魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

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第十五話 古き魂は魔を操る者を待つ

「ますます帰れなくなったのう」

 

 三人は見つめる。自身が入ってきた入口が塞がれるところを。

 

「後戻りは……出来ないようです」

 

「ベル博士、アートさん。進みましょう」

 

「€_$#^#{……*#_-+。€_]+_%_#^}^]_}{}_<_\*\+・%+」

 

 突如として聞こえてくる音に三人は辺りを見渡す。

 

「\__……#^^}+・+\_’*・*_}^>{%_>{#+’^}^・+;_……\+’+;{]_}{>_€_$#^#{*}^……」

 

「……子孫」

 

 コミがうわ言のように呟く。

 

「何か聞こえたのですか? コミさん」

 

「――はい。彼は通路の先にある部屋で待っているようです」

 

 アートに話しかけられたコミは一旦考えるのを止めて、彼のほうへと向いて疑問に答えた。

 

「彼とは一体なんじゃ?」

 

「……分からないのです……ただ、この音は……いいえ、この声は、私の頭に直接掛けてきた声です」

 

「ということは……この通路の先に声の主がおるのじゃな」

 

「はい。しかし……ここまで来て少し不安になってきます。はたして、本当に会ってよいものか……」

 

 コミは見つめる通路の先を――

 

「!」

 

 深く思考する彼女の手が、突如として温かい何かで包まれた。コミは、すぐに自身の手を見る。そこには彼女の手を握るアートがいた。

 

「僕たちがついています。だから、安心してください。必ず、守りますから」

 

「アートさん…………。ありがとうございます」

 

 コミはアートに笑顔を見せた。

 

「あっはい」

 

 彼女はタジタジになるアートを見て、クスリと笑う。繋がれた手を優しく放し、顔を真剣な表情へと変えると通路の奥を見つめた。

 

「落ち着いたかの?」

 

「はい。アートさんのおかげです。行きましょう」

 

 三人は黒い霧が漂う通路を進む。道なりに進むにつれ黒い霧が更に濃くなっていく。やがて奥にある扉にたどり着き、開けた――

 

 ――開かれた扉の中に入ると、そこには巨大で広い空間があり、高さに至ってはどこまで続いているのかが分からないほど広々としていた。

 

「誰も……いませんね。コミさんは誰か見えますか?」

 

「いいえ。私も、誰もいないように見えます」

 

「そうなると声の主は一体、どこにおるのじゃ?」

 

 声の主を探すために部屋の周りを見渡す三人。しかし、見えるのは床と壁があるのみで、物でさえ一つも見当たらなかった。

 

「#^*・*……’*#_・+;_・_」

 

 部屋の中央から声が聞こえてくる。三人は慌てて部屋の中央に近づくが、当然その場所には誰もいない。

 

「あなたが私に直接、声を掛けた方なのですか?」

 

 誰もいないのに聞こえてくる声に対して、困惑した表情をしながらコミは問いかけた。

 

「\+・+……#++}*……;_…………]_}{}_<_\*\+・」

 

「一体何のために――」

 

「]_}{]+……]_}{]_}{]+——(我を……我々を——)」

 

 \^’^$#^#{’^}{(救ってくれ)

 

 ドン‼

 

 突如として、中央付近の遥か上から降ってきた巨大な黒い物体が、床に衝突し衝撃波を生んだ。激しい風が巻き起こりアート達を地面に拘束する。

 

 やがて風が収まり出すと、巨大な黒い物体から激しい金属音が鳴り響き始めた。赤い光が彫をなぞり、形を変え、上半身のみの人型鎧が姿を現す。

 

 尖った厳ついトカゲの頭部を持ち。全身が尖った鱗の様に覆われ、手から生える鋭利な爪は獲物を引き裂くとでも言うように鈍く光る。上半身のみの体は磁場によって宙に浮き、頭部から光る赤黒い瞳でアート達を上から見下ろしていた。

 

「……それはどういう――」

 

 謎の声はコミの言葉に反応を示さなくなり、その代わりですと言わんばかりに人型鎧が鋭利な爪で引き裂こうと腕を振り下ろすことで答えた。

 

「危ない!」

 

 とっさに動いたアートがコミを抱きかかえ躱し、安全圏へだと思われる場所へと移動する。

 

「大丈夫ですか」

 

「はい大丈夫です」

 

「……一体、コミは何を聞いたのじゃ」

 

「彼は、救ってほしいと語りかけてきました」

 

「ふむ。先の攻撃といい、何か事情があるわけじゃな」

 

「ええ……」

 

「でも、救うにしても、どうやって……」

 

 三人があれこれと話し合っている間にも、人型鎧はぎこちない動きで近づき攻撃を繰り出そうとしてくる。

 

「ともかく一度、大人しくさせるほうがよさそうじゃ――の!」

 

 人型鎧の攻撃を避けた三人は戦闘の準備を整えると敵対するように構えた。

 

 三人が準備をしている間、何故か動きを見せなくなっていた人型鎧は過剰に震えだし、荒げた音で……声で叫び狂うように暴れ出す。

 

「€_>+^・+#*’_}_;{\^’^$#^#{、\^’^{、#_\^’{#{、€+^€+#_・_*、’^}+’*€_€+・+>_\^<^\+’+・+」

 

 一通り叫び終えた人型鎧は、しばらく沈黙した後、あらゆる隙間から黒い霧を噴出させた。

 

 人型鎧は再び動き出す。先ほどまでの、ぎこちなかった動きが嘘のように、滑らかな動きを見せて。態勢を整えた人型鎧は自身の辺りに衝撃を生むほどの唸り声を上げるのだった。

 

 人型鎧が三人に向かって腕を振り下ろす。三人が避けると振り下ろされた腕は、そのまま地面に強烈な一撃を叩きつけた。地面が振動して揺れが辺りに広がる。先ほどまでの、ぎこちなかった様子から一転し、枷が外れたかのような力を見せつける。

 

「先ほどよりも強くなっているように感じます!」

 

「どうやら、動きを阻害していた何かが取れたような動きじゃ……」

 

「次、来ます!」

 

 人型鎧が自身の攻撃を避けた三人を、振り下ろしたままの腕で薙ぎ払おうとするが、彼らは後ろに下がり距離を取ることによって横から迫りくる腕を回避する。

 

「さて、どうするかの」

 

 冷や汗をかいたベルが人型鎧を見つめる。

 

「とりあえず、剣で切りつけてみます。その間にベル博士は突破口を探してください」

 

「分かったのじゃ。死ぬんじゃないぞアート」

 

 ベルの言葉に彼は頷くのみで答え、人型鎧に向かって走り出した。

 

「さて、わしたちは奴の弱点を探すのじゃ」

 

「了解しました……」

 

 ベルとコミは人型鎧の弱点を探すために一体と一人の戦いを観察する。

 

 人型鎧は何度も何度も拳で殴りつけるようにアートに向かって突き出す。その拳はアートが躱した後に地面に衝突し、辺りを振動させていく。

 

 拳を躱し続けるアートが隙を見て短剣で切りつけた。

 

 キィィン!

 

 斬りつけられた短剣は人型鎧の強固な守りにより金属音を奏でながら弾かれた。

 

 彼の攻撃が効いていない人型鎧は接近していたアートから後ろへと下がることで距離を取り、再び拳で殴りつけている。観察していた二人の目には、そんな光景が何度も繰り返されていた。

 

「あの剣でも効果がないようじゃな。先ほどの音と言い、あれは完全に金属物質じゃ」

 

「でも金属の鎧を突破しなければ、勝ち目はありません」

 

「それはそうなのじゃが……!」

 

 ベルが、あることを閃いたかのように口角を上げて、コミを見る。

 

「どうしたのですか? ベル博士」

 

「いいことを思いついたのじゃ。早速、準備に取り掛かるぞ」

 

 そう言って、彼がコミに見せたのは壊れて動かなくなったサーチ君だった。

 

 準備を始める二人を他所にアートと人型鎧の攻防は更に激しくなっていく。

 

 しかし、いつまでも進展のない攻防に人型鎧がしびれを切らしたのか、今まで噴出するのみだった黒い霧が、背中から腕のように形を変えて攻撃の手数を増やした。

 

 繰り出される拳の数が増え、アートが徐々に押し負け始める。必死に対処するのだが、あまりにも相手の手数が多いため反撃することが叶わなくなっていた。追い詰められていく彼が、ついに腕で薙ぎ払われ部屋の端へと吹き飛ばされて動かなくなった。ただ、呼吸を短い区間で繰り返しているので、生きてはいるようだ。

 

 アートを吹き飛ばした人型鎧は彼の息の根を止めるため近づき、両手の指を組んで叩き潰そうと腕を振り上げた。

 

「今じゃ! いくぞ!」

 

 人型鎧の背後からベルの声が大きく響き渡る。人型鎧がベルの声に反応して振り向いた。その先で見えたのはベルとコミがサーチ君を投げようと振りかぶっている姿だった。

 

 投げ出されるサーチ君は弧を描いて人型鎧へと向かっていく――

 

 人型鎧はアートを潰すために上げていた腕を、飛んでくるサーチ君に向かって振り下ろした。その様子を見てベルの口角が上がる。彼は手に持っていた赤い突起を押した。

 

 ピッ

 

 サーチ君から何かが起動した音が鳴った瞬間――

 

 轟音を鳴り響かせ爆発した。

 

「サーチ君爆弾のお味はどうじゃ? 流石に爆発には耐えられんじゃろう!」

 

 盛り上がるベルを他所に爆発に巻き込まれた人型鎧が、晴れていく煙幕から姿を現した。

 

「頑丈ですね……」

 

 装甲が多少剥がれ落ちただけの人型鎧を見てコミが呟く。

 

「じゃが、弱点らしきところが見えたのじゃ。勝機はわしたちにあるのじゃ」

 

 装甲が剥がれた胸元から各ゴーレムに見られた核が見え隠れしているのを見つけたベルが喜ぶのだが、隣に居たコミは冷や汗を掻いていた。

 

「しかし、アートさんがあの状態では……」

 

「それは、そうじゃが……」

 

 二人が起き上がらないアートを見て焦っていると、人型鎧が唸り声を鳴り響かせる。黒い霧が形を変え人型鎧に纏い始めた。下半身が生まれ獣のような逆関節の足が生えていく。更に背中から蝙蝠の翼が出現し、尻から巨大な尻尾が伸びていくのだった。それはまるでコミが宮殿を守るナイト型のゴーレムと対峙した時に、脳内に流れた映像にいた翼をもつ巨大なトカゲと酷似していた。

 

「あれは……」

 

「知っておるのか。コミ」

 

「あの時、マホウを使えるようになった時に脳内に流れた映像にいた怪物です。しかし、あのような金属のものではなく生物のようだった気がしますが……」

 

 首が伸び、頭部が上下に割れて口が出現する。人型鎧だった何かは開かれた口から衝撃が出るほどの唸り声を上げるのだった。

 

 翼を羽ばたかせ宙に浮いて口から炎を吐き、ベルとコミを襲う。

 

「魔法よ!」

 

 コミが障壁を展開させて炎の猛撃から逃れた。

 

「ひっじょうに! マズいのじゃ!」

 

「何とかして下におろさないと、このままでは……」

 

 障壁が炎から二人を守るが、徐々に空間が熱くなってきており汗が流れ始める。

 

「このままでは、蒸し焼きになってしまいます!」

 

「分かっておるのじゃ! しかし、解決方法がすぐに浮かばん!」

 

 二人が、この状況をどうにかしようと必死に考えていると、いつの間にかトカゲ型となった鎧が目の前まで迫っており、横から薙ぎ払うように尻尾が飛んでくる。障壁によって二人には届かなかったものの、衝撃により部屋の壁まで吹き飛ばされた。

 

「……」

 

 壁と背中が接触したコミは荒い息を上げて片膝をつく。もう駄目かと思われた矢先だった。近くにいた何かの影がトカゲ型鎧に向かって飛び立った。

 

「あれは、一体……」

 

 彼女が辛うじて開く片目で追いかけると、その影はトカゲ型鎧から少しだけ覗いている核に衝突すると共に地面へと落下し激しい音を立てた。

 

「止まった……さっきの影は?」

 

 コミとベルが見つめる先には態勢を整える二つの存在がいた。片方は自身を落としたものを見つめるトカゲ型鎧。もう片方は肩で息をするアートであった。

 

「アートさん!」

 

 コミが歓喜を上げると共に、二つの存在が交わった。

 

 パキン!

 

 割れる音が聞こえてくる。今までの戦いが嘘のように静けさが訪れると同時に、二つの存在のうちトカゲ型鎧の方が音を立てて地面へと倒れ伏した。

 

 その様子を見た二人は歓喜を上げ、アートに近づこうとすると「待ってください!」と彼からの制止が入る。どういうことかと二人が疑問を浮かべると、彼が睨む先にいる動かなくなったトカゲ型鎧が纏っていた黒い霧が霧散していく。やがて人型鎧へと戻った時であった無くなったはずの黒い霧が鎧の隙間から大量に噴出する。すべての黒い霧が人型鎧から分離し宙に浮かんだ。

 

「あれは! あの時と同じ!」

 

 その霧は形が形成され、巨大な鏡のようなものになった。しかし、鏡に映っているのは夜の空を想像させるものだった。

 

「違う……?」

 

 エントランスホールで起こった出来事と違うことに疑問を覚えたコミが首をかしげる。

 

「あれは一体何なのじゃ?」

 

 同じようにベルが首を傾げた時、鏡にヒビが入り中から黒い霧の獣と共に黒い手が姿を現す。巨大な手は、どうやら鏡の中から出現しようとしているようだ。

 

「マズいの……」

 

 ベルが先の戦いで消耗している二人を見てから、鏡の中から出ようとしている巨大な黒い手を見つめる。

 

 アートが必死に落ちてくる黒い霧の獣を対処していると――

 

「\^’^$#^#{’^}{#_}{*;_。_#+>_€_’_\{#{+’{」

 

 人型鎧が再び動き始め、宙に浮いて鏡に近づいた。

 

「€_€+・+%+。’+・;+’+\+]_}{}_#+#+€+・*>+}+!*}^・+;_」

 

 鏡を巨大な手ごと抱きかかえ何かを叫ぶと爆発を引き起こした。それはサーチ君の爆発とは比べ物にならないほどの巨大な爆発を発生させ、嵐のような突風が吹き荒れる。巻き込まれた三人は立っていられず部屋の隅まで吹き飛ばされた。

 

 嵐が止み、三人は鏡と人型鎧がいたところを急いで確認する。しかし、そこにあったのはバラバラに砕け散った人型鎧の破片だけであった。

 

「お……終わった?」

 

「何も出て……来ぬようじゃの……」

 

「彼らが助けてくれたようです」

 

「もしかして、コミさんと会話をしていた方ですか? 救ってと言っていた……」

 

「その方で間違いないです。最後に救ってくれた礼だと言って自身を犠牲にしてまで魔物を退治してくれたようです」

 

 悲しげな表情でコミは金属の破片を見つめる。

 

「そうじゃったのじゃな。それに、あの黒い霧の化け物は魔物と呼ばれていたのじゃな」

 

「そのようです。彼らはあの黒い霧の化け物の事を魔物と呼んでいました」

 

 ベルとコミが話し合っていると、隣で倒れる音が聞こえてくる。何事かと、すぐに音が鳴る方へ顔を向けると、そこにはアートが倒れていた。急いで二人はアートの無事を確かめると、彼は浅い呼吸を繰り返しているようだった。

 

「病院に連れて行った方が、よさそうじゃな。コミ、二人で抱えて向うのじゃ」

 

「はい……」

 

 先にベルがアートを抱えようと近づこうとすると、彼の足に何かが接触し金属音を立てて転がった。

 

「なんじゃこれは?」

 

 拾い上げた物は金属でできた筒のようなものであった。底に何かが書かれており、よく見ると2281/9/5と書かれていた。

 

「なんじゃこの文字は、それに側面におでん? 一体何なのじゃ」

 

「おでんですか? それは私の故郷の料理で――」

 

「聞いてないのじゃ。ほれ、この筒の側面に書かれておるじゃろう? 古代文字で、おでんと」

 

「本当ですね……とりあえず持って帰ったらどうでしょうか? 今ここで調べるよりも先にアートさんを病院に送らないと」

 

「そうじゃったな」

 

 ベルは持っていた金属の筒を麻袋に入れるとアートを背負った。後ろからコミが落ちないように支える。二人は、その状態で今いる場所を後にするのであった。

 

 帰る道中を歩いていると、ふとベルが足を止める。

 

「どうしたのですか? ベル博士」

 

 ベルが背負っている疲弊したアートを、後ろから支えていたコミが疑問を口にする。

 

「いや、なに。本当に終わったのかと思っての」

 

 ベルは目の前を見つめる。そこには庭園からの青白い光が地下の出入口から差しこんでいた。地下への突入と同時に出入口が閉ざされてしまったはずなのだが、最初から閉じていなかったかのように開かれている。

 

「どうでしょうか? 庭園に出てみれば分かるかもしれません」

 

 彼はコミの言葉に「それもそうじゃな」と返し、足を進めて庭園へと踏み入れる。いざ庭園に出てみると、先ほどまで動いていたスパイダー型のゴーレムたちは動きを止めており、あちらこちらに転がっているのが拝見できた。

 

「終わったと見てよいかの」

 

「そう、ですね…………」

 

 辺りを観察したコミが長い沈黙の後に話出す。

 

「地下から溢れていた黒い霧が見当たりません。本当に終わったのでしょう」

 

 二人が戦いが終わったことに少し安堵していると、庭園にある緑のトンネルから足音と金属の擦れる音が聞こえてくる。何事かと二人が警戒すると、奥のほうから赤い鎧を着た複数の人間が現れた。それを見た二人は深く息を吐き、警戒を緩めるのだった。

 

 先頭から二番目にいた大柄な男が、二人に気づき小走りで近づく。

 

「ご無事でしたか」

 

「遅いのじゃオルフよ」

 

「無事と言えば無事なのですが……アートさんを早く病院へ連れて行かないと……」

 

 コミが心配そうに見つめるアートを見たオルフはゆっくりと頷く。

 

「分かりました。我々が無事に病院へと送り届けます。おい! 衛生兵のうち二人はこちらに来い!」

 

 オルフの叫びによって、軍の後ろにいた軽装の者が二人駆け寄ってくる。

 

「どうかしましたかオルフ副隊長!」

 

「二人の兵をつける。すぐにこの者をすぐに病院へと運べ。誰をつけるかは任せる」

 

「了解!」

 

「私も一緒に向かいます」

 

 衛生兵の二人とコミはベルからアートを受け取り、軍の先頭にいた者とすれ違うように待機する軍の方へと移動する。

 

 すれ違いざまに横目で見送った先頭にいた者は、ベルとオルフがいる場所に近づいた。

 

「あいつがアートだな?」

 

「……そうです。あの方が我々の調査を手伝ってくれていた一般の方になります」

 

 後ろからの彼の言葉に、冷や汗を掻いて数秒固まったオルフがゆっくりと口を開いた。

 

「我らは国の命にて、ここら一帯を調査している。本来であれば我ら以外が調査するのは固く禁じているはずだが、そこについて言い訳はあるか? ベル博士」

 

「デトロス隊長。これは……その……の?」

 

 冷や汗を掻いたベルが、しどろもどろに顔をそっぽ向けた。それを見たデトロスは鼻を鳴らす。

 

「遺跡の発見、黒い霧の獣の対策を講じ成功させた功績にともない今回のことは不問にしといてやる。オルフお前もだ。次はないと思え」

 

「わっ……分かったのじゃ……」

 

「……了解しました」

 

「それで援助が欲しいとのことだったが、必要か?」

 

 デトロスは二人の反省に反応を示さず言葉を続けた。

 

「それなんじゃがの……」

 

「報告せよ!」

 

 悩むそぶりを見せるベルに、しびれを切らしたデトロスが声を張り上げた。

 

「そんなに声を張り上げるでない! 耳が痛いのじゃ。恐らく……わしたちだけで解決できたと思うのじゃ。道中で黒い霧の獣は見かけたかの? 見かけなければ解決したと見ても良いのじゃ」

 

「我らは、ここに来るまでに黒い霧の獣と何度も交戦した。だが、途中で霧散してしまってからは遭遇していない。その口ぶりから見て解決したと考えていいのだな」

 

「そうじゃの」

 

「了解した。なら我らとともに軍の仮拠点へと戻り、今回おこなった調査の詳細を報告せよ」

 

「了解したのじゃ」

 

 ベルは軍隊とともに撤収し仮拠点へと向かうのであった。庭園、宮殿の中、橋と進んでいく最中に辺りを見渡しながら足を進めていくと、隣に移動してきたオルフが小声で話しかけてくる。

 

「何とかなりましたね」

 

「そうじゃの……危険なかけじゃったが、無事、事が済んで良かったのじゃ」

 

「ですが始末書は、まぬがれないかもしれませんね」

 

「何、他人事のように言っておるのじゃ。お主もじゃぞ」

 

「分かっていますよ。それにしてもデトロス隊長はアート君の事を、どこで知ったのでしょう?」

 

「お主が言った訳ではないようじゃの」

 

「言いませんよ。言ってしまえば、隠していたことがバレてしまいます」

 

「それもそうじゃの。まあ、バレてしまってはいるのじゃが……では一体誰が……」

 

 一瞬考えたベルであったが、すぐに首を横に振った。

 

「よくよく考えたら、心当たりが多いのじゃ。これじゃとわしの不注意が原因かもしれんの」

 

 ベルとオルフが話していると、地上への入口が見えてきた。

 

「もうそろそろ地上ですよ」

 

「もうそんなところまできておったのか。そこまで時が経っておらぬはずじゃが、懐かしく感じるわい」

 

 外に出たベルは地上の空気を吸うと大きく伸びをして空を見上げた。

 

「外の空気は良いの。気持ち良いのじゃ」

 

「ベル博士。いつまでも感傷に浸っていないで向かいますよ」

 

「外では、どうなっていたのじゃ?」

 

「どうとは一体?」

 

「外では黒い霧の獣は出現したのかの?」

 

「ええ、もちろん出現しましたよ。しかし、あの武器のおかげで何とか対抗することに成功しました。それに何でも屋の方々の協力により、我々がベル博士の救援に駆けつけることが出来たのです。まあ、もう事は終わってはいましたが……」

 

「なるほどの……何でも屋というとアレックスとトビーかの」

 

「協力者の中に彼らの名前がありましたね。知り合いか何かで?」

 

「アートの知り合いじゃったし。武器を作ってもらっている最中に少し、の」

 

「なるほど、そのようなことが……」

 

「着いたようじゃの」

 

「ええ。我々はこれから少し準備をおこなうので、ベル博士は先に会議用のテントへ向かってください」

 

「分かったのじゃ」

 

 ベルがこの場を後にして会議用のテントへと向かう。それを軍が遠巻きに見送るとデトロスが「整列!」と声を張り上げた。その声に反応して軍の者たちは一斉に整列をおこなう。

 

「我らは、これより指定された配置に戻り、各自おこなっていた業務を再開させる。俺とオルフはベル博士の報告を聞くために、しばらく席を開けるがよいな?」

 

 デトロスの言葉に軍の者たちは「了解!」と答えた。

 

「もし緊急の出来事があった場合は、すぐに連絡するように。では解散」

 

 解散の指示を受けた軍の者たちは一斉に自身の持ち場へと蜘蛛の子を散らすように駆け出した。

 

「行くぞ」

 

「了解」

 

 デトロスとオルフは報告の詳細を聞くため、ベルが待機しているテントへと向かっていくのであった。

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