魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

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第十四話 黒い霧の門番

 青白い光が浮かぶ空間でアートは目覚める。しかし傷を休めるために硬い床の上で寝ていたはずなのに、頭の下の感触が柔らかく感じた。ゆっくりと体を起こすと上から「きゃっ」と声が聞こえてきた。声がする方へと顔を向けると、そこには正座状態のコミが、後ろに倒れようとする自身の体を、床についた手で支えて安堵の表情を浮かべている姿だった。

 

 姿勢を整えたコミが、すぐにアートの方へと顔を向ける。

 

「アートさん! 気を付けてください!」

 

「ごめんなさい?」

 

 頭から疑問符が出そうなほどの顔をしたアートが謝ると、コミはしばらく沈黙したのち溜息を吐いた。

 

「いえ、いいんです。アートさんが現状のことをよく理解できてないのに、攻めるのが間違っていました。こちらこそごめんなさい」

 

「現状……?」

 

 アートは戦闘によって壊れた辺りを見渡して、ようやく気付いた。

 

「コミさん。あのゴーレムはどうなったんですか?」

 

「それは、わしが答えよう」

 

 彼の視界の端からベルが顔を見せる。そのまま二人に近づいて床に座った。

 

「ゴーレムならあそこじゃ」

 

 ベルが指差す所には、動きを見せないメイドゴーレムが確認できた。

 

「一応、確認したのじゃが、核が完全に破壊されておるし、動く気配もないのじゃ。一先ず勝ったというところかの」

 

「良かったぁ……」

 

 核を破壊できたことにアートは安心して肩の力を抜いた。

 

「そうですよ! 間に合ったからよかったものの、もし間に合わなかったらと思うと……考えたくありません!」

 

 コミが涙目になってアートに訴える。

 

「ごめんなさい」

 

「無事でよかったです」

 

「生き抜くための作戦があれだとはいえ、無茶をさせたのじゃ。まさか、あのまま振り向くとはの」

 

「ええ、予想外でした。これからは、そういうことも踏まえて考えたほうがいいですね……」

 

「そうじゃの。作戦を練る時は考慮しておくとするのじゃ。まあ、あんなのが今後現れないほうが良いのじゃがの。ほれ」

 

 手に持った複雑な彫がある棒をアートに見せる。

 

「戦利品じゃ。あのゴーレムが持っておったようじゃの」

 

「もしかして、それが二つ目の鍵ですか?」

 

「恐らく、そうじゃろうな。前に手に入れた鍵と形状が、そっくりなのじゃ。それにコミからのお墨付きじゃしの」

 

「その棒からも同じく不思議な感じがしますので、間違いないかと」

 

「では、急いで閉ざされた扉を開けましょう」

 

 急いでアートが立ち上がろうとするが、ベルが制止して床に座らせた。

 

「アート待つのじゃ。この二つの鍵で本当に開くのかどうか、まだ分からんし、それに怪我のほうは大丈夫なのじゃ?」

 

「大丈夫です。多少、痛みはありますが、戦闘が出来ないほどではありません」

 

 そういって体操を始めようとするアートにベルは呆れた顔をして息を吐く。

 

「……まあ、本人が良くても一度、コミに確認してもらったほうが良さそうなのじゃ……」

 

「アートさん。傷を見せてください」

 

 彼はコミの言われるがままに治療を受けた、わき腹を見せる。巻かれた包帯は赤く染まってはいるが、外に漏れ出してくる液体はない。

 

「治まっては……いるようですね。新しい包帯に取り換えるので動かないでください」

 

 包帯がゆっくりと取り除かれる。たまに固まって、へばりついた液体が肌から剝がれるたびにアートは顔を歪めた。完全に包帯が取り除かれると、そこには少しだけピンク色が覗き込んでいた。

 

「だいぶ良くはなっていますね。しかし、あまり大きな運動をおこなうと悪化するでしょう。やっぱり、病院に行きませんか?」

 

 コミが新しい包帯を巻きつけながら、不安そうな顔でアートに問う。

 

「いえ、僕は大丈夫です。行きましょう」

 

 彼の意思は固いようで、このまま探索を続けるらしい。聞いていた彼女はあまり良い表情をしなかった。

 

「そこまで言うのであれば止めはせぬが、わし達が見てアートの調子がおかしいと感じたら、病院に連れて行くからの。……分かったのじゃ?」

 

「分かり……ました」

 

 ベルの圧に負けてアートは了承した。

 

「包帯の交換が終わりました」

 

「ありがとうございます。コミさん」

 

「絶対ですよ?」

 

「……」

 

 コミの涙の跡が残る曇りのない笑顔に、アートは何も言えずに頷いた。

 

 少しの休憩した後、三人は立ち上がり黒い霧が漏れ出す、閉ざされた扉へと向かう。先ほど食堂に入るために通った二階の扉は戦闘により、床が破壊されて通ることが出来ないため、一階のエントランスホールへと繋がるかもしれない廊下を歩く。だが、何かがおかしいことに三人は訝しんだ。

 

「空気が……重い?」

 

 扉へと近づくたびに空気が重くなってくるようで、足を進めるたびに呼吸する回数が多くなっていく。

 

「扉から黒い霧が漏れて出しています」

 

 コミの発言に残りの二人は扉を固視するが、彼女の言う黒い霧が見えることはない。

 

「コミしか見えておらぬようじゃな。まだ可視化までは、なっておらぬかもしれんの」

 

「コミさんが見えるようになってきたということは、本格的にまずいのでは?」

 

「二人とも急ぐのじゃ」

 

 エントランスホールに繋がる扉を開き、閉ざされた扉へと近づく。漏れ出していた黒い霧が扉を黒く染め上げ、近づく者を拒むように霧を放出していた。三人の呼吸が荒くなる。

 

 ベルが持っている麻袋の一部から、青白い光が強く発光している事に気づいたコミが告げる。

 

「ベル博士。鍵が光っています。扉に近づけてください」

 

 二つの鍵を取り出したベルは、二人の一歩前へと歩みを進める。

 

「……覚悟はできておるかの?」

 

 振り返ったベルが確認を取ると二人は頷いた。彼は扉へと視線を戻し、二つの鍵を捧げるように前へと突き出す。二つの鍵は輝きを増し、扉へと光を放つ。それは浸透するように扉を覆っていく。やがて光が収まり、扉が自動で開かれた――

 

「この先に……」

 

 アートが一歩前に出ると、開かれた扉から黒い霧が溢れ出した。とっさに顔を庇った三人は黒い霧の激流に巻き込まれ宮殿の入口へと流される。

 

「一体何が……!」

 

 目を開くと扉から出ている黒い霧が、複数の糸の形状をして上へと昇っているのが見える。流れを追っていくと、その先には黒い霧が大きな円形の塊となって鎮座していた。

 

「アートさん。マホウを」

 

 嫌な予感を感じ取ったのか、冷や汗をかいたコミが言われた通りにアートへとマホウを掛ける。

 

「すまんのじゃ、二人とも……サーチ君は先の戦いで壊れてしまったようじゃ」

 

 うんともすんとも言わないサーチ君を見つめながら、ベルは二人に告げた。

 

 三人がそうこうしている間にも黒い霧は大きさを増していく。時々、霧の隙間から巨大で透き通る紫色の石が顔を覗かせている。徐々に増える体積に耐えきれなくなっているのか、下へとゆっくり下がっていた。

 

「紫色の石……黒い霧の獣と同じ、じゃな……」

 

 黒い霧が床へと接触する。それは黒い突風を引き起こし、耳をつんざく程の叫び声が部屋中に響き渡った。目を開けることが出来ないほどの風が収まり叫び声を上げた存在が顕わになる。

 

 肥大化した上半身に羽毛を生やした下半身の黒き四足の獣。獅子の様な頭の左横には一本の巨大な角が生え、人間よりも遥かに大きな体を震わせる。赤黒く濁った一つの瞳は三人を視界に捉えていた。

 

 体からは人の子供の体格に似た顔がない存在が零れ落ちていく。床に汚い水音を立てて顔面らしきところから着地するとすぐに二本足で起き上がった。顔面の中央から顔全体にかけて空洞が出来ていく。やがて、それが口だとでも言わんばかりに開閉し産声を上げた。

 

 黒い霧の巨大な獣は再び耳をつんざく叫び声を上げる。それが合図かのように顔なき黒き子供は、三人へと襲い掛かった。

 

 アートは襲い掛かる黒き霧の子を短剣で切りつける。すると前に戦った狼の型をした黒き霧の獣の時とは違い、すり抜けることなく体に傷を負わせられた。斬られた個所から黒い霧が漏れ出し、黒き霧の子は叫びを上げ、存在を跡形もなく消滅していく。

 

「これが紫の石で作られた武器の力……」

 

 彼は予想以上の効果に驚くが、黒き霧の巨大な獣から止めどなく、黒き霧の子が量産されていくのを見て気を引き締める。

 

「あの霧の獣に近づくことは難しいかの?」

 

「……難しいです。次々に現れる人型を処理するので精一杯です」

 

 迫ってくる黒き霧の子を斬り伏せ、巨大な獣を睨みつけるが、巨大な獣は三人を視界に捉えたまま扉の前から微動だにせずに子を生産していく。

 

「部下に任せて観客にでもなったつもりでいるのでしょうか?」

 

 障壁を展開していたコミが、いら立ちを隠そうともせず、巨大な獣を睨む。

 

「とにかく、今がチャンスじゃな。わしたちは、あの量産を止めるすべを探す。一旦、ここはアートに任せたのじゃ」

 

 ベルの言葉に頷いたアートは、二人が移動しやすいように動きまわり、かく乱し始める。黒き霧の子の大半が彼に気を引かれ近づいていくのだった。

 

 黒き霧の子がアートに集中しているうちに、ベルとコミは巨大な獣の視界から逃れるように隠れて近くまで移動し、どうにかして黒き霧の子の量産を止める手段を探す。

 

「あれは……」

 

 コミが指を差す、その先には扉から溢れ出る黒い霧が巨大な獣の背に向かって糸のように伸びているのが見えた。

 

「もしかして、あれが原因なのじゃ?」

 

「分かりません。ですが、力の源には違いなかと思います」

 

「なら、確かめるために断ち切ってみればよいのじゃが……形のないものをどうしたものか……」

 

「私が間に入って、障壁を展開してみるのはどうでしょうか?」

 

「未知なるものに未知なるものをぶつける……試してみる価値はあるのじゃ。わしが気を引くから、コミはその間に黒い霧の所に行くのじゃ」

 

「分かりました」

 

 ベルは駆け出して巨大な獣の視界に飛び出る。自身を主張するように手を大きく上げて大声を上げた。

 

「おーい! こっちじゃ!」

 

 巨大な獣が視界に入り込んだベルを睨みつけ唸ると、アートに接近しようとしていた一部の黒き霧の子が標的をベルに変え襲い掛かる。

 

「ひぇ~」

 

 走って逃げ惑うベルを他所に、コミが巨大な獣と黒い霧の糸の間に入り、障壁を展開する。すると糸は途切れ、黒き霧の子の量産が止まった。

 

 今まで動かなかった巨大な獣は、背中に違和感を感じたのか叫び声を上げると、後ろへと振り返る遠心力を利用して肥大化した前足で後ろにいたコミへと叩きつける。

 

 叩きつけられた前足は、コミが展開する障壁にぶつかり衝撃波を生んだ。鈍い音が響き渡り風が吹き荒れ、周りのあらゆる物を吹き飛ばした。

 

 ピシッ……ピシッ! 

 

 障壁に亀裂が入る。

 

「もっ……持たないっ……」

 

 必死に障壁を維持しようと前へと差し出した腕に自然と力が入るが、亀裂は大きくなり――割れた。

 

「っ――」

 

 コミは迫りくる前足に目を塞ぐが――いつまでたっても当たらないことに疑問を覚えたコミはゆっくりと目を開け――

 

 ――叫び声が響き渡った。

 

 巨大な獣は後ろへと飛び跳ねアートを睨みつける。前足からは黒い霧が漏れ出していた。

 

「なんとか……間に合いました……」

 

 息切れをしたアートがコミの隣で呼吸を整えながら短剣を構える。

 

「コミ……もうひと踏ん張りじゃ……」

 

 コミが声がした方へと振り向く。その先には息が上がっているベルが、紫の石の欠片を差し出していた。彼女は紫の石の欠片を受け取る。紫の光が体に吸収され、ただの石になった。

 

 巨大な獣を睨みつけ「いけます」と叫ぶ。

 

 その言葉にベルは何も言わず、代わりに親指を立てて突き出した。

 

 様子をうかがっていた巨大な獣は、その巨体に見合わない速さでアートたちに襲い掛かった。

 

 風鳴りを立て迫る前足にコミが障壁で対抗する。すぐに亀裂が走るが、その隙にアートが斬りつけた。斬られた個所から黒い霧が漏れ出す。

 

 巨大な獣は傷を負わしたアートに向かって、もう片方の前足で薙ぎ払おうとするが、彼はすんでのところで躱して、巨大な獣との距離を取った。

 

「アートさん! 避けてください!」

 

 コミが追撃せず後ろ足で体を斜めに上げた巨大な獣の、大きく息を吸い込んでいく様子を見て、何かに気づいてたように必死に叫ぶ。

 

 ドン‼

 

 前足を床に叩きつけた巨大な獣が勢いよく黒い炎を吐き出す。黒い炎は直線状にある物を全て焼き尽くして壁にぶち当たった。

 

 持続して吐き出される黒い炎の影響で辺りの温度が急激に熱を帯びていくが、途中で黒い炎が不自然な動きを見せるのと同時に巨大な獣が姿勢を崩す。

 

 短剣で斬られた個所から漏れ出していた黒い霧の量が増大しており、それに伴って体の形を保てなくなっているようだった。体から核が見え隠れしている。

 

 黒い炎を躱していたアートは、滑るように剥き出しになりかけている核へと短剣を突き付けた。

 

 パキン! 

 

 割れる音が部屋を埋め尽くすと共に核を失った巨大な獣はのた打ち回り、辺りを破壊しながら自身の姿を消滅させたのであった。

 

「何とかなったようじゃの……」

 

 成り行きを見守っていたベルが額から出てくる汗を拭った。

 

「あとは、あの扉の奥ですか……」

 

 息を整えたアートは、未だに黒い霧を放出している扉を見つめる。

 

「ベル博士。これ以上は私たちだけで奥に向かうのは危険です。軍の兵士に来てもらった方が――」

 

「コミよ。すでに来てもらえるよう手配しておるわ。武器が出来次第にはなるがの」

 

「それでしたら一度、外に――」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 コミの言葉を遮るように地響きが鳴り響く。突然の揺れに体勢を崩した三人は床に手をつき、必死にしがみついた。

 

「一体何が……」

 

 顔を上げた三人は、扉から放出されていく黒い霧が、一段と濃くなっていくのを瞳に移した。

 

 辺りに漂った複数の黒い霧が形を作り、黒き霧の獣へと姿を変える。

 

「戻っている暇はなさそうじゃの……」

 

 囲まれた三人は、お互いを背にして黒き霧の獣と相対するのであった。

 

 三人を囲む黒き霧の獣は様子をうかがうように睨みつけ唸っている。

 

「どうしますか? ベル博士」

 

「どうするも何も……」

 

 アートの質問に答えようとしたベルは、辺りを見渡すことで、あることに気づき言葉を中断する。一呼吸を置くと再び口を開いた。

 

「二人とも、よく聞くのじゃ」

 

 ただならぬベルの様子に二人は息を呑む。

 

「一つ。わしたちは閉じ込められたようじゃ。宮殿の出口が閉ざされておる。軍の助けは絶望的じゃろう」

 

 ベルの見つめる先には、先ほどまで三人が出入りしていた宮殿の出入口が扉により閉ざされていた。黒い霧がまとわりつくように扉を覆っている。

 

「二つ。これは見れば分かるじゃろう。囲んでおる霧の獣が増えておる」

 

 辺りを漂う黒い霧が、次から次へと獣へと姿を変えている。

 

「三つ。可能性は薄いが、ここから助かるためには、わしたちだけで元凶を止めることじゃ」

 

 いまだ黒い霧を放出し続ける扉に指を差した。

 

「アートにかけたマホウの効力は残っているかの」

 

「アートさん。どうですか」

 

「いえ。流石に切れかかっているように感じます」

 

「マズいの。すぐにかけ直すことは出来るかの」

 

「出来はしますが……ただ、私たちが動きを見せた瞬間に襲い掛かられると思います……」

 

 コミは見つめる、黒き霧の獣を。

 

「なら、それが合図じゃ。事が起き次第、わしたちは一気にあの扉の奥へと駆け抜けるのじゃ」

 

「分かりました」

 

 コミが詠唱を開始すると、今まで様子をうかがっていた黒き霧の獣が一斉に襲い掛かってくる。

 

「終わりました!」

 

「今じゃ!」

 

 アートが先陣を切り、三人は黒き霧の獣による猛攻を掻い潜る。一気に駆け抜け黒き霧が放出され続ける扉の奥へと飛び込んだ。

 

「扉を閉めるのじゃ!」

 

 三人は勢いよく扉を閉める。

 

「……何とかなったんですかね」

 

 息を切らしたアートが息を整えながら閉ざした扉を見つめた。

 

「分からん。しかし扉の先から物音が一つも聞こえぬ。今のところは大丈夫じゃろう」

 

「それにしても……ここはどこでしょうか?」

 

 辺りを見渡したコミが訝しむように顔を歪めた。

 

 扉から視線を外した二人は、コミが見つめる先へと視線を向けると思い思いに疑問を口に出す。

 

「ここは本当に宮殿の中なのですか?」

 

「おかしいの。黒い霧がどこにもないのじゃ」

 

 三人の目には、白い石の階段を降りた先に草木が生い茂って出来た巨大な緑のトンネルだけが映っているのであった。

 

「とりあえず……警戒しながら進むのじゃ」

 

 ベルの言葉とともに緑のトンネルの中を進んでいく。葉と葉の間からは青白い光が差していて中を明るく照らしていた。

 

「青白い光……宮殿の中と一致しますね」

 

「しかし、黒い霧の発生源に近づいておるはずなのに、黒い霧の獣どころか黒い霧すら見当たらないのじゃ。もしかして先ほどまでのは、まやかしか何かだったのかのう?」

 

「確かにそうですね……あの扉からは、禍々しいほどに黒い霧が出ていたというのに、いざ中に入ってみたら一つたりとも見当たらないとなると……訳が分かりません」

 

「私もです。扉を潜るまでは見えていた黒い霧がパタリと見えなくなってしまいました」

 

「……不思議なことがあるもんじゃのう」

 

 三人が疑問に思ったことを口々に述べて状況を確認していると、進む先の光が強くなっていく。

 

「もしかして出口なのでは?」

 

「かもしれんの」

 

「警戒して行きましょう」

 

 歩みを進めるたびに光が強くなり、やがて全身が光を帯びた。急激な眩しさにまぶたを閉じ手で覆う。目が光に慣れたころで手を外し、目を開け、前を見た。

 

 そこには色鮮やかな草花が咲きほこり、中央に巨大な噴水が鎮座しているのが確認できた。

 

「これは……一体……」

 

 アートは足を一歩前へと進めようとするのだが、ベルによって勢いよく手を掴まれ彼の方へと引き寄せられた。

 

「待つのじゃ。アート」

 

「っ。どうしたんですか?」

 

 いきなり引っ張られ転びそうになったアートは、体勢を整えベルの方へと顔を向ける。

 

「下を見るのじゃ」

 

 ベルの言う通りに顔を下に向けると長い階段がある。降りた先には関節から黒い霧を垂れ流しているスパイダー型のゴーレムたちが動き回っていた。

 

「危なかったのじゃ。もう少しで足を踏み外して、そのままゴーレムか地面に激突じゃったの」

 

「アートさん。警戒しましょうと言ったばかりですよ。気を付けてください」

 

 呆れた二人にアートは感謝と謝罪をするのであった。

 

「しかし、あのゴーレムが元凶なのでしょうか?」

 

 気を取り直したアートが、スパイダー型のゴーレムを見つめる。

 

「いや、あれほどの巨大な霧じゃ。ゴーレムが出している微々たるものじゃ足りぬじゃろう」

 

「となると、元凶はどこに――っ!」

 

 目を凝らしてみていたコミが突然、頭を抱えてうずくまった。

 

「……扉が……開かれ……っ」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 コミを心配して様子をうかがっていた二人は、地面の揺れに体勢を崩し手をついた。

 

 地響きが鳴り響き、辺りを揺らしていく。すると噴水の前に下へと降りる通路が出現する。噴水から、通路から、今までここに隠れていたのかと言わんばかりに黒い霧が勢いよく噴きだした。

 

 息切れしたコミが、よろけながら立ち上がる。

 

「…………呼んでいます。あの中に入れと……」

 

「それは本当なのじゃ?」

 

「はい。私たちを……いえ、私を呼んでいます」

 

「……」

 

「ベル博士……」

 

 アートの目配せにベルは頷く。

 

「分かったのじゃ二人とも。わしたちはこれから、行く道のゴーレムを退け、あの通路の奥へと進むのじゃ」

 

「了解」と二人は緊張した面持ちで声を揃える。コミがアートにマホウをかけると、三人はアートを先頭に走り出した。

 

 三人に気づいたスパイダー型のゴーレムが警告音を鳴らす。

 

「\*・・%^^\%_]+\*・・%^^]+]+¿\*・・%^>_>_>_>_>_>_>_>_$#^’{’{」

 

 しかし、いくら警告音を鳴らしても増援は来ず、次々アートによって破壊されていく。

 

「おかしいですね。これだけ、けたたましく鳴らされているのに増援が全く来ません」

 

「なんにせよ。増えなくてよかったのじゃ……」

 

「もうすぐ通路の入口です」

 

 コミの言葉とともに通路の入口へと勢いよく飛び込むのだった。

 

 三人がいなくなった庭園で、もう一度地響きが起こり出す。それは開かれた通路の入口を再び固く閉ざしていくのであった。

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