魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

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第二話 研究者の二人

 石壁へと続く草が生い茂る道で、草むらを掻き分けている音が聞こえる。

 

「町の奥とは聞いていたが、舗装された道がないとは聞いてない」

 

 アートは、ぼやきながら草むらを掻き分けていた。だが何度足を進めても目に見えるのは草むら。

 

「道あっているよな」

 

 彼は本当に道があっているのか不安になっていた。気が付いたら何度も地図を見返している。そんな時、立派な石柱が視界に入ったのだった。

 

「あちこちに石柱が散らばっている。この道で間違っていなかったんだな!」

 

 同じ景色から一転し、目新しい景色が視界をおそい、道が間違えていなかったことに確信をして喜んだ。

 

「しかし、この石柱は一体……」

 

 アートは近くにあった石柱へと足を運び、手で触れ、顔を近づけながら調べだした。しばらく石柱を調べていると表面を何かで削って作ったと思われる彫りを見つける。

 

「これはどこかで……」

 

 その彫を詳しく観察していると記憶の片隅に引っかかったのか、驚くような表情をしたかと思えば乱雑に麻袋を開き、書物を取り出して捲る。捲る手を止め、石柱の彫りと開いた本を交互に確認しながら頷く。

 

「間違いない。書物に書いてある文字と全く一緒だ」

 

 アートの中で大きく確信をすると共に、声を出しながらゆっくりと読みだした。

 

「ワレラ、マホウ、ツカウ、タミ、カミ、アールド、ミチビキ」

 

 どうやら文字によると、過去にマホウという物を使う人がいてアールドという神を崇めていることが分かった。

 

「島には謎が必ずあると感じる。それを解き明かすカギは間違いなくマホウだがマホウとは一体なんだ?」

 

 頭を悩ませるがマホウという物が一体どのような物なのか一向に分からない。他の石柱も調べてみるが同じ文字ばかりが並んでいることだけが分かっただけで、マホウに対しては何も分からないまま時が過ぎていく。

 

「結局、分からず仕舞いか……」

 

 どう頭をひねってみても分からないままだったので、一旦保留にすることにして石柱がある場所から石壁に向けて歩き出そうとした。だが長いこと石柱を調べていたせいか日が沈みはじめていることに気づいた。

 

「周りが暗くなってる。こんなところで野宿なんて嫌だけど、こんな場所で泊まれる場所なんてないよな……」

 

 野宿は想定していたが、温かい寝床で眠りたいと欲が出てくるようで辺りを見渡していると、アートの祈りが通じたのか明かりが点いている家を見つけた。さっそく家に近づき今晩泊まってもよいか聞いてみようと試みるが、ダメだったら野宿は確定だなと溜息を吐いた。

 

「すみません。どなたか、いらっしゃいますか?」

 

 扉を叩き声をかけると、家の中から物音が聞こえてきた。扉が開かれ髪の長い若い女性が姿を見せる。少し急いできたのだろうか、息が荒く顔を下に向けている。彼女は顔を上にあげて目の前にいる彼の存在を確認すると、慌てながら息を整え口を開いた。

 

「どちら様でしょうか?」

 

 アートは中から女性が出てくることに少し驚くが、本来の目的を質問する。

 

「僕の名前はアート。今晩だけでもいいので泊まらせてくれませんか?」

 

 彼女はその言葉を聞くと、少し悩んだ様子を見せてから答えた。

 

「ごめんなさい。夜が遅いのに町から離れた場所で放っておくことなどしたくはないのですが、私一人では判断が出来ないのです。ベル博士が戻ってきてくれれば、お応えできるのですが……」

 

 期待していた言葉が聞けず、そもそも肝心の家主がいないため、泊まることが出来ないという話でアートは落胆した。

 

「そうですか……失礼しました」

 

「待ってください」

 

 今夜は野宿になることが確定したアートは、残念そうに落ち込みながら踵を返したとき、彼女に腕をつかまれ引き留められた。突然、腕をつかまれ驚愕したが、アートは何とか転ばないように立ち止まった。

 

 彼女はアートをつかんでいた手を放し、彼の体勢が整うまで待ってから話しだす。

 

「私の名前はコミです。ベル博士の助手をしています。ベル博士は、ここより奥にある石の扉の研究をしている研究者なのですが、研究に夢中になると夜になるまで家に戻ってこなくなります。今現在、既に夜なのですが何故か、まだ帰ってきていません。失礼だとは思いますが、私と一緒にベル博士を連れ戻してくれませんか? 連れ戻してくださればアートさんが今夜泊まれるように話をつけさせてもらいます」

 

 アートは、もしベルを連れ戻せたら泊まることが出来るかもしれないというコミの提示に、早急に口を走らせた。

 

「分かりました。ベル博士という人を連れ戻しに行きましょう」

 

 その言葉にコミは喜び、感謝をすると意気込みを見せた。

 

「ベル博士を連れ戻したらすぐにアートさんが泊まれるように説得させます!」

 

 コミが支度をするので少し待っていてくださいと家の中に戻っていく。ただ、急いで支度をしているのかアートが外にいても足音が聞こえてくる。途中、何かをぶつけた音や声にならない悲鳴を耳にしたかと思えば急激に静かになった。

 

 不安を覚えたアートは扉の取っ手に手をかけようとした時だった—―勢いよく扉が開かれ、顔面を強打し木材の音を大きく奏でながら後ろへと倒れるのだった。

 

 痛みをこらえ顔を抑えながら起き上がったのはいいもの、痛みがなかなかひかない状態が続く。その一連の事態を起こしたコミは唖然としており、頭の処理が追い付いていないようだった。

 

「ごめんなさい! 大丈夫ですか!」

 

 思い出したかのように体を動かし出したコミは、彼が無事か確認を取りながら肩にかけていた麻袋を地面に下ろし、治療用の道具を取り出していく。

 

「今から手当てをします。少し動かないでくださいね」

 

 薬を持ちながらアートの顔面近くまで接近し、手で顔を固定しながら赤く変色している場所に傷薬を塗っていく。

 

 彼女の手で顔を固定されたままのアートは女性特有の匂いに、逃げ出したくなる衝動に駆られるのだった。そんな状態が続いていると不意に顔から手が離れた。

 

「よし、終わりましたよ。まだ痛いですか?」

 

 しかしアートは反応を示さないようで、不思議に感じたコミは彼の目の前で手を振り意識を確認する。すると彼は意識を取り戻したかのような反応をし、出発を促し出した。

 

「さあ、博士を連れ戻しに出発しましょう!」

 

 そういうと一人で先に進んでいこうとする彼に、コミは散らばったままの治療用の道具を急いで片づけて、呼び止めるように声をかける。

 

「待ってください!」

 

 麻袋を肩にかけると駆け足で、先に行くアートを追いかけだすのだった。

 

 ♢

 

 追いついたコミの道案内により、さほど時間をかけずに二人は巨大な石の扉がある場所へと、たどり着いた。

 

「石の扉は、この辺のはずですが……博士は一体どこに?」

 

「どこにも人物らしき人影は見当たらないですが」

 

 二人は辺りを見回しながら石の扉へと近づいていくと、おかしな動きをしている小柄なオッサンを発見した。

 

「ここがこうなってて……そうか! む? 違う?」

 

 その動きはトビーとアレックスの言う通り、さながらダンスを踊っているみたいに動きまくっていた。

 

「もしかして、博士ってあの?」

 

 アートは踊っているように見えるオッサンを震える指で差しながらコミに質問を投げかける。

 

「はぁ……もしかしなくてもです」

 

 彼女は溜息を吐いた後。顔に両手をあて天を仰ぎながら答えて「ベル博士! いつまでいるのですか? そろそろ帰りますよ!」と、いまだ踊っているベルに対し声を張り上げ呼びかける。

 

 ベルは、その声に気づいたようで、おかしな動きを止めて振り向く。

 

「なんじゃ? おお、コミか! どうしたんじゃ?」

 

 頭に疑問を浮かべながら返事をするベルに対し、コミは呆れながら言葉を返す。

 

「どうしたんじゃ? ではないです。もう日が暮れてきたのに帰ってこないから迎えに来たのですよ」

 

 彼は、その言葉を聞いて空を見上げて気がついた。

 

「もうそんな時間じゃったか。研究をしてると時間が経つのが早いわい。ところで、コミの隣に立っている青年は誰かね?」

 

 コミから視線をアートへと変えたベルは質問する。

 

「彼の名前はアートさんです。今はベル博士を連れ戻すのに手伝ってもらっています」

 

「こんばんは。アートです。現在は今晩の寝床のためにコミさんの手伝いをしています」

 

「ほう、そうじゃったのか。迷惑をかけたのう。確かに今から町へ戻るのは遅すぎるのじゃ。迷惑をかけた礼じゃ、今晩は私の研究所に泊まっていきなさい」

 

 今晩の寝床を確保したアートは喜びを、あらわにして感謝する。

 

「ありがとうございます!」

 

 横で話を聞いていたコミは真剣な表情をしていたが、ベルの泊まっていきなさいという言葉を聞いて安堵するように頬を緩めた。

 

「さて、片づけは済んだし帰るとするかの」

 

 三人は石扉を背に、どうしてアートがこの場所に来たのかを会話に交えながら、家への道を進んでいく。

 

「なるほどアート君は、この島には何かがあると思って、ここまで来たんじゃな」

 

「はい、そうです。この本がそれを教えてくれました」

 

 アートは麻袋から一冊の本を手に取り二人に見せる。

 

「それは、福音の複製本ですね」

 

「今ではどこにでも見られる本じゃ。わしも持ってはおるが、誰にでも読める訳ではないの」

 

「ええ、未知なる文字で書かれたこの本は、いまだ解読されたという話は聞いたことがありません」

 

「じゃが今の話だと、アート君は解読したと聞こえるのじゃが」

 

 アートはベルの言葉に自信をもって答える。

 

「はい! 意味までは理解できませんが、ある程度、読むことができます」

 

 その言葉に二人は大きく驚きを見せる。今まで解読されたことのない本の解読をアートが成し遂げたということに。ベルなどは口を大きく開けて固まっている始末だ。

 

「本当に解読したのですか!?」

 

 あまりの話に信じることができないのか、コミが確認を取るために聞き返す。更に我に返ったベルがアートの肩を揺すりながら興奮したように、質問攻めをし始める。

 

「本当に、本当なんじゃな! あの福音を解読したのじゃな! まさか、あの本をアート君が! これは大発見じゃ!」

 

 急に興奮し始めたベルに顔をしかめたアートは、揺さぶられる体をどうにか引き留めながら本当だと答える。コミは突然の奇行を始めたベルを止めるためにアートから引き離そうとしていた。

 

「ベル博士! 落ち着いてください!」

 

「こ・れ・が! 落ち着いておられるのか!」

 

 しばらくベルとコミのせめぎ合いは、アートが意識を手放し始めるまで終わることはなかったのだった。

 

 時が経ち、落ち着てきた二人は今現在、平謝りを続けている。

 

「もういいですので、頭を上げてください。お願いですから」

 

 アートは永遠に頭を上げようとしない二人を許し、頭を上げるように促す。

 

「ありがとうなのじゃ」

 

「ありがとうございます」

 

 許された二人は頭を上げる。そんな中、ベルが言いづらそうに顔をしかめながら口を開く。

 

「たびたび失礼だとは思うが、改めて質問をさせてもらえぬか?」

 

「何でしょうか?」

 

「福音の解読は本当なのじゃな」

 

 アートはその問いに、再度本当だと頷く。

 

「それならもう一つ質問じゃ。君の努力を奪うような内容だが、どうかこのわしに福音の解読を教えてはもらえぬだろうか?」

 

 ベルの発言にコミは睨みつけ、わき腹を軽く小突く。横からの奇襲を受けたベルは少しえずいた。

 

「そういえば自己紹介をしてなかったのう。わしは福音の調査を続けているゲーマ王国軍所属の研究者ベルという者じゃ。周りからはベル博士と呼ばれておる。そして研究の結果、ここに何かがあるとまでは掴めたのじゃが、行き詰ってしまっての。これを打破するにはアート君の解読が、必ずと言っていいほど重要になってくるはずじゃ。もちろん対価は払うつもりじゃ。だから教えてはくれまいか?」

 

 福音の研究をしているというベルは、アートに交渉を持ち掛ける。アートは同じ謎を追いかけようとする人物に出会った喜びがあり、教えたい欲求に駆られるが、果たして教えてもよいかも悩む。そんな風に悩むアートにベルは一つの提案をする。

 

「もし悩むのであれば、助手として共に調査してみぬか? どの道、今ここで調査をするのであれば軍の許可が必要じゃからの」

 

「軍の許可?」

 

 軍の許可がいるなんて聞いたことがないように疑問を浮かべるアートは、不思議にそうに聞き返す。

 

「その様子だと知らぬようじゃな。現在この周辺はゲーマ王国が調査をするため、デルキルタス王国の代わりに管理しておる。そのため一時的ではあるがゲーマ王国軍所属以外の者が調査するには、わしらの許可が必要なのじゃ」

 

「それならば許可を取ればいいだけなのでは?」とアートが言うと、その考えは次の言葉によって否定された。

 

「まあ、あの王国のことじゃ。見知らぬものに対して、すぐに許可が下りることはないじゃろう。じゃが、わしの助手になれば軍からの許可を貰わずに調査が出来るのじゃ。どうじゃ?」

 

 その話を聞いてアートは呆れたように息を吐くと手を差し伸べた。

 

「分かりました。ベル博士の提案に乗らせていただきます」

 

「よし決まりじゃな! 早速、歓迎会の準備をしよう。コミ、今日はごちそうじゃ!」

 

 アートの返答と差し伸べられた手にベルは喜び、たどり着いた家の中へと入ると、即座に歓迎会の準備を始めようとする。その言葉にコミは微笑みながら頷き、台所へと足を運んでいく。その様子を見ていたアートは少し苦笑いをしていた。

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