魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

31 / 42
第十三話 エディア村

 太陽が昇り、大地が光で照らされる朝。夜に現れる魔物を退けた四人はテントを片付けてから朝食を食べていた。食事は昨日の夜に食べた料理よりもかなり質素だったが、お腹を満たすには十分な量ではあった。朝食を食べ終えた後ベルガータ卿と約束した場所へと移動するため二手に分かれるのであった。

 

 マリナと別れた三人は依頼書に書かれている場所、エディア村方面に位置する城門へと街を外側を迂回して足を踏み入れた。門前には既に馬車が停車しており、何人かが荷物の出し入れをしていた。中には鎧を装着している兵士もいるのが見える。必死になって荷物を積んでいた人達のうち、一人の男が一行に気づき近づくのであった。

 

「その顔……もしかしてアート様でしょうか?」

 

「そうですが……もしかして、ベルガータ卿が用意してくださった馬車というのは、あれのことですか?」

 

「あれのことで間違いないです。では確認がとれたことなので、自己紹介を――」

 

 彼の名前はメレグロム・トラグレシス。フェニデリア街で商人をしている人物だと言う。主に街で作られた道具を村で売り、村で作られた穀物を街で売るといった商売をしているらしい。今回は、いつも取引していたエディア村が軍によって長いこと封鎖されていることに疑問を抱いていたため、ベルガータ卿の依頼が急であったのにも関わらず協力を申し出たと言う。後ろで馬車の準備をしている人たちも同じ気持ちで集まっていると話した。

 

「ところでアート様の後ろにおられる、被り物をしたお二人は話にあった仲間の方でしょうか?」

 

 麻のフードを被った二人を見てメレグロムが疑問を口にすると、アートがそうだと答えた。

 

「あっ……もうそろそろ準備が終えそうなので、私についてきてください」

 

 後ろを振り返ったメレグロムは馬車を見てから案内をするように歩き出した。道中で彼は今回おこなう作戦を説明しだす。まず初めにアート達には馬車の荷物の中に紛れ込んでもらい待機する。その後自分達商人は、荷物と一行を乗せた馬車を軍へと差し入れをするという形で出発させエディア村へと向かう。到着次第、自分達が兵士と話しをするので、その隙に隠れていた三人が村へと忍び込んで、この作戦は終わりとなると話した。彼は、そこからは三人の行動次第なので、ベルガータ卿の依頼を無事達成してほしいと願うように頭を下げるのであった。

 

「到着いたしました。まずは、作戦で集まった有志を紹介させてもらいます」

 

 メレグロムは荷物を積み終えて一休みしている人達の元へと三人を連れていく。

 

「皆さん。彼らが依頼の説明で言われていた方達です」

 

 休憩している兵士の二人と、一般の服装をしている二人の計四人が顔を向けた。そして一人の男が手を軽く上げる。

 

「おっ。ガラグラ・レトムだ。よろしく」

 

 続けて、馬に餌を与えて撫でていた女性が軽く頭を下げた。

 

「私はフラスム・ギブデイです。少しの間ですが、よろしくお願いします」

 

「そして彼らですが……」

 

 メレグロムが兵士の方へ手を向けると、その二人は敬礼し、ベルガータ伯爵閣下からの指示で馬車の護衛として魔物討伐部隊から派遣されたと自己紹介した。その後、背後から鞘に入った剣を取り出してアートに渡す。

 

「ベルガータ伯爵閣下からアート殿へ、とのことです。こちらは魔石を使った最先端の武器となります。魔物との戦いで壊れる心配がありませんので、安心してお使いください」

 

「……ありがとうございます。……ところで魔石とは?」

 

「魔石とは、魔物から採れる紫色に透き通る石の名称だと聞きました。では、お受け取りしてくださったのを確認できたので、出発の準備ができるまで私たちは待機してます」

 

 兵士が敬礼をおこなうとメレグロムが口を開く。

 

「では先ほどお伝えした通りに馬車の中へ移動してください。皆さんが乗車したのを確認した後、出発させていただきます」

 

 三人はメレグロムが指し示す馬車へと乗り込み、言われた通りに体を荷物で隠れるように身をかがめた。しばらくすると外から声が聞こえてくる。

 

「準備は出来ましたかー?」

 

 その確認の声にアートが出来たと答えると馬の鳴き声とともに、ゆっくりと発車し始めた。馬車が地面の凹凸により揺れ出し、身体に振動が伝わりだす。

 

「もうそろそろ、よいかの?」

 

「もういいと思いますよ。馬車が動き始めましたし……」

 

 外を覗いて確認したアートが質問に答えるとフードを被っている二人が被り物を外した。

 

「ようやく取れました……少し暑いです」

 

 一息ついたコミが汗でへばりついた髪を首からどかし、これ以上蒸れないようにしている。手で仰いで風を送り、冷ますようにしているのが見える。一方、もう一人のベルは空気を多く取り込む様に深呼吸していた。

 

「そういえばアートさん。移動中時間がありますし貰った剣を少し見てみませんか?」

 

 コミが思いついたかのように、アートが持つ剣が入った鞘を見つめる。

 

「これですか?」

 

 アートが鞘から刀身を少しだけ露出させると、淡い紫色が浮かび上がる。この輝きを知っている三人は驚きと共に、ディストリア諸島で作成した短剣と同じものであること確証した。

 

 コミが刀身に顔を近づけ、じっくりと観察しながら言う。

 

「魔物の石を使った武器と聞いた時にもしやと思いましたが、本当だったようですね」

 

「もうすでに魔物の石で作成した武器が、ここまで伝わっておるとはのう」

 

「どうりで街の皆さんが魔物に怯えていないわけです。この武器があれば対処は簡単ですから……」

 

 アートが納得したような顔をするとコミを刀身から離れさせて剣を鞘にしまうと馬車の外で警戒しながら歩いている兵士に話しかける。

 

「聞いてなかったんですけど、エディア村までどれぐらい時間かかりそうですか?」

 

「時間ですか?そうですね……順調にいけば明日の昼頃ぐらいには着くと思いますよ」

 

 アートは返答した兵士に感謝を述べると車内にいる二人に顔を向ける。

 

「当初の予定では二週間かかるとの話でしたが、思ったよりも早く着きそうですね。ちなみにエディア村にたどり着いたら、まず初めにどこを目指すのですか?」

 

「私の育った修道院に向かおうと思っています。そこには私の育ての親、修道女のカルメラお母様がいるはずです。もしかしたら私の出生を知っているかもしれません」

 

「確かにコミの出生が知れれば、新たに見えるものがあるかもしれんの。ではエディア村での目的地は修道院にするのじゃ」

 

「分かりました。では軍に気を付けながら向かいましょう」

 

 三人は揺れる馬車の中で今後の予定を決めると、エディア村にたどり着くまでたわいのない会話をして時間を潰すのであった。

 

 ♢

 

 一行は馬車と共に土道を進み魔物が現れる一夜を越えていく。見張り番として参加していたアートは揺られる馬車の中で仮眠を取っていた。しばらくすると目と鼻の先までエディア村が見えてきたようだ。兵士の言葉通り昼頃のようで、太陽が真上で大地を明るく照らしていた。

 

 商人達と護衛の兵士が遠目に、村の出入り口で門番として立っている軍の兵士を発見する。馬車を停車させメレグロムが荷物に紛れ込んでいる三人に向かって話しかけた。

 

「エディア村に着きましたので、アート様達は準備をしておいてください」

 

 再び馬車が移動をはじめ、門番の近くまで行くと停車した。

 

「……ここに何か用か? 今は軍の訓練のために閉鎖しているので、入ることは叶わん引き返すがよい」

 

 門番の一人が不審そうに言い放つが、馬から降りた商人達が差し入れを持ってきたと言いながら、自身に注意が引くように相手をする。その隙に三人は作戦通り近くの獣道を通過し、草木をかき分けて村の中へと忍び込んでいくのであった。

 

「人の声が聞こえませんね……」

 

「ベルガータ卿の話では軍の訓練がおこなわれていると聞いていたのですが……静かです。休憩しているのでしょうか?」

 

「いや、休憩するにしても静かすぎるのじゃ……ここには軍だけでなく村人もいるはず……コミが言うように人の声が聞こえておらんのは異常じゃ」

 

 騒がしい音が全く聞こえてこない村に不信がりながら進んでいくと、草木で覆われていた視界が鮮明になった。一行がその先で見た光景は、兵士だけが闊歩している村の光景だった。

 

「これは…………」

 

「おかしいはずじゃ。軍が訓練している様子がない上に村人が見当たらぬ……」

 

「家の中にでもいるのでしょうか?」

 

「分からん。取り合えず、近くにある家の様子を見てみるのじゃ」

 

 外に村の住民がらしき人が見当たらないため、近場にある家へと兵士の目を掻い潜り、耳を近づける。生活音が全く聞こえてこない。

 

「音が聞こえません」

 

「中を覗いてみるのじゃ」

 

 アートが指示通りに家の中を覗くと首を振る。

 

「誰もいません」

 

「おかしいのう。外にいないのであれば中と思ったのじゃが……」

 

「ベル博士。もしかしたら、私達の見えないところに出かけているのかもしれません」

 

「コミの言う通りかもしれんの。もう一軒、調べてみるのじゃ」

 

 三人は調査した家の近場にある家の中を覗いてみる。しかし中は先ほどと同じ、もぬけの殻であった。

 

「おかしいです……」

 

 アートが何かに気づいたように呟くと、コミも気づいたようで同意する。しかし、コミは何かまでは分からないらしく考え込んでいた。

 

「何が、おかしいのじゃ?」

 

 ベルは分からないといった様子でアートに尋ねた。

 

「ホコリです」

 

「ホコリじゃと?」

 

 アートの答えを聞いてベルとコミの二人は、もう一度、家の中を覗き見るとアートが言っていることを理解したようだ。

 

「家具の上にホコリが載っておる。それも、しばらく使用した様子がないほどにの」

 

「そうなんです。そして、それは……前に見た家でも同じでした」

 

「村人がしばらく家を空けている……それもホコリが被るほど長い期間。外にいないのといい、村で何かが起こっていることは間違いないようですね……」

 

「この問題はベルガータ卿に任せて、わしらは当初の目的地。修道院に向かってみるのじゃ」

 

 村の異常性に気づき始めた三人は一度問題を隅に置き、身を茂みに隠して目的である修道院へと移動する。修道院は教会の土地内にあるらしく鐘がある建物へとたどり着いた。そこにあったのはススまみれになっている教会と、門前に鎮座している巨大な箱型で背中に長円の物体を背負っているゴーレムが存在していた。

 

「なぜゴーレムが……」

 

「見たことのない姿じゃが似ておる。コミが住んでいた時あれはいたかの?」

 

「いいえ、見たことありません。私は、あの島で初めてゴーレムを見たんです。あんな巨大な物を覚えていないわけ――」

 

 警告音が鳴り響く。犯人は巨大なゴーレムであり、隠れている三人の方へと頭を向けている。周りに人がいないのにも関わらず警告音に交じって人の声が聞こえてきた。

 

「生命反応を確認しました。様子から見るに侵入者のようです。どうしますか?」

 

「侵入者は全員殺せと命令されている。小型搭乗機械兵器ムスペルの試験込みでな」

 

 どうやら巨大なゴーレムから音が出ているようで二体のやり取りが耳に入る。

 

「マズいですよ。ベル博士」

 

「分かっておる。とりあえずここは逃げるのじゃ」

 

 茂みへと攻撃を繰り出そうとしているゴーレムから三人は離れようとしていると――

 

「まて‼」

 

 女性らしき声が呼び止めるように教会から聞こえてくる。ゴーレムはその声に反応し警告音と攻撃の手を止めた。門の内側から二人の人物が姿を現す。その者は白いローブを着てフードで顔を隠した小柄な体系と大柄な体系をしていた。小柄な体系の人物が大柄の人物に小さな声で話しかけてから、一人だけで三人との距離を縮めていく。

 

「そこにいるのは知っている。姿を見せなさい」

 

 鈴の音が鳴り響くような声を耳に入れた三人は身の震えを感じていた。

 

「かっ、体に震えが……」

 

「無理に……動かない、方が……」

 

「…………」

 

 冷や汗をかいている三人は震える体を無理に抑えながら、諦めるように隠していた身をさらけ出す。すると小柄な人物は腰に付けていた剣を抜いて襲い掛かってくる。震える体を無理やり抑えたアートはとっさの判断で剣を抜き相手の攻撃を受け止めるが、衝撃までは抑えきれず後退する。受け止められた相手は攻撃を止めて距離を取り言葉を並べていく。

 

 魔法よ……導け――

 

 言葉を告げるたびに足元から全身を光が覆うようにして溢れていく。

 

「オール・エンハンス!」

 

 アート達はその言葉と光景に驚きを隠せないでいた。なぜならそれはコミがマホウを使うときに口に出す言葉であったからだ。とっさにコミも詠唱を開始するが相手の方が言葉を紡ぎ終えるのが早く。アートの懐に忍び込んで剣を振り上げようとする。しかしコミの詠唱がギリギリ間に合ったため、アートはその攻撃を防ぐことに成功したはずだった――

 

 ――相手の剣はアートの剣とかち合った後、そのまま表面を滑るようにして彼の右腕を切り落とした。

 

「がぁ‼――こっっっの‼」

 

 アートは痛みに耐えながら必死の抵抗で相手のフードを左手で掴み取った。態勢を崩して落ちていく彼の体につられフードが頭から離れていく。白髪が姿を現し、相手の顔が露出した。その顔を見てアートとコミは唖然とする。彼らが知らないはずがない。露呈した顔は髪の色のみ違うがコミとそっくりの顔をしていたのだから。

 

「識別番号五十三番。貴方及び貴方の仲間を捕獲します」

 

「それはどういう――」

 

 相手は質問に答えようとせず、生気のない瞳でコミに接近し剣で突き刺そうとする。しかしそれはコミの詠唱で作られた円形状の障壁に阻まれた。二人が攻防している隙にベルが痛みで苦しむアートを引きずって、その場を後にしようとするのだが、相手はそれを見逃さず近づこうとする。しかしコミがその行く手を遮り相対するのであった。

 

「行かせません‼」

 

 必死に叫ぶコミを睨みつけた相手は、殺気を向けて剣をふるうが障壁を突破することは叶わない。お互いにイタチごっこの様な攻防を続けていると、相手の後ろから今まで待機していた大柄な人物が現れる。

 

「ここは私に」

 

 その人物はコミとよく似た顔の女性に肩を叩いてから前に出ると、一度だけ逃げていくベルに視線を向けてから片腕を後ろに下げる。

 

「それは⁉」

 

 コミはその構えに驚きを隠せない。なぜなら少しだけの間だったが旅を共にしたマリナと同じ構えだったからだ。障壁に拳が叩きつけられる。半透明な壁に亀裂が入り——砕け散った。守られていたコミは衝撃により後ろへと吹き飛ばされ、草木の中へと放り込まれた。

 

「うっ――…………逃げなきゃ……」

 

 かろうじて動けたコミは身を隠して、その場から離脱しようとする。傷ついた腕を抑えながら体を引きずって歩く。

 

「追ってこない……」

 

 その間、不思議と相手は追ってこず、彼女は先に逃げていた二人と合流を果たすのであった。

 

「コミ! 大丈夫なのじゃ⁉」

 

 荒い呼吸をして座り込むコミにベルが急いで駆けつけると、彼女は息を整えながら答える。

 

「……大丈夫です。それよりも、アートさんの治療を」

 

 コミは持ってきている携帯用医療道具でアートの失った右腕の断面に応急手当をおこなう。何とか止血には成功したがアートの容態は悪化していく一方で、どうする事もできなくなっていた。

 

「止血は出来ましたが、このままでは……」

 

 うなされているアートを見てコミはどうにかできないか考えていると、ふと思い出しだした。

 

「そうです。この村には診療所があったはずです。ベル博士、案内しますので急いで行きましょう」

 

 二人はアートを兵士に見つからないように診療所へと連れていく。家の中は案の定もぬけの殻で、置かれている道具はホコリが被っている物ばかりであった。ベッドのホコリを取り除き、綺麗にするとアートを上に寝かしつける。

 

「ベル博士はアートさんを見ていてください。私は薬になりそうなものを探してきます」

 

「役立たずですまんの。アートの状態はわしが見ておく。任せるのじゃ」

 

「そんな訳ないです。ではアートさんを任せます」

 

 コミは部屋の中にある薬品の作り方が書かれている本を取り出して、書かれている治療用の薬の材料を取り出していく。一通り取り出したら道具についたホコリを取り除いて調合を開始した。

 

「う……ぐっ……」

 

 治療薬を作っている間にもアートの苦しむうめき声が聞こえてきて、コミの額に冷や汗が流れ落ちる。

 

「出来た……早くアートさんに」

 

 何とか完成させた薬を彼に使用する。すると顔色が白くなって汗を尋常ではないほどかいていたアートの荒い呼吸が一定の律動を刻み始めた。峠を越えた事に一息ついたコミは黙ってみていたベルと共にアートの汗を布で拭うのであった。

 

 ♢

 

「…………ここは?」

 

 目を覚ましたアートが状況確認のために辺りを見渡そうと起き上がろうとする。しかし右手をついたはずの場所から落下して音を立てた。その音に気づいたコミとベルがアートの元へと駆け寄る。

 

「アートさん! まだ安静にしていてください」

 

「そうじゃ。お主は血を流しすぎておる。コミの言う通りに安静にするのじゃ」

 

 必死になって伝えようとする二人にアートは起き上がるのを止めて、自身の右を見る。今まで存在していた右腕が綺麗さっぱりと消えてなくなっていた。

 

「覚えていますか?」

 

 不安げに尋ねるコミにアートは頷いた。この右腕はコミとよく似た人物によって斬られたものだとハッキリと覚えていると言い、無くなった右腕を上げるように肩を上げた。

 

「これでは僕は戦えません。一緒に連れていっても足手まといになるだけかと」

 

 卑屈になっているアートにコミは勢いよく首を振り否定する。

 

「足手まといじゃありません。今までだってアートさんに助けられてばかりでした。足手まといというのであれば、私だってそうです」

 

「そんなことをゆったら、わしの方が足手まといじゃ。むしろアートがいたから、ここまでこれたんじゃ。卑屈にならんでもよい」

 

「ですが……」

 

 励ます二人に、何か納得いっていないようにアートは右腕を見た。

 

「……」

 

 コミは沈黙する彼を見ても励ますことを止めない。

 

「アートさんの取柄は戦うことだけではありません。福音の本を解読したという頭脳があるはずです」

 

 諦めず必死なコミの様子にアートは深く息を吐いた。

 

「……ありがとう。僕は、僕なりに自分が出来ることをするとするよ」

 

 アートは二人に手を伸ばし、起き上がるのを手伝ってもらうとベッドへと腰を掛けた。

 

「それで……教会なんですが――」

 

 アートが言いかけると外から騒がしい音が聞こえ始めた。三人は聞き覚えのある声を耳にする。

 

「アート様! いらっしゃいますかー!」

 

「この声は」

 

 ベルとコミの二人は確認すると言って玄関をそっと開き、外を見てアートに告げる。

 

「メレグロムさんです。他の方と一緒に外にいます」

 

「それは……捕まっているわけでは、ないですよね?」

 

「その様子はなさそうでした」

 

「分かりました。コミさん、ベル博士。手伝ってください」

 

 アートは立ち上がろうとするが、上手く身体の均衡が保てない状態だったので、二人の手を貸してもらいながら外へと出る。

 

「メレグロムさん! こっちです」

 

 コミが手を上げて呼びかけると彼は駆け足でやってくる。しかし彼はアートの右腕に驚愕する。

 

「アート様! その怪我は!」

 

「怪我のことは――とにかく後で話しますので、まずはメレグロムさんたちがいる理由を教えてください」

 

「それなんですが……私にも何がなんやらで……」

 

 彼が言うには差し入れとして荷物を下ろしている最中に、突如として軍が撤退を始めたらしい。彼自身、何が起こっているのか分からなかったようだが門番がいなくなったので村の中へ踏み入れたと言う。警戒しながら入ったが誰の姿も見当たらなかったので、三人の事が心配になり探していたと話した。

 

「どうしたのでしょう? 私を追いかけて来なかったですし……」

 

 コミが小首を傾げるとメレグロムが何かを思い出したように声を漏らした。

 

「そう言えば、すれ違うときに目的の物を手に入れたとか言っていましたね」

 

「目的の物?」

 

「さぁ? 取り合えずお三方を見つけましたので、皆さんを呼びに行ってまいります」

 

「少し待ってください」

 

「お嬢さん。どうかしましたか……!」

 

 彼は驚くようにコミの顔を見ると一度咳き込み、言葉をつづける。

 

「失礼。それで何か用でしょうか?」

 

「軍がいないのであれば私たちは教会に向かいたいと思います。よいでしょうか?」

 

「ええ構いませんが、怪我人を連れていくのはお勧めできません。私どもで見守っておきますので、お二人は安心して教会へ向かってください」

 

 メレグロムの提案に三人は了承する。コミとベルの二人はアートを彼に渡すとススまみれた教会へと進むのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。