魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

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第十二話 ベルガータ伯爵家

 料理を食べ終えた一行が談笑していると数人の男女が近づいてくる。どうやらその人たちは、マリナに用事でもあるのか彼女の方へと集まった。ある程度人数が増えると先頭に立っていた男の一人が口を開いた。

 

「マリナさん。お久しぶりです」

 

「その声は……もしかしてブリットか?」

 

 彼女は男の声に聞き覚えがあったのか、声のする方へ振り向きざまに質問する。

 

「ブリットです。少し痩せたような気がしますが元気そうですね」

 

「やっぱりブリットだったか。私は元気さ。心配しなくていい、ちょっと帰りが遅くなっただけだ」

 

「ちょっと、と言うには長かった気がしますが……まあ、いいでしょう。それよりも貴方の帰りを皆、心待ちにしていました」

 

 ブリットが背後でマリナを見ようと慌ただしく動いている数人の男女を見る。その人々は口々に彼女へと感謝や心配だったなどの言葉を一方的に吐き出していた。

 

「分かったから……少し落ち着きな」

 

 呆れたようにマリナが手のひらで何度も抑えるような仕草をすると、一同は徐々に騒ぐのを止めた。

 

「それぐらい心配されていたのですよ?」

 

「理解した。ただ無事に帰ってきたから、それで許しておくれ」

 

 マリナが謝るように頭を下げる。すると一同は捨て台詞を吐くように、次、顔を見せたら歓迎会をするとか言ってブリットを残して解散していった。

 

「ブリットはいいのか?」

 

「居ては駄目ですか?」

 

「いや、私はいいけど……先客がいるからね……」

 

 マリナは遠慮がちにアートへと視線を向ける。

 

「僕は構いませんけど……マリナさんに何か用があるんですか?」

 

「まあね。座っていいかい?」

 

 ブリットが空いている席に指を差すと、それを見ていた二人は頷き着席を促した。

 

「単刀直入に聞くけど、フルグは帰ってきてないのかい?」

 

 許可を得た彼が席に座る動作をしながら話す。それを聞いたマリナは先ほどバッカと話した内容をそのままに伝えた。

 

「それは本当ですか?」

 

「本当も本当さ。フルグは今、メティス村の守護をしている。私たちの件が終わるまで離れられない状態さ」

 

「そうだったのですね…………ありがとうございます。もし……私に手伝える事があったら、お申しください」

 

 答えに納得したのかブリットは席から立ち上がり、重々しい足取りで店の外に出ていった。

 

「……彼はフルグさんの知り合いなんですか?」

 

「知り合いどころか友達なんだ。昔っから二人だけで飲みに行くほどに仲がいいのさ」

 

「そうだったんですね。フルグさんのためにもベルガータ卿と会わないとですね」

 

 二人が意を込めていると、別の人が近づいてくる事に気づく。その人は約束の用事を済ませるために屋敷へと向かっていたバッカであった。空いている席に座り、二人に告げる。

 

「報告だ。ベルガータ卿だが……会ってくださるそうだ。三回目の鐘の音が鳴った時に顔合わせをしようとのことだ」

 

 押し印がされた封筒を取り出しマリナの前に置く。

 

「これは家紋が印された封筒だ。渡しておく」

 

「ありがとう。バッカさん」

 

「マリナだったから上手くいったんだ。元とはいえ拳聖の名前を持っていた者は特別なんだろうな」

 

 バッカは席を立ち、懐から折りたたまれた紙を取り出す。

 

「時間までは家の酒場でゆっくりしとくといい。それとこれを――」

 

 手に持った紙を机の上に置き、滑らせるようにアートの方へと持っていく。

 

「これに情報屋までの道のりが描かれている。日が沈む前までに行くことだ」

 

 それだけ言うと彼は店番へと戻っていった。

 

「それじゃあ、時間が来るまでゆっくりさせてもらおうかな」

 

 一行は指定された三回目の鐘が鳴るまで、たまにマリナのことで近寄ってくる人たちの相手をしながら待つのであった。

 

 ♢

 

 ゴーン

 

 二回目の鐘が鳴り響く。二人は約束の時間まで、もうすぐであると分かると酒場を出て屋敷へと向かう。外の様子は日が傾き始め夕焼けに染まっている。更に遠目でも分かるぐらいには人通りが少なくなっていた。

 

「夕暮れだからでしょうか? 人が少ないですね……」

 

「お触れがあるからね。みんな夜になるまでに帰ろうとしているのだろうさ」

 

 所々で見かける店の扉にぶら下がっている閉店と書かれた看板や、店の外に出していた商品を片付けている者、道端で出店をしていた人も帰る支度をしているのか片づけの真っ最中であった。

 

「あんなに慌ただしいのを見ると、なんか夜逃げみたいですね」

 

 アートの独り言にマリナは噴き出す様に笑い彼の背中を叩く。

 

「何、言っているんだい。夜逃げなんて言うもんじゃないだろう。それよりも着いたぞ。ここがベルガータ卿の屋敷だ。粗相のないようにな」

 

「これが屋敷……」

 

 立ち止まった二人の目の前には金属でできた門扉があり、隙間から見える庭は花が植えられて綺麗に着飾れていた。更に、その先には見上げるほどの巨大な家が鎮座しているのであった。

 

「とりあえず、彼らに話が通っているか聞いてみるとするよ」

 

 ここで待っていてくれとアートに言い聞かせるようにマリナが言うと、門の両端に警備として立っている門番へと近づいた。

 

「マリナ・ブロッセンです。約束の時刻に近づいたため、ベルガータ伯爵閣下に、お会いしに来ました。これを――」

 

 押し印がされた封筒を門番が受け取ると確認のため屋敷へと走っていった。もう一人の兵士は端から中央によりマリナへと口を開く。

 

「お久しぶりですマリナ殿。我々一同心配しておりました。ベルガータ伯爵閣下も心配しておりましたよ」

 

「元気も元気さ。心配されるほど、やわじゃない」

 

 筋肉がよく見えるように力を加えると門番は両手で小さく拍手をする。

 

「流石、拳聖と呼ばれた方です。マリナ殿が無事だと分かったところで……そちらの方はどちら様でしょうか?」

 

「ああ、彼はアートさん。村で出会った旅の方だ。今回の件で同席してもらいたいと思って連れてきている」

 

「分かりました。ではそのように伝えておきます」

 

「助かる」

 

 二人がそんな会話をしていると屋敷へと向かっていた門番が戻ってきて、許可を得たから案内をすると言い、門扉を通りやすいように開けた。

 

 マリナとアートが屋敷の庭へと足を踏み入れようとすると、先ほど話していた門番が二人を追い越していく。中で案内しようと待っている門番に何かを伝えると元の配置へと戻っていった。待っていた門番は一行が傍に到着したことを確認した後に一礼して話し出す。

 

「話は聞きました。二人とも私から離れずについてきてください」

 

 門番の案内のもと二人は屋敷の中へと入っていく。両開きの大きい扉を開き二階へ、三階へと階段を上って廊下の奥にある部屋へと案内された。

 

「こちらの部屋でベルガータ伯爵閣下はお待ちしております。ご無礼の無いよう、お願いします」

 

 門番は部屋の扉を叩き先に入っていく。しばらくして戻ってくるとアートの同席に許可をくださったと伝え、深くお辞儀をして足早にその場を後にしていく。その様子を見送った二人は身を引き締め、部屋の扉を叩いた。

 

「どうぞ」

 

 扉を隔てた部屋から、渋めの男性の声が聞こえてきた。二人は言われるがままに取っ手を捻り中へと足を踏み入れる。すると書斎のように本が沢山並ぶ空間が、お出迎えした。その奥には書斎机に座り後ろの窓から逆光を浴びる初老らしき男性と、その隣に背広姿の初老らしき男性が立ちながら配膳台にある飲み物を小さな容器に入れている二つの姿があった。

 

「失礼します。マリナ・ブロッセン及びアート・セルリア。約束の時刻通り参りました。忙しい中、時間を作っていただき感謝します」

 

 マリナが挨拶をし頭を下げる。隣にいるアートもマリナに倣い後を追うように頭を下げた。その様子を見ていた書斎机に座る男は首を曲げて頭を少し下げた。

 

「ようこそ我が屋敷へ。私がベルガータ伯爵領を統治しているエドアム・ベルガータだ。ガドラス、彼女らを席へ」

 

 ガドラスと呼ばれた男は飲み物を入れるのを止め、二人を書斎机の前にある低い机を挟むように、対面として置かれているソファーへと案内する。彼は遅れて立ち上がった主人がもう一つのソファーへと座ると、飲み物が入った容器を配るのだった。

 

「こちらの紅茶は今朝、庭で採れたレルエイルヴェラ草と呼ばれる葉を煎じて作成したお茶です。香り豊かで苦みが少なく甘みがあるのが特徴です。どうぞご堪能ください」

 

 飲み物の説明をしたガドラスは二人に一礼すると、エドアムが座っているソファーの後ろ斜めで待機する。

 

「私は朝に飲ませてもらったが美味であった。飲んでみるといい」

 

 エドアムに勧められた二人は容器を手に取り口をつける。

 

「……これは美味しい。今まで飲んだことのない味だ」

 

「すごく美味しいです」

 

「気に入ってくれてよかった。ところで、少し気が楽になったんじゃないかね?」

 

 二人の感想に穏やかな笑顔を見せるエドアムは、アートの方へ心配そうに顔を向けた。

 

「特にアート君は何かを急いでいるように見える。もう少し落ち着いて視野を広げてみるといい」

 

「……ありがとうございます」

 

「さて、皆が落ち着いたところで話を進めたいのだが、まず何の話をしたいのか教えてくれないか? 過去に拳聖の名をいただいた者が直接、私に話がしたいと申し出るほどだ。君が帰ってこなかったといい余程のことだと私は思っている」

 

「それは――」

 

 マリナは自身が防戦一方でしかなかった魔物のことや、生き延びて防衛していた時に出会ったアート達のこと、魔物の対処法を教わったため何とか街に戻ることが出来たこと、今は村の生き残りを保護してほしくて話がしたいことを事細かくエドアムに伝えていく。その間、彼は終始無言で話を聞いていた。

 

「――私の話は以上です」

 

「……事情は分かった。そして我が領にまだ生きている者がいることも理解した」

 

「では……」

 

「使者が帰ってこなかった時点で生き残りはいないと判断していたんだが、生きているのなら話が変わる。魔物討伐部隊を組んでいる途中であったが急いで編成して保護に向かわせるとしよう。マリナ殿、もう少し待つことは可能か?」

 

「フルグが守護しているのであと数日は可能かと思われますが、彼も人間です。なるべく早くして下さると嬉しいです」

 

「なら明日の朝、出発できるように手配しよう。マリナ殿とアート君、ここにいない旅の仲間も案内のために同席してくれるかい?」

 

「案内であれば私一人で十分でしょう。アートさんと旅の仲間はエディア村に行かなくてはいけませんから」

 

「そうか……アート君、君はエディア村にどうしても向かわなくてはならないのかね?」

 

「……僕は、エディア村に旅の仲間と向かわなくてはなりません」

 

「……事情は分からんが、今、エディア村は王国軍が訓練という形で占拠している状態だ。一部の商人から村に入ることが出来ないと報告が上がったのを知って、私は住民の安否のために使者を寄こしたのだが同じく入ることを拒否されたらしい。仕方なく遠くからの観察に切り替えたのだが、村から王国軍以外の人間が出入りしている所を見たことがないと報告が上がっている。それでも行くのか?」

 

「……ええ……約束ですから……」

 

「分かった。そこまで言うのであれば私も協力しよう」

 

 エドアムの言葉が予想外だったのか、驚くような顔をしてアートは固まった。

 

「何を驚いている。もちろんタダではない。アート君、君に依頼を出そう」

 

 アートの様子が面白かったのか、彼は少し口角を上げ姿勢を正した。

 

「エドアム・ベルガータが依頼する。アート・セルリアとその仲間は私の協力のもとエディア村へと向かい住民の安否や村の状態を確認し、無事に私へと伝えること!」

 

「……」

 

「承諾してくれるかな?」

 

「僕たちの事情に干渉しないのであれば……」

 

「では契約中、君たちに危害を加えず、君たちの事情には干渉しないを加えよう。これでいいかな?」

 

「…………よろしくお願いします」

 

 アートが頭を下げるとエドアムは頷き、後ろで待機しているカドラスに向けて手を差し出す。

 

「紙を」

 

 彼は渡された四枚の紙にペンで文章を書き記し、押し印を付けてから二人に二枚ずつ渡した。

 

「ここに君たちの名前を書いたら契約が正式に成立する。ペンを渡すから契約内容をよく読んでから書くといい」

 

 二人はカドラスから渡されたペンを片手に文章をよく読んでから、自身の名前を記入した。

 

「契約成立だ。一枚は私が、もう一枚は君達が持っていてくれ」

 

 二人は記入した二枚のうち一枚をエドアムに渡すと、彼はその紙をカドラスに渡した。受け取ったカドラスは書斎机の上に紙を持っていく。

 

「では、マリナ殿は先ほど言った通り明日の朝、メティス村方面の城門で。アート君は仲間と共にエディア村方面の入口に馬車を待たせておくから、そこに向かってくれ。まだ他に聞きたいことは?」

 

 彼の質問に悩む様に沈黙した二人は、他に聞くことがなかったのか無いと答え、エドアムとの話し合いは終わりを告げるのだった。

 

「もうすぐ夜になる。宿でも取って明日に備えるといい」

 

 二人が屋敷を後にしようとすると、エドアムが少し重みがある麻袋を渡す。

 

「これは……」

 

「いいんですか?」

 

 麻袋の中に硬貨が入っているのが見え、二人は貰っていいのか確認を取ると、エドアムは二人に何も言わずカドラスに見送りを指示する。

 

「ご案内致します」

 

 一礼したカドラスに連れられて屋敷の外に出た二人は彼から「その硬貨は前金ですので、ありがたく受け取って下さい」と告げられた。再び一礼をしたカドラスは屋敷の中へと戻っていく。残された二人は硬貨の入った麻袋を片手に立ちすくむのであった。

 

「……取り合えず、ベルさんとコミさんの所へ戻ろうか。街には入ってないのだろう?」

 

「…………!」

 

「どうしてそれをみたいな顔をしているけど、バッカさんから聞いた指名手配犯と同じ名前の人物で、私と一緒に街に入らない時点でね。もしかしてと思ったら案の定か。大丈夫、私は二人と話してみて国から指名手配されるほどの人物ではないと思った。よほど何かの事情があるのだろう?」

 

「……ええ……僕たちは、その事情を確かめにエディア村に向かっている最中です」

 

「エディア村……王国軍が封鎖しているんだったか……ベルガータ卿でさえ内部事情を知らないとなれば何か隠し事があるかもしれないね。とにかくあの二人だけでは心配だ。お腹も空かしていると思うし料理を購入次第、彼らの元へ向かおう」

 

「信じてくれるんですか?」

 

「短い間だけど、私は信じるよ。まあ、もし裏切られても自慢の筋肉で薙ぎ払うだけさ。さあ、行くよ」

 

 小さく高笑いして先に進んでいくマリナを、アートは複雑そうな顔で追いかけるのであった。

 

 ♢

 

 買い物を済ませた二人は街へと出るために衛兵と、ひと悶着してから外に出る。

 

「何とか出られましたねマリナさん」

 

「外に出るだけで、こんなに手こずるとは思わなかった。それで二人はどこにいるかな?」

 

 マリナは溜息を吐いて、片手を頭に当てて周囲を見た。

 

「どこに……」

 

 アートが辺りを見渡すと、自身に向かって丘の上で手を振っている女性を見つけた。その隣には小柄な中年がおり、こちらも同じく小さくではあるが手を振っている。

 

「見つけました」

 

 アートが指を差し、マリナに伝える。二人は未だに手を振っている人物の元へと向かうため丘を登る。やがて二人は丘を登り切り頂上へとたどり着いた。

 

「アートさん。お疲れ様です。しかし今日はもう街の宿屋で休んでいると思っていたのですが戻ってきたんですね」

 

「それに……まさかマリナまで、ご同行とはの。どういう経緯なのか聞かせてくれるかの?」

 

「ええ、コミさん戻ってきました。それとベル博士。経緯はマリナさんを交えて後で説明しますから、まずは日が沈むよりも先に寝床を確保しましょう」

 

 アートが上へと指を差す先には、夕焼けから夜にかけて暗くなりかけている空があった。

 

「そうじゃな。魔物が出る前に済ませるのじゃ」

 

 四人は手分けして夜間を過ごすための準備に取り掛かる。旅の途中で一度、準備をしていたといこともあり、平原でおこなった準備よりも素早く済ませることが出来たのだった。日が沈む前に終わったこともあり、四人は余った時間で火を灯した焚火を囲んでアートとマリナが購入した料理で食事をする。二人が購入してきたのは、酒場バッカランで一度、食べた料理であった。

 

「美味しいです」

 

 受け取った料理を食べてコミは、にこやかに感想を述べる。

 

「マリナさんのお勧めの料理です。とても美味しかったので、二人にも食べてもらいたくって購入してきました」

 

「これが、あの時言っておった料理かの。言葉通り美味なのじゃ」

 

「勧めた甲斐があって良かったよ。それで、私がアートさんと一緒にいる理由はね。二人だけを夜の外に放っておけなかっただけさ」

 

「……それだけじゃないじゃろう? でなければ、マリナがアートについてくる理由がないのじゃ」

 

 怪しい者を見るような目でベルはマリナへと視線を向ける。

 

「……確かに、それだけじゃない。街中で聞いたよ。指名手配犯になっているのだってね。原因は彼女の不思議な力なんだろう?」

 

 マリナがコミを見ると彼女は肯定するように頷いた。

 

「……国から指名手配されて逃げているのにもかかわらず、王国軍によって封鎖されているエディア村、いわゆる敵地にどうしても向かわなくてはいけない理由が、そこにあると感じたんだ。間違ってないか?」

 

 聞かれたベルは黙ったまま、マリナに話の続きを催促する。

 

「国は何かを隠している。そして、あんた達が悪いことをするような人物に見えない。だから、ここにいる間だけでも協力することにしたということさ」

 

 協力するというマリナの言葉に驚くような表情をしたベルとコミの二人がアートへと視線を向けると、彼はゆっくりと頷いた。

 

「それに協力するのは私だけじゃない。ベルガータ卿もさ」

 

 マリナがアートの方へと顔を向けると彼は一枚の紙をベルに渡す。

 

「勝手なことをしましたが、これが依頼書になります」

 

 紙を受け取ったベルはコミと一緒に契約内容を穴が開くほど見つめると溜息を吐いた。

 

「確かに、この押し印はベルガータ卿のじゃ。契約内容も協力し、エディア村の住民の安否と村の状況の確認と書かれておるだけ。どうやらお主たちを信用してよさそうじゃの」

 

「信用してくれてよかった。はぁ……ベルガータ卿より緊張するわ」

 

 安堵の表情を浮かべたマリナは肩を落とす様に姿勢を崩して笑った。

 

「ちなみにエディア村には何が目的で?」

 

「……エディア村は私の故郷です。彼らが狙う力が何なのかを知ることが出来るかもしれない。その一心でここまで来ました」

 

「そうじゃなくても、王国軍がエディア村を封鎖しているから何かがあるのは明白じゃ」

 

「それが理由か……もし国が封鎖している理由が、あんた達が探しているのと同じであれば彼らの目的は――」

 

 マリナの言葉を遮るようにベルが口を開く。

 

「それは分かっておる。その力を戦争に使うようじゃ」

 

 ベルの言葉にマリナは驚きを隠せないほど動揺し、詰め寄った。

 

「なっ! 本当に国は戦争をするつもりなのか!」

 

「コミを連れ出すときに耳に入れたのじゃ。間違いないじゃろう」

 

「だから国から逃げていたのか……よし! それを聞いてますます協力する気になった。私に出来る事があれば、いつでも頼ってくれ!」

 

 筋肉を見せびらかすようにマリナは上腕二頭筋に力を込めた。

 

「……早速じゃが。聞いてくれるかの?」

 

「何だ?」

 

「今日の夜。魔物の相手を頼むのじゃ」

 

「……それぐらいお安いことさ。むしろそのつもりで……来たんだからな!」

 

 マリナは背後から飛び掛かってくる魔物の核を明確に掴み、引き抜いた。核がなくなった魔物は形状が保てなくなり霧散する。耳をすませば遠くから割れる音が聞こえてくる。おそらく衛兵が戦っているのだろう。四人が話しに夢中になっていたせいか辺りは、すっかり暗くなっており魔物が姿を現す時間帯になっていた。

 

「もうそんな時間か……ここは私に任せて、ゆっくりと休むといい」

 

 マリナが立ち上がると魔物へと向きを変え、握り込んだ拳を平手に打ち付けて戦闘態勢に入る。

 

「では、任せるのじゃ」

 

 ベルを含めた三人はマリナを外に残したまま、テントの中へと入っていく。残されたマリナは魔物に襲い掛かられる寸前で身体に少しだけ力を入れた。

 

「さあて……どこからでも掛かってくるがいい!」

 

 一瞬にして襲い掛かってきた魔物を処理した彼女は新たに姿を現す魔物に対して挑発をおこなうのだった。

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