魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

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第六話 メティス村

「ようやく終わりですね」

 

 まるで一仕事を終えたかのようにアートは額の汗をぬぐう。洞穴の外から延びる日の光が目の前に存在する魔物を消滅させる。地面にはいくつもの壊れてしまった剣が散乱していた。

 

「剣もこの一本で最後……」

 

 近くの地面に置かれた麻袋の口から覗かせる柄を見る。

 

「アートお疲れ様なのじゃ」

 

 目を擦り、大きく伸びをするベルがアートに近づく。

 

「後の見張りはわしがしておくから、ゆっくりと眠るがよい」

 

 洞穴の奥の方で静かに眠るコミを横目にアートに眠るよう彼はうながす。

 

「ありがとうございます」

 

「なに、夜は何もできんから朝ぐらいは役に立たせてほしいのじゃ」

 

 ベルはそういうと洞穴の外へと向かっていく。それを最後まで見送ったアートはコミの近くまで歩き、壁を背に腰を下ろすと目をつぶり眠った――

 

 ――太陽の光が強くなってきたころ、アートは自身の体が揺すられていることに気づき目を覚ました。揺すっていたのはコミであり、自身の顔を彼の顔の近くまで寄せていた。目を開けたアートと視線が交わると頬を染め、慌てるかのように彼女は飛びのいたのであった。

 

「おお、おはようございます!」

 

「? ……おはようございますコミさん。それで、僕に何か用ですか?」

 

「用と言うかなんというか……十分に休憩できたから、そろそろ麓まで下りようとベル博士が」

 

「分かりました。準備しますので少しだけ待ってください」

 

 アートがそう言うとコミが「洞穴の外でベル博士と待っています」と言い慌てて、その場を離れていく。彼は地面に置いていた麻袋から剣を取り出し腰につけてから麻袋を背負うと洞穴の外に出る。

 

「お待たせしました」

 

「準備は出来たかね?」

 

「はい。出来ました」

 

「では出発しましょう」

 

 三人は下山を再開する。木々が生い茂る獣道を通り進んでいく。しばらく歩いていると周りに生えている草木が少なくなってくることに気づいた。直射日光が当たる場所をよく見ると岩肌や砂利道が視界に入る。

 

「景色が変わってきました」

 

「あそこまで直接日が地面に当たっているのであれば、山の麓の様子が確認できるかもしれんの」

 

「メティス村の場所も確認できるかもしれませんね」

 

 木々の間を通り抜け砂利道へと出ると、そよ風が体をなでる。風が来る方へと顔を向けると視界を遮るものがない崖があり、山の下にある景色を見ることが出来た。

 

「これならよく見えますね」

 

「こら。先に行くでない」

 

 我先にと崖際まで近づくコミにベルが制止をかけるが、彼女は足を止めず到着してしまっていた。ベルとアートは、お互いに顔を見合わせてから、景色を堪能しているコミの後を追いかけるようにして崖際へと向かう。

 

「何か見えますか?」

 

「うーん。遠すぎて分かりにくいですが、恐らくあれがメティス村だと思います」

 

 コミが指を差す方を見ると、一つの集落となっている場所があった。

 

「あれがメティス村か」

 

「このまま下りると夕暮れごろには着きそうじゃの」

 

「もう少しですね。頑張っていきましょう」

 

 三人はその場を後にし鳥の鳴き声や虫のさえずりが聞こえてくる中を歩く。初めは急激な坂などが多かったのだが、徐々に緩やかな坂になってくる。下に見えていた木々が近くなっていることに気づいた。

 

「もうそろそろ麓じゃの」

 

「長かったですね」

 

「もう少しの辛抱です。後はこの森を抜けるだけですよ」

 

「そうじゃの。しかしあれを見ると少し落ち着くのう」

 

 目の前には生い茂る草木の間に作られた人工的な通路があった。

 

「誰かが普段から行き来しているのでしょうか?」

 

「分からんが、この道を使えば森を抜けることが出来るじゃろう」

 

「それもそうですね。森を抜けましょう。久々にしっかりとした料理が食べたいです」

 

「なら、メティス村に着いたら先に食堂へ行きましょうか。それでいいですか? ベル博士」

 

「よいのじゃ。路銀はプラト村の方々から感謝の気持ちとして頂いたからの。しかし剣の消耗が激しすぎてエディア村までは金が持たぬ。どこかで補給する必要があるのう」

 

「確かに、これまで通り魔物を相手にするのであれば剣は必要不可欠です。せめて島で作った魔物に対抗できる短剣があればよかったのですが……」

 

「家に置いてあったのですか?」

 

「ええ、持ち帰ってから壁に立てかけていたのですが、火事のことで手一杯で持ち出していませんでした」

 

「そのことに関しては申し訳ないのじゃ……」

 

「私たちがアートさんの家に来たばっかりに……」

 

 ベルとコミが申し訳なさそうに気を静める。

 

「いえ、いいんです。自宅に案内したのは僕ですから」

 

「でも……」

 

「そんなに落ち込まないでください。その姿を見ると自分の決断に後悔しそうです」

 

「そうは言われててもの……」

 

「顔を上げてください。僕たちはコミさんの力の謎を解き、なぜ王様から狙われているのかを確かめなくてはなりません。クヨクヨしている暇なんてないはずです」

 

「…………」

 

「……分かったのじゃ。このことは事が終わった時にでも礼をさせてもらうのじゃ」

 

「では行きましょう。メティス村は目と鼻の先です」

 

 三人は人口に作られた通路を通り森の外へと出ると、草原が広がっていた。草原には土の道が村へと続くように伸びている事が確認できる。土の道を歩き村に近づいてくると何か様子がおかしいことに気づいた。

 

「なんか家がボロボロに見えるような……」

 

「間違いじゃありません。それも一つだけでなくほとんどの家がボロボロになっています」

 

「廃村になってしまったのかの?」

 

「とりあえず中に入ってみましょう」

 

 村の中へと足を踏み入れ、辺りを見渡していく。

 

「人が住んでいるようには見えませんね」

 

「一体何があったのでしょう?」

 

 あることに気づいたベルが家の壊れている壁に近づき顎に手を当てた。

 

「ベル博士どうかしたのですか?」

 

「いや、なに。この壊れ方は何かで殴って出来たように見えるのじゃ」

 

 ベルが見つめる壁は大人が余裕で通ることが出来るほどの大きい穴が開いている。

 

「こんな大きな穴を?」

 

「複数回に分ければ可能ではないはずです」

 

「そんなはずはないのじゃ。どう考えても一撃で開けた穴じゃろう」

 

 ベルが、そこらじゅうの家の壁を見ながら言った。

 

「確かに一つだけであれば分かります。しかし複数となると……」

 

「誰か残っている人はいないのでしょうか?」

 

「貴方たち! そんなところで何をしているのですか! 早くこっちに来てください!」

 

 三人が壁を見つめながら悩んでいると、後ろから女性の大きな声が聞こえてきた。

 

「なんじゃ?」

 

 後ろを振り返ると、そこには遠くで口に手を当て手招きしている女性が見える。

 

「どうしますか?」

 

「……とりあえず従うのじゃ。この村で何があったのか分かるかもしれんからのう」

 

 一行は女性に近づくことを決め、その場を離れ駆け寄ると女性は手招きする手を止めた。

 

「大丈夫でしたか?」

 

 女性は三人を心配するように声をかけると嘗め回すように観察し始めた。

 

「大丈夫も何も……何のことか分からんのじゃが」

 

「運がよかったのですね。では安全な場所に案内しますので、詳しい話は道中でお話します。ついてきてください」

 

 女性は三人に一礼をして歩き出した。その様子を見た三人は女性の後に続くように歩き始める。

 

「今、この村では黒い霧によって現れた獣によって、崩壊の危機にあります。皆さんが見ていた家の壁、それを壊したのが黒い霧の獣です。あの獣は武器や肉体での攻撃は効き目がない。あまりにも危険な存在です」

 

「あの壊れた壁はそういうことじゃったのか……しかし獣が開けられるほどの穴ではないと思うのじゃが」

 

「あんまり驚かないのですね。確かに獣といえど、あの大きさの穴を開けることは出来ません。ですが壊せるほどの力を持つものが現れました。黒い霧で出来た人の型をした化け物。あれは瞬く間に村を蹂躙し、近くにある森の中へと姿を消しました」

 

「もしかして……」

 

「可能性はあるかもしれんの」

 

「何か知っているのですか?」

 

「私たちはその森から歩いてここまで来たのです」

 

「……旅の方だったのですね。でしたら私の診療所で一度お話願いますか?」

 

 女性は継ぎ接ぎだらけの家の前で立ち止まり、三人の方へと向き直り一礼した。

 

「私の名前はティレア・ベラトレンス。この診療所で薬師をしておりました。現在は村人の保護を担当しています」

 

 自身のことを薬師をしている人間だと話すティレアは、診療所の玄関を開き三人を中へと招いた。

 

「この中であればひとまず安全です」

 

「どこが安全なのじゃ?」

 

 診療所の中はひび割れしている壁、屋根から降り注ぎ穴が空いた床を明るく照らしている日光。どう考えても人が住むには適していないような状態であった。

 

「確かに中の様子は貴方の言う通り安全に見えないかもしれません。お話をしてから案内しようかと思っていましたが、先にお見せした方がよいみたいですね。ついてきてください」

 

 ティレアはそう言うと家の奥へと歩き始める。三人は不思議そうな顔で後をつけると彼女が立ち止まった。

 

「ここです。少々お待ちを」

 

 しゃがみこんで床の一部を持ち上げると、中から現れたのは地下へと続く階段だった。

 

「この階段の先が私達の避難所になります」

 

「私達?」

 

「ええ、私以外にも村で生き残った人たちが、この地下で生活をしているのです」

 

「……どれだけ生き残ったのですか?」

 

「私を含めても数人ほどです。ほとんどが身寄りのなくなった子供たちですが……」

 

 ティレアは表情を曇らせる。その背中は悲しんでいるように見えた。

 

「申し訳ありません。しんみりしてしまいましたね。地下に下りましょう」

 

 彼女が地下への階段を下りようと足を踏み出した時。下から何かが駆け上がってくる音が聞こえ、ティレアへと飛び掛かった。

 

「おかえりなさい!」

 

 ティレアは尻餅をつきながらも何とか受け止める。突進してきた、その正体は一人の少女であった。

 

「ただいまミリア。お客さんが来ているから挨拶しようね」

 

 喜びをあらわにさせる少女の頭を撫でてゆっくりと床に下した。

 

 不思議そうな顔で床に足から下ろされる少女は、下ろされた時の着地失敗で不安定に崩れる姿勢を正すと、目の前で二人のやり取りを見守っている三人に気づいた。

 

「ミリアです! 診りょう所へようこそ! 好きな食べ物はハンバーグです!」

 

 元気に挨拶するミリアに三人は気後れするものの、元気よく挨拶を返した。

 

「僕の名前はアート。エディア村に向かって旅をしている者です。好きな食べ物はーええっと、しいて言うのであればシチューかな?」

 

「私の名前はコミです! 同じくエディア村に向かって旅をしている者です! 好きな食べ物は故郷の料理おでん!」

 

「わしの名前はベルじゃ。二人と同じく旅をしておる。好きな食べ物は……リンゴじゃのう」

 

「アートおにいちゃんに、コミおねえちゃん、ベルおじいさん! よろしおねがいします!」

 

 ミリアは順番に三人へと手を差し出し握手を求める。求められたアートとコミは、にこやかに手を握るが、ベルだけは少し落ち込んだ様子で手を握っていた。

 

「ベル博士? どうかしたのですか?」

 

「いやなに、わしはまだおじいさんと言われるには早いと思うのじゃが……」

 

「流石に、その見た目と口調では間違えられても、おかしくはないと思うのですが」

 

「そうかの?」

 

「そうです」

 

 コミの断言に見る見るうちに落ち込み始めたベルは呪詛のように言葉を漏らしだした。「そんなに老けているかの?」「しかし、この口調を直すには……」とか呟いている。

 

 ベルのおかしな様子を見ていたミリアは心配して、彼の足を優しく叩きながら、うつむいた顔を不思議そうに覗き込んでいた。

 

「ねえ……連れの方大丈夫かしら」

 

 一連の出来事を見ていてたティレアは困惑した表情でアートとコミを見つめる。

 

「前にもこんなことがありましたが、多分大丈夫だと思います」

 

「よくあることなので……しばらくすれば元に戻るかと……」

 

「えっ? よくあることなんですか?」

 

 コミの発言にアートが驚いた。

 

「研究所にいたころはショックを受けると、こうなってしまう傾向にはありましたね」

 

「それ大丈夫と言えるのかしら。一度診察させてほしいのだけど」

 

「うーん。どうなんでしょう? 医者が匙を投げたほどなので治せるものなのでしょうか?」

 

「……私の手に負えそうにないわね。コミさんの言う通りにベルさんが元に戻るのを待ちましょう」

 

 しばらく落ち込んでいたベルだったが、一通り吐き出して気持ちが落ち着いたのか、暗くなっていた雰囲気を取り払った。

 

「ベルさん。大丈夫ですか?」

 

 ゆっくりと近づいたティレアはベルの状態を確認する。

 

「……心配かけたのう。もう大丈夫じゃ」

 

 顔を上げたベルはティレアの質問に答えた。

 

 そばで優しく足を叩いていたミリアはベルが元通りになったため喜び、無邪気にはしゃぎ始める。しかし、それはティレアによって止められることとなった。

 

「少し遅くなってしまいましたが今度こそ地下に向かいま――」

 

「お~い! ミリアどこにいっ、たァ⁉」

 

 ミリアを探しに来たと思われる成人してそうな見た目の男が階段から顔を出し、目の前の三人に驚いた。

 

「フルグさん。ミリアちゃんならここに」

 

「おっおう。それでこちらの方は?」

 

「あちらの方はアートさん、コミさん、ベルさんです。村で歩いているところを見つけたので、安全であるこちらに案内しました。旅の方だそうです」

 

 ティレアは手のひらを三人に向け、フルグと呼ばれた男に順番に紹介していく。

 

「なるほど……俺の名前はフルグ・トラファスタ。この診療所で夜の警備を任されている。気軽にフルグと呼んでくれ。さて、ティレア先生が連れていたということはお客さんだな。俺はミリアと先に戻って、持て成す準備をしてくる。いくぞミリア」

 

「またねー」

 

 フルグと三人に向かって手を振るミリアは先に地下へと下りて行った。

 

「……では私たちも下りましょうか」

 

 ティレアを先頭に四人は入口を閉めて地下の階段を下りる。すると少し薄暗かった視界が明るさを帯び始める。最後の一段を下りて明るい空間へと足を踏み入れた。

 

「想像してたよりも広いのう」

 

「もともとは小さかったのですが、生き残った全員で広く改築したのですよ」

 

 遠くから呼ぶ声が聞こえてくる。

 

「お母さん! こっちこっち!」

 

 声をした方へと顔を向けるとそこにはミリアが大きく手を振っていた。

 

「ティレアさんはミリアちゃんのお母さんだったのですね」

 

 少し驚くコミを他所にティレアは首を横に振った。

 

「違うのです。あの子は目の前で両親を失いました。その事がきっかけで彼女は記憶を失っています。私をお母さんと間違えるほどには……このことは黙っていてくださいね」

 

「分かったのじゃが、どうして話したのじゃ? 言わなければ、わしたちは分からぬままじゃたのに」

 

「もし知ってしまった場合の保険です。後から知られるよりも、すでに知ってもらっていた方が都合がよいと判断しました」

 

「共犯かの」

 

「そうとも言います」

 

 ベルとティレアが会話していると、呼んでも一向に来ない四人に疑問を抱いたミリアが近づいてきた。

 

「そろそろ行きましょう。あの子がしびれを切らしたようです」

 

 三人は頷き、ミリアを抱き上げるティレアの後をついていく。ミリアの案内のもと進んでいくと「ついた!」と言って地面に降りた彼女が目の前にある扉を開く。

 

「おっ。遅かったようだな。準備はとっくに終わってるぜ」

 

 扉から入ってくる五人に気づいたフルグが報告する。

 

 部屋の中は一つの大きな机と複数の椅子、湯呑が人数分置かれていた。六人はそれぞれ用意されていた椅子へと座るとティレアが開口一番に声を出した。

 

「では持て成す前に、先に教えてください。黒い霧で出来た人の形をした化け物のことを」

 

「待て待て、持て成すんじゃなかったのか?」

 

「彼らが旅人だと聞いていますし、黒い霧で出来た化け物の事を知っているようです。先に聞いておいてもいいでしょう? 持て成すのは、その後という事で」

 

「化け物の事か……あんた達は、それでいいのか?」

 

「構わないのじゃ。そうじゃの……お主たちは化け物が森の中へと姿をくらましたところまでは知っておるのじゃの?」

 

「ええ、そこまでは先ほどお話しした通りです」

 

「あの後、化け物がどうなったかというとの。ラアドベルク山脈を越えた先にあるプラト村に現れたのじゃ。おそらく同じ個体のはずじゃ」

 

「どうして言い切れるのですか?」

 

「なに、化け物を退治した時に現れた人がゲーマ王国の紋章を持っていたからの」

 

 ベルの言葉にティレアとフルグは驚きをあらわにした。

 

「退治したのですか⁉」

 

「嘘だろ⁉ 村の男達やマリナですら傷をつけることが叶わなかった化け物を――」

 

「退治できたのなら教えてください! その方法を!」

 

 フルグの言葉を差し置いてティレアは机に手を置いて立ち上がる。その表情はどこか焦りが入り混じっているように見えた。

 

「落ち着い――」

 

 コミがなだめようと声かけようとした時だった。扉が叩かれる音が聞こえ、誰かが中に入ってくる。

 

「マリナお姉ちゃん!」

 

 五人の会議をつまらなそうに見ていたミリアが、椅子から飛び降り一目散に扉を開けた人物へと飛び掛かった。その人物は自身に飛んでくるミリアを、いともたやすく優しく捕まえると抱っこする。

 

「ただいまミリア」

 

「おかえりなさい!」

 

「ところでこの方たちはどなたかな? ティレア」

 

 焦りを見せていたティレアは毒気を抜かれたように息を吐くと口を開いた。

 

「紹介するわ。旅の方でこちらからベルさん、アートさん、コミさんよ。そして彼女がマリナ。この診療所で朝の警備をしてもらっているわ」

 

「マリナ・トルステンと申します。我が肉体があれば安全ですのでどうぞ、ごゆっくりとしていってください」

 

 彼女はミリアを抱えていない腕を曲げて上腕二頭筋を強調して、にこやかに笑う。

 

「フルグ。後は私に任せて夜の警備に回ってくれ」

 

「おう。もうそんな時間だったのか……すぐに向かう」

 

 フルグは部屋から出る前にマリナに向かって「後は任せる」と言って一礼をしてから出て行った。

 

「僕たちが外にいる間、マリナさんを見かけませんでしたが、どこにいたのですか?」

 

 フルグが座っていた椅子に腰をかけたマリナにアートが疑問を投げかける。

 

「うーん。それは……」

 

 悩むそぶりをするマリナから目を向けられたティレアが頷いた。

 

「いいんだね。分かった。私はあんたたちを陰から監視していたんだ。だから見当たらなかったのさ」

 

「それは言って良かったのかの?」

 

「ええ、いいのです。こんな状況ですので村の外から来る人を警戒していました。しかし、マリナが貴方たちを監視した結果。ただの旅のお方だと分かりましたので、ここまでお誘いしたのです」

 

「なるほどの。それで退治方法は聞かなくて良かったのかの?」

 

「そのことですが、是非教えてもらいたいです」

 

「退治方法?」

 

「彼らは、あの化け物を退治したとおっしゃっているのです」

 

「なっ! 私の筋肉ですら太刀打ちできなかった。あの素晴らしい筋肉を持った化け物を⁉」

 

 マリナは信じられないといった表情で三人を見つめる。

 

「それは……本当なのか?」

 

「本当じゃ」

 

「では、どうやって?」

 

「それを今から説明するのじゃ。そもそも、あの化け物には物理的な攻撃は効果がないのじゃ」

 

「それは知っています。私たちも、しっかりとこの目で見ましたから」

 

「じゃが一つだけ効き目がある箇所が存在するのじゃ。それはここ。真似した生物の心臓がある場所じゃ」

 

 ベルは自身の心臓がある場所に指で軽く叩いた。

 

「そこを剣などの硬い物質で叩きつけると倒すことが出来るのじゃ。等価交換として叩きつけた物も壊れてしまうがの」

 

「しかし、すり抜けてしまう肉体に当てることが出来ないと思うのですが……」

 

「出来るのじゃ。心臓にある石。それだけは肉体みたいにすり抜けることなく当てられるのじゃ。わしたちは核と呼んでおる」

 

「マリナは見たことがあるかしら? その石というのを」

 

「紫色の石を見たことある。だけど見れたのは狼の姿をしている化け物だけだよ。人型の化け物には見当たらなかった」

 

「見えなかったのは纏っていた黒い霧が濃かったからだと思います」

 

「アート君。どういうこと?」

 

「一般的な化け物を狼と考え、狼の霧の量を基準とします。その考えで見てみると、人型の化け物は狼の化け物よりも構成されている黒い霧の量が、多いのではないかと思いました」

 

「多ければ多いほど身を守ることが出来たり、強くなったりする感じかの」

 

「では、先ほど教えられた石を壊す方法が通用しないのでは?」

 

「まだ方法は二つあります」

 

「それは?」

 

「一つは太陽の光です。あの黒い霧の化け物は、一様に太陽が苦手であるようで、日の光を浴びると霧散して消えていきます」

 

「だから太陽が昇っている時は現れなかったのか……」

 

 マリナは腑に落ちたように背もたれへと深く背中を預ける。

 

「日の光に当たると消えてしまうなら、メティス村に現れたという化け物とは、また違ってくるのではないでしょうか?」

 

「その可能性はあるのじゃが、ゲーマ王国の紋章を持っていたのが、どうにも怪しくての……」

 

「別個体だとするとプラト村で現れた化け物が、ゲーマ王国の紋章を持っていた理由を説明できません。それに太陽光を浴びた後、人の姿となっていたので黒い霧に感染していた可能性が高いです。更に、もしプラト村で現れるのであればデルキスタス王国の紋章を持っていた方が自然だと思います」

 

 アートに続いてコミも口を開く。

 

「化け物の身でも、あの山を太陽が昇り切る前に越えることは、まず不可能でしょう。もし感染した状態の人の身で山を越えようとしても、戦いの心得が相当ある人でないと無理だと思います」

 

「それに、わし達が山越えの道中で遭遇しなかったとなると数は少ないはずじゃ。必然的に同一個体の可能性が強くなるわけじゃの」

 

「人が化け物に……それに皆さんが森から歩いてきたとは聞いていましたが、あの山を越えてきたのですか……」

 

「よく無事だったな。あんたたち」

 

「あの時は死ぬかと思いました」

 

「一つ気になったのですが、あの黒い霧というのは本当に感染するのですか?」

 

「あくまで可能性じゃ。まだ誰も感染したところなんぞ見たことないからのう。じゃが、人ではないが感染していたのを見ておる」

 

「分かりました」

 

「で、後一つの方法は化け物が残した石で武器を作る方法ですね」

 

「石なんて落ちるのか?」

 

「はい。核を壊した時のみ石がその場に残ります。その石で作った武器であれば、すり抜けてしまう肉体でさえ傷をつけることが可能になるのです」

 

「集める必要が出てきたな」

 

「ええ、そうね。武器を消耗してしまうのは、なるべく避けないといけないわ。村にある物資が心もとないのだから」

 

「これは物資を別けてもらうのは難しそうじゃの」

 

「貴方達は話にあった石で作った武器は持っていないの?」

 

 ベルの言葉を耳にしたティレアは不思議そうに小首を傾げた。

 

「少し前までは持っていたのですが、なくなってしまって……」

 

 苦笑いしたアートが頭を掻きながら答える。

 

「メティス村で武器を購入できたらいいなと思っていたのですが、この様子ですと……」

 

 コミがベルとアートに苦笑いしながら同意を求めるように様子をうかがっている。

 

「……分かりました。このまま私たちの仲間として協力してほしかったのだけど、その様子ですと旅を続けるようですね。マリナ」

 

 ティレアはマリナの方へと顔を向ける。互いに頷くと三人の方へと向き直った。

 

「聞いてください。確かに私たちの物資は少ない状態にあります。ですが皆さんの情報が手に入った事により子供達と見守る者を残して、数人で救援を出すことが出来るまでになりました。事が済めば、もう物資に悩む心配はありません」

 

「あんたたちの情報はすごく役に立った。だから遠慮せず持って行ってくれ」

 

「ただ夜は危険ですので、明日お渡しします。それまでは、ここに泊っていってください」

 

「いいのかの? 迷惑をかけると思うのじゃが……」

 

「構いません。もし気にするのでしたら子供達の遊びに付き合ってください。私たちは作業で忙しく、なかなか遊び相手になれなくて……あの子たち地下から出られないから退屈しているんです」

 

「じゃ。私達は客人を持て成す準備をしようかな。何かあったら呼んでくれ。それまでは、この部屋でゆっくりとくつろいでもらって構わないから」

 

 ティレアとマリナは話し合いの途中で眠ってしまったミリアを抱きかかえ三人を残して部屋の外へと出て行くのであった。

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