるまで台座について話し合うのであった。しばらくすると家の扉が開かれる。どうやら外からベルが戻ってきたようだ。後ろにはミランダの姿も見える。二人はアートとコミに近寄った。
「二人とも立つのじゃ。軍の者には報告しておいた。後は大丈夫じゃろう。わしたちは明日、宮殿の探索に戻る。じゃから準備を整えるために帰るとするぞ」
「少しだけ待ってください。ミランダさんに話したいことがあります」
「私に?」
「はい。福音の本がどうして発見されるまで野ざらしだったのに綺麗な状態を保っていたのか。もしかしてマホウが関係しているのではないかと思いまして」
「教えてくれて嬉しいのだけど、私もその可能性を考えて今、調査しているところなの。まだ何も見つかってないけどね」
少し苦笑いしながらミランダはアートの提案に答えた。
「そうだったんですね。他には……特にありませんし、僕たちは準備をしてきます」
ミランダの答えに納得したアートとコミは、購入してあった食材を取りに冷箱が置いてある方へと向かう。残された二人は彼らが戻るまで、その場で待機した。
「ミランダ。時間を作ってまで協力してくれたお主には感謝するぞ。わしたちだけでは、宮殿の探索に戻れなかったかもしれぬしの」
「ありがとう。でもベル博士たちに協力して良かったと思うわ。おかげで色んな体験ができたし、危機も乗り越えられそうだしね」
二人が会話しているとアートとコミが戻ってきた。手には食材の入った麻袋を持っている。
「ベル博士。準備が終わりました。いつでも帰れます」
「うむ。それでは帰るとするかの」
ベルの指示に二人は了承し、ベルと二人は仮拠点から離れれている、普段使っている家へと帰る。帰ってきた三人はすぐに家に中へ入ると宮殿探索のための準備を始め、明日へと備えるのであった。
日が昇って辺りが明るくなる頃、三人は再び石扉へと向かう。石扉は前に三人が見た時と変わらず、開かれたままの姿を見せていた。
「何も変わっていませんね。もしかして、黒い霧の獣は関係していないのでしょうか」
「まだ外側だけじゃから判断できぬ。じゃが石扉は変わらなぬのであれば、宮殿の方が関係している可能性があるの。すぐに宮殿へと向かうのじゃ」
三人は洞窟を通って宮殿へと向かう。道中、辺りを見渡したりベルの背負った機械、サーチ君で調べたりしながら向かうが、前に来た時と何も変わらない状態であり、何事もないまま宮殿の中へとたどり着いた。宮殿の中では大階段の間にある扉の隙間から黒い霧が溢れているのが視界に入ってくる。
「あれは……」
「原因は見つかったの。しかし……これは開けて良いものか……」
「一度、調べて見ませんか? 悩むよりは、いいと思いますが」
「コミの言うとおりじゃな。近づいてみて異常がなければ調べるのじゃ」
黒い霧が溢れている扉へと三人は近づくと、特に肉体的に異常がないことが分かり、そのまま扉の前へとたどり着く。
「何も起きませんね。てっきり黒い霧の獣が現れるかと思いましたが」
「そうじゃの。ここまで何も起きないと逆に怖いものじゃ。試しにサーチ君で調べてみるかの」
ベルはサーチ君の画面を見つめようとすると、コミが何かに気づいたようにベルが持つ麻袋を見つめる。
「ベル博士。麻袋から青い光が漏れているようなのですが、何が光っているのですか?」
コミの言葉に彼は自身の麻袋を見る。すると薄っすらとだが青い光が漏れていることに気づいた。
「本当じゃの。一体何が漏れているのじゃ?」
ベルは調べることを中断し、自身の麻袋を開く。その中で青い光を放っている小袋を取り出して開く。光の発生源は複雑な彫りがある金属の棒であった。それを慎重に掴み、外に出す。
「なんじゃこれは? 今までこんな現象は起きていなかったはずじゃが……この扉に近づいたせいかの?」
金属の棒を持ったままベルは黒い霧が漏れている扉を見つめる。しかし扉に変化はないようであった。
「福音に書かれていた鍵ですよね。この扉の鍵なのでしょうか」
アートがベルの手に持った棒を見つめる。
「どうだろうの。パッと見る限りじゃと鍵穴は見られぬ訳じゃし、開く気配もないの。違うのではないのじゃ?」
「そうですか……コミさんは何か分かりませんか?」
アートの質問にコミは考える仕草をするが、すぐに首を横に振った。
「分かりません。不思議な感覚を、その棒から感じるだけで特には……」
「持ってみたらどうじゃの」
コミはベルから差し出された棒を受け取ると突然、頭を抱えてうずくまった。その様子を見た二人は慌てて彼女の無事を確認する。
「……二つの鍵です。この扉を開くには同じ形の鍵が、もう一つ必要です……」
息を切らしたコミが、自身の無事を確認する二人に告げ、立ち上がった。
「二つの鍵? この棒がもう一つあるのですか?」
「そうですアートさん。この宮殿の東側にあるみたいです」
「それよりも大丈夫なのじゃ? かなりキツそうな顔をしておるが、家で休んだ方がいいのではないかの」
「大丈夫です。少し休憩すれば治ります」
「分かったのじゃ。ただし無理はせぬようにの」
コミの体調が良くなるまで休暇した後。三人は東側の扉へと向かう。ただ、一階にある扉は開くことは出来ず、二階にある扉のみ開くことが出来た。中に入ると西側に入った時と同じで、廊下と複数の扉があるだけであった。
「もしかして、この宮殿は左右対称なのではないでしょうか?」
「この作りを見るに、そうだとしか言えぬの。とりあえず、おかしな所がないか確認しながら奥へと向かうのじゃ」
三人は辺りを見渡しながら奥へと向かうが、特におかしな所は見つからず、そのまま廊下の奥にたどり着く。
「サーチ君は、見えない奥の扉以外に反応はなし。何もなかったの」
「コミさん。お願いしていいですか? 奥の扉は僕たちには見えないので」
アートのお願いにコミは返事をして扉を開ける。中は礼拝堂の時と同じように吹き抜けになっており、壁際の廊下を歩くと途中で一階に降りることが出来る作りになっていた。
一階を覗くために三人は手すりから顔を出すと、部屋の中央には一体の巨像が微動だにせず鎮座しており、周りには布がかかった複数の机が見える。机の上にはロウソク立てと食器が置かれていて、食事をする場所だということが分かった。
「一見、ただの食堂みたいですが、あの巨像は一体なんでしょうか」
「姿、形を見る限り、女中に見えるのじゃが。なんじゃろうの? アート、本には載っておらぬか?」
ベルがアートの方を見ると、既に本を取り出して載っていないか確認していた彼が紙を捲るのを止める。
「載っています。どうやらメイドゴーレムらしいです。主に世話をするために作られたみたいですね。ただ、文字が所々、途切れていて読めない所があって、セン・・モ・・何のことでしょうか?」
「どれ?」
アートが指でなぞった所をベルが確認すると、確かに一部文字が消えかけている所があり、読むことが出来なかった。
「読めぬの。元々は何と書いておったのじゃろうな」
二人が会話をしていると、コミが慌てた口調で巨像に指をさす。
「巨像がこっちを見ています! それに何やら顔の前に光が!」
サーチ君が大きな音を鳴らし警告し始めた。
「魔法よ――」
コミが急いで詠唱する。
巨像の顔から巨大な熱線が放たれた――
熱線はコミが出した障壁に阻まれるが、三人が立っていた足場を粉々に砕き、奥の壁にヒビを入れて止まった。
三人は自身を支える二階の廊下がなくなり、そのまま一階に落下して床へと転がる。急いで立ち上がり、メイドゴーレムの方を見た。
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メイドゴーレムは顔についた光を点滅させて音を発しながら、三人を見つめているのだった――
光がアート達を襲う。間一髪で避けた三人はコミが作り出した障壁の中に入り、迫りくる光をやり過ごしながら、メイドゴーレムを分析していく。
「なんじゃ! あの光は! 強烈な熱の束だとサーチ君が常に警告を鳴らしておる! 当たってしまえば、その部分は溶けて消えてしまう! 危険すぎるのじゃ!」
障壁にぶつかった熱線が反射し、別の場所に衝突するも溶かして貫通していく。穴が開いて赤く染まり煙を立てる床などを見て、冷や汗を掻いたコミが叫んだ。
「ベル博士! 何とかならないんですか⁉」
「あるにはあるのじゃが……それには、あの熱線を搔い潜ってナイトゴーレムの時と同じ核を破壊すればよいのじゃ。しかし、この猛攻を潜り抜けるなど――」
ピシッ!
ベルの言葉を遮るように何かが割れるような大きな音が聞こえた。三人は急いで音の鳴る方へと顔を向けると障壁にヒビが入っているのが見えた。
「ベル博士! 障壁が持ちません!」
コミが必死になった顔を、後ろで作戦を練ろうとしている二人に見せながら現状を伝える。
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メイドゴーレムが音を発すると、熱線の威力が増した。障壁のヒビが、やがて亀裂へと変わる。
「障壁が破壊され次第、全員回避し作戦を開始する! アートはわしたちが作る隙をついて、あのゴーレムの核を破壊するのじゃ!」
アートとコミが「了解!」と叫んだ瞬間、障壁が破壊される。三人は横に飛び込み前転をして、崩れた床の陰に隠れた。熱線が誰もいなくなった箇所に着弾し、煙を発生させ辺りを覆い隠す。
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音を発したメイドゴーレムは熱線を止め、何かを探すように辺りを見回し始めた。
鳴りを潜めた三人はメイドゴーレムの様子をうかがう。
「あのゴーレムは私たちを探しているようです。ベル博士、今のうちにゴーレムの後ろに回って注意を惹きましょう」
「その前にアートにマホウを使用するのじゃ」
「危険です。今、それをしてしまうとマホウの明かりで居場所がバレてしまいます」
「……アート。マホウなしでも……いけるかの?」
「……いけるかどうか分かりません。だけど、それが最善の選択肢なら、全力でおこなうだけです」
「核は胸の中心じゃ。コミ、わしたちはゴーレムの気を引きに向かうのじゃ」
コミとベルは崩れた床の陰や煙に隠れてメイドゴーレムの後ろへと移動する。煙が収まってくると、二人が床に転がっている手ごろな石を、背を向けているメイドゴーレムに向かって放り投げた。石は放物線を描いてぶつかる。
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メイドゴーレムは石を投げた二人の方へと振り向くと、すぐさま熱線を放つが、障壁を展開したコミによって熱線は遮られた。
「アートさん今です!」
熱線を必死に防ぐコミの叫びに、短剣を手に持ちメイドゴーレムの背後へと近づいていたアートは気合を入れるように叫び、走りながら短剣を突き出す。
「>_*<+’_}_・+\{$#^#{’*]+’_・#*。#{・’_*”%+^#_*・+}_;{$*^\^;{・_<*>_}_*€_\^」
メイドゴーレムは放出していた熱線をそのままにアートの方へと振り向いた。
熱線はアートのわき腹に接触し細胞を破壊する。彼は痛みに顔をゆがめるが、走る足の勢いを止めず、短剣を核へと突き刺した。
パキン!
割れる音が食堂全域に響き渡り、メイドゴーレムから光が漏れ出していく。放たれていた熱線は停止し、やがて……床へと倒れた。地面との衝突により何かが飛び出すのと同時に光が完全に消え去るのであった。
それを見届けたアートは倒れ伏しそうになる肉体を短剣で支える。息切れと、わき腹から液体が零れ落ちていく。
辺りが静かになり、動かなくなったメイドゴーレムを確認した二人は功労者であるアートの元へと向かおうとするが、彼のただならぬ様子を見て慌てて近づいた。
「アートさん! すぐに手当てをしますから横になってください!」
コミがアートを支えながら、ゆっくりと横にしていく。その横でベルがコミの麻袋から治療用の道具を取り出し彼女の前へと置いて準備をしていった。
用意された道具でコミはアートを治療していく。アートのわき腹は少しだけ肉がえぐれていたが、応急処置により止血することに成功した。何とかなったと安心する彼女の頬に雫がなぞる。いつの間にか汗をかいていたようで、腕でぬぐった。
「……何とかなりましたが、一度病院にて治療してもらった方がよさそうです」
「そうじゃの。アートがこの様子じゃあ、探索を続けるのは危険なのじゃ」
呼吸が落ち着いてきたアートが起き上がろうとするが、わき腹の痛みにうめき声をあげる。体を支えていた腕が耐えきれなくなり落下した。
「安静にしてください!」とアートの行動に慌てたコミが背中を支え落下を阻止する。
「病院で……治療する余裕は……ないはずですが……」
「しかし、今の状態で立ったり走ったり戦闘ができるかの? かなり顔色が悪そうに見えるのじゃが……」
「大丈夫です……少し休めば……動けます……」
「本当じゃの?」
ベルの疑問にアートは頷いた。
「なら、しばらくそこで休んでおるのじゃ」
再び頷いた彼はコミの協力により、その場で横になる。目を閉ざすと、すぐに寝息を立て始めた。
「ベル博士。本当にこのまま探索を続けるのですか?」
コミは眠っているアートに膝枕をしている状態でベルに問いかける。
「わしは……探索を中止すべきだと思うのじゃ。じゃが、アートの言葉も理解できる。黒い霧……あれを早くどうにかした方がいいのは明確じゃろう」
ベルは辺りを見回しながらコミに答えると、メイドゴーレムから飛び出て近くに落ちていた複雑な彫がある棒を手に取った。
「分かってはいるのですが……」
「まあ、アートの回復が見込めなかった場合は探索を中止し、速攻で病院へと送るのじゃ。わしたちが出来るのは、これぐらいじゃな」
「私は……アートさんに無茶をしてほしくないです」
「それは……そうじゃな……」
二人が見つめるその先には、安らかに寝息を立てるアートがいたのだった。