魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

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第三話 黒い霧の人型

「ところでプラト村がどんな所かアートさんは知っていますか?」

 

 一行が村へと続く街道を歩いていると、コミが質問を口にする。

 

「そうですね……」

 

 少し考えるそぶりを見せた彼はおもむろに口を開いた。

 

「プラト村は長閑で空気が美味しいと言われる村ですね。特産品のラアドベルク天然水は有名で遠いところから買いに来るマニアがいるぐらいだとか」

 

「あのラアドベルク天然水は、そこの産地じゃったのか」

 

「ゲーマ王国でも有名なのですか?」

 

「有名ではないのじゃ。ただフューリーの店頭に並んでいたのを見ただけじゃ」

 

「店頭に並んでいるのはプラト村に寄った行商人が、フューリーに売りに来ているからですね。先ほどからすれ違う馬車が、おそらくそうなんでしょう」

 

 前から来る馬車を見てアートは答える。

 

「前から来るのは良いのじゃが、そろそろ後ろから馬車は来ないのかね? わし、疲れたのじゃが」

 

「長いこと歩きぱなしですし。ベル博士の言う通りプラト村に向かう馬車が一台でもあれば良いのですが……」

 

 ベルとコミが疲れを見せ、求めるような表情でアートの方を見た。

 

「そういわれても来ないものはどうしようも……」

 

「というか路銀が心もとないのじゃ。今の数じゃと食料を買うか乗車を待つかのどちらか一つしか選べんの」

 

 ベルは取り出した小袋の中身を見て落ち込んだ。腹が鳴き空腹を訴える。その音につられて二人のお腹も鳴き始めた。

 

「そういえば朝から何も食べていませんでしたね」

 

「ええ、昨日から慌ただしかったので、すっかり忘れていました」

 

 二人が、お腹を押さえてうつむいていると、前方から馬車を運転する御者が、お腹を押さえる三人の様子に気が付いて馬を止めた。

 

「お三人方どうかされたのですか?」

 

 声をかけられた三人は、どうしようかとお互いの顔を合わせた後、ベルが代表として御者の質問に答えた。

 

「実はのプラト村に向かって歩いていたのじゃが、お腹が空いてしまっての。もう、後から来る馬車に乗せてもらおうか悩んでおったのじゃ」

 

 ベルの言葉に少し拍子抜けた表情をした御者は大げさに笑う。しかし自身が笑ったことに対して眉をひそめた三人に慌てて言いつくろった。

 

「いや~スマン。深刻そうな顔でお腹を押さえていたものだから、体調を崩したものだと思って声を掛けさせてもらったのだが、ただお腹が空いていただけだとは――」

 

「どうかなされたのですか?」

 

 御者が苦笑いし頭の後ろを手で掻いていると、(ほろ)と呼ばれる防水布に覆われた荷車の中から前髪の一部だけ青いメッシュをした女性が、不思議そうな顔で頭を外に出していた。

 

「いえ、旅のお三方がお腹を空かして立ち往生していただけです。熊が出たとかではないのでご安心を」

 

「そういうことでしたら」

 

 御者の話を聞いた女性は頭を(ほろ)の中に引っ込める。しばらくして馬車から降りた女性は、三人に赤い果実を差し出した。

 

「こちらをどうぞ」

 

「いいのですか?」

 

 白い小袖に緋袴の姿を現した女性は、アートの確認に「はい」と顔をにこやかにして答える。

 

「ところで……その格好は?」

 

 赤い果実を受け取ったアートは、女性の服装を不思議そうな顔で見つめた。

 

「この格好ですか?これは私の国で巫女装束と呼ばれる服装です」

 

「巫女装束?聞いたことがあるのじゃ。確か……年に一度、海上国セフィトシアでの祭事で関係者が着ている服装だったかの」

 

「あの有名なセフィトシアの祭りですか! なんでも関係者が着ている特徴的な衣装が女性に人気なんだとか。これがあの巫女装束なんですね!」

 

 コミが目を若干輝かせるように、女性が着ている巫女装束を見つめた。

 

「でも、その特徴的な衣装を着れるのは、関係者のみのだと聞いているのですが……?」

 

「勿論、関係者ですよ。私の名前はミレディ・リヴァインと申します。セフィトシアから巫女装束を着て巡礼の旅をしている途中でしたが、祭事……いえ、神事のために中断して帰路に就いている途中です」

 

「ということは本物! 握手してください!」

 

「ええ、私で良ければ」

 

 ミレディはコミの握手に応じる。しかしコミの目の輝きに若干、気後れ気味になっていた。

 

「コミさん。そんなに有名なのですか?」

 

「有名も有名ですよ! アートさん!」

 

 コミはアートに向かってはしゃぐように答えると小声で「口頭で聞いただけですけど」と付け加えた。

 

「毎年セフィトシアの祭りで行われている踊りを見に観光客が賑わうほどで、その踊りの大きなフィナーレとともにオーシャンフェスティバルと言う名の海上祭りが開催されます! 踊りを見ると一日だけ海の上を歩けるようになり、海の上で開かれている祭りに参加できるという仕組みですよ!」

 

「まるでマホウみたいですね……」

 

 アートのこぼした言葉にミレディは小首をかしげた。

 

「マホウ? マホウというのが一体どういうものか分かりませんが、私達は海の上を歩けるようになるという現象を奇跡と呼んでいます。巫女が神に祈りを捧げることにより奇跡を授かることが出来るのです」

 

「話を聞く限りじゃと同じように聞こえるのじゃが……実際に見て見ないことにはのう」

 

「では! 旅が落ち着いた時にみんなで行きましょう!」

 

 コミが良いことを思いついたとばかりに手を叩いた。

 

「そうですね。みんなで行きましょう」

 

「ところでオーシャンフェスティバルはいつ開催されるのじゃ?」

 

「今から1ヶ月後になりますね。近日ごろに詳細が書かれたパンフレットが世界中に配られますので、それを見ていただけでばよいかと」

 

 ミレディからオーシャンフェスティバルの日を教えられた三人はお礼を言う。だが少しだけコミの表情が暗くなった。

 

 ゴホン

 

 突然、四人を見守っていた御者が咳き込んだ。

 

「ミレディさん。そろそろ馬車に戻っていただかないと、日没までにフューリーにつきませんよ?」

 

「もう、そんな時間なのですね」

 

 御者の説得に頷いたミレディは三人にお辞儀をした後、急いで馬車の中に戻った。彼女は出発する馬車から顔を出して「またオーシャンフェスティバルでお会いしましょう」と三人が見えなくなるまで手を振った。

 

 手を振り返していた三人は道端の草原に座りミレディに手渡された赤い果実を食べ始める。

 

「見たことのない果実ですが美味しいですね」

 

「そうじゃの。見た目はリンゴのようじゃが、味はこっちのほうが甘みがあるのじゃ」

 

「この味はアルゴアップです。しかしベル博士とコミさんが知らないとなれば、最近、流通し始めたのかもしれませんね」

 

「こんなに美味しいのなら町に着いた時、ぜひ山越えの食料として購入しましょう!」

 

 コミはアルゴアップを持っていない右手の握り拳を上にあげたのだが、アートに「腐りやすいから長期の山越えに適さない」と言われ、酷く落ち込んだ。

 

 アルゴアップをかじり、コミがしんみりと呟く。

 

「それにしても後一ヶ月ですか……間に合うといいですね」

 

 彼女の、その言葉に二人はゆっくりと深く頷いたのであった。

 

 日が落ち辺りが暗くなってきたころ、長い距離を経て三人は目的地のプラト村へと、たどり着いた。

 

 村には明かりがついており各所の家から談笑が聞こえてくる。

 

 薄暗く明かりが照らされた石畳の通路を通り、村の中でも比較的大きい家の扉を開き中へと足を踏み入れる。扉の上には『ムーンソイルの宿』と書かれている看板が張られていた。中に入るとすぐに見える食堂から、客の料理を運び終えた一人のエプロン姿の女性の店員が三人へと近づいた。

 

「いらっしゃいませ。今夜は宿泊ですか? それともお食事でしょうか?」

 

「宿泊でお願いします」

 

「ではこちらにどうぞ」

 

 店員は質問に答えた三人に天秤が置かれた細長い机へと案内する。

 

「宿泊は三名様でよろしいですか?」

 

「わしはそれで良いのじゃが、コミは大丈夫かの?」

 

 ベルは三人の中で唯一の女性のコミに視線を向けた。

 

「私は構いません。路銀が少ないのでしょう? なら、無駄遣いするべきではありません」

 

「それはそうですが……」

 

 コミの言葉にアートは踏ん切りがつかない様子なのか横目で彼女を何度も見る。

 

「お二人とも、そんなことをする人ではありませんよね?」

 

 アートの戸惑った様子を見たコミが笑顔で男二人を見る。男二人は笑顔の圧力に怯え深く頷いて肯定した。その様子を見ていた店員が口を開く。

 

「お決まりでしょうか?」

 

「……三名でお願いするのじゃ」

 

「三名様ですね。ではこの紙に名前の記入をお願いします」

 

 ベルは机の上に置かれた紙に自身の名前を記入した。

 

「ありがとうございます。ベル・オルクトル様ですね。料金は三百ゴールドとなります」

 

 指定された金額を取り出し定員に渡す。

 

「こちらが部屋の鍵です。部屋の番号は二〇四号室になります。もし部屋の番号を忘れてしまった場合は鍵に掘られた番号を確認してください」

 

「ありがとうなのじゃ」

 

 鍵を受け取り三人は教えられた番号の部屋へと近くにあった階段を上って向かう。扉に書かれた番号と鍵に掘られた番号を照らし合わせ間違っていないか確認してから、扉を開けると、そこは和室であった。明かりをつけて、壁に描かれていた案内通りに、履いていた靴を脱ぎ中に入る。

 

「床が木ではなく畳なのは珍しいですね」

 

 畳の上に座ったコミが優しく畳を撫でながら言う。

 

「ゲーマ王国では畳がある宿は珍しいのですか?」

 

 ゆっくりと腰を下ろしたアートが質問すると続けて座ったベルが答える。

 

「珍しいの。ゲーマ王国では木製の床が主流で畳がある宿なんぞ、片手で数えられるほどに減少しておる」

 

 ベルの言葉にコミが頷く。

 

「そうなんです。みんな畳の管理が大変だからって木製の変えちゃうんです。少しだけでも残してくれてもいいのではと思わなくはないです」

 

「そのような経緯があってゲーマ王国では畳が珍しいのですね」

 

 二人の話を聞いたアートは深く納得するように頷いた。

 

「ところでそろそろ寝る準備をしませんか?」

 

 コミは欠伸をして口を押える。

 

「それもそうですね。外は暗いですけど銭湯は、まだ開いてますでしょうか?」

 

「壁にかけてある案内板によると……夜は空いてないのじゃ」

 

 それを聞いたコミが落胆して、ゆっくりと立ち上がり部屋の襖から布団を取り出して床に敷いていく。それに気づいた二人は急いで立ち上がり自身が寝る布団を床に敷いた。敷き終えた三人は布団の中に入り明かりを消し、就寝につこうとした時、外が騒がしいことに気づいた。

 

「何か騒がしいですね」

 

 アートが明かりをつけて部屋にある窓から外を見た。その視線の先には町明かりと星の光に照らされた石畳の上で複数の黒い霧で出来た狼が、怯えて腰を抜かし地面をはいずって逃げようとする人々の肉を引きちぎらんばかりに噛みついているところだった。

 

 あまりの光景を見て口を押え、蒼白状態で動けなくなっているアートを、後ろから見ていた二人は不思議に思い、窓の前で動かないアートを押しのけて外を覗き込んだ。彼と同じ光景を見た二人は気分が悪そうに口を押え頭を下に向けえずいた。

 

「どうして……魔物が……」

 

「わしらが、この手で終わらせたはず……」

 

「……可能性は一つでしょう」

 

 ようやく動き出したアートが手を口から離し言葉を紡ぐ。

 

「誰かが新たに封印を解いた。それしか考えられません」

 

「アート、武器は持っているかの?」

 

「持っていません」

 

「そうか……なら、わしが武器を調達する。その間にアートとコミは襲われている人たちから魔物を遠ざけるのじゃ」

 

「分かりました。行きましょうコミさん」

 

「はい」

 

 二人はベルよりも先に外へと向かう。

 

「わしも急ぐのじゃ」

 

 遅れながらに彼は荷物を持って、二人の後を追いかけるのであった。

 

 アートとコミが店員の抑制を潜り抜け外に出ると、辺りは既に赤黒い体液で染まっていた。

 

「生き残りは……」

 

 必死に辺りを見渡し生きている人を探す。

 

「アートさん! いました!」

 

 コミが指を差す場所には魔物の攻撃をすんでのところで回避している男がいた。アートはコミに与えられた力を使い、魔物と男の間に滑り込む。魔物がアートに向かって襲い掛かってくる。しかし核がある胸に蹴りを入れることによって魔物を遠ざけた。

 

「ここは任せてください!」

 

「き、君はっ……」

 

「ここはアートさんに任せて離れましょう」

 

 後から追いついたコミが男の腕を持ち立ち上がらせる。

 

「分かった。ここは君に任せる。これを」

 

 男は手に持った剣をアートに渡しコミと共に、この場を離れた。

 

「これならっ」

 

 アートは魔物に向かって走り出し、襲い掛かる攻撃を回避した隙に胸に剣を突き刺した。パキンという音とともに魔物は霧散し剣にヒビが入る。

 

「次!」

 

 間髪入れず近くにいた魔物に剣を突き刺す。パキンと音が鳴り剣の刀身が粉々に砕け魔物が霧散する。後ろから飛び掛かってくる魔物を態勢を低くして躱し、蹴り上げて間合いを取った。

 

「アート!待たせたのじゃ!」

 

 彼は声のした方から自身に向かって飛んでくる剣の柄を握り受け止める。そのまま飛び掛かってくる魔物の核に切りつけ霧散させた。

 

「遅いですよ……ベル博士」

 

 アートは魔物の攻撃を躱しながらベルの元へと移動する。

 

「スマンのじゃ。かき集めるのに苦労しての。コミは村の住民を守るため、こっちには来れないそうじゃ」

 

 ベルはかき集めた武器をアートに見せながら現状を伝える。

 

「分かりました。ではコミさんの負担を増やさないためにも、魔物を早く退治しましょう」

 

 アートはより一層、剣の柄を強く握って町中を闊歩する魔物を睨みつけた。

 

 ♢

 

 アートが魔物と対立している中、プラト村にある大きな家の村長宅には沢山の人が押し寄せていた。

 

「避難所はこちらです‼ 押さないで家の中に移動してください‼」

 

 庭の入口からコミが遠くにいる人に聞こえるように大きな声を上げて案内する。しかし、彼女の言葉を無視するかのように人々は我先にと押し合いながら家の中に入っていく。

 

 押し出されて地面に転んでしまい泣いてしまった子供を、コミはあやしながら安否の確認をして家の中へと一緒に向かう。子供を家に送り届けて定位置に戻ろうとした彼女に男の人が駆け寄ってきた。

 

「ここにいたのですか! 魔物が来ました! ここは私に任せて応援をお願いします!」

 

「魔物がどこに来ているのか教えてください」

 

「魔物は――」

 

 男が言われた通りに魔物が現れた場所を地図で教えると、庭の入口に向かい村長宅に急いで向かう人々の案内を始めた。

 

 渡された地図を持ったコミは印がつけられた場所へと急ぐと、何かが割れる音が聞こえた。すでに魔物との戦闘がおこなわれているようで、甲冑を被った数人が手に持った剣で魔物を迎撃しようと奮闘していた。中心で指示を仰いでいた男がコミに気づき鼓舞を上げた。

 

「コミさんが来たぞ! もうひと踏ん張りだ!」

 

 その鼓舞に気を上昇させた人たちは気合を入れて魔物に立ち向かった。コミも戦闘に加わり障壁で支援する。やがて魔物の集団を撃退することになるが、大半の人が持っていた武器が壊れてしまった。

 

「隊長! 戦える武器がもうありません!」

 

「なんだと! もう用意したはずの武器は無いのか!」

 

 男がある場所を見て舌打ちすると隣で待機していたコミに告げた。

 

「申し訳ありませんコミさん。我々はこれ以上力になれそうにあり……ません」

 

「いえ、十分力になってくださいました。後は私に任せて皆さんは村長宅に避難して――‼」

 

 空を見上げたコミは急いで障壁を張った。

 

 ドン‼

 

 辺りに鈍い音が響き渡る。彼女は障壁の中から襲い掛かってきた犯人の方へ顔を向けると、そこには黒い霧で出来た上半身が人で、下半身がカエルの姿に形作った顔のない魔物がいた。そいつは何度も何度もコミが作り上げた障壁を殴り続ける。

 

「みなさんは早く逃げてください! この魔物は私が何とかしますから!」

 

「しかし――」

 

「早く!」

 

 コミの怒号に言われるがまま、障壁に守られていた人たちは急いでその場を離れた。魔物は離れていく人を見向きもせず殴り続ける。もう近くには障壁を殴り続ける魔物と必死に耐えしのぐコミしかいない。町中に音が響き渡っていく。その音につられたのか魔物が集まってきていた。

 

「魔物が私のところに集まってきている……アートさんが来るまで耐えしのげ、ばっ!」

 

 障壁にヒビが入り、続けて殴る魔物の拳が障壁を突き破った。襲い掛かる拳にコミは躱すことが出来ず腹部に衝撃をもらい吹き飛ばされた。遠くに飛ばされたコミは地面をえぐって停止する。

 

「…………」

 

 迫ってくる魔物を見て起き上がろうとするが、力が入らず地面に倒れ伏した。拳が迫ってくるのを見て思わず目を強くつぶる。しかし、時が経とうとも一向に来ない衝撃を不思議に思い目を開く。コミが薄れていく意識の中で最後に見た光景は魔物の拳を剣の柄で受け止めているアートの後ろ姿であった。

 

 ♢

 

「ベル博士!」

 

 魔物の拳を受け止めたアートの後ろにいるコミをベルが抱えてその場を離れる。それを見届けた彼は、拳を受け止めていた腕の力を弱め着弾箇所をずらす。魔物は急に拮抗していた力が離れた影響で態勢を崩し拳で地面を叩いた。その隙にアートが剣を魔物の胸に突き付ける。しかし核に届くまでの間に魔物が黒い霧の密度を増やして剣を防いだ。

 

 アートは魔物の肉体に半ばまで突き刺さった剣の柄を手放し、彼の近くに置いてあった新たな剣を拾うと、すぐに拳が飛んでくる。それを飛び込み前転で躱し魔物を睨みつけた。

 

「見たことのない魔物だ。それに今まで通りに核を破壊するのは難しィ!」

 

 彼の後ろから襲い掛かる狼の魔物を捌く。

 

「これは……少し不味いかな?」

 

 冷や汗を垂らすアートを囲むように複数の狼の魔物が、正面には飛び上がり両手の指を組んで叩きつけようと落下する人型の魔物がいた。急いで躱すと魔物によって叩きつけられた地面は、えぐられ破片が勢いよく辺りに飛び散る。魔物は勢いをそのままに腕を軸にして方向転換し、彼が躱した方へと飛び掛かり拳で殴りつけた。

 

 アートは剣で受け止めるが、急に力負けして体勢を崩した。崩れゆく体勢を無理やり捻り横に転がって拳を躱す。すぐに立ち上がり、剣を持っていない手を握ったり開いたりして、ある違和感に気づいた。

 

「ここからはコミさんの力なしで、か……」

 

 眉間にシワが寄り口角が自然に上がり苦笑いが零れ、自身に襲い掛かってくる魔物を見つめた。

 

「こい! 僕はっ、まだここに立っているぞ!」

 

 ♢

 

 アートが魔物と相対して数刻たった時、薄暗かった空は徐々に明るさを増していく。木々に隠れながら逃げ惑っていたアートは、光を背中に浴びた事に荒々しい呼吸をしながら気づいた。

 

「太陽が……」

 

 日差しが辺りを照らし、朝日に充てられた魔物が次々に霧散していく。それは人型の魔物も例外ではないが一つだけ奇怪な出来事があった。霧散していく霧の中から人が現れた。

 

「人?」

 

 その人物はアートの疑問に答えることはなく倒れた。

 

「大丈夫ですか!」

 

 アートは目の前で倒れた人を抱え上げ意識を確認するが、呼吸が聞こえず脈拍に動きを感じられなかった。

 

「死んでる……」

 

 アートは困惑したように抱えている人物を見る。骨が出るほどにやせ細っているが、それ以外は何の変哲もないただの服を着た男の人だ。ズボンのポケットが盛り上がっているのに気づく。中に入っているものを取り出した。

 

「これは……」

 

 取り出したものはアートに見覚えのあるものだった。

 

「ゲーマ王国の紋章」

 

 鷲の絵が特徴のゲーマ王国の紋章であった。

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