魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

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第十四話 教会の隠し事

 ベルとコミの二人は再び教会へと、たどり着いたのだが既に先ほど戦闘になったゴーレムと白いローブの二人はいなくなっていた。誰もいなくなった場所がメログロムの商人から伝えられた軍の撤退が本当の事だと教えてくれている。

 

「撤退したのは本当のようですね」

 

「軍が言っていた何か見つけたというのは恐らく教会の中でじゃろう」

 

 そう教会。コミが幼少期に過ごしていた修道院が敷地内にある建物である。二人は警戒しながら扉がなくなっている門を通った。

 

「では、私はカルメラ修道院に」

 

 ベルと別れたコミは一人、右へと向かうと建物があり、立てかけてある看板には修道院と書かれていた。扉を開き中へと踏み入れようとして足を止めた。

 

「う――そ……」

 

 コミは驚きを隠せない。目に映る部屋の中は血液がいたるところに張り付いている空間となっていた。血が黒ずんでいることからも、かなり前に起こった出来事みたいであった。

 

「どうして……」

 

 不審そうに血痕が大量に付着している床の血を躱わすように歩いていると、カルメラがいるはずの部屋へとたどり着いた。恐る恐る中へ入ると、そこも血の海で染まっているのが分かる。

 

「……あれは」

 

 視界の隅に一枚の血が付着した丸められた紙が落ちているのを発見した。開くと途中まで文字が書かれていた形跡がある。内容は村が隔離された話から村人が軍によって連れられて行った事が書かれており、エルカナ大聖堂の司教に宛てられたものであった。

 

「お母様。この手紙は必ず届けます」

 

 コミはそれを大事そうに懐にしまう。そして他には何かないか辺りを探索するが、重要そうな物を見つけることはなかった。諦めて修道院を引き返し、教会へと向かうと慌ただしく教会から出てくるベルが見えた。

 

「おーい! こっちに来るのじゃ!」

 

 何かを探すようにベルが周りを見渡すとコミを見つけけて手を振って呼び始めた。彼女は早足に駆けつける。すると手を引かれて教会に連れられた。

 

「ここじゃ」

 

 ベルが指を差している場所を注視する。血痕が散りばめられた先には、信仰されている女性の姿をした神様の像があった。

 

「そこではないのじゃ」

 

 訂正するようにベルが像の横にある床へと指を差す。そこには何かを引きずったような形跡があった。

 

「下に何かがあるのは間違いないじゃろう。協力して傷跡に沿って押してみるのじゃ」

 

 二人は協力して像を押す。すると像は動き出した。動いていく像と共に視線を下に向けると、下から地下に入るための階段が姿を現れたのだった。

 

「見つけたの。わしが先導するから後をついてくるのじゃ」

 

 二人は恐る恐る、階段を降りていくと明かりが灯っている空間へと出た。そこには大量の本棚が並ぶ広い空間が広がっていた。

 

「これは……」

 

「教会の地下に図書館があるなんて」

 

「教会は何を隠していたんじゃろうな」

 

 カツン……カツン……

 

 音が反響するほどの静かな部屋を歩いていると、一つの机が置いてある場所にたどり着く。机の上にはいくつかの本が散らばっているのが見えた。

 

「誰かが読んでいたのでしょうか?」

 

「恐らくじゃが……白いローブの二人。ユグドラシル教団の信者であろう」

 

「では見つけたと言うのは……」

 

「ここで重要な手掛かりを見つけたのかもしれんの」

 

「重要な手掛かり……」

 

 コミは机にある一冊の本を適当に手に取って表題を見ると、福音の本と同じ古代文字が書かれていた。

 

「えっ――」

 

「どうしたんじゃ? コミ?」

 

「っ――!」

 

 次々、他の本を手に取り表題を見るが、すべて古代文字で書かれていた。

 

「ベル博士。古代文字です。福音に書かれていたものと全く同じです」

 

「それは本当かの⁉」

 

「はい」

 

 本の表題が見えるように見せると隣に居たベルは興奮するかのように本棚へと向かう。しかし、手に取って開いた一冊目の文字に目を通すのだが顔を上げた。

 

「読めぬ」

 

 彼が言うには虫食い状態であるため読むことが出来ないと言う。コミも試しに手に持ってた本を開いてみると、確かに酷い虫食い状態であった。

 

「保存状態の良い本を探すのじゃ」

 

 二人は手分けして読めそうな本を探していく。しばらくして読めそうな本が机の上に数冊乗ることとなった。コミは、興奮するように本を読み始めるベルを他所に気になった一冊の本を手に取る。何回か紙をめくると、腑に落ちたように自身が最も願う事と呟いた。

 

「おーい」

 

 声を上げて手招きするベルに気づいたコミは、彼の指差す文章に目を向けた。

 

「この本は……メティス村で読んだ絵本の内容と似ていますね」

 

「そうじゃろう。ただこの本の内容じゃと、あの絵本はかなり優しい方じゃったのかもしれんのう」

 

 ベルは、だから絵本じゃったのかもしれんがと付け加えて言った。確かにベルの言う通り、読み進めてみると所々違っていて、終盤は全くといっていいほど話が似ていなかった。

 

「どっちが本当の話なのでしょうか……?」

 

「こっちの本の方が本当なんじゃろうな。この作者は絵本にしてまで伝えたかったのかもしれんの」

 

 ベルが本の著作名を指でなぞる。『ミツルギ・カトウ』絵本を書いた著作者と同じ名前が書いてあった。

 

「しかし、ここまで古い物であると著作者はいないのかも……」

 

「コミの言う通りじゃ。あまりにも古すぎるし、何より2291/5/27と書かれておる。あの時の鉄の筒と同じじゃ」

 

「という事は島で出会った古代人と、この人は同じ時を生きた人という事になるのですね」

 

「恐らくは、そういう事なんじゃろう」

 

 ベルとコミは再び本へと目を向ける。絵本とは違う話の中で登場する黄色い花は人体に浸食し影響を及ぼす物であり、ドラゴンはその花から生まれて人間を食らおうとする存在として書かれている。この辺は少し違うだけで絵本にも載っていることであった。ただ、絵本に登場していなかった単語があり『精霊、大樹、竜の子』などが書かれているのだった。

 

「ふむ、見られない単語があるのう」

 

「どこか詳細に書かれた本があるはずです。探してみましょう」

 

 二人は三つの単語の詳細を調べるため、集めた本の中から探してみる。すると、ある一つの本に説明のようなことが書かれていた。

 

「ありました」

 

「どれ」

 

『――精霊は黄色い花からドラゴンと共に生まれし存在。されど人類と共存を選択した種族。彼らはマナと呼ばれる物で体を構成しており、気に入った人間と契約を交わすことによって力を与える。力を与えられた人間は竜の子へと至り精霊の力を自由自在に扱うことが出来るようになるのだ。その力こそマナであり、マホウと呼ばれるものでドラゴンを退けるほどの力を持つ。神は我らを忘れてはいなかった。人類の生存は免れたと言っても良いだろう。念のために作成した大樹の種は使用することもなく終わりそうだ。もしこれを使用するのならば、それこそ世界の終焉の時なのであろう』

 

「この世に精霊なんていないのに、魔法を使える私は一体何なのでしょうか?」

 

「識別番号五十三番じゃったか……その言葉が重要なのかもしれんの」

 

「私は家畜じゃありません!」

 

 怒るように詰め寄るコミをなだめる様にしてベルは言葉を続ける。

 

「しかしマナという新しい単語が出てきたのう」

 

「ベル博士。マナとは魔法を使うための力の源らしいです」

 

「と、いう事はコミが使うときに溢れ出す輝きがマナなのかもしれんの」

 

「でもそうなると宮殿で見た青い花はマナを生み出す物になってしまいますが……」

 

「研究では青い花も魔石も青い宝玉もコミが使うマホウも全部、内包する力は同じじゃった。わしらの常識は通用せぬ。マナを生み出す物があっても不思議ではないのじゃ」

 

「では未知なるエネルギーは全部マナということで?」

 

「そう結論づけてもよいじゃろう」

 

「分かりました。それと少し疑問に感じたのですが、もしかして国と教団はこれを目的で?」

 

「分からぬがマホウに関連することには間違いないじゃろう。それを使って戦争を有利に立ち回るような作戦を考えているのかもしれん」

 

「どうして戦争がしたいのでしょうか……」

 

 一息吐いたコミは一度、背伸びをして机の本を複数手に取った。

 

「そろそろ戻りませんか? アートさん達が待っています」

 

「そうじゃな。では本を回収して戻るとするかの」

 

 二人は本を手に持てるだけ持つと教会を後にするのだった。

 

 ♢

 

 ベルとコミが教会へと向かっている間、アートは再度右腕の治療を受けて二人の帰還を商人と兵士と一緒に待っていた。

 

「それで怪我の事ですが……この村で何があったのですか?」

 

 メレグロムがアートの失った右腕を見ながら口にすると、近くにいた商人たちと兵士も疑問を抱いていたのか話を聞きたそう頷いた。

 

 アートが過去を思い出すかのように右腕に顔を向ける。

 

「この腕はユグドラシル教団によって斬られました」

 

「……ユグドラシル教団と言えば白いローブを着た宗教団体ですよね」

 

「はい」

 

「彼らは戦闘能力を持たない素人の集団のはずです。魔物と戦えるほどのあなたが負けるはずがないと思いますが……」

 

「僕も彼女らと対峙するまでは同じ感想でした。しかし、いざ対峙してみるとかなり腕が立つ者がいることが分かりました。僕では全くかなわないほどに」

 

「軍は一体……何をしていたんですか? 村の中にいたのであれば、その様な事件知らないわけが――」

 

「そう言えば……見ていただけと言えばいいんでしょうか。どう見ても協力しているようにしか」

 

「協力? 教団と軍は手を組んでいるとでも言うのですか?」

 

「可能性は大きいかと」

 

「……それは非常にマズいですね。彼らの思想は少し過激でして、時神デオラギダ様を呼び出し世界を戻そうと考えているそうです。信者の話では失ってしまったものを取り戻すために行動しているのだとか。そこに軍が、いえ国が協力しているとなると何かが起きようとしていそうな気がしてきます」

 

「国は……国は戦争を起こそうとしているそうです」

 

「戦争ですって!」

 

 アートの言葉にメレグロム一向は驚く。

 

「あくまで僕は聞いただけですけど、その情報は確かなはずです」

 

「……」

 

「それに僕たちは戦争をおこなおうとするゲーマ王国の明確な理由を見つけに、ここまで来たんです」

 

「王様は何を考えて……。少しいいですか? 今から話すことに落ち着いて聞いてください」

 

「分かりました」

 

「ベルガータ卿が何も言いませんでしたから黙っていたのですが、私はあのお二方が指名手配犯だと知っています。しかし共に行動しているアート様と会話してみて、お二人は追われる存在ではないのではないかと思っています」

 

「……」

 

「更に私は先ほどの会話とエディア村で見た光景によって、王様が信用できないと感じています。ですのでお二人を突き出すような真似はしません。むしろ今日から私もアート様たちの味方になりたいと思っております。ちなみに他の方はいかがしますか?」

 

 メレグロムは黙って聞いていた残りの人たちに回答を求める。すると皆、口々に答え始めた。兵士の二人はベルガータ伯爵閣下の考えのもとで行動すると言い、商人の二人は協力することは難しいが、売り飛ばしたりはしないと約束した。

 

「と、いう事ですので、これからよろしくお願いします」

 

「こちらこそ、ありがとうございます」

 

 二人が握手をしてお互いに思いを確かめ合っていると、足音が聞こえてきた。音のする方へ振り向いてみると、両手に沢山の本を抱えたベルとコミが歩いてくるのが見えた。ただ、本を運ぶのが疲れるのか荒い呼吸を繰り返しているのだった。ベルとコミの二人ははたどり着いた瞬間に下ろした本をもたれにしてへたり込む。「もう歩けません~」と言って液体ぽくなるコミと全力で息切れするベルが誕生するのだった。

 

 アートは二人が持ってきた本を一冊手に取り中身を確認しようとする。表題を見て開くと、すぐに閉じた。

 

「これは……?」

 

「気が付いたようじゃの。古代文字で書かれておる。しかも持ってきた本全部じゃ」

 

 ベルが本の表面を叩くと、アートは驚く。

 

「……どこにあったんですか?」

 

「教会の地下じゃ」

 

「教会の地下⁉ では教会は隠していたとでもいうのですか⁉」

 

「図書館に劣らないほどの書庫がの」

 

「……」

 

「あのー。そんなに驚いてどうかされたのですか?」

 

「メレグロムさん。実は――」

 

 アートは昔ディストリア諸島で発見された福音と呼ばれる書物と教会で見つかった書物が同じ言葉で書かれていると話す。この本が複数見つかったとなると、どう考えても意図的に教会が何か隠していると答える。

 

「福音ですか? どこかで聞いたような……?」

 

「賞金を求めた解読の専門家がこぞって解き明かそうとした読めない本じゃよ」

 

 メレグロムは、思い出したように「ああ」と呟く。

 

「確か昔、私のお爺さんが解読しようとして躍起になっていた本がありましたね。もしかしてそれでしょうか?」

 

「それは分からぬが、表題に福音と書かれておりデルキスタス王国の印が押されていたら間違いなくそうじゃろう」

 

「でしたら合っているのでしょう。しかし教会がですか……一度街に戻って司教様に話を聞いてみましょう」

 

「それが手っ取り早いとは思いますが話してくれるでしょうか? 相手は古代文字が書かれた本を意図的に隠していた教会なんですよ」

 

「それならいい考えがあります」

 

 話を聞いていたコミが背筋を伸ばす。そして懐から一枚の複数に折り目がつけられた紙を取り出した。

 

「それは?」

 

「これはカルメラ修道院長がエルカナ大聖堂の司教様に宛てた手紙です」

 

 中身を見せるように紙を広げるコミは、この手紙が情報を得るための切り札だと言う。

 

「しかし、それだけでは薄いような……」

 

 アートが悩む様に疑問を口にすると、コミがまだあると言い言葉を続けた。何でもベルガータ卿に手伝ってもらえればいいと答える。自分たちにここまで協力してくださる人であれば今回の件を重く捉えてくれるだろうと。

 

「そこまで言うのなら……メレグロムさん。ベルガータ卿の説得に協力お願いできますか?」

 

「アート様、先ほど協力すると言ったではありませんか。もちろん協力させてもらいます」

 

 自信満々でいたコミは二人だけで頷き合っているのを見て困惑するように「えっ? えっ?」と呟くと、メレグロムが気づいて答えてくれる。

 

「私はお二人が指名手配ということを知っています。しかしながら今の王様は信用できないので協力することにしたのですよ」

 

「どうして……」

 

「指名手配ということですか? それならば簡単です。フード取れてますよ」

 

 コミとベルは急いで頭に手を置くと髪の毛が手のひらに触れた。

 

「いつの間にか外れていたようですね。私たちの前では問題ありませんが気を付けてください」

 

「ありがとうございます…………」

 

 コミは話を黙って聞いていた四人の方へと顔を向けると「他の方も?」と尋ねるように聞く。すると四人は肯定するように頷いた。二人の商人はベルガータ卿が黙認しているのとアートの話で決断したとのこと。ただ、メレグロムの様に表立っての協力は出来ないと話す。そして兵士の方は上が、どの様な決断を下すか分からないから今のところ手は出さないと言った。

 

「分かってもらえたのであれば、当初の依頼であるエディア村の話をしませんか?」

 

 メレグロムの提案に全員は構わないと言った。

 

「ありがとうございます。現状エディア村は住民がいないという事と軍が撤退したという事が分かっています。更に、軍が教団と協力しており、教会も何かを隠していることが判明しました。ただ、そのことに関して分からないことが多すぎます。もう少し情報を得たいと思っておりますが調べたほうがよい所はありますか?」

 

 コミの質問に兵士の一人が手を上げる。この村の外れにある丘の上に調査兵団の副団長であるオルフの家があるらしく、ベルガータ卿が調査で余裕があれば寄ってほしいと言われていたと話す。

 

「ここにオルフさんの家が?」

 

「はい、エディア村に家を建てたと聞いています。彼は軍の者ですから何か証拠を残しているかもしれません」

 

 アートたちは兵士の案内のもと、丘の上にあるオルフの家にたどり着く。玄関の近くには、いくつかの黄色い花が咲いているのが見える。商人の一人が見たことのない花だと言って近づこうとするが、それはベルとコミによって止められた。

 

「どうして触れてはいけないのですか?」

 

「本に書いてあったからです。黄色い花は人体を侵食する花だと。見たことがないのであれば、うかつに触らないほうがよろしいかと思います」

 

 コミの注意に不満そうな顔で商人は黄色い花から離れた。

 

 一行は家の扉を叩く。しかし返事がなかったため、音を立てないように慎重に扉を開いた。部屋の中に入ると誰もいなく、代わりに少し前まで使用されていた形跡が残っていた。何か手掛かりがないかと全員で手分けして探してみるが、生活していたという痕跡しか見つからなかった。諦めて街へと戻ろうかと一度外に出て話し合っているとベルがいないことにアートとコミが気づいた。

 

「あれ? ベル博士は?」

 

「ベル博士ですか? そういえばどこに……?」

 

 二人がベルを探しているとオルフの家の扉が開きベルが姿を見せた。

 

「全員ここにおったのかー。どこにいたのかと思ったのじゃ」

 

 溜息を吐くベルに、アートとコミは話し合った結果今から街に戻ることになったと教える。それを聞いたベルは少し用を済ませたいから先に準備をしておいてくれと言って、再びオルフの家の中へと入っていった。二人は外にいる全員にベルは後から来ると話し、馬車を停車している場所へと向かった。

 

 準備を終えて後は一人を待つだけになった一行は、のんびりとしているとベルが駆け足で到着する。

 

「お待たせしたのじゃ」

 

 息を切らしているベルとコミが馬車に入り込むが、アート自身は現状、夜の魔物の襲撃に役立たないため、朝の見張りは自分に任せて兵士の二人は休むようにと話す。兵士たちはその話に納得し、アートに朝の見張りを任せると言って馬車へと乗り込んだ。馬車が出発する。村人がいなくなる事件から始まり、教団と国が協力していること、教会が隠していたこと、謎が謎を呼ぶ出来事に不安になりながらも、一行はフェニデリア街へと帰還するのであった。

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