魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

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第十一話 二手に分かれて

 フェニデリア街へと先に走っていくコミが不意に立ち止まる。すると後ろから追いかけていた三人が追いついた。

 

「待ってください」

 

「ごめんなさい。急ぎすぎました」

 

「まあ、いいじゃないか。それよりも列に並ばないか?」

 

 マリナが言うように街に入るための城門には、ごく少数ではあるが人が列をなして並んでいた。衛兵が先頭の人に幾度か会話をすると門を通し、次の人に先ほどと同じように対応していくのが、うかがえる。

 

「そうでした……関所があったんですね」

 

 憂鬱そうにコミが額に手を当てると、ベルが苦虫を潰したような表情をして同意した。

 

「普段は気にしてないから、すっかり忘れておったわ」

 

「どうしたんだ二人とも。税を払って検問するだけじゃないか。さっさと済ましてしまおう」

 

 二人の様子を見たマリナが不思議そうに話す。

 

「マリナさん。少しだけ時間を貰えませんか?」

 

「…………分かった。その間、私は列に並んでいるとするよ。先頭になるまでに戻ってきてくれ」

 

 真剣な表情で伝えるアートに何か思うことがあったのか。マリナは何も聞こうとはせずに列の並びに加わるため、その場から離れていった。

 

「助かったのじゃ」

 

「ごめんなさいアートさん。私達が忘れていたばかりに……」

 

「いいんですよ。それよりもどうしますか? お二人は王城から逃げ出した脱走犯になっているはずです。少なくとも領主様であれば、その話を王都の使者から耳に入れていると思って間違いないでしょう。僕が思うに、このまま街に入るのは危険だと思います」

 

 彼の話を聞いたベルは眉間にシワをよせて、深くため息を吐いて頭を抱える。

 

「アートの言う通りじゃ。隣の王国まで暗部を寄こすほどの粘着ぶりじゃ。指名手配として名と顔が知れ渡っていると考えたほうがよい。あまりこう言うのは良くないのじゃがメティス村での事は運が良かったのじゃな」

 

「……使者が来れなかったほどです。伝達が出来なかったとしても、おかしくはありません。……誠に遺憾ですが……魔物に助けられてしまったのですね私達は……」

 

 コミはメティス村での事件が、結果的に自分たちを救ってしまっていたことに暗い表情で悔しそうに語る。時々、拳の握る力を加えているのか動いていないはずの腕が小刻みに震えていた。

 

「本当であれば、全員で街中に入り情報を集めたかったのじゃが、危険を回避するために、ここは二手に分かれて行動するのじゃ」

 

「二手ですか?」

 

「そうじゃ。おそらく指名手配されておらんアートは街中で情報を集め、わしらは街の外で情報を集めるのじゃ。これならば、あまり危ないことにはならないじゃろう。で、この作戦で行くかの?」

 

「僕は異論ないです」

 

「私も」

 

「では、情報収集二手に分かれてを開始するのじゃ!」

 

 ベルは少し大きな声で開始を告げるが、聞いていた二人は冷めた目をしていた。辺りが少し寒くなったように強めの風が吹く。

 

「……ベル博士……流石にその名前はどうかと思うのですが……」

 

「それに……ただ並べただけに感じます。まだ見える君の方が良かったと思います」

 

「…………なに、辛気臭かったのでの。ここは気持ちを楽にさせるため一芝居打ったのよ。ほれ、さっさと行動するのじゃ。アートはマリナの所へ早く向かったほうがよいと思うの」

 

 ベルが指を差す先には、列の先頭近くまで足を運んでいるマリナの姿があった。

 

「マリナさん⁉ ベル博士、コミさん行ってきます」

 

 その姿を確認したアートは急ぐように走り出し、その場から離れていった。

 

「ベル博士。作戦通りであれば、これから情報収集とのことですが街の外で出来るものなのですか?」

 

「ほとんど出来ぬ」

 

「それでは私達は、アートさんを待つだけなんですか?」

 

「ほとんどと言ったじゃろう。とりあえず、あそこに見える丘の上から街の中を観察するのじゃ」

 

 街の近場に存在する城壁よりも高い丘を指さしたベルは、コミと共に歩き出して丘を登っていく。幸い、凹凸が少なかったので苦も無く上にたどり着いた。丘の上には遮るものがなく二人は流れる空気や日光を直接浴びながら、街の中を見下ろすように見つめるのだった。

 

「視えにくいですね……あれが領主様の館でしょうか?」

 

 コミが城壁から、はみ出すように飛び出ている屋根を持つ家に向かって指を差す。

 

「……間違いないの。あの他よりも大きな建物を見間違えることはない、領主様の館じゃ。相変わらず大きいのう」

 

「人の通りはどうなっているのでしょうか? 魔物が現れたのなら、減っていそうではあるのですか……」

 

「いや……あの頃と変わっておらんの。人が活発に動いておる。まるで魔物など初めから、おらんだと言うようにの」

 

「……他に分かることは……」

 

「やっぱり、遠目からじゃと仕入れられる情報が少ないのう。何をしているのかまでは分からん。この辺はアートの到着を待つしかないの」

 

「では、街から出入りしてる商人に話を聞いてみましょう。今なら、まだ誰かいるはずです」

 

「コミの言う通りにしたいのじゃが、情報を貰うための、お金が足りないかもしれん」

 

「それでも何もないよりかは良いかもしれません。アートさんだけに苦労をさせられません」

 

「そこまで言うのであれば分かったのじゃ。残りのお金で聞きだせるだけ聞いてみるのじゃ」

 

 二人は丘を降りて城門の近くまで向かう。アートと別れるまでは列があったのだが今は誰もいないのか衛兵が二人だけ、門の前で見張っていた。

 

「アートは既に街に入ったようじゃの。上手くマリナを説得できたようで一安心じゃ」

 

「商人は……いないようですね……」

 

「……少し待ってみるとしようかの」

 

 二人は通行の邪魔にならないような場所に移動して城門の様子をうかがう。しばらく待っていると衛兵の一人が街の中へと入っていくのが見えた。

 

「何かあったのでしょうか?」

 

 コミが不思議そうに見つめていると、城門から馬車を引いた男の人が姿を現した。

 

「誰かが出てきたのう。もう少し離れたら聞いてみるとするのじゃ」

 

 ベルとコミは街から逃げてきた時に被っていたフードで顔を隠しながら待機する。

 

「なんだか久しぶりです。この格好をするのは……なんだか、あの時の脱走を思い出してしまいますね」

 

 思い出し笑いをコミがしていると、先ほどの男が城門から離れ道を歩み始めていた。

 

「動き出したようじゃな。尋ねるとするのじゃ」

 

 二人は馬車を引いている男に話しかけに向かうと、その人は気づいたのか馬車を止める。

 

「私に何か用かな?」

 

「わしらは旅の者での。街に入る前に少し街の様子について聞いておきたいのじゃ。街から出てきたのを見ておる、教えてはもらえんかの?」

 

「それぐらいであれば五十ゴールドで教えよう」

 

 ベルは指定された金額を取り出すと、男によって差し出された手のひらの上に置いた。

 

「この大きさと重み、間違いなく五十ゴールドだ。確かに受け取ったぞ。それで、街の様子だったな」

 

 男は二人に自身が知っている街の様子を簡単に伝えると、その場から去っていった。

 

「魔物の話がありましたが、街の人はあまり怖がっていないようですね。夜は誰も出歩かないようにしているみたいですが……」

 

「ほとんどの話がナバラが言っていたことじゃったの」

 

「ベル博士。まだお金は残っていますか?」

 

「まだ残っているのじゃ。引き続き城門から人が出てくるのを待つとするかの」

 

 二人は元いた位置に戻り再び城門の様子をうかがう。相変わらず衛兵は二人おり、退屈なのか一人は欠伸をしているのが見えるがそれだけである。他に動きはなく時だけが過ぎていく。

 

「しっかし、あの時もそうじゃったが案外、被り物は馬鹿に出来んの。顔を隠しただけなのじゃが、意外にバレないものじゃ」

 

「意外にバレないからアートさんと、また会えたんですよ。これは私たちにとって救世主みたいな物ですね」

 

「救世主……案外そうかもしれんの」

 

 二人は待てど待てども、なかなか人が姿を現さない城門を見つめながら会話をして待ち続けるのであった。

 

 ♢

 

 時はさかのぼりベルとコミの二人から離れて急ぐアートは、人の列に並んで先頭に足を運ぶマリナの元へと検問が始まる前にたどり着いていた。

 

「な……何とか間に合いました……」

 

 急いでいたアートが荒くなっている息を整えながら告げると、それを見ていたマリナは「間に合ったのはいいのだけど、ベルさんとコミさんはどうしたのかな?」と尋ねるのだった。

 

「二人ですか? 二人なら街の外を少しだけ見学してから入るそうです。僕はこのままマリナさんと一緒に入ります」

 

「それは不思議だね。特にコミさんなんて街での観光を楽しみにしていたのに」

 

「事情がありまして……」

 

 ごまかす様に苦笑いをするアートに呆れたように顔で返すマリナは「聞かないでおく」と一言だけ話し黙った。

 

 前にいる人の検問が終わると二人の順番が回ってくる。衛兵に呼ばれた二人は門の真ん中にある壁から延長して作られている勘定台という名の横に長い台へと連れられる。勘定台の近くに衛兵がおり、立ち止まった二人に向かって口を開いた。

 

「お久しぶりですマリナ殿。出門してから帰還せず街の一同とともに心配しておりましたが無事でなりよりです。今すぐに検問を始めたいのですが、その前に一つ尋ねてもよろしいでしょうか?」

 

「何が聞きたいんだい?」

 

「同じく出門したフルグ殿はどちらに?」

 

「彼は事情があってね。メティス村に残ってもらっているんだ」

 

「分かりました。それで検問は隣の彼と一緒で?」

 

「よろしく頼むよ」

 

 マリナが頷くと話していた衛兵と二人を連れてきた衛兵が検問を始める。簡単な質問や手荷物の検査をおこなった検問は、それほど時間をかけずに終了した。

 

「検問の結果。お二人は問題なしと判断されました。一人に付き五十ゴールドの通行税をお支払いください」

 

 衛兵の一人が勘定台の向かい側へと歩いて立ち止まり、二人が税金を出すのを待った。

 

 マリナが指定された金額を取り出して台の上に置くと衛兵が天秤を使って確認をおこなうと二人に向かって、お辞儀をした。続いて近場にいる衛兵もお辞儀をし「フェニデリア街へようこそ!」と告げるのであった。

 

 二人は衛兵に見送られながら門を越えて街中へと入ると通行人の邪魔にならないように城壁の壁際へと身を寄せる。

 

「さて、早速だけど当初の予定通りに酒場のバッカランに向かいたい、いいかな?」

 

「それで構いませんよ。他に行きたいところは特にありませんから」

 

「ありがとう。バッカランは、この大通りを歩いて右側に建っている建物だ。案内するよ。離れないようについてきてくれ」

 

 マリナが先行して大通りを歩きだす。二人が通行人の間を縫うように進んでいると彼女が立ち止まり、アートに見えるよう建物へと指を差した。

 

「ここが酒場バッカランだ」

 

 落ち着いた色と木で構成された酒場へと、二人は扉を開いて中に入る。すると玄関で一人の少女が顔を見せた。

 

「いらっしゃいませ!」

 

 深くお辞儀をする少女は、元気よく挨拶すると姿勢を正し、二人を見つめてから驚くような顔をして、細長い机の向かい側で調理をしている中年の見た目をした男性の方へと駆け込んだ。

 

「お父さん! マリナさん! マリナさんが帰ってきたよ!」

 

 大きく告げる少女の声に酒場にいた人たちが、ざわめき始める。「あの拳聖が⁉」や「生きていたんだ」とかの話し声が部屋の中を埋め尽くすように広まっていく。すると一人の男の声が大きく響き渡った。

 

「静かに!」

 

 たった一言で周囲が静まると、先ほどの声が聞こえてきた方向から一人の男が少女を連れて二人の前に立ち止まった。

 

「久しぶりだなマリナ。積もる話はあるが、まずは飯を食べていくか?」

 

 気さく良く話す男にマリナは首を横に振る。

 

「いや、先にバッカさんと話したいことがある。時間は取れそうか?」

 

 マリナの言葉に男は悩むように部屋内を見渡すと隣に居た少女に顔を向けた。

 

「カーナ。しばらく任せられるか?」

 

 男にカーナと呼ばれた少女は元気よく頷くと調理場へと向かっていった。その様子を見ていた酒場の男たちはカーナの料理が食べられると喜びを露わにしている。中には店長よりも少女の料理の方が良いとか言っている者もいた。

 

「この酒場は変わらないな」

 

 笑うように発言するマリナに「馬鹿ばっかだよ」と呆れ返した男は二人を部屋の奥にある扉の中へと案内する。中には複数の人が座れるソファーが二つあり、間に挟まれるように高さが低めの机が鎮座していた。

 

 二人がソファーに横並びで座ると、案内していた男が机を挟んだ向かい側のソファーに座った。

 

「俺と初対面の人がいるから、まずは自己紹介をしよう。俺の名はバッカ・クラムソルバだ。酒場の店主をしている気軽にバッカさんと呼んでくれ」

 

「僕の名前はアート・セルリアです。仲間と共にデルキスタス王国からエディア村に向かうために旅をしています」

 

 男二人が自己紹介を終えたのを見たマリナが、話し合いをしようと口を開きかけてバッカに見つめられていることに気づいた。

 

「もしかして……私もかい?」

 

「そうだ。しばらくマリナはいなかっただろう? 心配してたんだ何があったのかを交えて話してほしい」

 

「私の名前はマリナ・ブロッセン。バッカさんから依頼を受けた私はフルグと共に依頼先であるメティス村へと向かっていた。そこまでは良かったんだ。何事もなく目的地にたどり着いたからね。しかし事が起きたのは依頼を明日こなすことにして就寝しようとしていた時だ。魔物が現れたんだよ魔物が」

 

「お触れに書かれていた怪物の名前か……」

 

「ああ、当時の私とフルグ村の皆は対処法を全く知らず、メティス村はみるみるうちに壊滅してしまった。今、生存しているのはフルグが守っている、ごく少数の人だけだ」

 

「元ではあるが拳聖とも呼ばれた者が太刀打ちできないほどとは……お触れには核を破壊すれば倒せると書かれていたが、見つからなかったのか?」

 

「見つかるどころではない。この街で出現しているのとは比べ物にならないほどの強さを持った魔物がいたからな。私の拳が奴の肉体に弾かれるほどには強かった……」

 

 何かを思い出す様にマリナは少しだけ、力を込めて握った拳を一瞬、横目で見た。

 

「マリナの拳を弾くほどの肉体を持つ魔物か……確かに話に聞いていた攻撃が素通りする魔物とは別物のようだ」

 

「別物で間違いないよ。バッカさんが言っているのは狼みたいな見た目の奴だろう? 私が戦ったのは上半身が人型で下半身がカエルの全身が黒い魔物だったよ」

 

「確かに俺が知っているのは狼の形をした魔物だけだ。しかしマリナでさえ勝てない魔物がいるというのは危険すぎる。今はまだ現れてはいないが、今後、街の周辺でも出る可能性もある。注意しておこう。ちなみにどうやって生き残ったんだ?」

 

「その魔物は村を蹂躙した後、近くの森に姿を消したよ。その後は現れることはなかったけど、山を越えた先にある隣国のプラト村で見つかったんだ。私が戦ったのと同じ魔物がね」

 

 マリナはそう言うとアートの方へと顔を向けた。

 

「僕たちが戦った魔物とマリナさんと戦った魔物と特徴が一致していましたので、恐らくですが山を越えてきたのだと――」

 

「まて! 確か魔物は日の光に弱かったはずだ。たとえ魔物とはいえ山を越える前に太陽が昇ってしまう場合がある。そういう観点からすると隣国の村まで、たどり着けないと思うのだが。君が言っているのは別の個体とかでは?」

 

「……確かにバッカさんの言う通り、別の個体かもしれません。ただこれだけははっきりと言えます。日の光を浴びた魔物は人へと変化し、ゲーマ王国の紋章を持っていたことは間違いないです」

 

「なっ! それは……本当のこと……か?」

 

 驚いたバッカは前かがみになり、顔をアートへと近づけようとするが途中で止まり、浮かび上がった尻を元に戻して姿勢を整えた。

 

「驚くのも無理はないです。僕だって驚きましたから」

 

「私も後から聞いて驚いたさ」

 

「……それでその人は?」

 

「亡くなっていました。今は王国の衛兵隊長クライスさんが証拠として持ち帰っています」

 

「そうか……」

 

 バッカは悩む様に黙ると、しばしの時を置いて口を開く。

 

「マリナとフルグが戻ってこなかった理由が分かった。それで俺に話したいこととは?」

 

「そういえば……そうだったね。私が話したいこととは、先ほどのメティス村のことで、ベルガータ卿とお話がしたくてね。バッカさんの力でどうにかならないかい?」

 

「俺の力でどうにかは……ならないな。現在のベルガータ卿は忙しく来客を拒否するぐらいなんだ。無理だろう」

 

「無理か……」

 

 マリナは落胆するように声の音量を下げた。

 

「だが、一つだけ可能性がないわけではない。それはマリナが帰ってきたことだ。元とはいえ拳聖が生きて帰ってきたんだ。お会いしてくれる可能性はあるだろう。俺が仲介して頼んでみるから少し待ってくれ」

 

「……ありがとう。感謝するよ」

 

「そういうのは、上手くいってからにしてくれ」

 

「分かった。それで……彼も聞きたいことがあるんだがいいだろうか?」

 

「いいだろう。マリナの頼みだ。特別に知っている事だけではあるが、タダで答えてやろう」

 

「そうですね……エディア村についてと最近ゲーマ王国の王都で起こった大きな事件はなかったか? が聞きたいことですね」

 

「答えよう。まずエディア村についてだが、他の村と大差がない村だ。しいて違うとすれば大きめの教会が建っているぐらいだ。今は王国軍が遠征に来ていて訓練をしているとか聞いたな。エディア村については、それぐらいだ。それで大きな事件の方だったな……」

 

 何かを思い出そうとしているのか、バッカは腕を組んで背もたれに腰を深く落とした。

 

「……あった。大きな事件が。王国で所属していたベル博士がコミという女性を連れ出して逃亡中と指名手配の張り紙がされていたな。当時はベル博士が犯罪に手を染めるなんて思わなかったが……王国から直々に逮捕状がでるとはな……それで聞きたいことは以上か?」

 

「もう一つありました。情報屋があれば場所を――」

 

「情報屋はある。場所は後で紙に書いておこう」

 

「他は……もうありません。ありがとうございます」

 

「では、俺が戻るまで食堂で飯でも食べて待っていてくれ」

 

 バッカはそう言うと立ち上がって部屋を一人後にする。その後バッカと入れ替わるようにカーナが顔を見せた。

 

「お父さんの奢りだと聞いています。席に案内しますのでついてきてください」

 

 カーナの案内のもと二人は案内された席に付き料理を選んで注文する。マリナが勧めた料理にアートは少しだけ浮かれていた。

 

「楽しみです」

 

「気に入ってくれると嬉しいな」

 

 料理が出来上がるまで会話しながら待っていると出来立ての料理が届く。カーナに食べ方を教えてもらい机の上に置かれた。

 

「これが、マリナさんのお勧めの料理ですか……」

 

 香りを鼻で堪能するアートが料理を口へと運ぶと感想を述べる。

 

「美味しいですが……二人にも食べてもらいたかったです」

 

「なに、後で来るんだろ?だったら、その時また皆で食べればいいさ」

 

「それもそうですね」

 

「さて、私も冷めないうちに食べるとしよう」

 

 二人はバッカが戻るまで温かい料理を満足いくまで堪能するのであった。

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