魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

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第七話 絵本

 アート達三人はティレアたちが戻ってくるまで他愛無い会話をしていると、不意に扉が開かれる音がした。一行は戻ってきたのだと思って扉の方へと顔を向けると、そこにいたのは、先ほどまで眠っていたはずのミリアが、他の子供たちを連れて部屋に入ってくる姿だった。数は多く十数人ほどいるのが確認できる。

 

「お母さんから、お姉ちゃんたちが読んでくれるって聞いたの! 読んで! 読んで!」

 

 ミリアは期待に胸を膨らませたような顔をしてコミに本を渡す。後ろの子供たちも期待しているようで、そわそわしだした。

 

「これは……絵本ですか?」

 

 表紙にコミカルな絵が描かれた本をコミが受け取ると子供たちは喜びをあらわにする。

 

「こっち! こっちぃ!」

 

 子供たちはコミの手を掴み部屋の外へと向かおうとした。

 

「え?どこにいくんですか?」

 

 彼女は引っ張られながら子供たちに尋ねると、大人しそうな子が答えてくれる。

 

「本を読み聞かせしてくれる場所があるの。ついて来て」

 

「……ベル博士、アートさん、少し席を外します」

 

 コミが焦るような笑みを浮かべると子供たちと部屋の外へと出ていった。

 

「ベル博士、僕たちもついていったほうがよかったのでしょうか?」

 

「行かなくてもよいじゃろう。ティレア殿が戻ってきたとき、部屋に誰もおらんだら困るじゃろう」

 

「それもそうですね」

 

 ベルとアートが会話していると、再び扉が叩かれる音が聞こえた。

 

「こんどこそですかね?」

 

「そうかもな。どうぞなのじゃ!」

 

 ベルは扉の奥にいる人物に大きな声をかける。

 

「失礼するよ」

 

 扉が開かれ中からマリナが姿を現し、部屋の中を見渡して不思議そうに腕を組んだ。

 

「客室の準備が出来たから、呼びに来たんだけどコミさんはどこにいったんだい?」

 

「コミさんなら、子供たちとともに――」

 

「・・・ああ! なるほど! 分かった。分かった。後でコミさんには話しておくから、二人には先に部屋へと案内するわ」

 

 マリナが手招きして二人を部屋の外へと連れ出し歩き出す。来た道をたどり、地下で始めに踏み入れた空間へと出た。

 

「ここから皆の部屋へと繋がっているんだ」

 

 彼女は壁にある複数の扉の中から一つに近づき、表示板に何も書かれていない扉を開ける。

 

「どうぞ中へ」

 

 ベルとアートは言われた通りに部屋の中へと入る。地面がワラで覆われており、雑魚寝ができる空間となっていた。

 

「何とか人が泊まれるような感じにはなったとは思っているが、どうかな?」

 

「いや、大丈夫じゃ。わしらみたいな余所者を泊まらせてもらえるだけでも十分じゃ」

 

「そういってもらえるだけでも助かるよ。村がこんな状態だから誰かが泊まるなんて想定していなかったからさ」

 

 晩御飯になったら呼びに向かうと告げるとマリナは部屋から出ていった。

 

「疲れましたね」

 

 荷物を端に置いたアートが息を吐いてワラの床へと座る。

 

「わしも疲れたのじゃ。晩御飯になったら起こしてはくれぬか?」

 

 ベルは荷物を置くと、すぐに横になり寝息を立て始めるのだった。

 

 ♢

 

 ベルとアートが筋肉質なマリナに部屋へと案内されている中、コミは子供たち共に、とある部屋の前へと来ていた。

 

「ここが先ほど言っていた……本を読む場所ですか?」

 

「そうだよ! 私たちは皆、ここで本を読むの! だけど難しい本がいっぱいだけど……」

 

 ミリアの言葉に他の子供たちも「そうだよ!」って、一人の子を除いて、はしゃぐ。

 

「難しい本は先生の本なの」

 

「ブルムンちゃんは、お母さんみたいになりたいんだもんねー」

 

「うん」

 

「……あれ? お姉ちゃんは?」

 

 会話をしていたはずのコミがいなくなっていた事と自分たちの周りが静かになったことに違和感を覚えたミリアは辺りを見渡す。

 

「先に行ったよ」

 

 ブルムンが指を差す先には、他の子供たちに部屋の中へと連れられて椅子に座らされているコミがいた。

 

「私たちも早くいこ!」

 

 二人がコミを中心として扇状に広がるように用意された椅子へと座る。すると読み聞かせが始まるのであった。

 

『題名、青き花。昔々あるところにユウリとセラという二人の姉妹がいました。彼女たちは仲が良くどこにいても二人で行動するほどでした。しかし二人がいつものように街の外の丘で遊んでいると一輪の不思議な花を見つけます』

 

 コミがここまで読むと次に来る文字に違和感を覚え、口が止まった。

 

「お姉ちゃんどうしたの?」

 

 不思議そうに子供たちに見つめられていることに気づいたコミは謝罪し、絵本の読み聞かせを再開する。

 

『黄色い花。どこにでもありそうな花なのに彼女たちは不思議と目が吸い寄せられていきました。きっと特別な花に違いないと二人は優しく摘み取るのでした。綺麗だね。可愛いね。などと花を褒めているとカラスの鳴き声が聞こえてきました。外はすっかりと茜色に変わっています。お家に帰る時間です。二人は不思議な花を持って帰ろうと立ち上がりました。しかし一向に彼女たちは歩き出しません。目の前の光景に目を奪われていたのです。空が茜色に染まっていたのは夕暮れになったからではありませんでした。街が火の海となって空を赤く染め上げていたのを夕暮れだと二人が勘違いしただけなのでした。言葉にならない声を上げ二人は泣き叫びます――』

 

 突如、お話を聞いていた一部の子供たちが泣き始める。それは次々と連鎖していき、一つの合唱へと変化する。その様子に読むことを中断したコミが慌てていた。

 

「ミリアどういうこと?」

 

 ブルムンにジト目で問い詰められたミリアは笑ってごまかす。

 

「私は好きなんだけどなぁ……」

 

「だからと言って……先生にも止められていたじゃない……」

 

「そんなことよりお姉さんが困ってる! 助けなくっちゃ」

 

 ごまかす様にミリアは急ぎ、コミの手助けへと駆け出した。

 

「全く……」

 

 ゆっくりと椅子から立ち上がったブルムンはミリアの後を追いかける。

 

「コミさんはいるか、なぁ⁉」

 

 そんな阿鼻叫喚とした部屋の中へと扉を開けて入ろうとしたマリナが驚愕し、泣き叫ぶ子供たちを急いで、あやし始めるのであった。

 

 事が収まりミリアとブルムン以外の子供たちは泣き疲れたのかぐっすりと眠ってしまっていた。

 

「マリナさん。これでいいですか?」

 

 寝静まった子供たちをマリナに教えられた通りに移動させ、布団を掛けたコミが確認する。

 

「ああ、それで大丈夫だ。それにしてもミリア。あの絵本はティレアがダメだって言っていただろう?」

 

 怒っているマリナを見たミリアは肩を跳ねさせブルムンへと視線を向けると、ブルムンは視線を合わせようともせず、そっぽを向いた。

 

「でも……」

 

 うつむき、何とか言いだそうとするミリアにマリナは座り顔の位置を合わせる。

 

「でもじゃない。あの子たちはまだ幼いし誰もがミリアみたいに怖い話に耐性があるわけじゃない。分かってくれるね?」

 

「・・・うん」

 

「ならよし。説教はここまで。今度から皆で絵本を読む場合は明るい話にしような」

 

 涙ながらに頷くミリアの頭を撫でたマリナは立ち上がり、静かに見守っているコミの方を見る。

 

「ごめんな。巻き込んじゃって」

 

「いえいえ、大丈夫です。私もそのまま続けてしまったのが悪いんですから」

 

「そこまで言われちゃうとね……そうだ。何か私に出来ることがあったら是非頼ってくれ」

 

 握り拳から親指だけを上に出して、コミに突き付けるようにして見せつけた。笑顔で答える口から覗き込んだ歯が少し光ったように見える。笑顔のまま硬直したマリナは数泊置いて彼女に伝える。

 

「ん? あっ! 忘れてた。客間の準備が出来たから案内のためにコミさんを呼びに来たんだった」

 

「お姉ちゃんをつれていくの?」

 

 ブルムンに頭を撫でられている涙痕をつけたミリアが反応する。

 

「少しの間だけコミさんをお借りしてもいいかな?」

 

「ミリア。私たちは本でも読んでよ?」

 

「うん。またね。お姉ちゃん」

 

 ミリアはマリナとコミが部屋から出るまで、静かに見つめるのだった。

 

 部屋から出たコミは、マリナに客間へと案内されている中、手に持っている絵本を見せる。

 

「うん?これは?」

 

「あの子たちが読んでと言って渡された本です」

 

「あの暗い内容の本か……最後には皆が幸せになるお話なんだけど、いかせん途中がね。小さな子供にとって刺激が強いんだ。先ほども経験しただろ? あの子達にはイチゴの国のイチちゃんの方が楽しめるだろう。それで、それの本がどうかしたのかな?」

 

 マリナはコミの持っている絵本に指を差しながら質問に答えると、不思議そうな顔をした。

 

「この本をお借りしてもいいですか?」

 

「ここにいる間だったら、いいよ。私からミリアに言っておくから」

 

「ティレアさんではなく?」

 

「その本はミリアのお気に入りなんだ。なんでも二人の姉妹を救った英雄に憧れているんだってさ」

 

「そうなんですね」

 

「そういうこと。さて、部屋に着いたよ。すでに部屋の中でお仲間が待ってるから入るといい」

 

 コミは教えられた部屋の扉を開くと、すでに中にいた人物から声を掛けられた。

 

「読み聞かせは終わりましたか?」

 

「ええ、まあ。終わりました……」

 

 歯切れが悪そうに返すコミに不審な目でアートが見つめていると、マリナがコミの代わりに答えた。

 

「ちょっとした問題はあったが、無事に終わったよ」

 

 笑い声が聞こえそうなほどの笑顔で伝えるマリナに、アートは深く考えるのを止めた。

 

「アートさん。ベル博士は?」

 

「ベル博士なら、ほらそこに」

 

 彼が指を差す先にはワラで包まって寝息を立てているベルがいた。

 

「ここに来て安心したのでしょう。ぐっすり眠っています」

 

「おっと、すまない。騒いでしまったようだね」

 

 にこやかな笑顔でいたマリナはベルが眠っていたことに気づかず、騒ぎを立ててしまったことを申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「大丈夫です。本人は眠ったままですので。ですが声を少しだけ落としてもらえると嬉しいです」

 

「分かった。夕飯を知らせるときは、あまり音を立てないようにするよ。ではまた、ご飯時に」

 

 マリナは音を立てないように、ゆっくりと部屋の扉を閉めて出ていった。

 

「そうだ。アートさん。この本なんですが……」

 

 コミは手に持っている絵本をアートに見せつける。

 

「本? 題名は……青き花? これが一体どうしたんですか?」

 

「この本を子供たちに読み聞かせしていたのですが……この文に違和感を持ちまして……」

 

 絵本を開いたコミは自身が違和感を持ったという場所に人差し指を添えた。

 

「黄色い花…………もしかしてコミさんが青い宝玉を触れた時に見た映像と何か関係が?」

 

「……はい。黄色い花に浸食された少女。その黄色い花が物語に登場しているのではないかと思うのです」

 

「思うってことは、最後まで読んでない感じで?」

 

「読み聞かせの途中で中断しましたから、最後まで読んでないです」

 

 アートは考え込むように絵本を見つめた後、眠っているベルの方を見た。

 

「本を最後まで読むのはベル博士が起きてからにしましょう。その方がお互いの考えを照らし合わせやすいと思います。コミさんはどう思いますか?」

 

「私もそれでいいと思います」

 

「ベル博士は夕飯時になったら起こしてくれと言っていましたので、本を読むのはそれからにして僕たちもゆっくり休憩しましょう」

 

「そうですね。私も疲れました。少し横になります」

 

 二人はワラの上に寝転がり、マリナが呼びに来る夕飯時まで身体を休めるのであった。

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